第百九話 新たな疑惑
ファインマンの本性が分かりつつあり今までの様には見る事が出来ない。シモンとルーナ・カブリエルは複雑な感情と視線を向けつつファインマンの話を聞く。
「俺は鉄の骨格とサリナの複製体から摘出した人工筋肉と抽出した人工血液、それらを用いて偽神の肉体を作り上げた。ここまではうまくいったんだがここから開発は難航する。何でだと思う」
ルーナ・カブリエルは頭に?マークを浮かべ首を傾げるがシモンはすぐに分かり呆れた顔でルーナ・カブリエルを見る。
「……ルーナ自身が答えだというのにどうして分からないのかなあ」
「? 私?」
自分を指指すルーナにシモンは頷きファインマンに答え。
「偽神の動力源……聖霊石がその時はなかったんですよね」
ファインマンは頷く
「あっそうか!!」
ルーナ・カブリエルはポンと手を打ち己の胸を触る。そこにはルーナ・カブリエルの本体ともいえる聖霊石が収まっている。今のルーナ・カブリエルは大天使カブリエルの殻を纏って人のように動いている状態なのだ。
「……偽神の巨体を動かす為の動力源……これがなかったんだ。ゴーレムを動かす魔法の応用で動かしてもよかったんだがそれだと決められた動作しか出来ない。普通の戦闘ならそれでもいいんだが狂神相手で瞬殺だ。それを改善する為に人と偽神が同調するというアイデアが浮かんだんだがな。それを適用するにしてもやっぱり動力が必要となる。ダンジョン・コアの能力を利用して魔法石や魔法薬、聖剣、魔剣、色々と作って試してみたんだが動力としては弱い。起動出来ず悩んでいた時に聖霊石はもたらされた」
「聖霊石は確か……カルヴァンさんが持ってきたんですよね?」
「ああ……魔法力を内に蓄えそれを高出力で放出出来る奇跡の石、一回蓄えた魔法力を放出し空になる度にかなり面倒くさい魔法力の注入が必要となるがそれでも俺には救いだった。うまく起動し起立するその姿を見た時俺は歓喜に震えたよ。その後、俺はカルヴァンの誘いでサフィーナ・ソフに行きそこの施設を用いてもう一体の偽神と狂神に対する猛毒となる神滅武装を製造し、本格的に狂神と戦う体制は整った……」
ファインマンの言葉に熱がこもり、ルーナ・カブリも興奮しきりに聞いていたがシモンはその逆で何かを考えこんでいる様だった。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「いや、ちょっと……今までの話で少しおかしいかもと思った所があって……」
そう言われファインマンが意外そうな顔をする。
「何かおかしい事言ってたか?」
「考えすぎだと思ったんですが……やっぱりおかしいなって」
「何が変なんだ?」
「話の中に何の前触れもなくファインマンさんの前に現れている人がいるからそれが気になって……」
「何の前触れもなく現れる……?」
「カルヴァンさんですよ。狂神が現れてカルヴァンさんがそれを打倒した。神殺しとして活動してるんですからそれは分かるんですがおかしいと思ったのはその後、ファインマンさんにダンジョンの存在を教えてダンジョンに促してダンジョン・コアを手に入れさせる。ダンジョンを改造した工房で偽神を作り起動できない事を何故か知っていて聖霊石をもたらす……カルヴァンさんはどうして聖霊石が偽神を起動させるのに有効だと分かっていたんでしょう。さらに言うならファインマンさんが偽神を製造している事をどうして知っていたんでしょう?」
シモンに言われてファインマンはハッとする。
「そういえばそうだな。カルヴァンは何で俺が偽神を製造していた事を知っていた?」
ファインマンとルーナ・カブリエルが面を合わせて考えルーナ・カブリエルが手を挙げた。
「はい、お兄ちゃん!!」
「はい、ルーナッ!!」
「単純にファインマンのおじさんを監視してたんじゃないのか?」
「俺を監視って……どうしてだ。あの頃の俺はまともじゃなかった。あいつに何らかの思惑があって俺を導いていたのだとしても思った通りのものを作る何て保証はないはずだ」
「そうですよね。なのに監視なんて……?」
シモンは自分の思考に埋没し考える。
(どういう事なんだろう……カルヴァンさんはファインマンさんがいずれ偽神を作り出す事を知っていたとしたら? そのために道筋をカルヴァンさんが引いていた? そんな事が出来るのか? 予知能力の様な特殊能力を持っていたら出来る? いいやそれは考え過ぎだろう、突拍子がない……でもカルヴァンならありえるか? あの人ならそういった能力の一つや二つ持ち合わせていそうだ……)
「……何でしょうね。カルヴァンさんの掌で弄ばれてるようで気持ち悪いですね」
シモンの言葉にファインマンは顔をしかめた。シモンと同じ気分になったのだろう。
「神殺しと袂を分かつかどうかはひとまず置いといて……カルヴァンさんにも話を聞いた方がいいかもしれませんね」
「その方がいいな。俺も今まで疑問に思わなかったがシモンの話を聞いてたらなんか気持ち悪い……俺もカルヴァンに問い詰めた方がいいかもしれん」
ファインマンがシモンに同意したその時だった。ズンッとという音と同時に大地が激しく鳴動した。
「ヒャッ!? 地震!?」
ルーナ・カブリエルが大地の振動から逃れる為宙に浮いた。
「ルーナ、ズルい!?」
あまりに激しい大地の震動に立っている事が出来すシモンは身を伏せる。
「一体に何が?」
同じように身を伏せるファインマンが鳩尾のダンジョン・コアを操作し原因を知らべる。シモンには見えない様々な情報がファインマンの脳裏に浮かぶ。そしてある映像がファインマンの脳裏に映り驚愕の表情を浮かべた。
「何っ!! これはぁぁぁ!!」
ファインマンの表情が目に見えて変わった。驚愕、恐怖、憤怒、そして歓喜の表情が入り乱れ凄みのある声で呟いた。。
「……何でアイツが現れた!? アイツはカルヴァンが切り伏せた筈なのに!? ……だがこれは……いい。仇が時を超えて現れやがった……あの頃の俺とは違う……今度こそ俺の手で……ぶっ殺してやる!!」
大地の鳴動が止まったのを確認しファインマンが走り出した。置き去りにされたシモンとルーナ・カブリエルが慌ててファインマンの後を追う。
「ちょっとファインマンさん、どうしたんですか!?」
シモンが前を走るファインマンに大声で問うがファインマンは答えない。頭に血が上ってこちらの声が聞こえていない様だ。
「一体何を見たっていうんだ? 仇が時を超えて現れたって言ってたけど……まさか!?」
シモンはファインマンが走り出す前の呟きから推理しこれから何が起こるのかを予想し魔術力を高め始める。
「……ファインマンのおじさん……大丈夫かな?」
シモンの隣りで宙を移動するルーナ・カブリエルが心配そうに言う。
「大丈夫じゃないよ、ただ事じゃない。間違いなく戦闘になると思う。その時は頼む、ルーナ」
シモンの真面目な表情にルーナ・カブリエルも気を引き締める。
「お兄ちゃん……ガッテンだ!!」
「ガッテンだって」
シモンは呆れつつもファインマンを見失わない様足に力を籠めつつ走った。