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魔術師転生  作者: サマト
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第百十話 熾天使、現る

シモンの複製体が製造されている部屋でほんの僅かであるが変化があった。何の前触れもなく小さな光の玉が出現した。花の種子のように宙を頼りなげに漂う。明滅を繰り返し今にも消え去りそうだ。その小さな光の玉は縋りつくかのようにシモンの複製体が収まった容器に触れる。容器の表面に波紋が広がり光の玉はズプリッと潜り込んだ。そして光の玉は容器の中で眠っているシモンの複製体に溶け込んだ。その途端、体表に回路の様な迷路図の様な文様が浮かびその中を光が走る。その光景はまさに回路に電流が流れるかの如く。回路に光が流れ一つの結果をもたらした。

シモンの複製体の目が開いたのだ。それだけの事でいかなる力が働いたのか容器が内側から爆ぜた。容器の中の液体は全て流れ落ちるがその力に逆らってシモンの複製体はその場に立っていた。そしてシモンの複製体はゆっくりと見上げる。シモンの複製体を操る者の超視覚は岩盤を貫きその先にいる敵を捕らえ口を開いた。人の物とは思えない不協和音は大地を鳴動させ地震を引き起こした。

もしここにシモンがいたのならこの声を”召喚の野蛮の名”と呼んでいただろう。深層意識を激しく鳴動させ強力なパワーを引き出す魔術。シモンの複製体にシモン本体の記憶はない。複製体に入り込んだ光が偶然引き起こしたものなのだろうがその声は”召喚の野蛮の名”と同等の力を発揮した。シモンの複製体の背に光の翼が十二、そして頭上に光の輪が出現した。シモンの複製体に入った光は確信していた。この姿ならあの難敵を打つ滅ぼす事が出来ると。



「ウォォォォォォ!!!!!!」

地震が収まると同時にファインマンは雄叫びを挙げながら全速力で走り出す。その速度は下手をしたら音速を超えるのではなかろうか。無意識のうちに身体強化の魔法を使っているようだ。その速度に追いつけずシモンはファインマンを見失ってしまう。

「ルーナ、ファインマンさんはどっちにいった!!」

「お兄ちゃんから見て右の方向!!」

ルーナ・カブリエルが上空からファインマンを追跡してシモンに指示を出す。シモンはその指示に従って走りながら思考する。

(ファインマンさん、頭に血が上ってるな。これだけ感情的になる相手って狂神、それもサリナさんのオリジナルを光に変えたあの狂神か!? ……でもどうしてこのタイミングで現れる? かの狂神はカルヴァンさんが倒したって話なのに……実際には倒しきれていなかった? あの人がそんな不手際を犯すか? まさか……)

シモンの脳裏に疑惑が浮かび上がっていた時、ルーナ・カブリエルが絶望的な声を上げる。

「……凄い勢いで村の外に出た。そして……地面に穴を開けて……そこに入っちゃった!? どうしようお兄ちゃん空からじゃこれ以上追跡できないよ!!」

「ルーナ、落ち着いて。とりあえずファインマンさんが入ったその穴まで向かおう。ルーナ、案内して」

「分かった」

村の外に出て走る事数分、ファインマンが入ったという穴は見つかった。人が二、三人入れるほどの穴でそれほど大きいものではない。

「ここに……ファインマンさんが……入ったのか」

ゼェゼェと荒い息を吐くシモン。

「ウン、この穴にファインマンのおじさん、飛び込んだ」

シモンの隣りにふわりと着地するルーナ・カブリエル。全く疲れていないその様子をシモンは羨ましそうに見る。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「何でもないよ……それよりどうしようか?」

シモンは足元に開いている穴を見るが底が見えない。何も考えずに飛び込めばファインマンに追いつく前に大怪我をしそうだ。シモンは手ごろな石を拾い穴の中に放り投げた。数秒後にコォーンッと跳ね返る音、それからさらにコロコロと転がる音がしばらく聞こえやがて聞こえなくなった。シモンはこの穴の構造を推理して行動に移す。すなわち隣にいるルーナ・カブリエルの腰に手を回す。

「エッ!? お兄ちゃん!? 何をって……キャアァァァァァ」

顔を真っ赤にしてドキマギするルーナ・カブリエル。だが次の瞬間悲鳴を上げていた。

シモンはルーナ・カブリエルと一緒に穴に飛び込んだのだから。数秒でドンッという衝撃が体に走る。底についたのかと思ったらそこから穴は斜め下に伸びておりシモン達はジェットコースターかコウクスクリューのように滑走し始めた。

「やっぱりこういう構造だったかぁぁぁぁっ!!!!」

「何かするのなら言ってからやって!! お兄ちゃんの……バカァァァァ!!!!」

滑走するスピードが徐々に上がっていき罵声を上げる余裕などなくなり歯を食いしばっていた。



数秒なのか数分なのか、時間の感覚が希薄になっていたシモンたちの前方に光が見えた。恐らくそこが終点、ファインマンとその敵が戦っているだろう。

「ル、ルーナッ!! 出口、出口!! 準備して!!」

「わ、分かった!!」

以心伝心と言うべきかルーナ・カブリエルは自分が何をするべきか理解し行動する。光の向こう側に出た途端、柔らかい何かがシモンとルーナ・カブリエルを包み込み滑走の衝撃を殺してくれた。ルーナ・カブリエルが水の魔術を使って光の向こう側の水分に干渉に水のクッションを作ったのだ。

「フウッ……怖かった……」

水のクッションから離れシモンは安堵の息を吐く。その油断をついたルーナ・カブリエルが背後に回りスリーパー・ホールドをかける。

「このバカお兄ちゃん!! お兄ちゃんバカッ!! バカバカバカッ!!」

シモンの向こう見ずの行動に腹を据えかねての攻撃だった。

「グエッ……そんな事言ってる場合じゃないって!! 見てっ!!」

ギプアップを宣言するシモンの眼前ではすでに戦闘が始まっていた。

あり得な程の無数の怪物がシモンたちのいる部屋にひしめき合っている。それらの怪物をファインマンが指揮しているようだ。シモンとルーナ・カブリエルを敵として認識しておらず前方に殺到している。

「ファインマンさん、この無数の怪物は!?」

シモンがファインマンの傍に駆け寄り尋ねる。ファインマンは肩で息を切りつつ答える。顔色も悪い。

「……ダンジョンには怪物がいる物だろう……」

「そうか、これって……」

ファインマンの鳩尾に埋まるダンジョン・コアで作り出したのだとシモンは悟る。だがこれだけの怪物を一度に生み出すとしたら相当魔法力を食われているはずだ。疲労の原因は恐らくこれだ。

「無茶をしないでくださいよ」

「これぐらいやらないと……いいやこれでも足りない……悔しいが時間稼ぎにしかならない……」

その通りだというように怪物の壁の一部が見えない何かに抉られ穴が開いた。そこから現れた者を見てルーナ・カブリエルは驚きシモンと見比べる。

「……お兄ちゃん!?」

「いいや、あれはシモンの複製体だ。それに狂神が憑りついた……あの背中の十二の光の翼、そして頭の輪っか……サリナを殺した狂神で間違いない!!」

ファインマンは今にも食らいつきそうな怒りの形相で狂神を睨む。

「………」

だがシモンは無言だった。狂神のその姿に驚愕し言葉が出なかったからだ。

(……あの姿は偶然なのか!? 十二の翼に頭の輪、あれってまさか熾天使セラフィム!? それも魔王を模しているのか!? 偶然と思いたいけど……ルーナじゃ勝てないかも)

「ルーナッ!! 時間稼ぎに徹して!! 決して深追いしないよう注意して!!」

「? 分かった、お兄ちゃん!!」

シモンが浮かべた表情に疑問を持つがそれを問う暇はなくルーナ・カブリエルは狂神に向かっていく。

(お兄ちゃん……どうしてあんなに怯えた表情をしたんだろう……)


熾天使セラフィム、天使の中では最高位の階級にいる天使、それに対しルーナが身に纏うカブリエルは大天使、下から二番目の階級の天使であり相対すればまず敵わない相手なのだ。異世界である以上この階級差は当てはまるとは思えないのだがシモンは不安を感じずにはいられなかった。

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