もてなしと不意打ち
もてなし――というのは当然良い意味ではないだろう。現状では四対一だが、ハマれば強いのが精霊剣である。多少の数的優位などいつひっくり返されてもおかしくはない。
ナナミたちも迎撃の体勢を整えスノウの出方を伺う。それに対してスノウは薄く笑い、一瞬でその姿を消した。
「……は?」
思わず呆けて隙を晒してしまう。目を離したつもりはないが、動きを全く感知できなかった。まるで最初からいなかったかのような、そんな錯覚を覚える。
意識を切り替えろ。後手には回ったが、まだこちらに被害は出ていない。相手が次に何を仕掛けてこようと、半径五メートル以内ならば察知できるはずだ。
しかし、どれだけ待っても攻撃は来なかった。アズールやセイブルと目を合わせるが、向こうも何も感じていないようだ。
「……まさか、逃げた? まだ何もしていないのに?」
「あれだけ煽っておいてそれはないでしょう。どこかで不意打ちの機会を狙っているとか……?」
その時、不意に扉が開かれた。張りつめた状況だったために、皆が弾かれたように扉の方を見る。
「えっと、どうしたの? 何かあった?」
困り顔のマスターの姿がそこにはあった。部屋を一通り見回し、小さく首を傾げている。
「失礼ですが、本物のショウ様ですか?」
「本物って、どういうこと?」
「大丈夫、今度は本物のマスターよ。……ええと、何から説明したものかしら」
混乱しているマスターに、スノウが現れたことを説明する。現状では何もされてはいないが、どうやら敵対しそうであることも伝えた。
「それで、どうしようか。スノーホワイトは姿を消しちゃったんだよね?」
「そうね。追撃してくる様子がないのは妙だけど……とにかく宿から出ましょうか。このままじゃ良い的だわ」
特に反対意見も出なかったため、移動をすることになった。しかし、次に何をするべきかわからないのは問題である。スノウが姿を消した以上、まずはスノウを補足するところから始めないといけないのだが――と、そこまで考えたところで異常に気付く。
壁だ。いつの間にか部屋が壁で分断されていた。アズールとセイブルがいた場所と私たちの間に、無機質な壁が出現していた。一瞬遅れて、スノウの仕業だと気づく。くそ、まただ。スノウの動きが見えない。あまりにも早すぎる――あるいは、緊張が途切れた瞬間を狙っているのか。
突然マスターが剣を掴んで窓から飛び出した。ナナミも同時に脱出している。一瞬遅れて、ついさっきまで私たちがいた場所を、壁や床からはえてきた巨大な針が通過した。マスターの反応が無かったら、今頃私たちに風穴があいていただろう。
だがこれで、アズールたちと完全に分断されたことになる。あの二人ならそうそう後れを取ることはないだろうが、まずい状況であることに変わりはない。
「姿が見えない……厄介だね」
「本体を探して叩くしかないわ。アズールたちは心配だけど、ここは信じましょう。あの娘たちなら簡単にやられはしないわ」
他人の心配より、まずは自分のことである。これだけ正確で力強い攻撃をしてくるということは、おそらくスノウの本体も近くにいるとは思うのだが――少なくとも目に見える範囲にはいない。
「この町は全体が金で覆われています……つまり、スノーホワイト様はどこにでも潜めるということです」
ナナミが辺りを警戒しながら言う。私たちにとっては趣味の悪い町にしか映らないが――間違いなくここは、スノウにとってのホームグラウンドだ。
「また仕掛けてくるわよ!」
今度は街灯が鞭のようにしなり、私たちがついさっきまでいた場所を通過した。よく見ると街灯の片面が刃のように鋭く砥がれている。おい。あまりに殺意が高すぎるだろう。
「通りに出ましょう。ここは障害物が多すぎてどこから攻撃が来るか読めないわ。広い所に出れば、ある程度は攻撃が来る方向を絞れるでしょうし」
「了解。……素直にそうさせてくれるとありがたいんだけどね」
マスターは走り出し、壁や床からはえてくる巨大な針をある時は避け、ある時は切り捨てながら進んでいく。この調子でいけばすぐに通りに出られるだろう。
だが、何か違和感がある。踊らされているような、誘導されているような感覚だ。何かがおかしい。スノウが現れた時と今の状況の違いはなんだ。
「そうか。おかしい。攻撃が遅すぎる」
マスターに変装していたことがバレた時も。部屋から姿を消した時も。そしてアズールたちを分断した時も。スノウの動作は一瞬で完了していた。それにもかかわらず、今の攻撃はマスターが見てから避けられるほど動作が遅い。
そこまで考えたところで――剣の体に衝撃が走った。スノウが剣の腹を思いっきり殴っているところは認識できたが、それだけだった。当然、私は踏ん張ることなどできず、マスターの手を離れ、近くの建物内まで吹き飛ばされることになる。
ばきん、と剣の折れる音が聞こえた。




