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Fragment of Memories  作者: 詩空
第二章
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クリスマス番外編 2


「あれ、恭也。何で勉強してるの?」


 クリアと一緒に、二人での探索を終えてから例の場所で最後の仕上げをした後、美優さんの手伝うことが無いかリビングに向かうと、そこには何故か勉強している恭也が居た。


 なんだか凄く珍しい光景。


 やることがあるか、時間を作りたい時ぐらいにしか率先してやらないのに。


「いやー、ゲームやりすぎて流石に母さんに怒られてさ。だから冬休みの宿題やってる途中なんだけど、思ってたより難しくてな。ちょっと復習中」

「へー……。あ、その計算式、途中の積分間違ってるよ」

「え、マジか。……うげ、マジだ。ありがとな、教えてくれて」


 どれをやってるのかと覗き込んでみると、さっそく一つ間違ってるのがあったからその事を伝える。

 恭也は馬鹿ではないから、大体どこを間違ってるか教えればすぐに理解してくれるから、教えるのが簡単で助かるよね。まぁ、それは雫もだけど。


 けど、あまり邪魔するのも悪いから、私はさっさと退散することにしよう。


「それじゃあ私は美優さんの所に行くから、頑張ってね」

「おう」


 にしても冬休みの宿題かー、確かもう終わらせたっけ。

 今回は面倒なのも無かったから、考えてたよりもすぐに終わった気がする。


 流石に、夏休みの時に宿題で大学入試予想問題を出した先生は怒られて反省でもしたのかな。


 っと、もうキッチンだ。美優さんは居るかな。


「美優さん、何か手伝う事ある?」

「あら、綾。んー、そうね……なら、そこにおいてある野菜とお肉をピザ用に使うから、適切に切り分けをお願い」

「うん、わかった。その後は?」

「あっちにピザ生地が置いてあるから、ソースを塗って出来るだけ均等になるように具材を並べていって、隣のチーズ二種類を半分ずつくらいで乗せてってね」

「はーい」


 言われた通りにトマトやタマネギ、ベーコンなどをちゃっちゃと切り分けていく。

 ベーコンは……短冊切りで良いかな。角切りだと小さくなりすぎそうだし。


 そうして切り分け終わった後、二枚のピザ生地にソースを塗って具材を並べてチーズを乗っけていく。


 こんなものかな。じゃあ最後にバジルを乗せて終わり、後は私には出来ないしね。


「終わったよ、美優さん」

「ありがとう。後はもうほとんど終わらせてあるから、それを焼き始めて終わりね」


 そう言いつつ生地を運んでいくのを手伝って焼き始めた後、隣のダイニングに移動する。リビングはさらに二つほど隣にあるから、恭也はここにはいない。


 どこまで復習終わったのかなー。とのんきに考えていたら、美優さんに話しかけられた。


「ねぇ、綾」

「どうしたの、美優さん」

「いえ……その、ね。綾はもう、私をお母さんて呼んでくれないのかなって」

「へ?」

「綾には言わないで欲しいって言われてたけど実はね、雫は綾の前以外ではお母さんって呼んでくれてるの。お姉ちゃんは色々と考えちゃって呼ばなくなったんだろうって、雫は教えてくれたんだけど……それでも呼ばれなくなったのが少し寂しくて、出来ればどうしてか教えて欲しいなって」

「美優さん……」


 そっか、雫は私に気を使ってくれてたんだね。


 でも結局のところ、これは私の我が儘でしかなかったんだから、別に気を使わなくて良かったのに。

 これは私の考えで、雫が気に掛ける必要なんてないんだから。


 まぁでも、これも色々と話す良い機会かな。いずれ話さなくちゃいけないって、考えてたこともあるから。


「あのね、美優さん。私がお母さんって呼ばなくなったのはある意味、私の我が儘なだけなんだ」

「我が儘?」

「うん。確かに美優さんも和樹さんも、本当の両親が居ない私たちをここまで育ててくれたから、そう呼ぶことに違和感なんて無いんだと思う」


 本当に、その事には感謝してもしきれないほど。

 だから二人を親としてみる事は、間違ってはいない。実際に昔はお父さんお母さんって呼んでいたんだから。……でも、年が過ぎる毎に、どこかでそれを嫌がってる私が居た。


 たぶんそれは、この世界そのものに空虚感を覚えた頃だったのかな。


 その事を話すのはまだ怖いけど、美優さんになら。


「少し話がそれるけど。今まで誰にも言ってこなかったけど私ね、この世界に生きてる事そのものに違和感と言うか……空虚感を感じてたんだ」

「綾……?」

「具体的にそう感じ始めたのがいつなのか、それはもうわからないけど。でも確かに、私にはこの世界が現実に思えなかった」


 最初の頃は本当に辛かった。


 あの辛い時期を越えたと思ったら、より強い違和感に襲われたんだから。


「こんな事は誰にも言えなくて、ずっと一人で抱え込んでて……何度か死んでしまおうかと考えたこともあった」

「そんな事、どうして……!」

「もう大丈夫だし、言わなかったのは……ごめんなさい。でも、私がそう呼ばなくなったのはその頃で、美優さんや和樹さんは私の本当の親じゃないんだって考えて。だから、呼ばなくなったの」


 そこまで伝えたところで、私は美優さんに抱きしめられていた。

 この状態では確認できないけど、泣いてる……のかな。


 これはただの私の我が儘で、受け入れきれなかった私の弱さでしかないのに。

 だから、私は誰にも理由は言わなかった。その程度の事で、二人をそう呼んではいけないって思ってしまった自分が、あんまりにも情けなさ過ぎて。


 けど、それで美優さんを泣かせてしまうのなら……本当に私は馬鹿でしかない。


 そんな時、脳裏に一瞬だけ凍て付いた森の光景が映し出され、同時に言葉が聞こえた。



 ――うん……。それ、じゃあ……またね。

 ――私の、もう一人の、お父……さん。おやすみ、なさい……



 ……そっか。やっぱり私は、色々と間違ってたんだ。


 親が一人だけだなんて、勝手に決めつけていたけど……そんなことは無いんだ。愛情を持って育ててくれたのなら、生みの親でなくとも、その人は確かに私の親なんだから。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ、綾……! 私、綾が苦しんでる事にも気づけないで母親だなんて……!」

「いや、それを言うなら僕も同罪だよ、美優。僕も一緒に暮らしていたのに、綾の苦しみに気付けなかったんだから」

「和樹さん……でも、私はっ!」


 何度も謝っている美優さんに、どこから聞いてたのかわからないけど、いつの間にかやって来ていて、美優さんごと私を抱きしめてくれる和樹さん。


 ……ああ。本当に、私は馬鹿だなぁ。

 こんなに優しい人たちが、想っていてくれる人たちが育ててくれていたのに、それでも生みの親じゃないなんてどうでもいい事にこだわってたなんて。


「……ごめんなさい。私が馬鹿だったから、こんな――」

「それは違うよ、綾。綾の異変に気づけなかった僕たちが悪いんだから、綾は気にしなくてもいいんだ」


 それは、違う。違うよ……


「違う! 私が、私がくだらない事を気にしすぎてただけなんだから!」

「もしそうなのだとしても……私たちが気づけなかったのも、事実だもの……」


 こんな、こんなつもりじゃなかったのに……。どうすればいいの?


 私は、どうすれば――


「――だったら、どっちも悪かったって事……だよね」


 そう考えた時、私の口と体は勝手に動き出した。


「うーん、そうなるのかな。確かに、すぐに話してくれなかった事は僕たちも悲しかったからね」

「なら、一つ私の我が儘を……聞いて欲しいな。私も何かあったら、心配をかけないように出来るだけすぐに話すから。お願い」


 二人の事を、私も抱き返しながら聞いてみる。


 また、もう一歩を踏み出す為に。


「ああ、構わないよ」

「なぁに、綾」


 すると、二人とも何の躊躇いもなく返してくれた。


 ……ありがとう。だから、私は踏み出せる。


「また、お父さん、お母さんって呼んで……いいかな」


 お願いを言った瞬間、二人が顔を見合わせた気がしたけど、きっと間違いではないんだろう。


 なんとなく、笑っているような気もする。


「もちろん、良いに決まってるよ。だって綾は、僕たちの――」

「ええ、また呼んで良いのよ。だって綾は、私たちの――」



『――大切な、娘なんだから』



 そう、お父さんとお母さんに言われて、私は涙が止まらなくなった。

 たとえ生みの親がまだ生きていたとしても、私の両親はこの二人。もう、それを疑う事はないだろう。


 そして私は――この大切な何かを、もう私は失いたくはない。そう、思った。




 翌日、クリスマス当日の二十五日の夜二十三時ちょっと前。私は、クリアに伝えていた少し開けた場所にやって来ていた。

 例の仕掛けの最終確認も終わって、後はクリアがやって来るのを待っている状態で、昨日のあの後の事を思い返している。


 昨日はちょっと大変だった。


 あれから、また家に戻ってこないかとか、雫と恭也に何でまたお父さん、お母さん呼びに戻ったのか聞かれたのをはぐらかしたりとかね。


 家に関してはとりあえず、高校を出て大学をどうするかとかの問題が片付いた頃まで、何とか先延ばしに出来た。

 雫と恭也に対する説明は、三人で色々と話し合った結果という説明をしておいた。あの話だけは、お父さんとお母さん以外に話す気はないから。その辺りもちゃんと伝えておいたから、はぐらかすのも手伝ってくれたし。


 でも、一番大変だったのは二人が前よりも過保護になってしまった事。


 本当の私が、強がってるだけで本当は弱いことに気付かれると、みんなこうなるのは何でだろう。


「お待たせしました、トア」

「あ、クリア。時間丁度だね」


 ちょっと遠い目をしながらも振り返りを終えると、丁度良いタイミングでクリアがやって来た。


 それじゃあ始めようか。


「それで、こんな場所で何があるんですか?」

「見てからのお楽しみだよ。――ねぇクリア、クリスマスって知ってる?」

「くりすます……? いえ、知りません」


 だよね。フォーティアスでそういった話を聞かなかったから、クリアも知らないだろうとは思ってたけど。まぁ、確認だよ。


「えっとね、クリスマスっていうのは――」


 という事で、まずはクリスマスについて説明をしていく。

 本来はとある遥か昔の人物の生誕祭だけど、私が住んでいる場所では大切な人と過ごす日で、プレゼントを渡したりする……って感じで簡単にだけどね。


「でね、その日にはクリスマスツリーっていうものを用意したりするんだけどさ、こっちにはそういった習慣は無いでしょ? だから、こっそりとここに用意してたんだ」


 そう言って私は、用意していた起動装置に魔力を流し込む。


 すると、用意していた魔道具全てが起動して、私たちの周りに並んでいた何本もの木々があらゆる色の光の玉で装飾され、柔らかな光が周囲を包み込み始める。


「メリークリスマス、クリア。この光景を貴女に、最高の感謝と共に」

「……綺麗ですね。これは、トア一人で?」

「そうだよ、ここまで揃えるのはちょっと大変だったけどね。それとこれを」


 そして、私はシンプルなデザインの、綺麗な空色の宝石がついたネックレスを渡す。


「これは?」

「私からの、とっておきのプレゼント。偶然ドロップした物なんだけど、それはクリアにあげるのが良いかなって持ってたんだ」


 このペンダントの能力は、こうなってる。



 ・願いの首飾り HP:2400、DEF:482、MIND:425、VIT:345

 大切な人を、守れる力を。

 ひたすらにそれだけを願った一人の人物によって作られたネックレス。その想いは、時を、人を越えて継がれていく。

 装備者に応じて、ステータスは変動する。



 私にとって大切なクリアが、死なないように。これを送りたかった。


 それに、きっとクリアが居なければ、私は色々と道を誤ったままだっただろうし、お父さんとお母さんともすれ違い続けたままだっただろうから。そのお礼と、感謝も込めて。


 だからこの、『願いの首飾り』は最適なプレゼントだった。

 私の願いと思いも一緒に込めて、渡すことが出来るのだから。


「こんなに良いものを、本当に私なんかが貰っても良いんですか……?」

「違うよ、クリア。クリアだからこそ、これを渡したいんだ。大切なものを幾つも取り戻させてくれたクリアだからこそ、ね」

「――はい、わかりました。ありがとうございます、トア。大切にします」


 そう、嬉しそうに微笑みながら感謝の言葉を紡いだクリアは、魔道具の放つ柔らかな光と相まって、とても尊いものの様に見えた。



 こうして、今年のクリスマスは私の色々な成長と共に、ゆっくりと過ぎて行った。




なんだか、これが番外編で良いのかわからなくなりましたけど、これでクリスマス番外編は終了です。


次話更新は恐らく……今週の土曜日か日曜日の予定ですが、もしかすると来週になるかもしれません。

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