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魔術師転生  作者: サマト
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第十三話 赤と青の竜神

狂神アッシュ・ローランスは無造作に間合いを詰め、右袈裟に切りかかる。それに対しカルヴァンは中段から左八双に構えを変え、アッシュの長剣を受ける。粘りつくような不思議な感触と同時にアッシュの長剣は右斜めに逸らされる。体勢を崩し無防備となったアッシュ。

カルヴァンは手首を返し右上方へ切りつける。その先にあるのはアッシュの首。音もなくアッシュの首が飛んだ。

「だあ、バカ! 何やってんの!? 俺言ったよね。助ける手段があるって! 死なない程度に痛めつけてくれって言ったのに本当に死なせてどうすんだよ!!」

動揺のあまり一人称と口調が変わってしまうシモンにコツンッと軽く頭を叩き笑って舌を出すカルヴァン。

「オッサンがテヘペロやっても可愛くないんだよ!」

「ガラが悪いなシモン君。そっちが素か? だが狂神相手に無用な心配だ、見ろ」

カルヴァンが指差した方向にはアッシュの胴体と頭が転がっている。この状態ではどのように見ても絶命しているだろう。シモンは思わず合掌しようとしてその手を止めた。どこかおかしい事に気が付いたからだ。

「……血が流れていない?」

頭と胴体がものの見事に別れているのだ。出る血の量は尋常ではないはずだ。それなのに血が一滴も出ていない。シモンはアッシュの体に近づき首の断面図を見てギョッとして後ろに飛びずさる。首の断面図から無数のヒルが蠢いており出血を止めていたのだ。離れた頭の方からもヒルが飛び出し、頭を持ち上げ胴体の方に移動、頭と胴体を結び付けしばらくすると何事もなかったように起き上がる。一瞬の間の後格納庫の壁際まで飛ぶ。

「な、なにしくさりまんねんな、ジブン~!!」

アッシュの中の狂神がアッシュの口を借りて喋るのだがどこか口調がおかしい。

「どこ出身の狂神だよ、お前?」

呆れ顔のカルヴァンに向かってさらに怒鳴る狂神アッシュ。

「憑りついてるこの男は助けるべき者なんだろ! それをあっさりと……この……人でなし!!」

「「お前がいうな!!」」

シモンとカルヴァンが同時に突っ込み狂神アッシュが怯む。

「あ、でも人でなしには同意」

「だろう、だろう」

「それはないだろうよ、シモン君。それと相づちを打つな狂神!」

カルヴァンは狂神アッシュに突っ込んだ。

「それじゃあちゃんと手加減しつつ、ボッコボコに痛めつけて下さいよ」

カルヴァンは溜め息を付き頭を掻く。

「スパッと殺った方が楽でいいんだが……だが人でなし呼ばわりしてくれたバカ神には死んだ方が楽だと思える目にあってもらわないと気がすまんな……」

カルヴァンが悪人顔でニタリと笑う。これにはシモンも狂神アッシュも背筋がゾクリと冷える。

「さあ、殺ろうか?」

「字が違わないか?」

狂神アッシュは再び長剣をカルヴァンに向けとある異常に気が付いた。長剣を持つ手が己の体がブルブルと震えているのである。体が恐怖を感じているのである。逃げるべきかと考えたが目の前の男がそれを許すとは思えない。狂神アッシュは恐怖を押し殺すかのように雄叫びを上げカルヴァンに突進した。

―――数分後

勝敗は決した。狂神アッシュの圧倒的敗北だった。狂神アッシュはうつ伏せに倒れ尻の部分だけ持ち上がっているという何とも情けない倒れ方をしていた。それを見たカルヴァンは失笑する。

「今まで倒してきたどの狂神ともタイプが違う。なんとも人間クサい。憎めない奴だが神殺しとしてお前を倒す。神相手に言うのもなんだがこれも運命だ、諦めろ……シモン君、これでいいか?」

倒れている狂神アッシュを指差す。シモンは壊れた人形の様に何度も頷く。

「どうした、シモン君?」

「い、いえ、何でもありません」

シモンは動揺を隠すように倒れている狂神アッシュの横に駆け寄り状態を確認する。殺さない様に、それでいて意識のみ刈り取っている。これでは不死身だろうと関係ない。

(カルヴァンさん、凄まじい達人だな……)

シモンは先程のカルヴァンと狂神アッシュの戦闘を思い出し身震いした。

狂神が憑りついた事によりアッシュの身体能力は極限まで高められてはいるものの剣の扱いは全くの素人。それでも高められた力で振れば大地は粉砕、カマイタチでさえ発生させる。そんな事が出来るなら多少の実力差は物とはしないだろうがカルヴァンには通用しなかった。身体能力だけで言えばカルヴァンは狂神アッシュには適わない。スピードもパワーも狂神アッシュに軍配が上がる。それをひっくり返せたのは技能と戦闘経験の差だった。カルヴァンはアッシュの一挙手一投足から次の動きを予測し最短、最良な動きを選択し行動していたのである。これなら身体能力で上に行かれても一歩先に行く事が可能である。

それを可能とするベネティクト・カルヴァン―――恐るべき男だった。



動揺するのはここまでだとシモンは自分を戒める。うつ伏せに倒れているアッシュを仰向けにする。四拍呼吸をして精神を集中し体をリラックスさせる。視覚を物理次元の物から霊的次元に切り替えアッシュの魔術中枢を確認する。アッシュの魔術中枢を覆っていた無数のヒルがかなり少なくなっており隙間からわずかに魔術中枢の光が漏れている。

(これなら何とか出来るか……何!?)

アッシュの魔術中枢が徐々に弱まっているのが目に見えてわかった。理由はやはり狂神だった。狂神はアッシュの魔術中枢の光を帯びて徐々にではあるが増殖しているのだ。こんな風に精鋭力を奪われえれれば干からびて死んでしまうだろう。

(そうなる前に早く浄化と治療を行わないと……)

シモンはアッシュの胸元に右手を置いた。そこは魔術で言うなれば火の魔術中枢がある箇所である。ヨガで言うならアナハタ・チャクラが存在する。

シモンは魔術力を集中し呪文を唱える。その朗々と響く声は明るい波動を伴い、後ろで見ていたカルヴァンは眩い真紅という色を感じさせるものだった。

「我は神なり。情深く強き不死の炎の内を見る生まれざる霊なり。我は神、真実なり。我は世に悪しきの行われるる事を嫌う神なり。我は稲光し雷鳴をなす神なり。我は血の生命の雨を放射する神なり……」

シモンが呪文を唱えるうちにシモンの体が真紅に輝き出す。それを見ていたカルヴァンはシモンから炎が吹きあがったように感じられた。その炎には邪悪なものは感じられない。これこそが神の聖なる炎なのだろうとカルヴァンは感じた。

そしてシモンは力強く燃え立つ蛇という意味の言葉を振動させる。

「エロヒム・ギボール!!」

その言葉と同時にシモンの右手を通って真紅の光がアッシュに流れ込む。真紅の光はアッシュの火の魔術中枢を覆っていたヒルを焼き払う。そして他の霊、風、水、地の魔術中枢に流れ込みヒルを焼き払い活力を生命力を与えた。

「ギィィィヤァァァァ!!」

アッシュは人では出せない様な悲鳴を上げ、無数のヒルを吐き出した。吐き出された無数のヒルは煉獄の炎で焼かれたが如くのたうち回り消失してく。狂神は己の消失を防ぐべく間近にいたシモンに憑りつこうとするがそれは愚かとも言える行為だった。

シモンの体には狂神を焼き、アッシュに活力を与えた火の魔術力が残っている。そんな体に憑りつこうなど炎の中に飛び込むようなものだった。シモンの体に入った先から消滅していった。

「……後先考えずに突っ込めば当然そうなる。それ程余裕がなかったって事か……」

フウッと息を吐くシモンにカルヴァンが声をかける。

「これで終わりのようだな」

「……こうやって解決が出来るんですからすぐに人をスパスパ切らないようにして下さい!」

ジト目で見るシモンに乾いた笑みを浮かべ頬を掻くカルヴァン。

「参ったな、耳が痛い……」

そんな軽口を叩いている時だった。ギギギという重々しい何かが動く音が聞こえた。二人は音の聞こえる方向を見てギョッとする。

大破し右半身を消失していた赤い装甲の偽神、アッシュの愛機であるブーニ・ケウス、そして半身を消失させた青い装甲の偽神、サリナの愛機インディ・ゴウが動いていたのである。

「誰か乗っているんですか!?」

「大破した機体に乗っても意味はないだろう。そんな機体を動かせるとなれば……狂神だろうな。案外しつこいなあの狂神。普通の狂神であれば諦めて消失を選ぶだろうに……もがき足掻くその姿、本当に人間臭い」

「感心してる場合ですか!?」

喧々諤々と言い合うシモンとカルヴァンの前で二体の偽神は恐るべき変化を遂げる。二体の偽神から伸びた無数のヒルが手を伸ばすようにお互いを掴み引き寄せ合体したのだ。ブーニ・ケウスとインディ・ゴウが融合した姿、赤と青の偽神、いいや狂神の誕生だった!!

「今度は完膚なきまでぶった切ろうと思ったがこれは無理だな……ウェイト差がありすぎる……」

カルヴァンは赤と青の狂偽神を見上げながら呟く。

「言ってる場合ですか!? どうするんですか!?」

「どうするって……逃げるしかないないだろう!!」

カルヴァンは言うが早くアッシュを肩に担ぎ踵を返し走り出す。

「置いていかないでください!!」

シモンがカルヴァンの後を追う。

二人が格納庫を出たと同時に赤と青の狂偽神が格納庫を打ち破り外に出現する。まだ生まれたてのため動きが鈍く歩みが遅いのがせめてもの救いだが、これが暴れればサフィーナ・ソフは一大事である。

「狂神と戦うための偽神に憑りつくとは何とも皮肉な事をする……あの狂竜神きょうりゅうじん、何とかしなければ」

アッシュを担いでいるというのにそれを感じさせず、シモンの先を走るカルヴァンがそんな事を呟く。

「何ゆえ竜の名を冠して狂竜神と呼んでいるんですか?」

「ブーケ・ニウスもインディ・ゴウも神話に出てくる竜の名前だからな。なかなか洒落たネーミングだろう?」

「言ってる場合ですか!」

二人はそんな言葉を交わし合いながら南門に急いだ。







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