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魔術師転生  作者: サマト
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第百二十三話 生者、死者総ツッコミ

人垣ならぬ魂垣の元まで来たシモンとルーナ。

「……ここに来るまで随分かかったような気がするよ」

「そうだね、ここまで来るのに何週間もかかった気が……」

感慨深くシモンは呟くがこれ以上言ってはいけないという神の声が聞こえたような気がしてシモンは口を押さえ首を振って気を取り直す。ルーナに降ろしてもらい地面に立つと前を向いている魂の一体に声をかける。

「あの……こんにちは」

シモンの声に老人の魂がこちらを向いてシモンの顔をじっと見ると満面の笑みを浮かべシモンの手を取った。そして口をパクパクさせているが何も聞こえない。

「お兄ちゃん……これって?」

「体がないんだから声が響かないのは当然。だけど僕には何を言っているか分かる……」

「それって魔術?」

「イヤ、読唇術」

読唇術は技術であり魔術ではないので魔術力を消費している今の状態でも関係なしで使う事が出来る。

「……それでこのお爺ちゃんなんて言ってるの?」

シモンが老人の言葉を翻訳して伝える。

「感謝を伝えてる。アリガトウって。そして狂神に食われてからについて語っている……」

この老人を含めた目の前の魂は何十年と狂神の中に捕らわれていた。本来なら一瞬で魂すらも食われつくされるはずだったがカルヴァンに倒された事により状況が一転する。狂神の核を維持するためにゆっくりと溶かす様に魂が食われるようになり自分の仲間の魂が食われていく様を延々と見せつけられ辛酸を嘗めさせられる羽目になる。次は自分の番かと恐れながらも復讐の機会を伺い、そしてシモンたちの協力を得て復讐を成す事が出来た。

(君がいなかったらここに居る全員もあの化け物に食われていただろう……それにあの化け物を倒せただけじゃなくこの再会を実現させる事も出来た……)

「再会? 誰と?」

ルーナは首を傾げる。その横顔を老人が驚いた顔で見つめていた。

「? お兄ちゃん、何かすごく見られてるんだけど……」

(……似てる。神と瞳の色は違うが……それ以外はお嬢さまの幼い頃とソックリだ……)

「? お嬢さまって?」

「それを教えてあげる為にも前に行かせてもらいたいんですけど」

シモンが老人の魂に頼むと力強く頷き他の魂に呼び掛けてくれた。

(皆の者、すまないが前を開けてくれ。この子たちを通してやってくれ!!)

何事だと他の魂たちの視線がシモンたちに向く。シモンはもちろんだがルーナの顔に全員驚いていた。ルーナには声が聞こえないが表情は分かる。そしてルーナはやはり首を捻る。

「お兄ちゃん、この人(?)たちどうしてこんなに驚いてるの?」

シモンは意味ありげに笑みを浮かべ首をすくめる。

「その答えを知る為にも前に行かないとね。すみませんが通してください」

全員が頷くと左右に別れ道を譲ってくれた。

「ありがとうございます……行こう、ルーナ」

「わ、分かったよお兄ちゃん」

先を進むシモンの後に続くルーナ。進む最中も魂たちにジロジロ見つめられルーナは居心地が悪かった。

(この視線、一体何なんだろう。何か探られてるようで気持ちが悪いな……)

「お……ちょうどいいシーンのようだ」

シモンがそんな事を呟き立ち止まる。

「ちょうどいいシーンって……」

それは大天使ミカエルの召喚魔術の影響で気力、体力、魔法力を使い切り体がおぼつかないファインマンがそれでも前へ前へと足を進める光景だった。

「ファインマンのおじさん無茶をしてっ!!」

ルーナが思わず大声を出し、ファインマンを元へと向かおうとするがシモンが立ち塞がりルーナを止める。

「お兄ちゃん、どうして!?」

「ファインマンさんが無茶をしてでも先に進む理由が分かれば僕がルーナを止めるのかも分かるよ」

「ファインマンのおじさんが先に進む理由?」

ルーナが目を細めてファインマンが進む先にいた人物の魂を見て驚いた。

「あれって……私?」

「違うって……ルーナが今の姿になったのは何でなの?」

「それは……偽神から情報を引き出してこの姿を構築した……」

「偽神の肉体は誰の複製体を素材としていたか。それが分かると自ずと答えが出てくるでしょ」

「って事はあの人は!?」

「そう、あの魂はサリナ・ハロウスのオリジナルの魂。そして周りにいるのはファインマンさんがかつて住んでいた村の住人の魂なんだ」

シモンの言葉にルーナは驚愕と共に嫌悪感を顔ににじませた。

「そんな……じゃああの狂神は間接的にとはいえ親しい人たちの魂にファインマンのおじさんを殺させようとしていたの?」

「……そういう考え方も出来るか?」

明けの明星を作り出す為の偽りの空は周りにいる人たちの魂で作り出していた。直接ファインマンに攻撃するもではなかったとしても狂神を強化させファインマンを危機に陥らせた。確かに間接的にと言えるだろう。

「姑息で人間臭い……あの狂神はやはり……」

「お兄ちゃん……」

ルーナに肩を叩かれ思考を中断、視線を前に向ける。

ファインマンとサリナ・ハロウスの魂までの距離があと一歩という所まで近づいていた。サリナ・ハロウスの魂がファインマンを迎え入れるように両腕を大きく広げる。ファインマンがサリナ・ハロウスの魂の胸に倒れ込む。それを受け止め抱き締める、そんな光景を思い浮かべルーナは目を潤ませる。

「よかったねえ……おじさん」

そんな風に感動しているルーナだったがシモンは何か嫌な物を感じていた。そう感じた理由、それは笑顔だ。普通ならもう二度と会える事のない人に再び出会えた、それ故に笑顔を浮かべている。普通ならそう考えるのだがシモンにはそれが不穏なものに見えていた。

(あの笑顔……見た事がある。笑顔の下に底知れない怒りを隠しているそんな笑顔だ……考えすぎが? でも……止めるべきか?)

「ファイ……!?」

シモンがファインマンに呼び掛けようとすると同時にスパァァァンッという乾いた音が響き渡ったのだ。それを見てシモンは自分の勘が正しかった事を悟った。

ファインマンはサリナ・ハロウスの魂の胸に飛び込む事は出来なかった。サリナ・ハロウスの魂本人の手によってその手前で止められていたのだ。サリナ・ハロウスの両手はファインマンの顔を挟み変顔に変えていた。それはとあるモグリの闇医者の助手となった少女が驚いた時等に両手で顔を挟み変顔になる、いわゆる『あっちょんぶりげ』を偶然であるが行われた瞬間だった。

これにはシモンやルーナはもちろん、周りにいる魂たちも予想の範囲外で生者、死者関係なく全員こう叫んだ。

「ナニィィィィィィィィィ!!!!!!!!!」

(ナニィィィィィィィィィ!!!!!!!!!)

総ツッコミだった。






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