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魔術師転生  作者: サマト
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第百三十二話 崩拳対黒い拳

狂神ではない神がまだいる。そう予想し言葉に出した次の瞬間、空間が軋んだ。室温が急激に下がり吐く息が白く染まったかと思ったら男の物とも女の物とも判断がつかない甲高い叫び声が耳を劈く。地震でも起こったかのように周囲が激しく振動する。

(これはまさか……黒魔術!? 妖術の攻撃!? 生贄の生体エネルギーだけじゃなく周囲の温度や対象者の恐怖をエネルギーにして攻撃する。こんな事をしてくるのは……)

「聖理央……」

シモンはいずこかにいるであろう強敵、宿敵の名を憎々しげにつぶやいた。前世でシモンが最後に戦い敗北しだが己の命を代償に道連れした妖術師。狂神の手によって転生しその知識と妖術でもってくシモンの前に立ちはだかる強敵。その妖術の実力は落ちるどころかさらに上がっている。狂神による加護を受けている可能性がある。

シモンはこれから起こるであろう攻撃に対抗するべく四拍呼吸を行い魔術力を練り始める。妖術によって引き起こされる気温の低下、絶叫現象、そしてポルターガイストに惑わされる事なく魔術力を高めていく。シモンの脳裏には自分という拳銃に魔術力という弾を込めるそんなイメージが浮かんでいた。後は引き金を引いて魔術力を放つ、そして敵を倒すだけで。その瞬間は間近に迫っている。引き金を引く合図はすぐにやってきた。

耳をつんざく絶叫、そしてポルターガイストがピタリと止まり沈黙が訪れたのだ。普通なら異常現象が収まったと思うのだがシモンは違った。相手も弾込めが終わったと判断した。

「……攻撃が来る」

シモンの言葉の通り攻撃が来た。最初に起こったのは耳に響く甲高い音、それはガラスが割れたかのような音。だがここはファインマンがダンジョン・コアを用いて作り出したダンジョンであり窓はない。ついでに言えば割れるようなものの存在しない。なら一体何が割れたのかと言うのか。

「……空間が割れた?」

シモンは愕然としながら今目の前で起こった現象を呟いた。

シモンの眼前の空間が割れそこから混沌とした模様が覗いていた。ありとあらゆる色が渦巻き揺らぐ混沌模様。

もし破壊された空間ががもう少しずれていれば空間破壊にシモンも巻き込んでいただろう。攻撃も防御も空間の上に乗るものである以上防御不可、絶命は免れないだろう。そんな必滅の術を外すとは思えない。

「何が目的だ?」

シモンは眼前の空間に空いた穴をじっと見る。あらゆる色彩が蠢き揺らぐ混沌の空間。その中で揺らぎもしない確固たる主張をしている色があった。それは黒、黒い点はゆっくりと肥大し混沌の色彩を侵食していく。

「これは……」

黒い点が肥大化しある形を成している事が分かるとシモンは寝台から飛び降りた。次の瞬間空間の穴から黒い物が飛び出し、反対側の壁を強く叩いた。ドーンッという破壊音と同時に壁は崩れ破片が飛び散る。空間の穴から飛び出した黒いそれは少し後ろに下がり獲物を掴んでいない事に気が付くと再び獲物―――シモンに襲い掛かってきた。

「クッ!?」

シモンは咄嗟に黒いそれ―――ラバースーツの様な物に覆われた黒い手を躱す。空間の穴は一つでそこからしか手を出す事が出来ない為避けるのは容易だった。そうやって避けられてしまう事に気が付いた黒い手の根元にあるであろう本体は一計を案じる。見当違いの方向の空間を撫でたのだ。それだけで空間が破壊されそこに穴が開いたのだ。黒い手を一端空間の穴に引っ込め、新たに開いた穴からシモンに向かって手を伸ばしてきたのだ。

「クッ!!」

咄嗟に躱すがそれもいずれは出来なくなるだろう。何故なら次々と空間を撫で空間を破壊、自分の手を伸ばす為の穴を複数作られてしまったのだ。そして厄介な場所の空間が破壊されてしまった。

「出入り口の前の空間を破壊……やられた!! ……逃げる事が出来ない……ならやる事は一つしかない!!」

シモンは呼吸を整え三体式の構えを取った。逃げる事が出来ないのなら黒い手を迎撃するより手段がないのだがこの状態では魔術を行使するのは危険だった。魔術が発動する前に黒い手がこちらを捕えるのが早いだろう。故に体術による物理攻撃に魔術力を加えた複合攻撃が有効とシモンは判断した。ただ問題が一つ、複数の空間の穴、これらのどこから黒い手が飛び出すのかが分からない。予測がつかない為、動体視力と反射神経で何とか躱していたが迎撃するとなるとそうはいかない。どこから出てくるのか正確に予測しそこへ一撃を打ち込むしかない。

「……どうする」

迷うシモンに対し黒い手が意外な行動に出た。シモンの真正面にその姿を現し握り拳を作りこちらに向けてきたのだ。

「? どういうつもり? まさか正面から来るというのか?」

シモンを捕えるというのなら死角から来た方がいいというのに、自分の有利を捨てて正面から正々堂々叩き伏せてその上で捕らえようというのだろうか。この黒い手が何を考えているのか分からないが正面から来るというのならありがたい。

「何を考えているのか分からないけど……そういう腹つもりなら……正々堂々……勝負!!」

黒い手は何も答えないが承知とでも答えたかのように空気が張り詰めていく。シモンの精神を研ぎ澄ましていく。シモンと黒い手の周りの空気は張り詰め研ぎ澄まされブツリッと何かが切れたような音が聞こえた。それが合図となりシモンと黒い手が動いた。黒い手は技も何もない拳の一撃、それに対しシモンは形意拳の術理に加え魔術力を合わせた中段突き、崩拳。二人(?)の拳が激突し拮抗した。

(まさかこの威力!? この感触!? 聖理央が召喚した魔物じゃない!? まさか……狂神!? 直接攻撃してきた!? 神核も無しに顕現出来る訳が……だから手だけなのか!?)

実際聖理央が狂神に協力したのは一時的にとはいえ地上に顕現する為のエネルギーを集める事だった。それでも完全な顕現は出来る程のエネルギーは集まらず手だけの顕現だったのだが。空間を破壊するのはこの狂神特有の能力だった。

(クウッ……このままじゃ……)

シモンと狂神の黒い手は拮抗しているようだが徐々に押されている。シモンの拳は軋み痛みに顔がゆがむ。拳から腕に威力が伝わり血が吹き出した。

(もうダメだ……)

シモンが拳を引こうとした時、狂神の黒い手が拳を開きシモンの腕を掴んだ。

「!? しまった!!」

狂神の黒い手が空間の穴に引きずり込もうとシモンを引っ張る。狂神の黒い手から逃れようと魔術力を黒い手に流し込むが万力で挟まれたかのように外れない。

(このままじゃ……)

空間の穴に引きずり込まれどこに連れ去られるのか、どう考えてもまともな場所じゃないだろう。シモンは諦めずにされに魔術力を流し込むが意味をなしてない。

「ここまでか……」

シモンは諦めて力を抜いた瞬間だった。シモンの頭上でガラスが割れたかのような甲高い音が響いた。

(また空間を破壊した? 意味のない事を……)

シモンがそう思った瞬間、狂神の手首を何かが通過した。

「ギャァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!」

狂神の悲鳴が響き渡る。狂神の黒い手から力が抜けるのを感じるとシモンは後ろに飛びのき拘束から逃れる事が出来た。

「一体何が……それよりも狂神の手を切るなんて」

シモンが頭上を見上げるとそこには無骨な長剣を持った手が生えていた。




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