第九十六話 誤解は解けた。そして隠蔽された……
手紙を読み終えたシモンは力が抜けた様にその場に座り込み深い息を吐いた。
「!? 大丈夫お兄ちゃんっ!?」
ルーナ・カブリエルが驚いてシモンの顔を覗き込む。そこには安堵の表情があった。
「……ヨカッタ~」
「えっと……どゆ事?」
首を傾げるルーナ・カブリエルに手紙を差し出す。自分で言うより呼んでもらった方が早いと判断したのだ。
「なになに……」
ルーナ・カブリエルが渡された手紙に目を通しムスッとした顔をした。
「……ちょっとヒドいね、お兄ちゃん」
「疑われたないと分かっただけでもホッとした。まあ、僕には言っておいてほしかったんだけど……敵を騙すにはまず味方からって事にしておこう」
「ムゥッ……納得いかない。」
手紙にはシモンが内通者ではない事、内通者をあぶりだす為あえてシモンを追放処分にして動向を探る事、しばらくは所定の場所に潜伏しこちらの連絡を待つ事、最後に囮にしてすまない等ファインマンの直筆で書かれていた。
「まあ、囮の役目は十分果たせたと思うけどね」
「どういう事?」
「あの賞金稼ぎ、ゴートンさん達の動きが早かった。僕が追放処分を受けてここに放り出されてそれほど時間が経ってないのに現れたんだよ。それにゴートンさんが言ってた、僕の情報を買ったって。誰かが僕がここにいると情報を流したとしか考えられない」
「その情報を流したのが……内通者?」
「それにドーセントの街を滅ぼした首謀者が僕だと情報を流して賞金を懸けたのもその内通者だと思う。賞金を懸けるなんて時間がそれなりにかかるのにそれが出来たって事はその内通者はかなり長い間潜伏していてもしかしたら僕の事を調べていたのかもしれない」
「そんな……その内通者って一体何者なの?」
「正体不明としか言いようがない。あれこれ考えても何も出来ないしファインマンさんが内通者を捕まえる事を期待しよう」
「そうだね」
「今不安になってもしょうがない。取り合えず行くとしよう」
「どこに?」
「手紙を読んだんでしょう。所定の場所に向かえって書いてあったとけど」
「ああ、そうだった」
ルーナ・カブリエルはポンッと手を打つ。
「しっかりしてよ、そんな年じゃないでしょう」
シモンが馬鹿にしたように言うのでルーナ・カブリエルはムッとしする。右手の親指と人差し指を立て後の指は折り曲げる。そして人差し指をシモンに向けこう呟く。
「水鉄砲」
人差し指から水が勢いよく吹き出しシモンの顔を濡らす。威力を調整すれば金剛石さえ貫くさえ出来る無詠唱魔術なのだが今はシモンをからかうために威力が調整されておりシモンの顔を濡らすぐらいしか出来ない。
「ワプッ!? ……何するんだよっ!?」
シモンが引きつった笑みを浮かべつつ問うた。それに対しルーナ・カブリエルは余裕の表情だ。
「人の事を馬鹿にするから悪いんだよ」
「下らない事に……貴重な能力を使うんじゃありませんっ!!」
「キャア~」
ワザとらしい悲鳴を上げて逃げるルーナ・カブリエル。それを追うシモン。じゃれ合いの追いかけっこをする中シモンの思考は別の事に向いていた。それは内通者の正体、その内通者は恐らく狂神に魂を売り渡した人物だろう。前世の経験上、魔術などで思考や感情を操られた人間は柔軟な思考や行動が出来ない。誰かをアジトに引き入れる、シモンを指名手配犯に仕立て上げる何て複雑な事が出来るはずがない。自分の意志でシモンを敵と見なしシモンを陥れようとしたとしか考えられない。獅子身中の虫がサフィーナ・ソフ、神殺しの中にいるのだと思うとゾッとする。
(マズいな……内通者なんて存在がいたら神殺し内部から崩壊するぞ。早くファインマンさんに連絡してどうなったのかを聞かないと。それによっては独自に行動する事を考えるべきだけど……)
指名手配され命を狙われる中奪われた偽神四号機を見つけ出す。とてつもない難易度にシモンは眩暈がした。
「……どうしたのお兄ちゃん?」
気が付くとルーナ・カブリエルが足元にしゃがみ込み上目使いでシモンを見つめていた。
「ワァッ!! ……ビックリした!?」
「ビックリしたってそれはこっちのセリフだよ。急に立ち止まったかと思ったら何かブツブツ言ってるし近づいても全然気が付かないし……」
「そうだったの? ゴメン」
思考に没頭していたようだ。その場に壁があったのなら手をついて反省のポーズを取りたかったが今はないのでやめる事にした。
「さてさてお遊びはここまでにして……指定された場所に向かおうか。また、賞金稼ぎが現れると色々面倒だし」
「そうだね」
ルーナ・カブリエルがシモンに同意する。何かが起こる前にシモンとルーナ・カブリエルは移動を開始する。
約一時間後、指定された場所についた。だが、そこには何もなかった。相変わらず代り映えのしない荒野だ。何らかの施設、建物も何もない。
「指定された場所は……ここで間違いないはず。手紙には地図もついてたし方角なんかも確認して進んできたのに」
シモンは懐からファインマンの手紙を取り出し見間違いがないか再度確認する。
「お兄ちゃん……」
ルーナ・カブリエルがシモンをジト目で見られ怯む。
「ウウッ……間違いないはずなんだけど。ルーナは何か聞いてないの?」
「何かって……そう言えば手紙を渡された時、何か言われたような……」
「ルーナ思い出して!!」
ルーナ・カブリエルが額に人差し指をあて目を閉じて思い出す。そしてぽつりと呟いた。
「確かこんなセリフだったな……『汝の役目は終わりを告げた ヴェールを剥ぎ取りその姿を見せよ』だったかな」
「だったかなって……」
呆れた様に言うシモンは次の瞬間息を飲んだ。目の前の空間が波立ちはじめ何かが出現したのだ。ボロボロに朽ち果てた家屋の数々が出現したのだ。
「これは……集落、いいや村か? 何らかの施設を想像していたんだけど……どうして廃村を指定の場所にしたんだろう? いいや、それよりどうして魔法による幻影でここを隠蔽していたんだ? 重要な場所なのか、ここは?」
シモンは眼の前に出現した廃村について疑問を漏らすが答えは出ない。
「悩んでもしょうがないよ。それよりここで待っていればいずれ連絡が来るんだからその時全部聞こうよ」
「そうだね」
シモンは頷き廃村に足を踏み入れた。