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魔術師転生  作者: サマト
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第百一話 一体何をやったんだ?

「……知らない天井だ……」

シモンは十四才の少年が言いそうなセリフを呟いた。ボンヤリしながら上半身を起こすと激しい眩暈と吐き気に襲われる。強く目を閉じ口元を手で押さえ吐き気を堪える。

「ウ……気持ち悪い……」

眩暈と吐き気が落ち着くと意識がハッキリし自分に何が起こったのか思い出した。

「ファインマンさん……何をしてくれやがる!? まともな人だと思ったけどカルヴァンさんと同類か!?」

数日ぶりに人と出会う、それが味方であるファインマンという事もあり完全に油断していた。背後を見せた瞬間凄まじい衝撃が走り気を失った。前世で言うならスタンガンを押し付けられたかのような衝撃だ。気が付くと手術台の様な物に寝かされ何やら薬物を投与され再び気を失う。そして気が付いたらこの体調不良、何を考えているのか確認しそれ次第ではこちらも過激な行動に出る事を考えなければならない。

「それは置いといて……ここは一体?」

シモンは改めて今いる場所を見渡す。

殺風景な部屋だった。自分が寝かされていた寝台以外は家具も何もない。窓もなく出入りする為のドアがあるのみだ。

「もしかして……隔離されてるんだろうか?」

重病患者になったかのようで気分が悪い。ファインマンがどうしてこんな行動をとったのか考えてみる。

(内通者が全て自害したというのは嘘ではないだろうか? それどころかファインマンさん本人が内通者の一人? 僕が邪魔者であり更に人体錬成について知ってしまった為、殺しにかかってる? この体調不良は遅効性の毒? ……ここで殺される訳にはいかない。神殺しという組織と敵対する事になったとしても狂神と戦うというスタンスは変わらないのだから)

シモンは両頬を叩いて気合を入れると寝台から降りる。

「うっ……」

眩暈を感じて膝をつくがそれでもと四つん這いで移動しドアの前に来る。ドアノブに手をかけようとしてその手が止まる。ドアの向こうから凄まじい気配を感じたからだ。瀑布が如く叩きつけられる強力な怒気にシモンは息を飲む。シモンは警戒し後ろに下がろうとするが体がふらつき頼りない。こんな状態では怒気を叩きつけている相手と戦う事になれば数合と持たないだろう。それでもここでやられるわけにはいかないと気力を振り絞り三体式の構えを取った。次の瞬間ドアが音もなく開きより濃厚な怒気が叩きつけられた。物理的な衝撃を受けたとも思える程の力に体勢が崩れ後ろに倒れてしまう。

(これほどの怒りを叩きつけられるなんて……僕が一体何をしたって言うんだ!?)

そんな事を考えながら怒気を放つ人物を見た。

「アッ、お兄ちゃん目が覚めたんだ……て何をしてるの?」

ルーナ・カブリエルの呑気な声にシモンは呆然とする。

「何してるって……倒れてる?」

ルーナ・カブリエルの問いに疑問形で答える。

「答えになってない!? それより……お兄ちゃん大丈夫!? 無茶したらダメだよ。今お兄ちゃん血が足りてないんだから!!」

「? 血が足りてないってどういう事……ていうかこの体調不良の原因は貧血!? 何でそんな事に?」

「それについては後で。お兄ちゃんはベットに戻って……立てる?」

「……立てない」

「なら私が」

言ううや早くルーナ・カブリエルはシモンの背中と膝の裏に手を回し軽々と持ち上げた。俗にいうお姫様抱っこだ。

「お兄ちゃん軽いねえ」

馬鹿にされたようでシモンはムッとする。

「成長期だから!! これから背も大きくなって体重も増えるから!!」

「だといいねえ……」

ルーナ・カブリエルは意味ありげにニヤリと笑う。それにシモンは不安を覚える。カブリエルは神の言葉や意志を伝える天使。今のルーナはカブリエルの殻を纏っておりその性質を受け継いでいる。故にルーナ・カブリエルの言葉が真実になる可能性がある。

「ちょっと止めて!! 変なこと言わないでっ!!」

シモンの本気の懇願にルーナ・カブリエルは若干引きながら寝台のシモンを降ろす。

「大丈夫だって、冗談だから。ほら、これでも食べて落ち着いて」

ルーナ・カブリエルが芝居がかった口調で言うとトレイを差し出した。トレイにはサンドイッチと紅茶、そして栓がされた小瓶が乗っていた。

「? 食べ物はいいけどこの小瓶は?」

シモンは小瓶を手にとり栓を取り中の臭いを嗅ぐ。生臭い匂いにに顔をしかめ鼻をつまむ。

「ニャニコレ……」

「ニャニコレだって……ププッ」

「ダマラッシャイッ!! ……でこれは何?」

「増血剤だって」

「増血剤!? 血が足りてないという事だし今の僕には必要な物だけど……」

こんな物を飲まされるのかと思うと気が重くなる。シモンは小瓶をトレイに置くとルーナ・カブリエルの方に向き直る。

「これはちょっと……それより食べ物をジャンジャン持ってきてよ。食べて血を増やすから」

逃げ腰のシモンにルーナ・カブリエルが清々しい笑顔を見せる。

「心苦しいけど増血剤飲んだ方が早く血が増えるし体調も良くなるから……飲もう」

「や、ちょっ、やめて」

シモンは抵抗するが体に力が入らず無理矢理増血剤を飲まされる。そして声にならない悲鳴を上げた。そしてシモンはかすれた声で言う。

「……ヒドイ……」

「そんなこと言わないでよ。お兄ちゃんに早くよくなって欲しくて心を鬼にして飲ませたんだよ」

ルーナ・カブリエルはヨヨヨッと泣くふりをするがわざとらしい。

「……」

シモンはジト目で睨みながらサンドイッチを頬張り紅茶を煽る。

「モグモグ……覚えてなよ。この恨み晴らさでおくべきか……ゴックン」

「……恨みを晴らすっていうなら私じゃなくてファインマンのおじさんにするべきだと思うよ」

「? ファインマンさんに? 何で?」

「気を失っているお兄ちゃんから血を抜き取って……それで何をやったのかそれを知ると……」

ルーナ・カブリエルの表情が一変する。その表情は憤怒に染まり轟と怒気が放たれる。気の弱い者がその怒気に触れればよくて失神最悪死は免れないだろう。

(ルーナをここまで怒らせるなんて……ファインマンさん、僕の血を使って一体何をやってんだ?)

「ルーナ、落ち着いて!! リラックスして、リラックース!!」

ルーナ・カブリエルはハッとして深呼吸をして気を落ち着かせる。

「ゴメンねお兄ちゃん。でも……あれは許せない。偽神のパワーアップになるっていうからガマンしたけどお兄ちゃんは……全力の崩拳を放っていいと思う」

「それだとファインマンさん大怪我するから。しかしルーナ……そんな過激なこと言っちゃダメだよ」

注意するシモンにルーナ・カブリエルは声を荒げる。

「でもあの人は……それだけの事をしてるんだだよ!!」

怒るルーナ・カブリエルを宥めつつシモンは思った。

(ファインマンさん……アンタ一体何をしたんだ?)

ルーナ・カブリエルに直接聞いていいかもしれないが本人に直接聞いた方がいいと思いシモンは口を噤む。そして別の事を聞いてみた。

「今更何だけど……ここって一体どこなの?」

「んー、ここは私達が居た廃村の地下に二百メートルほどの所に築かれた地下迷宮だって」

「地下迷宮って……そんなもの個人で所有してるってホント何者なんだ、ファインマンさん……」

新たな疑問が生まれたがそれも含めて本人に聞く為にも体調を万全にしようと横になった。




















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