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魔術師転生  作者: サマト
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第百十七話 転移魔術と考察開始

レッドドラゴンを呼び出した際ファインマンは思った。

(あ、これマズい……)

呼び出したレッドドラゴンも大天使カブリエルの力を得て大きくパワーアップしていた。こんなレベルのモンスターの繰り出した攻撃は確実に後ろにいるシモンたちを巻き込んでしまう。レッドドラゴンに攻撃命令を出す前にファインマンは鳩尾のダンジョン・コアに命令を入れる。

「何故に穴がぁぁぁーーーー」

「ヒャァァァァーーーー」

後ろでシモンとルーナの悲鳴が聞こえた。これから行うレッドドラゴンの攻撃の被害を最小限にする為即席の壕を作ったのだった。仇を目の前にしても周りに気を配る余裕をファインマンは持っていた。



「どこまで落ちるんだぁぁぁぁーーーー」

シモンは悲鳴に近い声で叫んだ。

「私に聞かれてもぉぉぉぉぉーーーー」

シモンがギュッと抱き締めた偽神の仮面、その中に納められている聖霊石の中からルーナがこれまた悲鳴に近い声で叫ぶ。

「聞いてないよぉぉぉぉーーーー」

「さいですかぁぁぁぁーーーー」

シモンもルーナも会話が出来るくらいの余裕があったがこの状況が続くのはまずかった。いきなり足元に空いた穴に落ちから数十秒は経っているというのに今だに底に着かない。着いたとしてこれだけ速度が出れば間違いなく即死だろう。ファインマンが緊急避難用の壕を作ってくれたのだろうがこんなに深く作る必要はない。底を設定する前に攻撃が始まりこっちの方に手が回らなくなったのだろう。

(なら……こっちで何とかするか)

シモンは秒で決断し落下に身を任せ全身をリラックスさせる。

「お兄ちゃん?」

「ルーナもこちらに呼吸を合わせて。転移魔術で地上まで戻る」

自分の知らない魔術をいきなり行うと言われルーナは動揺する。

「転移魔術? 私、それは会得してないけど……」

「僕とルーナなら出来る!!」

シモンは断言した。

「……まずは全身から魔術力を放出して」

「分かった」

ルーナ相槌を打ち押し黙る。しばらくするに仮面に納められた聖霊石が強く輝き出す。魔術力の輝きだ。強い輝きを確認してからシモンも五つの魔術中枢を励起させ魔術力を放出、全身が強く輝き出す。二人から放たれる魔術力の輝きは結合し一つの輝きとなる。

「それでいい……次はイメージ……僕たちは向かう、戦場へ……僕の複製体に宿る狂神と戦っているファインマンさんの元に……」

シモンがポツリポツリと呟きながらイメージを強固にしていく。その言葉に刺激を受けながらルーナもイメージを強固にしていく。強固なイメージは魔術力に浸透しそのイメージを現実にするべく魔術が発動する。シモンとルーナはまさに光となり地上目指して上昇する。その速さはまさに光の如し、数秒とせず自分たちが落ちた穴を飛び出し地上へと戻ってきた。そしてファインマンの眼前に出現した。目の前でへたり込んだファインマンの唖然とした顔にシモンは怪訝な顔をする。

「あれ、狂神は?」

ファインマンはある一点を指差した。



狂神の崩拳をファインマンは左手に装備した小楯で逸らし右に持った小剣で突く。小剣の側面を狂神が鑚拳で叩いて小剣を弾く。小剣を落とすまいファインマンは小剣の柄を強く握りしめる。この瞬間ファインマンの動きは止まる。その隙を狂神は見逃さない。右拳を腰に戻しもう一度崩拳で突いてきた。ファインマンには腹部に吸い込まれる狂神の拳がスローに見えた。

「コナクソッ!!」

ファインマンは破れかぶれで小剣の柄を振り下ろす。狂神の拳に柄が当たり拍子を崩す。そうする事で拳に収束された力は霧散する。そんな手打ちの崩拳では致命傷になるものではないがそれなりにダメージがあった。狂神の崩拳の衝撃で後方に飛ばされる。膝をつき吐瀉物を吐いた。

(大天使ミカエルの力を得て俺自身パワーアップしているというのに……これほどか)

ファインマンは押されていた。シモンの記憶を吸収し形意拳を会得しつつある狂神は手強い。狂神の膂力に武術の理が加わるとこれほど恐ろしい敵になると思わなかった。

(これ以上時間をかけるとシモンたちが……一か八か相打ちを狙うか?)

自分か出来るあらゆる方法をシュミレートしてみるがどれをやっても打ち負けるイメージしか浮かばない。防御に徹する事で何とか食い下がっている状態だ。

(それにこの狂神には妙な再生能力か? これが厄介だ。これを何とかしない事には……)

レッドドラゴンのドラゴンブレスはもちろん大天使ミカエルの火の力で焼き尽くし灰にしても次の瞬間には何事もなかった様に現れる。

「コイツを何とかするにはやはりシモンの知識が必要だ……たとえ自分が死のうともシモンがいればきっと何とかしてくれる……」

ファインマンは覚悟を決め鳩尾のダンジョン・コアに触れようとする。この瞬間攻撃はもちろん防御すらも捨てたファインマンは隙だらけになる。狂神はこの隙を逃さない。一息で狂神はでファインマンの間合いに入る。ファインマンにはその動きが緩慢に見えた。大天使ミカエルを受け入れた事により能力が向上、動体視力が上がっているだけではなく危機に陥ったことにより思考が加速した故の視界だった。

(動きがやけに緩慢だ。あれだけ早い狂神の動きが分かる。シモンが戦う時最初に行う構えから拳を繰り出した……拳が空を切り裂きながら向かってくるのが分かるのに……体が動かない、ダンジョン・コアに触れられない……これじゃシモンたちを地上に戻す事が出来ない……動け動けウゴケェェェ!!!)

僅か数ミリ指先が動かせればそれでダンジョン・コアに命令を入れられるというのにそれが出来ないもどかしさに心の中で叫ぶファインマン。

(……ここまでか……)

攻撃はもちろん防御すら出来ずただ見る事しか出来ないファインマンは諦観するしかなかった。そんなファインマンの視界にある物が入った、それは白銀の光。その光は狂神に降り注ぎグシャリッと押しつぶした。

「ナァッ!?」

質量を持った光が狂神を押しつぶした事にファインマンは驚いたがその光の中から偽神の仮面を持ったシモンが現れた事に二度ビックリし口をあんぐりと開けてしまう。

「転移魔術成功っと……? ファインマンさんどうしました……っていうか狂神はどこですか?」

ファインマンは驚愕の表情のままシモンの足元を指差す。

「足元って何か柔らかくて気持ちが悪いって……ヒェェェェェッ!!!!!」

シモンは悲鳴を上げてその場を飛びのいた。足元で火血が爆散したが如く悲惨な状況が広がっていれば飛びのきたくもなる。

「一体何なんだ、この血だまり、肉塊、僕は一体に何の上に出現してしまったんだ!?」

「それはお前……」

ファインマンに事の顛末を聞かされる。

「そういう事か……」

シモンは納得した。シモンはファインマンの眼前に出現するように設定して転移魔術を行った。設定どおりファインマンの眼前に現れたのだがその中間に物があれば高出力の魔術力によって排除されるのである。故に転移魔術の出現座標に物があればそれは悲惨の一言に尽きる。

「すみません……」

シモンは気まずそうな顔をして頭を下げた。この狂神はファインマンの手によって倒されるべきだったのに横取りをしてしまった形なのだから謝る他ない。

「いいや、謝る必要は……ねえ!!」

そう叫ぶとファインマンはシモンを左わきにつき飛ばし背後にいた者に小剣を振り下ろした。

「ファインマンさん、何をするんですか……!?」

シモンは驚きで目を見張る。ファインマンが振り下ろした小剣の先、そこにはシモンの複製体―――狂神が立っていたからだ。小剣は十二の翼の一つで防御されていた。

「どうして!? 狂神は僕が偶然だけど倒した筈なのに!?」

「それが俺にもよく分からん。どんな攻撃をしても次の瞬間にはこうやって復活してしまうんだ!! これを何とかしなければ俺たちに勝利はない!! シモン、俺が時間を稼ぐからこいつの不死身の謎を解いてくれ!!」

ファインマンがそう叫ぶと狂神に体当たりをしてシモンから距離を取らせた。

「!? 分かりました!!」

シモンはファインマンと狂神の戦いを目の当たりにしながらも狂神が何度も復活するという現象について考察を開始した。











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