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魔術師転生  作者: サマト
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第十一話 狂神侵入、遠隔浄化

激戦の末、狂神を倒した。だが英雄の凱旋という訳にはいかなかった。戻ってきたシー・マーレーで謎の疫病が発生。搭乗していた船員及びアッシュ・ローランス、サリナ・ハウルスはシー・マーレーで隔離される事になった。

塔から降りたシモンとメリダはその一報を聞き、シー・マーレーの搭乗港に向かう。搭乗港に続く南門には人だかりが出来ていた。謎の疫病の事を聞きつけた居住区の人々が事情を聞こうと集まったようだった。門を突破しようとする人たちを警備員が必死に留めている。

「疫病ってどういう事だ!」

「アッシュさんは大丈夫なんだろうな!?」

「サリナちゃんは無事なの!? 会えないのならせめてこれを差し入れに……」

色々な声が聞こえてくるが主なのはアッシュとサリナが無事なのかという事だった。偽神の操縦者という事もあり住人には人気があるようだ。

「疫病については現在調査中だ。疫病が撲滅できるまではこの門は開放する事は出来ない!」

南門を警備する警備員が悲鳴に近い声を上げる。

「どうしようか、シモン君?」

この惨状を見ていたメリダがシモンに問う。

「無理矢理押し破って疫病を蔓延させる訳にはいかないし、でも状況くらいは知りたいし……ウ~ン」

腕を組んで悩むシモン。

「……もう一度塔に戻りましょうか」

「塔にも戻ってどうするの?」

「どうするって……塔の屋上の機能を使ってサリナさんはアッシュさんがどうなっているのか確認しましょう」

「アッ、そうか」

メリダがポンと手を打つ。

「……しかし他の人はそうして塔の機能を使おうとしないんでしょうね?」

「それはそうだよ。あの塔ってあまり人が来ないし、私が偶然見つけた仕組みだから」

「だからって……」

メリダは週に一度は塔に登りそこからの風景を見てストレス解消をしていた。とある日塔の頂上で自分の部屋の鍵を閉めたかどうかと何気に喋ったところ、あのスクリーンが飛び出して自分の部屋の映像が映ったらしい。最初は気味が悪いと思ったがこのサフィーナ・ソフの色々な場所の映像を出せる事が分かってからは面白がって見ているらしい。

「悪用してませんよね」

ジト目でメリダを睨むシモン。

「それは……」

乾いた笑いでごまかすメリダ。

「犯罪者がいる……今回はしょうがないとして今後は封印するべきですね」

「それだけは許して下さい! この通り!」

メリダが腕に抱き着き胸を押し付けてくる。柔らかい感触にハナの下が伸びそうになるが必死にこらえ引きはがす。

「シモン君の朴念仁。お姉さんのオッパイ嫌い?」

「嫌いじゃないけど……それはいいから行きますよ!」

二人はやや緊張感のかける会話をしながら来た道を戻った。


塔に登ったシモンとメリダ。

「サリナ・ハロウスさんが今どうしているか出してください」

シモンの言葉に反応しスクリーンが飛び出しそこに映し出された映像にシモンとメリダは息を飲む。

「サリナさん!」

シモンは緊迫した声を上げる。

映し出されたのはサリナが杖を掲げている姿だった。杖から放たれる光と僅かに含まれる黒いモヤが周囲を取り囲むものの侵入を防いでいるようである。よく見るとサリナの偽神が持つ神滅武装とよく似ている。

「……何、あれ……気色悪い」

メリダは顔色を変えながらサリナの周囲を包囲するものについての感想を述べる。シモンもそれに同意する。

サリナを包囲するもの、それは真っ白なヒルの様な生物だった。それが数を数えるのがばからしくなる位大量に存在しており、サリナを飲み込もうとしている。

「あんなものが一体どこから現れたんだ?」

そんな事を考えている時、スクリーンの端にあるものが映り目を伏せる。

「なんてこった……あのヒルみたいなやつ……人を食べるんだ」

スクリーンの端に移ったのは人の衣服、そして頭蓋骨だったのだ。

「……何でそんな奴がシー・マーレーにいるの?」

「僕にも分かりません。向こうのサリナさんと話が出来ればいいんですが……こっちの映像と音声が流せれば……」

そんな事をスクリーンに向かって話しているとピッという音と同時に無数の何かが蠢く音がスクリーンから流れてきた。

(これって向こうの音か、もしかしてこっちの声も聞こえるかも……試してみるか)

「サリナさん、聞こえますか?」

「? その声はシモン君……何、この四角いの? 魔法による通信とは違うようだけど……シモン君とメリダさんが映っている?」

サリナが目を白黒させているのが見える。

「その話は後で。それよりもどういう状況なのか説明して下さい」

「このヒルみたいなやつは大破した偽神から現れたんだよ。あまりにも突然だったからみんな対処出来なくて他のみんなはヒルに飲み込まれて……私は咄嗟に神滅武装を使って強化した結界を張ったけどみんなを助ける事が出来なかった。今もみんなの悲鳴や耳に残っている……悔しい、悔しいよ」

「サリナさん……」

サリナの悲痛な声にシモンは厳しい事を口にする。

「それよりもこいつの正体だけど……」

「それよりもって、少しひどくない!」

サリナはスクリーンの向こうのシモンを睨む。そんな視線などどこ吹く風と言った感じでニヒルに笑うシモン。

「ひどいと思いますがそれで死んだ人が戻ってくるわけじゃなし。今はその状況から抜け出す方法を考える事が第一。悩むよりは今は行動! 違いますか?」

「シモン君……そうだね今は行動!」

サリナは気力を取り戻す。瞬時に結界が強化されヒルを弾き飛ばす。

「気合が入った所で早速ですがそのヒルみたいなやつの正体は何だと思いますか?」

「多分だと思うけど……」

サリナはヒルに憎々しげな眼で見る。

「このヒル……恐らく狂神だ」

「狂神って……倒したんじゃなかったんですか?」

「今回の狂神は偽神を犠牲にして間違いなく倒した。でも狂神は一体じゃなかった。こんな小さなサイズの狂神、今までいなかった。だから大破した偽神の一部に擬態するなんて想定しなかった」

「そいつが本当に狂神ならもしかして何とかなるかもしれません」

「それ本当!?」

「もしかしたら何ですけど……うまくいったら御慰み……まずは」

シモンはスクリーンに向かって命令する。

「サリナさんの真上に移動して下さい」

スクリーンが一瞬真っ暗になりまた画像が映し出された。天井から真下を俯瞰するような映像が映し出された。四方八方からヒルが殺到しサリナに向かっていく光景が映し出される。

「気色ワルッ! でもうまくいった。次は……」

シモンは前世で自分が使っていた攻撃方法の事を思い出していた。

(このスクリーンならアレがうまくいくはずなんだ。成功してくれよ)

シモンは目を閉じ四拍呼吸を行い、精神を集中し体をリラックスさせる。魔術力が高まった所で目を見開くく。右手の人差し指と中指を伸ばし、それ以外の指を折りたたむ。剣印を作りスクリーンに向ける。その途端シモンの指先に白銀の淡い光が灯る。シモンは空中に十字を切る。虚空に描いた白銀の十字はそのまま留まる。続けて十字を円で囲む。薔薇十字のサインだった。それを空中で固定させ、シモンは呪文を唱える。

「イェー・へー・シュー・アー」

眼前の薔薇十字のサインが眩い光を放ち四散した。その光はスクリーンを通ってサリナの頭上で強く輝いた。その輝きはサリナにそして狂神にも降り注がれた。サリナは何の影響もなかったが狂神はそうもいかなかった。幾万のヒルの体は煉獄の炎に焼かれたが如く焼けただれのたうち回る。大半は焼け死んだが薔薇十字の光の効果範囲から逃れたヒルは水が引くが如く退散した。

ガランとした格納庫に一人残るサリナは力が抜けた様に膝を付く。

「一体何をしたの、シモン君?」

力無げに尋ねるサリナ。

「私も教えて欲しいよ!? ここで色んな場所の光景が見れるって教えたばかりなのに……こうジバッと光ったと思ったら向こうにもこの光が届いてサリナさんを助けて一体何をやったの!?」

興奮または混乱している為か支離滅裂に喋るメリダ。

メリダとスクリーン上のサリナに詰め寄られ引きつった笑みを浮かべるシモン。

「簡単に言うとですね……僕が発生させた薔薇十字の光をスクリーンを通してサリナさんの頭上に届けたんですよ」

「そんな事が出来るってどうして知ってたのシモン君……キミ、何者なの?」

サリナの問いにシモンは笑って誤魔化した。

「答えになってないよ!]

「そのうち言いますよ。ともかく今はそこから脱出して下さい」

「そうだね。後で聞かせてもらうからね……」

サリナは力無げに立ち上がる。

「さっきの狂神がまた出てくるかもしれません。結界は維持して下さい」

「分かったよ」

ふらふらとした足取りで格納庫を出るサリナ。それを見送るシモンとメリダ。

「サリナさん大丈夫かな?」

「後を追いましょう。このスクリーン性能がいいから多分出来る」

実際そう命じるとスクリーンはサリナの後ろ姿を映し出し、移動に合わせて光景も切り替わる。

「ヨシ、これでまた狂神が出現しても対応出来る」

そう断じるシモンの横顔をジッと見るメリダ。

「ねえ、シモン君教えてよ。どうしてあんな事が出来たの?」

シモンはどう答えるべきかと困った様に頬を掻く。

(前世の事は言えないしな……)


シモンの前世である志門雄吾は黒魔術師や妖術師、邪神や魔神などという邪悪な存在と戦う魔術師だった。そういった存在と戦うにあたって色々な人物と協力する事があった。その中にとある霊能力者がいた。その霊能力者からある話を聞いたのだ、携帯電話越しに除霊をしたと。

霊能者が言うには悪霊に憑りつかれたという依頼人と携帯電話で話をしていた所、悪霊が除霊されたというのだ。その霊能者は依頼者と会って確認したが何も憑りついてはおらず依頼者ともども狐につままれたような顔をしたのだという。

詳しい事は分からないが電話が繋がるという事は霊的な力が通る通路が形成されるという事ではないかと志門は結論付けた。それは自分にも出来るのではと考えシモンは敵対する黒魔術師、妖術師の携帯電話の番号を調べた。今どき携帯を持ち合わせないという黒魔術師も妖術師もいなかった。そして敵対する人物に電話をかけ、出た途端に魔術を発動すると電話越しに見事に魔術が発動し相手にダメージを与える事が出来たのだ。

前世のこの経験からシモンはスクリーン越しに魔術の発動が出来るので後考えたのだ。この考えは見事に的中し狂神を退散させる事が出来た。

それはそれでよかったのだが誰かに見られた場合は説明するのがとても面倒だとは前世の経験でもなかったので今、とても困っている。

「ねえ、どういう理屈であんなことが出来たの、教えて?」

メリダに何度も服の裾を引っ張られるが何も言えないでいた。

(サリナさんが無事に逃げられたのを確認したら僕も逃げよう)

シモンは真剣に考えていた。


こののち十分後サリナはシー・マーレーを出て南門に到達。状況を報告し南門を出た後、医療施設に搬送される。これから数日狂神は現れずこれで事件は解決したのかと思ったのだがそれは間違いだった。あのヒルの様な狂神は全滅していない。生き残った個体はあるものの中に退避していた。それを知ったシモンとサリナは後悔する事になる。こんな事になるのなら逃げるのではなく狂神を探し出して駆除するべきだったと。


―――狂神の攻撃は未だ終わらない。








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