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魔術師転生  作者: サマト
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第百五十二話 とある物語に曰く……

四大魔術武器の攻撃により受けた傷が塞がり狂神がユラリと立ち上がった。紙のようにペラペラだというのにこちらを圧し潰してくる様な圧を放ってきていた。傷つけられた事に怒りを感じているのかもしれない。だがこの圧に屈する訳にはいかない。この狂神を浄化する手段が見つかったのだから。

「四大魔術武器たちっ!! 五分持たせてっ!! その間に僕とルーナで手を打つからっ!!」

「えっ!? 私が!? 何をするの!?」

何をするのか聞かされていないルーナは慌てるが四大魔術武器たちはシモンの命に従い冷静に行動する。四大魔術武器は素早く狂神の四方を囲い地水火風の四属性、四重の結界を形成する。四重の結界から発せられる波動は狂神を苦しめるが滅ぼすには至らない。多少痛いくらいの物だが狂神にとってはいらただしい。狂神は結界を破壊しようと全身から触手を出し杭打機が如く連続で刺突する。突かれる度に振動し結界にひびが入るがすかさず魔術力で補強し抜け出させない。

「これなら五分は持つな。じゃあルーナ、やるよ」

「……お兄ちゃんの中だけで完結しないでちゃんと教えてよ。ホウ・レン・ソウは大事だよ」

報告・連絡・相談はキチンとしろとまともな事を言われシモンは思わずウッと呻く。そして誤魔化す様にルーナを急かす。

「いいからルーナは魔術力を凝縮して球を作ってっ!!」

「球? 何で? お遊びしてる暇は何だけど?」

「時間が無いから早く!!」

「ウウッ……お兄ちゃんが意地悪だよ~……」

ルーナがブツブツと言いながらもルーナ・プレーナを動かす。両手を胸の前で合わせ数メートル離す。開いた空間に魔術力を集中し魔術力の球を作り出した。そしてすかさずシモンは己の知識を総動員しそれに照合する象徴、名号、人体、守護する大天使、色彩等を魔術球に叩き込み神名を唱える。

「エー・ヘー・イー・エー」

神名は振動となり魔術球に伝わり小刻みに振動し強い白色光の光を放ち始ち上空に浮かぶ。

「一つ目はこれで完了っ!!」

「お兄ちゃん、これって……」

「続けて後九個作ってみよう」

「ウェ~……」

ルーナは少しウンザリしながらもやけくそで連続九個の魔術力の球を作った。作り出された魔術力の球の一つ一つにシモンは神名を唱える。すると魔術力の球は小刻みに振動し色が付き最初の白色光の球にの下に配置されある図形を形成した。この状態になれば流石にルーナも何を作ったのか分かる。

「お兄ちゃんこれってまさか……疑似魔術中枢?」

「その通り」

疑似魔術中枢―――それは魔術力を調整し生命の樹を模して作り上げた魔術回路。周囲の力をセフィラが吸収、パスを通りセフィラを巡り循環、増幅して放出、放出した力を再び吸収、循環、増幅、放出、これを繰り返し半永久的に力を生み出す奇跡の回路。これはルーナの聖霊石の中にも存在しており、偽神の動力源となっているがそれだけではない。今のルーナの様な人格を生み出し、戦闘、魔術、自己修復までも可能という高機能を発揮している。

「でも……何で今、疑似魔術中枢を作る必要があるの?」

疑似魔術中枢は力を増幅させるもので攻撃を主とするものではない。聖霊石がない今の状態では意味がないのではないだろうか。ルーナが疑問に思うのは当然だった。

「その質問に答えるとするなら……」

シモンが含みのある笑みを浮かべるとこういった。

「とある物語に曰く『僕は助けない、力を貸すだけ。君が一人で勝手に助かるだけだよ』ってね」

「? どういう事? 答えになってないけど?」

「僕がやろうとしている事を言葉にするとまさにこうだからね」

ルーナが訳が分からず唸っているその時、ガラスが割れたような音と同時に四大魔術武器がはじけ飛び地面に叩きつけられる。そして黒い槍が一直線にルーナ・プレーナに伸び無慈悲に胸部を貫いた。

「グッ!?」

「イヤァァァァァ!!!???」

シモンとルーナは逃げる間もなく貫かれ悲鳴を上げる事しか出来なかった。そしてルーナ・プレーナの身体は白く染まり細かい粒子となって崩れ落ちた。

ルーナ・プレーナを貫いた感触を狂神はおかしいと思った。偽神は鉄の骨格を用いているとしてもその他は人工筋肉と人工血液を用いており感触としては人に近い。なのに貫いた感触は無機質の物、岩石のそれだった。狂神は慌てて周囲を見渡した。そして上を見上げるとそこに漆黒の巨人―――ルーナ・プレーナが浮いていた。狂神が四大魔術武器の結界を打ち破った瞬間、簡単な魔術で造った人形を囮にして上空に逃れていたのだ。ルーナ・プレーナは両腕で光り輝く十のセフィラを掲げ

「イッケェェェーーーッ!!!!!!!」

シモンとルーナが叫びルーナ・プレーナが疑似魔術中枢を投擲した。疑似魔術中枢は一瞬で最高速度に到達し光の矢となって狂神に迫る。

狂神は一瞬思考する―――頭上の巨人の心を完膚なきまでに叩き請わずにはどうすればいいか。あの振り下ろした光の矢、あれが最強の攻撃のはずだ。あれを避ける、打ち落とす、それで駄目だ。もっと完璧に打ち負かすには……。

狂神はルーナ・プレーナが放った光の矢から逃げる事も撃ち落す事もしなかった。両手を広げその身を晒したのだ。当然光の矢は突き刺さったのだが反応がおかしい。狂神の表面に波紋が広がり底なし沼に沈むかのように光の矢が呑み込まれていったのだ。厚さは紙の様に薄いというのにその内部は違う次元に繋がっているのかもしれない。

「お兄ちゃん、疑似魔術中枢飲み込まれちゃったよっ!! どうしよう!?」

狂神がシモンたちの心を折る方法として考えたのはシモンたちの攻撃を完膚なきまで打ち破る事。どのような攻撃も意味がないという事になれば当然心が折れる。そうなればこちらの勝利は確定する。故に体に吸収し無効化するという手段を取ったのだ。

攻撃が無効だった事にルーナは慌てる。シモンにどのような意図があって疑似魔術中枢を作り出したのかは分からないがこれが効かないとなれば他のどんな魔術も通用しないという事になるのではないだろうか。まさにピンチだというのにシモンには余裕があった。それどころか悪人のような笑みを浮かべこう言った。

「……計画通り」

「え、それって……」

ルーナがどういう事かと聞こうとする前にその意味が分かった。

狂神の動きが目に見えておかしかった。その体をブルブルと震わせ両手で頭を押さえ悲鳴を上げたのだ。

「キャアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

体から黒い泥が排出されているというのに体に厚みが出てくるという奇妙な現象が発生しているのだ。

「お兄ちゃん、これは一体?」

「……計画通り」

「それはもう聞いたからっ!! 自分の中で完結せずに何をやったのか教えてよっ!! いろんな人から文句が来るよっ!!」

「誰が文句を言うのやら……僕は最初に言ったよね。勝手に助かってもらうって。その答えが今の状態」

「あの黒い泥を吐き出している状態が?」

「そう狂神たらしめているあの黒い泥を吐き出して神に戻ろうとしているんだ。疑似魔術中枢の飲み込んだ事によって」

ルーナの頭の中で?マークが幾つも浮かび上がり頭が焼ききれそうになる。現に頭から湯気が出始める。

「熱暴走しないでよ……しょうがないねえ種明かしをしてあげるよ」

シモンは生徒に理論を説明する先生の様に説明を始めた。




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