第百二十八話 神核=
「お兄ちゃんっ!?」
「シモンッ!?」
膝をついたかと思ったらばったりと倒れたシモンの元に駆け寄るルーナとファインマン。すかさずルーナがシモンの頭の傍に座る。シモンの頭を持ち上げると両ひざを入れ膝枕をした。
「シモンは無事なのか!?」
「エート……ちょっと待って」
ルーナは視覚を霊的な物に変えてシモンの魔術中枢を精査する。
「……大丈夫みたい。お兄ちゃんの魔術中枢は力強く回転をしているし輝きも安定してる……霊的には安定しているし……単純に緊張の糸は切れて気を失ったって感じだと思う」
それを聞いてファインマンは安堵と落胆が混ざった息を吐く。
「そうか……よかったが……俺は最低だ。いっつもシモンが倒れるまで戦わせてしまう。魔術なんて規格外の力が使えるとはいえまだまだ子供だというのに俺は何にも出来てない……」
「そうだね……」
酷く落ち込んだ表情のファインマンにルーナがかけた言葉は慰めではなかった。
「お兄ちゃんは子供なのに大人顔負けの戦いをする……無茶な事をするのは眼に見えてるんだからそれをさせない様大人がちゃんとしないとダメだよ。ねえ、ファインマンのおじさん」
ルーナは責めるような目でファインマンを睨みつける。サリナの幼い頃にうり二つであるルーナに睨まれると本人に睨まれているようでファインマンはバツが悪そうで顔を背けて頭を掻く。
「まったくその通りだ。この年齢で今だに己の未熟さを感じるなんて……不甲斐ない」
自分の不甲斐なさを嘆くファインマンの視界にある物が目に入った。それは狂神を倒した際稀に出現する謎の石―――神核。
ファインマンは自分の不甲斐なさは一旦おいて神核の元に歩み寄る。
「ちょっとオジさんっ!! まだ言いたい事がっ!!」
ルーナが背後から非難の声を上げるがそれを無視、己の不甲斐なさを置いても神核の回収はしなければならないのだが……。
「これ……神核だよな」
ファインマンが疑問の声を漏らす。そう言ってしまうのは今までか回収した神核とは感じられる雰囲気が違うからだ。今まで回収した神核は人を拒む怒りに満ちた雰囲気があったのだが今の神核にはそれが全く感じられない。まさに抜け殻だ。
「サリナを浄化したシモンの魔術が神核にも影響を及ぼしたって事か? どういう作用が起こったのか説明出来るだろうシモンはあの通りだし、俺なんぞの推測じゃなあ……」
「オジさんっ!!」
ルーナの咎める声に首をすくめながら後ろを振り向くと白い閃光が視界を覆う。
「ウワッ!?」
ファインマンは訳が分からず咄嗟に両腕で目を守る。
「何だ、この光はっ!?」
驚きはしたが攻撃的な物ではないようで熱や衝撃は感じられない。強い光で対象を怯ませるそれぐらいの効果しかないのだろう。数秒後には腕越しに光が収まるのが分かり両腕の隙間から前を見るとその先には驚愕の表情を浮かべ震える手で指差しているルーナの姿があった。
「オジさん……それ……」
「それって……何をそんなに驚いて……」
ルーナが指差すそれをその変化を見て何故ルーナが驚愕しているのか理解出来た。
「ちょっとおオジさんっ!! まだ言いたい事がっ!!」
もっと言ってやりたい事があるのにすたすたと先に行くファインマンに心底イラっとした。追いかけようとしてもシモンを膝枕している為動く事が出来ない。
(私にあれこれ言われるのがイヤで逃げたの? ……ダメだねえ、ダメ大人だ……何かを拾ってる場合じゃないでしょ。今オジさんがするのはそんな事じゃなくて猛省でしょう……)
考えているとルーナは更にイライラし怒りのボルテージがマックスになった。その苛立ち気が幻覚を生み出した。ルーナの中の善と悪の化身である天使と悪魔が頭の周りに出現しファインマンを指差し共に同じ判決を下した。
(死刑!!)
「デスよねえ……」
ルーナは天使と悪魔に命じられるまま魔術力を練り始めた。数秒の集中後ルーナは親指と人差し指をたてあとの指を折り曲げるこの世界にはない武器である拳銃の形を作り指先に魔術力を集め輝きを放ち始める。
「オジさんっ!!」
苛立ちの気合と共に魔術力を弾丸が如く発射した。放たれた魔術力は強い閃光を放ちながらファインマンに向かっていく。
「ウワッ!?」
ファインマンが魔術力の光に驚き反射的に両腕で顔を覆い閃光から目を守る。
見た目はとある世界の霊界探偵の必殺技のように見えるが実際はそれ程の威力はない。当たったとしても拳骨でぶたれたぐらいの威力しかない単なるこけ脅しの魔術だ。もしシモンが気を失っていなかったとしたらこんな事で魔術を使うなよと嘆いていただろう。
「少しは痛い目にあって反省をって……これは!?」
ルーナは目の前で引き起こされた事に驚愕した。光とほんの少しだけ攻撃力を有した魔術力の塊が螺旋を描き窄まり吸収されたのだ。
「なっ!?」
ファインマンは魔術に対する防御など出来るはずがない。召喚魔術で大天使ミカエルを召喚している状態なら防御で来ただろうが今はその身に宿していない。魔術力を吸収なんて出来るはずがない。一体何がと視線を巡らしファインマンが持っている物に目が止まる。
「まさか……あれが?」
それはファインマンが持っていた神核だった。神核は吸収した魔術力に反応し淡い光を放っていた。この反応はルーナにとって身に覚えがある物だがその反応は自分にとって信じられない物だった。
(神核は狂神に関係ある物、魔術力とは相反するはず。魔術力をぶつけられたなら反発して魔術力を消滅させるが魔術力に耐えられず壊れるはずなのにそれを吸収? 吸収後のこの反応、これまさか? どういう事?)
困惑するルーナは閃光が収まった事を確認する為両腕の隙間から事らを見るファインマンと目が合った。
ルーナは震える手でファインマンが持っている神核を指差して震える手でこういった。
「オジさん……それ……」
「神核が輝いて……まさか狂神が復活したのか!?」
ファインマンは手に持っていた神核を放り投げた。神核が力を取り戻し再び戦う事になれば今度こそこちら勝ち目はない。ファインマンとシモンは戦力外、ルーナはシモンの手ほどきで魔術を使えるがシモン程使える訳ではない、ルーナの体である偽神は今だ未完成、完全に手詰まりになる。
ファインマンはそれでも身構えるが神核は淡く輝く以上の変化は見られなかった。
「ファインマンのオジさん……その神核……魔術力を吸収した?」
「吸収?」
「ウン……」
ルーナが頷くとルーナは指先に魔術力を集中し神核に向かって放つ。そして神核が魔術力を吸収し輝きを強める様を見た。
「まさか神核が魔術力を吸収!? 信じられん!? しかもこの反応は見覚えがあるぞ!? まさか神核は……」
ファインマンは驚愕の表情で神核とルーナを交互に見つめていた。