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魔術師転生  作者: サマト
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第九話 神殺しの一員になるには

「さて……ご褒美はここまで」

サリナがシモンの頭をずらす。心地がよかっただけに残念そうな顔をするシモンの頭をサリナは優しく撫でる。

「残念そうな顔しない……どうして膝枕何てしてあげたのかしら? シモン君みたいな子は母性本能くすぐられちゃうのかな?」

「僕に言われても……」

シモンはどう答えればいいのか分からず困った顔なる。どこにでもいる特に特徴のない顔だちのシモンは取り分け保護欲を駆り立てるような人間とは思えない。

「まあ、いいわ。私はシモン君が目を覚ました事を伝えてくるわ?」

「伝えてくるって誰に?」

「私たち神殺しのリーダーに」

「リーダーって?」

「いいから待ってなさい。カルヴァンさんも話したがっていたから」

サリナはそう言って部屋のドアに手をかける。

(カルヴァンって人が神殺しのリーダー何だろうな。その人が来たら……)

シモンはカルヴァンという人物が来たら頼み込むつもりだった。

―――僕も神殺しに入れて欲しいと。

そんな事を考えていた時だった。突然外でサイレンが鳴った。続いて緊張した面持ちの声が周囲に響き渡る。

「―――地方に狂神出現。偽神パイロット、アッシュ・ローランス、サリナ・ハロウスは至急シー・マーレに来られたし」

狂神出現の警報と音声にシモンはいてもたってもいられず立ち上がるが足がもつれベットから落ちてしまい体をしたたか打ち付ける。痛みに体を動かす事が出来ない。しばらくうずくまっていると周囲から音が消える。沈黙の時間が数分続き不安になってくる。自分がいる事が誰にも知られていないとするなら数日後にはどうなる事やら……そんな事になる前に何とかしなければ。シモンは匍匐前進し部屋のドアに向かう。あともう少しでドアに手が届くという時だった。外側から部屋のドアが開かれた。サリナが戻って来たのかと見上げるとそこにいたのは赤い髪の二十代くらいの女性だった。ややぽっちゃりとしているが人のよさそうな顔をしており、濃紺のメイド服を身に纏っている。その女性はうつ伏せに倒れているシモンを見て呆れ顔で腰に手を当てている。

「君、何してるの?」

呆れ声で問われシモンは迷った末こう言った。

「匍匐前進の訓練です」

「バカなこと言ってないで」

メイド服の女性はシモンの傍らに座ると仰向けにひっくり返し首と膝の下に手を回しよいしょと持ち上げる。

「軽いねえ。ちゃんとご飯食べてるの?」

「それなりに食べてるんですけど……中々増えないんですよ」

シモンが引きつった笑みを浮かべる。メイド服の女性は不満顔だ。

「食べても太らないとは羨ましい……そんな子はこうだ」

メイド服の女性はシモンをベットに放り投げた。ベットの柔らかさと受け身でダメージはないが精神にはわずかにダメージを受けた。

「投げるなんてひどいじゃないですか!」

「いいから寝てなさい。本調子じゃないんでしょ!」

メイド服の女性に睨まれ首を引っ込めるシモン。

「でも狂神が……」

「今、君が出て言っても意味ないでしょ。いから休んでいなさい!」

「でも……」

「イ・イ・カ・ラ!」

シモンは諦めてベットに横になり、毛布を被る。

「いい子だね。じゃあちょっと待ってなさい。何か食べる物持ってきてあげるから」

そう言って部屋を出ようとするメイド服の女性に声をかける。

「あなたの名前は?」

「私はメリダ。あなたのお世話をするように言われたの。よろしくね……ところで君の名前は?」

シモンは二回目の自己紹介をした。



それから約三十分ぐらいしてメリダはサービスワゴンに料理を積んで持ってきてくれた。料理から放たれる暴力的で芳しい香りに胃が刺激され口の中に唾液が溢れる。今にも飛び掛からんとするシモンを面白そうに見るメリダ。

「メリダさん……」

「ププッ。いい子だから待ってなさい」

ベットの脇にテーブルを持ってきてそれに料理を並べ、ナイフとフォークを置く。

「さあ、召し上が……」

メリダが最後まで言うのを待たずにシモンはフォークを取り、料理を口に運ぶ。食べやすいように切り分けるなど考えない。ただただ口に料理を運ぶ。空腹は最高のスパイスというのを実感できる瞬間だった。擬音が聞こえそうな勢いで料理を食べる。そんな勢いで食べる為、喉を詰まらせお茶を飲み込むが暑くて一気に飲み干せない。息が詰まりそうになるながらもお茶を流し込み、また料理を掻っ込む。そんなこんなで数分後には空になった皿の山。自分の成果を満足げに眺めシモンは腹を撫でる。

「イヤー、うまかったで……」

メリダに感謝を伝えようとしてギョッとした。メリダが涙ぐんでいたからだ。

「……どうしたんですか、メリダさん? もしかしてメリダさんの分もありしたか? だったらごめんなさい。手が止まらなくて」

「違う、違う……私の旦那と子供がシモンみたいに食べる人でそれを思い出したら涙が……」

泣き笑いになるメリダ。シモンはどうすればいいんか分からずオロオロしながらメリダの頭を優しく撫でた。何度も撫でているうちにメリダはボロボロと大粒の涙を流しシモンの胸に顔を埋め、嗚咽を上げて泣き出した。誰かにそれも女性に泣かれるという事は前世も含めて慣れていないシモンは戦っている時の方が楽だと思えるぐらい動揺していた。

数分してようやく落ち着いたメリダは目の周りが赤くはれぼったくなっている。やや渋い顔をして溜め息をついた。

「……年下の男の子の胸でなくなんて……情けない」

「そんな事ありませんよ。僕の胸でよかったらいつでも……」

メリダがシモンのほっぺをつねる。

「そんな年で年上を落としにかかるなんて手慣れてるわね。女ったらし、未亡人キラーの称号を授けるわ」

「そんな不名誉な称号はいりませんよ……ところで聞いてもいいですか?」

「ン? 何かな? スリーサイズとかはダメよ」

「そうじゃなくてメリダさんはここで働いて何年ですか?」

「突然だね、何で?」

「ここで働いているという事はメリダさんも神殺しの一員って事ですよね?」

「うん、そうだよ。神殺しと言っても戦闘は出来ないんだけどね。ここで働き出したのは三年くらい前かな」

メリダは指おり数えて答える。

「どうすれば神殺しの一員になる事が出来ますか?」

「それだったら大丈夫。シモンは神殺しの一員になれる資格があるよ」

「僕が?」

「神殺しは……狂神に家族や兄弟を食われた、いわば被害者で構成された組織だからね。私と違って五体満足で生身で狂神と戦える実力者ならなおさらだよ」

「? 私と違ってってどういう事ですか?」

「それはこういう事だよ」

メリダは両手の白い手袋を外しメイド服の袖を肘の位置までまくる。メリダの上腕部及び膝の下からは材質が分からない義手で出来ていた。義手を握ったり開いたり手首を回したり、何故かシモンの頬をつねったりしたが違和感がなかった。

「その腕は一体どうしたんですか?」

「シモン君はドーセントの街で狂神と戦っているんだよね。だったら見てるはずだよ狂神が人を食べる所を」

シモンは無言で頷く。

「私もやられた。それで旦那も子供も食われた。二人が私を庇ってくれたからひも状になる速度が遅くて私は両腕を食べられるだけで済んだ。あの時、偽神が来てくれなかったら全身食われていただろうけどね。保護された私にここの技術者はこの高性能の義手を取り付けてくれた。私はこの手で旦那と子供の仇を取ろうと考えていたんだけどこの義手じゃ戦闘には耐えられないって言われた諦めるしかなかった。それでも何かをしたいと考えて施設の清掃や食事を作るメイドになった。戦闘とは違う別の戦いをしようと思ったんだ」

「いい事だと思いますよ。どんな英雄も勇者も休息できる家や食事がなければ万全の状態で戦う事が出来ませんから。メリダさんは確実にみんなの力になってると思います」

「そうかな?」

「そうですよ」

照れるメリダに力強く頷くシモン。

「嬉しい事を言ってくれるね。ありがとう、シモン君。これでこれからも頑張ってメイドの仕事が出来るよ」

満面も笑みを浮かべるメリダ。その笑顔に照れるシモン。

「元気が出た様ならよかった」

「さてさて、長話させて悪かったね……仮に神殺しの一員になれるとしても今、シモン君に出来る仕事は体調を取り戻す事だよ。ご飯も全部食べた事だしひと眠りしたら?」

「食べてすぐ横になったら牛になっちゃいますよ」

「何それ? どこで伝わってる話?」

「こっちの話です」

シモンが慌てて取り繕う。

(こっちの世界じゃそう言う言葉はないのか、失言だな)

「じゃあお言葉に甘えて寝させてもらいます」

誤魔化すようにシモンは毛布を被る

「そうするといいよ。また夕方になったらご飯持ってくるからそれまでゆっくりしてて」

メリダがワゴンを引いて部屋から出た。一人になったシモンはベットで横になりながら四拍呼吸を行う。

(ゆっくりとは言われたけどそうも言ってられないな。体力もそうだけど魔術力も回復させないと狂神と戦う事が出来ない)

シモンは己の内面に意識を集中し、動きの鈍くなった魔術中枢の起動効率を上げ、魔術力を回復させる事から始めた。





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