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魔術師転生  作者: サマト
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第六話 中央の柱、カバラ十字の祓い、そして天使団召喚

―――時は少し遡る。


「どうしても逃げないというならせめてそこにいて。私たちが両親と友達の仇を取るから」

蒼い装甲の偽神がそう言うと大地を震わせながら走り去る。それを困った顔で見送ったシモン。

「行ってしまった……でも今の状態じゃしょうがないか」

シモンは目を閉じる。目の前の真っ黒なスクリーンに五つの光球が浮かび上がる。その光は己の肉体と重なる。頭上、喉、胸の中央、生殖器、足の裏の計五ヵ所である。魔術力、生命力を生み出す魔術中枢なのだがこの五ヵ所の輝きが暗くくすんでいるのである。狂神との闘いでアストラルパンチを連続で放った事による影響だった。魔術力の生成が追い付かず枯渇したことが原因だった。この状態で狂神を倒すと言っても青い装甲の偽神が信用するわけがない。その結果がこの有様だ。前世の志門雄吾の記憶と魔術知識があっても感情面は今世のシモンに引きずられてしまうようだった。大事な人が殺されれば当然怒りを感じるがあそこまで激怒するとは思わなかった。

「坊やだからさなんて言いたくはないな……何にせよまずは魔術力を回復させて結界を破ってそれから……」

シモンは最後まで言葉にせず行動を起こす。まずは四拍呼吸と呼ばれる西洋魔術の呼吸法を行う。これを繰り返す事で体がリラックスしていき意識がクリアになる。次の頭上の魔術中枢に意識を集中する。意識と呼吸法で少しずつ輝きを取り戻す様をイメージし頭上の魔術中枢の神名を唱える。

「エー・ヘー・イエー」

頭上の魔術中枢が輝きを取り戻す。その輝きが下方に流れのどの魔術中枢に流れる。のどの魔術中枢が輝やきを取り戻したのを確認しのどの間出中枢の神名を唱える。

「イエ・ホー・ヴォ・エ・ロ・ヒーム」

この要領で各魔術中枢に光を通し胸の魔術中枢の神名「エホヴォ・エロア・ダ・アート」、生殖器の魔術中枢の神名「シャ・ダイ・エル・カイ」、足裏の魔術中枢「アー・ドー・ナイ・ハ・アレッツ」と唱えていく。そうする事で五つの魔術中枢は輝きを取り戻し魔術力の生成を開始する。体から湧き上がる魔術力が周囲の空間を清浄で静謐なものに変えていく。それと同時に周りからピキッ、パキっという音が聞こえ始める。何事かと目を見開きギョッとする。

「結界にひびが入っている」

魔術力と魔法力は反発しあう性質があり、シモンの魔術力が勝ったようだった。

「これなら後もう一押しで壊せそうだけど……脆すぎやしないか?」

生前敵対していた黒魔術師や妖術師が張った結界は悪辣で無理に破ろうなら陰湿な罠が発動し、命を落としそうになる事など一度や二度ではなかった。だが今目の前にある結界は対象を守る事のみを目的としている。正直言って素直すぎる。この世界の魔法は敵対するものを物理的に打ち倒す、または身を守る事を目的としている。つまり武器や防具と同じ扱いなのである。それ故、複雑かつ悪辣な構造にする必要がないのだろう。

「それだけじゃないな。この結界には人|(?)柄も出てるな。素直な性格なのだろうな。いや、あの偽神って一体何なんだろうな? AI搭載のロボット? それとも人が乗ってる……まあいい。それよりも急ぐべきだな。狂神がやったのか偽神がやったのか分からないけどいきなり森が形成されてどちらが有利に戦っているのか分からなくなった。もし偽神が敗れたとして再び狂神と戦う事になったとしても前と同じ事をしてたんでは絶対に勝てない。だから……」

シモンは右手の人差し指、中指を立て他の指は折りたたむ。そして頭上に右手を掲げる。指先が白く輝く光球に触れ指先にその光が宿ったとイメージする。そして指先を降ろし額に触れ聖名を口にする。

「アテー」

頭上の光球が指先の光を追って光柱を降りてくる。続いて右手の指先が鳩尾に触れると同時に光柱が首、胸、足を貫き地中を星を貫き遥か彼方まで光柱が伸びていくとイメージして次の聖名を唱える。

「マルクト」

右手指先が右肩に触れる。遥か彼方から伸びた光柱が右肩を貫いたのをイメージしさらに聖名を唱える

「ヴェ・ケーブラー」

次いで右手指先が左肩に触れる。右肩を貫いた光柱が左肩に抜け光が遥か彼方に消え去るのをイメージし聖名を唱える。

「ヴェ・ゲードラー」

両手を胸の前に組み最後の聖名を唱える。それと同時に自分の体が輝き光の十字架になったのだとイメージする。

「レ・オーラーム・アーメーン」

シモンの体が白く輝き文字通りの光の十字架となった。光の十字架が結界を突き破り音を立てて破壊された。

「カバラ十字の祓い……己の霊的不純物を焼き、アストラル体を光で満たす初級の魔術儀式で攻撃的なものではないんだけどこっちの世界じゃ結界破壊の効果が出るんだな」

シモンはキラキラと輝きながら地面に落ちて消える結界の破片を見ながら呟く。

「……それはさておき次の作業と……」

シモンは西に落ち行く太陽から南の方向を確認し南の方向を向く。南は西洋魔術においては火の方角とされている。

シモンは四拍呼吸を行い心身をリラックスさせる。シモンは緊張していた。これから行う魔術は五芒星の大儀礼という。地、水、火、風、霊などの精霊、神霊、天使を召喚し力を借りる魔術。前世では当然出来ていたのだが今のシモンはこの魔術に成功したことがない。前世で出来ていた事が今世で出来ないというのは何とももどかしく情けない。でも、今の一時的な覚醒状態ならもしかしたら出来るかもしれないと考えていた。

シモンは再び右手の人差し指と中指を伸ばし後は折りたたみ前方の空間に伸ばす。指先に淡い光が灯っていることに少し驚きながらも精霊召喚の五芒星を空中に描く。残像が残り五芒星が空中に固定されるのを確認し呪文を唱える。

「ベイ・エー・トォー・エム」

次いで精霊のサインを五芒星の中心に描き呪文を唱える。

「エー・ヘー・イー・エー」

両腕を前に伸ばし掌を外側に向け両腕を広げる動作をした後、五芒星の隣りに火の召喚の五芒星を描き呪文を唱える。

「オー・エー・ペー・テー・アー・アー・べー・ドー・ケー」

そして中央に火のシンボルを描き火の神名を唱える。

「エル・オー・ヒーム」

両手を頭上に上げ指先を合わせ上向きの三角形を作った。その途端シモンの全身から赤い光が沸き上がり天を貫く光の柱となる。

「大天使カマエルよ。汝が軍団を呼び出さんとする我が試みに力を貸したまえ。我はセラフィムの天使を召喚する。火の門をくぐり我が用意したる人の姿を結んで現れたまえ。パス・ワード、エロヒム・ギボールの名において」

そしてシモンはイメージする。それは冷酷な印象を与える、険しい表情をした女性の戦士。赤い角兜、赤鉄の胸鎧、左腕には鋭い剣が付いた腕鎧、足には灰色の脚鎧と言った武装をしており背中には左右三対計六間の羽根を生やしている武装天使。

更にシモンはイメージを広げる。

人が幾千幾万の細胞が組み合わさって一体の人体をなしているように光り輝く天使の群れが彼女を構成しているのだと。

イメージした武装天使が自分の制御から外れ自分から歩み寄り目の前まで接近したと感じられた時、シモンは彼女を召喚した目的を告げた。

「かの狂神なる存在を打ち倒す為の強大な力を我に与えたまえ!!」

(汝の願いは確かに聞いた)

セラフィムは冷たい感じのする思念で答えると大きく頷いた。それを受け止めたシモンは退去の儀式を行う。

「わが願いは伝えたり。速やかに成就されん事を。天使団セラフィムよ、速やかにアストラルの球に戻り、我が願いを叶えたまえ」

次いでシモンは火の退去の五芒星を描く。書き終えると感謝の言葉を大天使に捧げる。

「パスワード、エロヒム・ギボールの名において我は火の門を閉じる。大天使カマエルの援助に深く感謝するものなり」

謝辞を唱えると同時にシモンから放たれていた赤い光の光柱が消える。天使団召喚の魔術が失敗したのかと思われたが……とんでもなかった。

天より飛翔したのはシモンが創造した通りの、しかし想像以上の力を持つ強力な力を持った六対の翼を持った武装天使だったのだから。

偽神に深刻なダメージを与えた狂神は天使団セラフィムを一瞥すると闇を凝縮した闇の槍を作り出し投擲する体勢をとった。天から飛翔した天使団セラフィムが敵であると認めたのだ。


―――狂神と天使団セラフィム


世界は違えど神の陣営に属する者同士の戦いが始まろうとしていた。







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