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キラッ☆魔族

2015/11/25 修正・加筆しました。

読んでいただきありがとうございます。

 俺たちは翌日、エイミの故郷に向かって出発した。方向はエイミが覚えているので彼女に任せている。

 洞窟を出てすぐに俺の探知魔法に魔獣や大型の動物、いくつかの魔族の集団が表示された。


「たぶんそれは流民の魔族だと思います。人間に狩られて村を放棄せざるをえなくなったのでしょう」


「それって、魔獣とかに襲われるよな?」


 実際、今も俺の探知魔法には、魔族が大型の魔獣に追い掛け回されている様子が表示されている。


「それは指導者の能力次第ですね。ちゃんと索敵を行いながら慎重に進めば大丈夫なはずです。私が数日前までお世話になっていた流民の集団はそうやって移動していました」


 どうも探知魔法で逃げている奴らは問題外らしい。次々と別の魔獣と会敵している。


「今も魔獣に追いかけられている集団がいるんだが……ん?」


 よく見ると、逃げ回っているのは俺が吹っ飛ばした脳筋魔族たちだ。お星様にしたはずなのに元気に走り回っている。


「エイミを追いかけてきた魔族だったわ」


「あれでも私がお世話になった流民指導者の息子のはずなんですが……」


「指導者の息子が、強姦魔とか洒落にならんな。どうする?助けるか?」


「強い者の子孫を産むことは種の存続に直結するので、仕方が無いのかもしれませんけど、私は絶対に嫌です。それと、助けなくていいです」


「なぁ、あいつらがこっちに向かって来ているんだが……」


 もちろん後方には大量の魔獣が着いて来ている、俗に言うトレインだ。


「どこまでも迷惑なゴミですね」


 エイミさん、怖いっす。


「そ、それじゃあ三択な。その一、助ける。その二、まとめて吹き飛ばす。そのさ」


「吹き飛ばす」


「………そのさ」


「吹き飛ばす……」


「……送風(エアムーブ)


 ボーリングのピンのように弾き飛ばされた彼らは、そのまま探知圏外に消えていった。


 あれから十日。俺たちの旅は、非常に順調だ。


 役に立っているのは、俺の結界魔法。俺たちの周囲を覆うように展開されたこれは、魔獣や大型動物たちが突っ込んで来てもびくともしない。

 何度か俺の探知魔法に脳筋魔族トレインがひっかかったが、こちらに向かって来ることは無かったのでエイミに知らせず放置しておいてやった。


 それでも魔獣には何度か襲われたのだが、俺の結界を突破する根性のある奴は皆無だった。


「何度見ても黒様の魔法は意味が分からないです」


 今も猪に似た魔獣が見えない壁にぶつかって気絶したので、エイミがそれを上手に捌きながら俺の結界に感心している。


「俺からすれば、動物をそんなに鮮やかに処理できるエイミのほうが凄いと思うけど」


 現在、こういった作業は全てエイミ任せている。俺も教えてもらっているが、エイミの手の速さは尋常ではない。それを褒めると「狩猟は生活の一部でしたから」と謙遜する。


「そもそも、黒様の魔法が無ければこうやって獲物を捌く機会がないのですが……分かってます?」


「でも、この魔法は教えてもらっただけだからなぁ。自慢にもならないさ」


「えっ、そうなのですか!てっきり魔法は黒様の能力みたいなものだと思ってました」


「たぶん、魔法は魔力さえあれば誰でも使えると思うぞ?」


「黒様」


「ん?」


 エイミがご飯を前にした時と同じくらい目を輝かせてこっちを見ている。


「もしかして、私も魔法を使えるようになれるのでしょうか?」


 俺もルーイに教わって使えるようになったわけだし。エイミだって魔力は大幅に増えている感じもするので頑張ればできるよな。


「それじゃ、魔法の基本から教えてやろうか?」


「いいのですか?」


「教えたって減るもんじゃないし、それほど難しくもない。まずは魔法の適正属性を調べて得意な属性を覚えてみようか」


「はい!よろしくお願いします。黒様」


 喜びのあまりエイミは俺に抱きついていることに気がついてない。本人が気づくまではこの腕に当たる胸の感触を楽しむとしよう。

 俺は魔力を外に出すのに時間かかったけど、魔力の制御だけなら数日で覚えられるんじゃないかな?

 それにしてもエイミって意外と着痩せするタイプ?



 ☆★☆



「それじゃ、今から探知魔法をかけるから気楽にしていてくれ」


 その日の夕食後、俺はエイミに魔法を教えることにした。


 とは言っても、先ずはエイミの魔法適正を調べなくてはならない。


 俺の探知魔法は普段、レーダーとして俺の視界の左上に展開されているが、もっと魔力を込めるとより小さな生物や鉱物まで探知できるようになる。その状態で、近くの相手を見るとその相手の魔力の質なども見えてしまうのだ。


 実はこれ、俺が意識すれば相手の身長や体重、各種サイズなども見えてしまうのだが使っていない。使っていないぞ!エイミがFカップだったとか俺は知らない!


「……エ、エフイミ……エイミの魔力の質は、水と聖みたいだな」


「あまり良くないのでしょうか?」


 俺が少し挙動不審だったので、悪いほうにとってしまったらしい。


「いや、問題ない」


「?」


 俺は一度深呼吸をしてから、もう一度慎重にエイミの魔力を探知する。


 なかなかに強い魔力を持っているので訓練次第ではかなりの魔法が使えそうだが、魔族が聖って有りなのか?


「水は、なんとなく想像できますけど聖というのは?」

「聖は基本、魔族や悪魔、アンデットモンスターに特別効果がある攻撃魔法、それと身体強化魔法や補助魔法とかかな」

「私は魔族ですけど、使っても平気なのでしょうか?」

「それは俺も心配したが、俺も使えるし大丈夫じゃね?」

「黒様がそうおっしゃるなら大丈夫ですね!」


 うわっ、なんか凄い信頼されてる。

 これでエイミが聖属性の魔法を使って弾け飛んだりしたらどうしよう……。

 心配だから水属性を先に教えよう。


「魔法ってのは体内の魔力を外に出す感じだな。最初は指先から魔力を出すようにイメージするとやりやすい。」


 エイミは俺の説明を聞きながら、人差し指の先端に意識を集中し始める。

 あれ?エイミの指先に結構な量の魔力が見えるんですけど?


「放出する魔力に自分のイメージを伝えるとイメージが具現化するんだが、まずは放出するれんしゅう……」


 ちょろちょろちょろちょろ……


 エイミの指先から水が流れ出している。


「えっ?」

「えっ?」


 ちょろちょろちょろ……パキッ!


「はぁ?」

「はぁ?」


 指先から流れ出していた水が突然凍っていた。


「「………」」


 ちょろちょろちょろ……パキッ!

 ちょろちょろちょろ……パキッ!

 ちょろちょろちょろ……パキッ!

 ちょろちょろちょろ……パキッ!


 俺は呆然と、エイミは嬉しそうにエイミの指先で繰り返される現象を見つめていた。

 我に帰ったのはエイミの足元に二十本ほどの氷柱が積み上げられてからだった。


「黒様できました!」


 エイミは嬉しそうだけど……。

 ちょっと待ってよぉぉぉぉ。

 俺はまだ何も教えてないよ?


「黒様が言うとおり、それほど難しくありませんね!」


「えっ?うん、そ、そうだよな。はっはっは」


 魔力の制御、魔力の具現化、具現したモノへの干渉が基本的な魔法の流れだ。

 例えば俺の火球の場合、飛ばしたい方向に向けて魔力を解放する。

 それと同時に炎の球をイメージし、最後に着弾点で爆発するように魔力を操作するのだ。

 俺の場合、昔見たアニメのイメージが混ざってしまうのか、火球ではなく火の鳥が飛んでいったりしてしまうのはご愛嬌だ。

 それでも、これ覚えるのに俺はかなり時間かかったよ?

 水出すだけじゃなくて、それを凍らせてるってことは、ちゃんと操作してるってことだし。

 これが純血魔族と、なんちゃって魔族の違いということか?


「よ、よしっ!今日はこの氷柱を何本作れるかを確認しておこう」


「はいっ!!」


 とりあえずエイミの限界を知るために、魔力を全て使い果たすまで氷柱を作らせることにする。

 結局、その日エイミは二百本近くの氷柱を作ったところで魔力枯渇を起こして気を失った。

 俺の探知魔法で予測したとおりだったが、百本目辺りから水ではなく、氷柱を一瞬で出せるようになっていたのには驚かされた……。


 これはもう、基礎と応用を並行して進めても大丈夫だろう。


 翌日、俺は探知魔法でエイミの魔力量を調べ、昨夜よりも少しだが増えていることを確認してから、エイミに毎晩魔力枯渇するまで魔法を使わせて基礎魔力量を上昇させた。

 魔力は、体力と同じで鍛えることができるのだ。

 ルーイに言わせれば魔力枯渇になると、突然意識を失うので戦闘中などに起こすと命に関わるので、ルーイが知る限り魔力枯渇を故意に引き起こすような魔族はいなかったらしい。


「筋肉は限界まで追い込めば超回復する。だったら魔力も同じじゃないか?」


 そう言って安全な場所で魔力枯渇になるまで魔力高めるトレーニングを続けて魔力量を上昇させた俺ならではの指導方法だ。


「コミットするぅぅぅぅ」


「黒様?」


「いや、なんでもない。気にせず続けてくれ」


 思っていることを口に出してしまうのは俺の悪い癖だな。

 気をつけよう!


 そして俺は魔力強化と同時に、本格的に水魔法を教えることにして二十日が経った頃、エイミは二つの水魔法を覚えた。

 当初の様子だと、「水属性を全て覚えてしまうかもしれん」とか焦っていたのだが、それは杞憂に終わったようだ。

 まぁ、ルーイの時代でも魔法は二~三種類使えれば高位の魔族として認められていたそうだからエイミの能力が低いわけではない。

 実際、エイミの魔力量は徐々に底が見えないレベルになりつつあるの。

 覚えた魔法は「氷弾」と「氷の矢」の二つ。

「氷弾」は氷の塊を任意の場所に出現させたり、飛ばしたりすることができる。塊の大きさも調整できるので汎用性は高い。

「氷の矢」は以前エイミが作った氷柱をもっと細く、硬くしたものを高速で相手にぶつける魔法で、樹齢千年を超えるような木の幹を貫通させたのを見たときには声を失った。


「申し訳ありません。せっかく教えていただいたのに水魔法を二つしか覚えられず……」


 この短期間で実用レベルの魔法を五個覚えたのに、エイミはそう言ってすぐに落ち込んでしまう。


 ん?

 二個じゃないのかって?

 それは水魔法だ。

 実はエイミ、水魔法の他に三つの聖魔法を覚えてしまっていたのだ。


 それは偶然だった。

 いつものように、俺の張った結界に衝突して気を失った魔獣を捌いているエイミの様子に驚いて声をかけた。


「ちょっと、エイミ…さん?」


「はい?なんでしょうか黒様」


 俺の声に振り向いたエイミさんの掌には、捌いている途中の魔獣が乗っている。


「その手に乗っているのは、なんでせう?」


「これですか?これはエルダタマスですよ?」


「うん。それはもう知ってる」


「?」


 エイミは良く分からないと首をかしげる。


「とりあえず、手に乗せているソレを置いてくれる?」


「はぁ……」


 ずぅぅぅぅん


 エイミがエルダタマスを置いた衝撃で埃が舞い上がり、低い音が空気を振るわせる。

 エルダタマス。それは俺の居た世界のカバにそっくりな魔獣だ。

 違いは草食ではなく肉食で、二倍くらいの大きさだということだろうか?


「エイミさん?重くなかったの?」

「えっ?それほどでもないですけど…あれっ?」


 どうやら本人も気が付いていなかったらしい。

 調べた結果、エイミは無意識のうちに「筋力強化」「視覚強化」「反応強化」を自分に使っていたことが分かった。

 ちなみに全て聖魔法である。

 エイミが爆散しなくてホントに良かった。


 エイミが「もっと強力な魔法を覚えて俺の役に立ちたい」と思ってくれていたことが、この聖魔法の獲得に繋がったらしい。

 まぁ、何も防御していない時にエイミに「なんでやねん!」とか後頭部にツッコミ入れられたら俺の頭は飛んでいたかもしれないので十分過ぎるほどに強いのだが……


 このことがあってからは水魔法を二つに絞り、身体強化魔法と回復魔法を中心に訓練しているのだが、どうしても水属性の魔法を覚えられないことが悔しいようで、毎日のように謝られている。


 ただ、覚えた水魔法の展開速度は俺よりも速いので、この二つの魔法だけでも魔力量がかなり増加した今なら敵はほとんどいないのではないだろうか。

 身体強化と合わせると恐ろしい攻撃力になるが本人にその自覚はあまりないようで、


「しかし、こんな有様では黒様レベルの敵が現れたときに役に立ちません!」


 などと言って悔しがっているのだ。

 どうもエイミの基準は俺のアホ魔法らしい。

 こんな不便なものを目標にしないで欲しい。

 それにエイミの持っている手札も工夫さえすれば強い敵とも互角以上に戦えると俺は思っている。そろそろ魔法の練習から、そういった工夫した戦い方の練習に切り替えるとしよう。



 ☆★☆



 旅を始めて三ヶ月。

 やっとと言うべきか、簡単にと言うべきか、とにかく俺たちはエイミの生まれ故郷がある森に辿り着いた。


「この先に私の村があります」


 しかし、俺の探知魔法には……。

 その事をエイミに告げるべきか悩んでいる間に、木の柵で囲われた村らしい場所に到着してしまった。

 やはり俺の探知魔法にはやはり何の反応も無い。

 村の柵は倒れ、一部は焼かれて真っ黒になっている。家も何件か焼失していた。案の定、村には生きた魔族は居なかった。


「エイミ、この村が・・・・・」


 エイミが俺の前を歩いているので、その表情を見ることはできない。なんと声を掛ければよいのか俺が悩んでいる間にエイミは更に村の中に入っていく。


 どう見ても村は、廃墟だ。家は焼かれ、あちこちに荒らされた形跡が見える。死体や骨が無いのは魔物や魔獣が全て食べてしまったからだろうか?

 エイミは真っ直ぐに村の奥にあった大きな建物に向かっていく。他の家は竪穴住居のようなものだったが、この建物だけは平屋造りの立派な建物だった。あくまでも他と比べてであるのだが。

 エイミは躊躇せずにその建物に入ると、そこで立ち止まった。


『エイミ、先に行っ#П』


 家に入ってすぐの壁に、赤い文字でそう書かれていた。

 まさにダイイングメッセージという感じだ。

 エイミはそれを数秒じっと見つめると、俺のほうに振り向いた。


「黒様、行きましょう」


「行くって、お前。骨とか無いけど家族は埋葬しなくていいのかよ?」


「私たちの村は襲われたときを想定して、逃げる場所を決めているんですよ」


「ここに父から先に避難場所に行っているという書置きがあります」


 おい。紛らわしい書き方をするな。

 そもそも書き置きなんてしたら相手にも分かっちまうじゃねぇか。


「字の読める魔族なんてほとんどいませんから大丈夫です。私も記号だと思っていたのに、今は意味まで分かります。こんな意味だったのですね」


 エイミは魔石を食べて進化?成長?をしていきなり知性が上がったからな……。

 魔族の生態については深く考えないでおこう。

 しかし、エイミの家族には文字が書ける奴が居ると言うことになる。

 魔族の中では頭がいい方なのかな?

 そう考えながら、俺は探知魔法の範囲を広げエイミの村の避難場所を探してみる。


「それでは、ご案内します。もう少し歩くと思いますので」


「それって、ここから東に少し行ったところか?」


「そうですね。なんで分かったのですか?」


 俺の探知魔法に、魔族の大きな集団が表示されている。

 そして近くには大量の魔物の反応が表示されている。

 魔物の進路上には魔族の集団が……


「お前の村の連中は二百匹以上の魔物を撃退できるのか?」


「それは厳しいと思います。三十匹くらいなら撃退可能だと思いますが」


 そうだとしたらこの状況はかなりやばい。


「お前の仲間が、二百匹以上の巨大蟻に襲われそうだ」


「二百匹ですか!?」


「そうだ、数もだが大きさも尋常じゃない。一つだけやたらでかい反応もあるな」


「大きな反応……女王!?ということは巨大蟻の絨毯!!!」

 俺が言い終えるよりも先にエイミが悲鳴を上げる。

 この世界の蟻は大きさも被害も地球とは一味違う。単体の巨大蟻には旅の途中で何度か襲われたので、俺も奴らを知っているがこの数は尋常ではない。


 俺とエイミは東に向かって走り出す。


 巨大蟻が巣を替える為に行うこの大移動は、進行方向にある全てを蹂躙するらしい。

 その蹂躙した痕は古い巣から新しい巣まで続く一本の絨毯のようであるためにそう名付けられたと後でエイミに説明してもらった。




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