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魔術師転生  作者: サマト
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第百四十話 剣撃と拳撃

狂魔人シモンが闇より黒い剣をカルヴァンに振り降ろす。少年の体躯であろうと狂神の力があればその振り下ろしは空を裂き、大地すら砕くだろう。だがそんな一撃をカルヴァンは欠伸交じりで見つめていた。狂魔人シモンは目の前の男が自分の一撃を見て諦めたのだろうと考え強者故の愉悦に浸る。刃がカルヴァンの頭蓋に入ったと思ったその瞬間、カルヴァンの姿がぶれて消滅し足元の結界の一部が叩き壊された。狂魔人シモンの目的は足元の結界の更に地下に向かう事だったのだから結界を壊せたのなら喜ぶべき事なのだが今はそれどころではない。恐るべき敵であるカルヴァンの気配を探るが全く感じられない、目で確認するが姿は見えない。倒せたのかと気を抜いた瞬間、後頭部に衝撃を受けた。鈍器で叩かれたような衝撃に目から星が出た。つんのめりながら前進しその場を逃れ後ろを向く。そこにはやはりカルヴァンがいた。空間を渡り自分の攻撃を逃れたのかと考えているとその思考を呼んだのかカルヴァンがニヤリと笑いながら言った。

「お前さんのトロい攻撃なんざわざわざ空間を渡るまでもない」

そんな事を言ってる隙に狂魔人シモンは力の限り剣を振り下ろす。そしてまた背後から衝撃を受ける。後ろに向かって剣を水平に降るが手ごたえがない。今度は顎をかち上げられる。四方八方から致死性の物ではないとはいえ攻撃を受け続け怒りを覚える。だが体は怒りに呼応しない、ダメージが蓄積していき狂魔人シモンは膝をついた。

その姿をカルヴァンは見下ろす。人が神を見下ろす、そんなカルヴァンの傲慢さに怒りの籠った眼で睨みつける。ひと睨みで万人を殺せそうだがカルヴァンは笑って見つめ返す。その視線には嘲りあるいは呆れが含まれていた。

「まったく……神という存在は学ばないな。人は強力な力を持つ存在に勝つために技を学ぶんだ。強い力を持てば持つほど俺にとってはカモだ。今もただ単にお前の攻撃を避けて死角から攻撃、やってるのはただそれだけだ。殺ろうと思えばいつでも殺れる、それぐらい簡単に殺れる相手だよお前は。だが今回に関してそれをするわけにはいかない……そこでだシモンくんから離れてくれるのなら追わんが……どうする?」

カルヴァンの提案を狂魔人シモンは蹴った。神としての誇りが人から逃げるという選択を叩き潰したのだ。雄叫びを上げ己を鼓舞しながら剣を振るう。

「馬鹿野郎が……」

ため息交じりにカルヴァンの姿が消えまた鈍器で叩かれたような衝撃が四方八方から来た。そんな攻撃を繰り返しているうちにカルヴァンの顔に愉悦の笑みが浮かぶ。

「こうなると手加減の修行になるな……シモン君から出ていきたいと思えるまで手加減の修行に付き合ってもらおうか」

狂魔人シモンは逃げる事はせず亀のように身を縮こませながらカルヴァンの攻撃に耐えつつ攻撃を凝視する。そしてカルヴァンがどのように攻撃をしているのか分かった。カルヴァンは大剣の側面でこちらを打ち付けていたのだ。これなら手加減になるがこの手加減にはやはり腹が立つ。何か一矢報いる方法がないかと記憶を検索し素体となっているシモンの記憶の中から一つ答えを見つけた。それを行うために狂魔人シモンは身を縮こませた状態で力を溜め放出する。放出による小爆発では足元の結界は小動もしなかったがカルヴァンを引きはがすには十分だった。

「ヌゥッ……無駄なあがきを」

小爆発が起こる前に避難していたカルヴァンには傷一つなかった。

「何度やっても同じ事だ。いい加減諦めて……ん?」

狂魔人シモンが持っていた剣が形を歪め消滅した。そしてカルヴァンに背を向けた。戦いにおいて背を向ける、それが自殺行為である事は人であろうと神であろうと変わらない。バッサリ切られても文句は言えないだろう。だがカルヴァンはそうはしなかった。狂魔人シモンがこの状況で背を向ける、そんな行為を何故したのか興味を持ったからだ。

狂魔人シモンが力を抜いた状態で直立したかと思ったら両手を大きく広げる。次に両掌を下に向けへその下に持っていき拳を握る。両拳を捩じり上げるように顔の上に持っていき引くように右拳を腰に左拳を捩じりながら前に突き出す。その際両拳を開き左足を前に踏み込む。

「これは……」

狂魔人シモンはシモンが得意とする中国武術形意拳の基本となる構え三体式の構えを取ったのだ。そこから左右の掌の打ち下ろし、拳を作っての突き上げ、中段突き、片手で防御しつつ片手で突き、半円を描くように斜め、横からと突きと形意拳の基本である五行拳を行っていた。数分ほど五行拳の動作を行うとカルヴァンに向き直り三体式の構えを取った。

「……ああ、成程。力じゃ俺に適わないと判断して戦法を変えてきたって事か。力に頼らない技での勝負……考えとしては正解だが甘く見てないか? 数分練習したくらいで俺に対抗出来ると思ってるのか?」

狂魔人シモンは答えなかったがその構えが戦いで証明すると言っていた。

「まあいい、どれだけ出来るのか採点してやる……かかってこい」

カルヴァンが大剣を中段に構えた瞬間、狂魔人シモンが動いた。矢の様な鋭い動きで一直線にカルヴァンの間合いに侵入し中段突き―――崩拳を打ち込んだ。

「ヌゥッ!?」

カルヴァンの表情が険しいものになった。咄嗟に狂魔人シモンの崩拳を大剣の柄で受け止める。そのまま踏みとどまれば柄が壊れる。後ろに飛んで威力を殺しつつ距離を取る。

カルヴァンは痺れる右手と狂魔人シモンを交互に見る。

「その動きにこの威力、僅かな数分で数年分の経験を得るとは……どうやら手加減できる相手じゃなくなったようだな」

そう言うとカルヴァンは柄を握りしめ中段に構える。今度は刃を寝かせる事はせず刃を狂魔人シモンに向けた。これはつまり肉を切り骨を断ち命を刈る覚悟をしたという事だ。

「ここからは本気を出すとしよう」

この言霊はとその身から漏れだす殺気が狂魔人シモンの体を這いまわり根源的な恐怖に打ち震えた。その恐怖を歯を食いしばる事で耐え、狂魔人シモンは強く踏み込みカルヴァンの間合いに入る。崩拳を打ち込もうとするがそれよりカルヴァンの振り降ろしの方が早かった。いつ大剣を振り上げたのか分からない、それぐらいのカルヴァンの動きは速かった。狂魔人シモンは咄嗟に両腕をクロスし頭上に持っていく。片手で防御し片手で攻撃するという炮拳という技があるがこれでは耐え切れないと判断しての事だったがその判断は正しかった。凄まじい威力に体制を維持出来ず圧し潰され結界に叩きつけられたからだ。片手で防御などしていたら間違いなく真っ二つになっていただろう。

倒れたからといって手を抜くカルヴァンではない。カルヴァンはうつ伏せに倒れた狂魔人シモンの背に大剣を突き刺そうとする。狂魔人シモン両手に力を入れて足元の結界を付き反動で後方に飛ぶがそれに合わせてカルヴァンも移動する。間髪入れず大剣を振り下ろす。狂魔人シモンも三体式の構えから拳をを打ち上げ―――鑚拳を打ち込み大剣の迎撃を試みる。刃と拳がぶつかり合いお互いを弾き飛ばした。それぞれの威力が乗っていたため刃は折れず拳に刃が通らないという珍しい現象が起こったのだった。

「「オォォォォォッ!!!!!」」

カルヴァンと狂魔人シモンは雄叫びを上げながら剣撃と拳撃をぶつけ合った。




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