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花より団子な魔族

2015/11/25 修正・加筆しました。

読んでくださりありがとうございます。

 巨大蟻は顎の大きさによって階級が決まる魔物だ。

 一番大きな顎を持った奴がその集団のボスになる。

 さしずめ女王を守る親衛隊隊長といったところだろう。巨大蟻は小さいものでも平均的な成人男性よりも大きく、親衛隊隊長などは三メートル以上の大きさだ。

 今も親衛隊隊長が「ギギギ」「ガガガ」という音で周囲の巨大蟻たちに指示を出して、集団をひとつの生物のように統率している。


 本来であれば、唯一の攻撃方法である顎に注意をするだけで楽に対処できる魔物なのだが、「巨大蟻の絨毯」程の数になると、抵抗することも難しく一瞬で飲み込まれてしまう。数の暴力は馬鹿にできない。


 しかも、巨大蟻の腹部は絶対に攻撃してはいけない。

 これは俺たちがこの旅で学んだことのひとつである。


 俺とエイミが慌てたのも半分以上はそれが理由だったりする。


 エイミは今、仲間の魔族に事情を説明しに向かっている。今後のことを考えると人手は多いほど助かるのだ。


 俺は何をしているのかって?

 俺は蟻の群れを見下ろせる樹上からやつらの動きを観察している。

 こいつらは大木も、大型の魔獣も関係なく一瞬で噛み砕いて直進してやがる。

 進行方向には依然として魔族の集団が陣取っている。今から逃げたところで間に合わないだろう。

 俺は木々間を縫う様に移動し、エイミ仲間が集まっている避難場所に先回りする。

 どうやらここで蟻どもを迎撃することになりそうだ。


「黒様、村の皆には事情を説明して来ました」


 俺が到着するとエイミが避難場所の村から出てきた。

 村と言っても、貧弱な柵を巡らせただけの小さな集落なので防御力は期待できそうも無い。


「お疲れ様。それで皆さんは?」


「はい。力を貸してくれるそうです」


「よし、これで随分と楽になるな。それで、お前の後ろにいるのは?」


 エイミの後ろには、木の棒や大きめな石を手に持った魔族の男たちが二十人ほど集まっていた。その表情には悲壮感が漂っている。


「村長さん、元村長さん、それに警備隊長さんと警備隊の皆さんです」


 エイミの紹介に、集団の中から背中の曲がった老人が杖をつきながら近づいてきて


「この度は我らにご協力いただけるそうで感謝の言葉もございません。ワシも元村長として巨大蟻を一匹でも多く道連れにして我らの名を世に知らしめてやる所存にございます!」


 あら嫌だ。このお爺ちゃんたちなにか勘違いしてるわ。


「ちゃんと説明したのか?」


「ええ、巨大蟻を片付けるのを手伝って欲しいと伝えました」


 問題はエイミの説明不足のようだ。まぁいいか。


「き、来たぞ!!!」

「ひぃぃぃぃ」

「蟻が十匹ありが…」

「やってやるっ!」


 エイミの後ろにいる面々が取り乱し始める。

 ん?一人だけなんか余裕っぽいやつがいなかったか?

 遠くの木が次々に倒されて、それが徐々に近づいてくる。


「エイミ、この人たちよろしくな」


 俺はそう言うと、巨大蟻の大群に向かって歩き始める。

 既に探知魔法で全ての蟻を補足し、周囲の状況も確認済み。


 俺は結界魔法を展開する。

 俺に襲い掛かろうとした蟻が見えない壁に激突し、その後も次々と同じようにはじき返される。


 ギギギギギ


 隊長の指示の元、蟻たちは見えない壁を迂回するように横に広がり俺を包囲しようと動く。しかし、そこで再び見えない壁に阻まれる。


 俺は結界を自分ではなく蟻を囲むように展開したのだ。

 探知魔法で蟻の群れの範囲を確認し、それを包み込むように結界を展開するのに俺のアホ魔法は非常に便利だ。


「おー。一気に全部捕獲完了♪」


 探知魔法で捕り逃していないかを確認するが大丈夫なようだ。

 こうなってしまえば、ただの大きな蟻である。蟻たちは見えない壁をよじ登ろと必死に足掻いている。隊長は結界を噛み砕こうとして顎が外れたようだ。


「それでは、お次は水流(シャワー)でございます」


 これは体を洗うための生活魔法で、指定した場所に自分が消費した魔力量に応じて水を降らせることができるというものだ。

 温度や強さなども調節できるので、旅などで非常に活躍する魔法なのだ。

 もちろん俺が使うとやっぱりアホ魔法になる。

 結界内には滝のように水が降り注ぎ、それは濁流となって蟻を蹂躙していく。

 そして、瞬く間に結界内が水で満たされた。


「はい、完成。ジャイアントアントリウム」


 蟻たちは水の中で必死にもがいている。

 蟻にも浮力があり普通は水の上に浮くのだが、蓋された密閉空間なので水没してしまえば気門で呼吸することもできない。

 結果、数分で溺死した。


「これで全部かな」


 探知魔法で最後の蟻が溺死したのを確認してから水を抜き、結界を解いた。

 無傷で息絶えている巨大蟻二百匹が転がっている光景は想像以上に気持ちが悪いな。


「黒様、今の魔法は水流(シャワー)ですよね?」


 後ろで見ていたエイミが、「冗談でしょ?」と言った感じで聞いてくる。


「そうだぞ。俺が使うとあんな感じになる」


 ルーイと練習したときに濁流に飲み込まれて死にかけて以来久しぶりに使ったけどな。

 ちなみに、エイミは生活魔法は「普通に」使えるので、このアホ魔法の恐ろしさが理解できたようだ。


 そして、エイミの後ろで埴輪のようにポカンと口を開け、目が点になったまま動かない集団が……


「それじゃ、早速手伝ってもらうとするか」


 俺のその言葉に元村長の爺さんだけが我に返ったようで、


「確かに、これだけの巨大蟻の死骸があれば他の魔物が集まって来ますな。早速一箇所に集めて燃やしてしまぷぎゃっ……」


 エイミの手刀が爺さんの後頭部にヒットする。


「いったい何を」


 一瞬白目を剝いた爺さんだったが、すぐに復活する。


「あいつら巨大蟻の腹部には白い液体が入っていてな、生きている時にそれを傷つけると周囲に飛び散って他の魔獣や魔物を呼び寄せてしまうんだが……」


「それは存じております。だからこそ一刻も早く焼却ぷぎゃぁぁ」


 再びエイミの手刀が爺さんの後頭部にヒットする。


「いいか爺さん。よく聞け。こいつらが死ぬとすぐにその液体は固まって変質するんだ」


「固まるとどうなるのですか?」


「旨いのです!」


 エイミが握り拳を作って言い切った!

 俺は巨大蟻の死骸に近づいて、腹部からサッカーボールほどの大きさの白い塊を取り出し、少しだけ切り取って元村長に渡してやる。


「食ってみろ」


 爺さんは恐る恐ると言った感じで口に運び……震えだした。

 そうだろう、そうだろう。

 俺も初めて食べたときは震えたよ。


 これを発見したのはエイミのお手柄だ。

 出会った時もそうだったが、どうやらエイミは食べることに貪欲であるらしい。

 旅の途中で襲ってきた巨大蟻にも食べられる部位がないかと解剖したところ、腹部にサッカーボールほどの白い物体が詰まっていた。

 早速、焼いて食べてみたら驚く程濃厚な味がして、一瞬で完食してしまったのだ。味はチーズそのもの、食感もチーズのように口の中でとろける。

 文句なしに美味しいのだ。

 それから数日、俺たちが巨大蟻を狩りまくっていたのは言うまでもない。


「お前たち!急いで蟻の腹からこれを取り出して食料庫に運ぶのじゃ!!」


 しばらく震えていたと思ったら、爺さんが警備隊の皆さんに指示を出しはじめた。


「それで、爺さん。エイミの家族は無事なのか?」


 エイミと警備隊の皆さんは向こうで巨大蟻の解体を始めている。

 ここに残っているのは爺さん、村長さん、隊長さんだけだ。


「おおっ!貴方様はエイミをご存知でしたか。ワシはエイミの祖父でしてな」


「おおっ。あんたがエイミの家族だったのか」


「あれは今、行方不明でしてな。せっかく救ってくださったのに申し訳ないことですじゃ」


 んんん?ボケたか爺さん。お前の孫は今嬉々として蟻の腹裂いているぞ?


「これは息子のバッソ。今はワシの代わりに村長をやってもらっております。エイミの父親ですじゃ」


「エイミのお知り合いでしたか。娘は貴方にご迷惑をおかけしませんでしたか?帰ってきたら貴方が訪ねて来られたことを必ず伝えましょう」


 体格のいいおっさんが俺に頭を下げつつ、またおかしなことを言っている。

 父親までボケちゃってるの?お前の娘は、あそこで蟻から取り出した蟻チーズを貪っているぞ……。


「爺さんの孫で、おっさんの娘のエイミなら、あそこで二個目の蟻チーズを食べようとしているけど?」


「お戯れを。あの方が、我々の知るエイミであるはずがございません。あれは食料欲しさに別の集落に忍び込み、そこの食料庫が空になるまで食い尽くすような馬鹿娘でございます」


 食欲だっけなら今も十分に発揮している気がするんですけど?

 とりあえず俺は二個目を食べようとしているエイミをこちらに呼び寄せる。


「エイミ、お前の爺さんと親父さんがお前のこと分からないって言うんだけど?」


「たぶん、私が魔石を食べて変わっちゃったからではないでしょうか……」


「お二人とも、ご冗談が過ぎますぞ。私の孫のエイミは隣村の食料を食い尽くして見つかり、後をつけられているにも関わらず村に逃げ帰り、今回の襲撃の原因となった馬鹿孫でございます」


「えっ?あの襲撃って私が原因だったの!!ロッソお爺ちゃん」


「「「…………」」」 


「はて?私はまだ名乗っていないはずなのですが?」


 沈黙がその場を支配する。

 出会った時も食べ物絡みだったけど、お前って清楚で可憐なキャラじゃないの?


「お前は一体何やってるんだ?」


「若気の至りとでも申しましょうか、空腹の極みとでも申しましょうか……申し訳ありませんでした!」


 エイミはその場で綺麗なDOGEZAを披露した。

 この世界にもあったのかDOGEZA…。

 近くで見るとドン引きだねDOGEZA…。

 結局、死者は出ていないということと、今回の活躍(エイミは活躍していないけど俺を連れてきたこと)が評価されて不問となった。


「でも村のやつらがエイミに気がついたら良い顔をしないんじゃないか?」


「それは大丈夫だと思います。お爺ちゃんやお父さんが気がつかなかったくらいですし」


「でも、名前を呼んでれば気がつくやつは出てくる気がするが……」


「でしたら、村にいる間は別の名前で呼ぶようにいたしましょう。それにしても、エイミがここまで成長するとは今でも信じられませんね」


「今のエイミを見て成長したとか言われてもなぁ、なんか実家に帰って一気にがっかり要素が増えた気がする」


「黒様、何気に酷いです…」


「それにエイミが食べたのは【進化の魔石:複製品】とか言うやつだし。そんなに珍しいものでもなさそうだったぞ?」


「進化の魔石ですか、それだと我が家にもかなりの数転がっていますね」


「まぁエイミの潜在能力が高かったのかもしれないしな。後でちょっとその魔石を見せてくれる?」


「エイミの潜在能力ですか?食い意地とか意地汚さだったら高かったと思うのですが。もし良ければ、魔石は全部お持ちください。どうせ私たちには意味のない代物ですから」


「えっ?いいの?」


「あんなものでよければ、いくらでもお持ちくだされ」


 爺さんからも許可をもらったので後で取りに行くとしよう。


「じゃあ早速村に行こうか。おっとその前に、エイミの呼び方だけど(あずさ)でいいかな?」


「「「えっ?」」」


 エイミ、爺さん、おっさんが同時にフリーズする。

 あれ?なんか付けちゃいけない名前だったのか?


「黒様、よろしいのですか?」


 エイミが何かモジモジしている。


「黒殿、そこまでエイミのことを」


 爺さんは何故か泣いている。


「出来の悪い娘ですが、よろしくお願いいたします」


 おっさんは深々と頭を下げてきた。

 何故かとんでもない地雷を踏み抜いた気がしないでもないけど気にしたら負けな気がするので、


「あぁ、気にするなよ」


 とだけ言って、俺はその場から逃げるように村に入った。

しばらく更新が滞っていた間にユニークアクセスが5000超えててびっくりです。

ありがとうございます!

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