表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師転生  作者: サマト
141/168

第百三十四話 狂魔人、向かう先は……。

暗黒の中轟くであろう雄叫びを上げた後、シモンは身を屈める。そして両足に力を溜め大地を蹴った。跳躍したシモンは暗黒の中を飛ぶ。空気抵抗が全くない為か無限に上昇していく。上昇するスピードも遅くなる所かか更に早くなり己の身を燃やす程の速度になる。暗黒を切り裂く流星が如く己を燃やしながら上昇を続けると不意に何かと衝突した。ドォンッという凄まじい音と同時にシモンは弾き飛ばされ数秒意識が飛ぶ。意識を取り戻すと空中で姿勢制御し空間に満ちる力を使い落下を止め再び上昇、再び壁に激突するがやはり壁を破壊する事が出来ない。そこでシモンは壁に取りつき両腕に力を収束し三角錐上のドリルに作り替え高速回転させる。

「ゴォォォォォッ!!」

雄叫びと共に壁にドリルを叩きつける。壁に弾かれドリルが壊れるも再度ドリルを作り出し壁にドリルを叩きつける。何度も叩きつけているうちに立場が逆転、壁が少しずつ削れ始めそこを起点にヒビが入る。小さなヒビが無限に広がり最後には音を立てて壁が崩壊した。壁の先にあるのは強烈な光だった。光の洪水に飲み込まれ流されたその先は物理次元。シモンは内的世界の壁を打ち破り物理次元へと押し流された。



そして外のシモンの肉体にも明確な変化が起こった。

「グオォォォォォォォッ!!!!!!!」

シモンの口から獣の様な咆哮を上げると同時に全身に魔術力とは違う別種の力が溢れ出す。肉体がそれに耐えられず全身から血が吹き出すが噴き出した血が体に纏わりつき一瞬で硬化、いや別の物に変化した。それは赤黒い爬虫類の鱗。全身が血液で出来た赤黒い鱗に覆われ両手は何もかもを引き裂かんとするような鉤爪となる。尾てい骨が皮膚を食い破り伸びて尻尾となる。そしてシモンの頭上にあった狂神の手がシモンの顔に移動、顔を覆うように装着されマスクとなる。

神が狂う原因となった謎の力に接触し取り込まれ人としての意志を失った魔人―――狂魔人シモンはここに誕生した。人としての意志は無くなったが狂魔人シモンには目的はあった。それを実行する為には外に出なければならない。その為に……。

狂魔人シモンは雄叫びの様な悲鳴の様な声を上げる。

「オォォォォォォォォッ!!!!!!!!」

その声は空間を振動させ変化を引き起こす。複数の空間の穴が一斉に閉じたのだ。空間を破壊するのはともかく修復させるのは狂神でも難しい。それを一瞬で行える、それだけで狂魔人シモンが狂神を超える存在である事が伺える。

狂魔人シモンが顔を上げると身を沈める。足に力を溜め跳躍する姿勢を取るが真上に跳躍はせず後ろに飛んだ。次の瞬間、空間を破壊するのではなく空間を切り裂くかのような清廉な一撃が振るわれたのだ。一瞬でも逃げるのが遅れれば狂魔人とは言え瀕死のダメージを受けるのは免れなかっただろう。

狂魔人シモンは自分を殺すであろう一撃を振るった相手を射殺さんと睨みつける。そこにはあの狂神の手を一刀両断切り裂いたあの謎の腕が剣を携え空間から伸びていた。シモンのカバラ十字の払いによる影響を受ける前に謎の腕は空間の奥に引っ込み避難していたのだが狂神の爆発的な力の増加に驚き出てきたのだ。そしてシモンの姿を異様な姿を見て敵として認識、守る対象から殺す対象に切り替えて攻撃をしてきたのだ。守るべき対象を敵と認識した瞬間殺しにかかる、合理的と言えば聞こえはいいが血も涙もない悪鬼、いや魔人のように思える。

自分を殺す気である謎の腕に対しシモンが問った行動は右手を前に突き出し小指、薬指、中指、人差し指、親指の順に指を折りたたみ拳を作る事だった。そして右拳を右腰につけ左手を前に突き出す。中段付きの構えを取ったのだ。その構えは素人が取るような構えだが狂魔人シモンが繰り出すのならそれでも十分脅威だ。謎の腕もそれを感じたのか自分から攻撃にはいかず上段の構えで相手が攻撃してくるのを待つ言わば後の先を実践するつもりのようだ。

今のシモンは人間らしい意識はなく本能で動いている。故に謎の腕が何をしようとしているのかなんて考えていない。敵は殲滅するという本能に従い拳を繰り出した。体の動きを連動させていない手打ちの拳。形意拳の術理が全く使われていない見ていて情けなくなる一撃だがその拳には狂神の黒い力が乗っており油断できない。その拳はまさに黒い尾を引く彗星はが如く。

狂魔人シモンの拳に合わせて謎の腕も剣を振り下ろした。狂神の手を切り落とすほどの腕前と装備している剣、この二つが揃う事で繰り出されたその剣閃はまさに一条の光だ。

一条の光と黒い彗星は己の力が最も強く出る地点でぶつかり合った。刀身と拳が一瞬鍔ぜり合うがすぐにその近郊は崩れる。謎の腕の刀身が狂魔人シモンの拳に潜り込んだのだ。そのまま拳から腕に刀身が入り込み本体に到達する、そう思われた時狂魔人シモンが吠えた。その瞬間狂魔人シモンの力が拳に収束されより強固となり刀身が通らなくなる。そして刀身を押し返しついには刀身を破壊したのだ。そこで狂魔人シモンの拳は止まらずその先の謎の腕に向かう。だが謎の腕は狂魔人シモンの拳を滑らかな動きで避け、空間に溶けるようにして消えてしまった。

謎の腕は剣から伝わる感触で刀身は破壊される事が分かり狂魔人シモンを斬る事を諦めた。柄を握る力を弛め衝撃を逃しつつ逃走する事に力を注いだのだ。その為、ダメージは最小限で済んでいる。謎の腕の本体は勝てないと分かれば逃げる事に躊躇しない合理的な思考の持ち主のようだ。

敵が逃走したように見えてもどこかに身を潜めているかもしれない、自分と同じように思いもよらない所から出現し攻撃してくるかもしれない、本能的に狂魔人シモンは身を屈めつつ周囲を警戒する。人の意志を失っても残心を怠らないようにするシモン本人の習性が残っているのかもしれない。

数分して完全に敵が撤退したと悟った狂魔人シモンは次の行動に出る。すなわち足に力を溜め、ドンと大地を蹴り上げて跳躍した。当然天井に衝突するのだがそれで止まる事なく岩盤を穿ちながら上昇する。数百メートル地下にある部屋、その頭上には何百トンという岩板が存在している。そんなものを壊しながら上昇する、生身ならもちろん身が持たない。魔法や魔術での身体強化でも無理だろう。魔法や魔術で岩盤を破壊してから跳躍するのならまだわかるのだが岩盤を穿ちながら上昇する、肉体の強度も膂力も並ではない。使さすがは狂神、いや狂魔人シモンというべきだろう。

狂魔人シモンは岩盤を全て穿ち地上に到達しさらに跳躍、上空約数千キロの位置で更なる変化を起こす。背中に 蝙蝠の様な翼を展開し空中でピタリと停止した。狂魔人シモンは眼を大きく見開き遠隔透視を行う。その状態で全方位を見渡しそしてある物を見つけニヤリと笑う。音を置き去りにする速度で飛行を開始した。狂魔人シモンは獲物に向かって飛翔する。その先にあるのは……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ