鉄砲玉と炎の槍
採用した作戦は至ってシンプルである。数には数で対抗すれば良い。こちらには都合よく魔力がある限り無限に兵を作り出せる精霊剣と、無限に近い魔力を持つ翔がいる。これ以上ない組み合わせだろう。
一応、私にも役割はある。マスターの魔力量は規格外であるため、不用意に解放しようとすれば暴発の恐れがある。そこで、私の出番だ。マスターの魔力をアズールが使いやすい量に変換する。うん、私はいらない子ではない。
マスターのバックアップを受けたアズールは次々と人形兵を造り出していく。あっという間に数を増やしていき――虫の魔物の数と同様に、数えるのもバカバカしい程になっていった。
「すっご……なにこれ。いくらでも兵を造り出せるよ。やっぱり君、人間じゃないでしょ?」
「人間のつもりなんだけどなぁ、一応」
会話をしている間にも魔物の群れと人形兵の距離は縮まり、ついに激突した。魔物と人形兵の戦いが始まり、お互いに数を減らしていく。
しかし、こちら側の戦力は減ったそばから補充されていく。一体倒れれば二体増やす。次第に戦局はこちら側に傾いていった。
「魔物側も数の補充はされているけど……こっちの方が有利ね。あとは植物の魔物をどうするか、ね」
ふと気づくと、植物の魔物はさらに成長を続けていた。毒々しい花が開き、蔓の数も増えている。花の中心や蔓の先に口のようなものが見えるのは気のせいだろうか。
「問題は二つね。どうやって近づくかと、どうやって魔物を倒すか」
普通に近づいたところで魔物の蔓の餌食になるだけである。また、あれだけ巨大だと剣による攻撃も効果は薄い、どころかほとんど無意味だろう。
「近づくだけならなんとかなるだろうね」
「倒す方法ならなくはないと思うけど」
アズールと私の声が重なる。アズールは近づく方法を思いついた。私は倒す方法を考えた。
「つまり、二人の考えを合わせれば倒せるってこと?」
マスターが確認をする。単純に考えれば、そうなるだろう。気になるのはアズールの考えだが。
「それで、アズール。どうやって近づくつもりかしら?」
「言っておくけど、本当に近づくだけだよ? 後のことは知らないよ?」
「いいからさっさと話しなさいな。採用するかどうかは聞いてからマスターが判断するわ」
私とマスターは今、そろって無言になっている。アズールの考えた策の準備は整った。アズールの魔法で作り出した伸縮する蔓を二本の木に縛り付け、マスターがその中心に立つ。
「……パチンコだね」
「……パチンコね。玉はマスターと私かしら」
あるいはカタパルトだろうか。それにしても原始的すぎるというか、文字通り鉄砲玉というしかない。
確かにこれなら近づくことはできる。できるが、発射したが最後戻ることはできない。
「アズール。もう少しマシな策はないのかしら。例えば蔓をあの魔物の近くまで伸ばすとか」
「それだと叩き落されて終わりだよ。僕じゃそこまで早く蔓を伸ばせない」
私は頭を抱えた。このままでは人間パチンコをやらされる羽目になる。だが、代案は思いつかない。
「やるしかないよ。近づけさえすれば、倒す方法はメルが考えてあるんでしょ?」
「え、ええ。だけど、本当にいいの? 失敗したら」
「しないよ。大丈夫。メルを信じるから」
またこのマスターは。根拠もないのに私を信じてくる。失敗したら死ぬかもしれないというのに、なぜそこまで他人を信じられるのか。
準備できたよー、とアズールが手を振って合図してくる。仕方ない。覚悟を決めるとしよう。
「仕方ないわね。大物狩りを始めるとしましょうか」
ぎちぎちと音を立て、蔓が限界まで引き延ばされる。角度良し。風向きも良し。……あとは飛ばされるだけだ。
マスターがせえの、と声をかけ、私たちは勢いよく空へと撃ちだされた。風を切る音が耳を叩く。あっという間に魔物の本体近くまで辿り着く。
「メル!」
「了解! 任せておきなさい!」
ここからは私の仕事だ。マスターから魔力を引き出し、炎へ変換する。ここまでは今までと同じだが、今回は加減をしない。流れ込んでくる魔力を、そのまま全て魔法として打ち出す!
通常の杖や他の精霊剣なら流れ込んでくる魔力量に耐え切れず自壊するかもしれないが、私は伝説の刀鍛冶が魔力制御に特化するように作った精霊剣。魔力の扱いにおいて、私の右に出るものはいない!
「焼き尽くせ!」
使用したのは誰でも扱える下級魔法。だが桁外れの魔力で放たれた魔法は、炎の槍となって魔物を貫いた。花弁が炎に包まれ、カン高い悲鳴と共に中から何かが這い出てきた。人の形に似ている何か、あれが魔物の本体だろう。
「マスター!」
「わかった!」
マスターが剣を上段に構え――魔物を切り裂いた。
「ところでこれ……着地どうしよう」
「あ」
などと言っている間にも地面は迫っている。マスターが着地の衝撃に耐えられるのを祈るしかない――と思ったその時。
ぽよんと、私たちは柔らかく受け止められた。巨大なタンブルウィード――西部劇で転がっているアレ――のようなものが着地場所に用意されていたのだ。
「いえーい。僕のおかげだから、褒めてくれても良いんだぜ?」
アズールがVサインでアピールしている。そもそも無茶苦茶な移動を提案したのは彼女だが、助けられたのも事実だ。ここは感謝しておくべきだろう。
こうして巨大な魔物との戦いは終わりを告げた。




