ちゃんと魔族
2016/2/4 修正しました。
信じられない事が起こっている。
グたち脳筋強姦魔族を撃退した俺たちは、再び地下の部屋に戻って食事をとることにした。食事といっても干し肉や木の実ばかりだったが、空腹のエイミにはご馳走だったようだ。しかし、これは…………
「どうでしょうか。クロ様?」
エイミさんが流暢に話しながら俺の顔を覗き込んでくる!そう!流暢に!!ここ重要!
尚も戸惑っている俺にエイミも不安になったようだが、残念ながらそれをどうにかしてあげるだけの余裕が俺には無い。
「あの、私どこか変でしょうか?」
変ではない…変ではないのだけれど……。
「いや、変じゃない。それにしても……どうしてこうなった?」
俺は原因を考えながらエイミを見つめていたら、エイミが恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまった。可愛い。
そうだ、食事だ。戻って食事を終えた後のことだ。
俺は奴らが持っていた装備品などを鼻歌交じりに鑑定していて偶然面白いものを見つけてしまった。
ちなみに鑑定のときは能力分析ではなく探知魔法を使用した。探知魔法を試してみたかったというのもあるが、どうも能力分析は効果にムラがあるように思えたのが最大の理由だ。装備品の称号が「盗品」とかで表示されそうで怖かったし…。
鑑定魔法によるとそれは【進化の魔石:二級品(E)】というアイテムだった。既に内蔵されている魔力が切れかかっているらしく、あまり力は感じなかったが名前が気になった。
以前ルーイ先生からは、
「魔道具と呼ばれる便利アイテムが世界中で使われているから、見つけたら大事にするといいよ。内蔵した魔力は君が触れて魔力を込めれば再装填できるだろうからね」
といったアドバイスをもらっていたので早速、右手で握って魔力を再装填してみた。
突然頭の中で電球がピコーンと光って能力を獲得するようなロマンシングなことは残念ながら起こらなかった。進化とか名前が付いていたので期待したのだが、そう都合よいアイテムはないようだ。
ただ、その魔石がさっきよりも赤く輝いている気がしたので、もう一度鑑定魔法をかけてみると【進化の魔石:二級品(A)】に変わっていた。
どんな仕組みなのか分からないがルーイの言葉通りに、俺の魔力を吸収したことは分かるのだが……ランクっぽいものが上昇するのも普通なのか?
「どうした?これが珍しいのか?」
気がつくとエイミがすぐ隣で赤く輝く魔石を不思議そうに見つめていた。俺の声も届かないほど真剣に魔石を見つめている。どうせ俺には使い道がない物だし、エイミが欲しいならあげよう。
「これ、欲しいのか?」
「うん」
即答だった。目は魔石に釘付けのままで。
「ならやるよ」
「いただきます」
嬉しそうにそれを俺から両手で丁寧に受け取ると、上に掲げて光にかざすようしている。やはりどこの世界でも女の子はこういう物が大好きらしい。
エイミは暫く魔石を光にかざしてうっとりしていたが、次の瞬間それを口の中に放り込んだ。
---ごくん。
まさか、そっちの意味の「いただきます」だったとは……。
恐ろしいぜ、異世界!とか感心していたら、今度はエイミが輝きだした。
え、魔族って発光とかもするの!?
しかし、エイミも状況を理解できていないようで、光っている自分の手や足を見て戸惑い驚いている。
光は数十秒ほどで収まった。
そして、心なしかエイミの肌艶が良くなった気がする。
俺はなんとなく能力分析を使ってエイミを見てみると……
【名前】 : エイミ
【称号】 : 食い意地
【種族】 : 魔族
【Lⅴ】 : 8
【HP】 :576 【MP】 :115
【腕力】 : 43 【体力】 : 46
【俊敏】 : 38 【知力】 : 20
【魔力】 : 26 【幸運】 : 5
【技能】 :☆狩猟(中) ☆解体(中) ☆調理(初)
☆魔力操作(初)
進化したよ。
脳筋魔族から魔族に、ステータスも倍になってる。そして魔力操作を獲得したみたいだから、魔法も使えるかもしれないな……。
進化の魔石の効果でエイミが進化しちゃったよ。突然第三の目が開眼するとか、角が生えて第二形態にならなくて本当に良かった。
そして冒頭の状況に戻るわけだ。
「エイミは魔石を食べたらどうなるか知ってたのか?」
俺の質問に俯いたままのエイミが、耳まで真っ赤になる。
「いえ、その、あまりにも綺麗で美味しそうだったのでつい…………」
ということは偶然か。それにしても綺麗だから食べるとか、その発想は驚きだわ。
「ところでクロ様は、どのようなお方なのですか?私は今まであれほど不思議な力を見たことがないのですが」
「不思議な力って、魔法のことか?」
「魔法と言うのですか?見えない壁を作ったり、眠らせたり、吹き飛ばしたりしたあの力です」
どうやらエイミは魔法というものを初めて見たらしい。「魔族なのにそれってどうなの?」と思いもしたが、さっきの奴らは魔力やMPが0だったし何か事情があるのかもしれない。
「エイミも見ていたから分かると思うけど、俺はさっきこの世界に生まれたばかりだから何もわからないぞ?」
「そんな、それは冗談ですよね?卵から生まれる魔族なんて見たことも聞いたこともありません。それに生まれたばかりだと言うクロ様は、どう見ても私と同じくらいの年齢に見えますよ」
「えっ?そうなの?俺はてっきり魔族はみんな卵から孵るのかと思ってたのに……」
本当のところ俺は魔族でもない。種族「???」のUMAだからな。それでも考えてみればそうか、エイミが俺が生まれたような巨大な卵を産む姿なんて想像…想像……したくない!!
「ところで俺の見た目ってどんな感じだ?」
「私が見たところで良ければお答えしますが?」
「あっ、とりあえずそれでいいや。どんな感じかな?」
「そうですね、髪は白、瞳は透き通るような青でどちらも強い力を持つ魔族の証と言い伝えられています。私は初めて見ましたが、クロ様よりも前となると二百年前に滅ぼされた魔王ロウネがそのような容姿であったとお爺ちゃんから教えてもらった記憶があります。とにかく、とても格好良いです」
エイミは「きゃっ」とか言って照れているが今は自分のことについて考えなければ。
身長はエイミよりも頭二つ分ほど高いのは見て分かるが、まさか白髪に青目とは。 ルーイの大人バージョンということか。
生まれてすぐ大人とか、どれだけ大人の階段すっ飛ばしやがった。
前の魔王と同じ特徴とか、まさかルーイが魔王なのか?
ルーイが死んだのは五百年前の話だから二百年前の魔法は別人…別魔王だろう。
あとは地理情報だ。ルーイの話だと、確か魔族はマレード王国という国を中心に結束して、この世界の西の端にある島で独自の文化を築いているはず。
だとすればここは首都からは離れた治安の悪い僻地ということになるのか。
まず、そこから確認しよう。
「ところで、ここはマレード王国のどの辺になるか分かるか?」
「マレード王国ですか?聞いたことがあるような、聞いたことがないような」
おいおい。ここは国の支配が全く届かないくらいの僻地ってことか。
「あっ!思い出しました。四百五十年前にこの島にあった国の名前ですね」
「のぉぉぉぉぉぉう!」
そうだよ、ルーイは五百年前の人(魔族)なんだから、国の名前や文化を教わっても意味が無いじゃないか!
日本で考えれば、戦国時代の知識を勉強して現代日本に来るようなもんだ。
東京駅で通りすがりの人に「駿府城はどこでござるか?」って聞くようなもんじゃねぇか!意味がねぇ!
「エイミさん、俺の持っている知識が全く役に立たないことがたった今判明したのでこの世界について教えてくださいぃぃぃ!」
もう懇願だ。
徹夜で数学のテスト勉強したのに、学校行ったら数学じゃなくて英語のテストだった時と同じ気分だよ。
「私が知っている事で良ければ喜んで……地面に頭をつけてどうしたんですか?怖いです。やめてください」
俺の土下座による謝意がエイミには伝わらなかったらしい。
「今、この島には国はありません。二百年前に魔王ロウネが大陸戦争を仕掛けて、返り討ちにされて滅ぼされました。強力な指導者を失った魔族はバラバラになってしまい、それまでに築き上げた高度な文化や技術のほとんどがその後の百年で失われたそうです」
魔王が出て行っちゃ駄目だろ。魔王って城で待ち構えているもんじゃないの?フットワークの軽い魔王って最近流行ってるのか?
「更に大陸からは島にある不思議な道具を求めて略奪者たちがやって来るようになり、多くの村が襲われて道具だけではなく、たくさんの魔族が人間に捕縛されて大陸に連れて行かれました」
魔族を捕まえて捕虜にするってことか?それとも奴隷か?
「今でも少しは力のある魔族はいるようですが、ほとんど一族をまとめて森の中や、古代の遺跡の中に隠れて生活しています。そして食べるものがなくなると、近くにいる同じ魔族の村を襲ったりします」
「なんか昔勉強した植民地とか先住民とかの話を思い出した」
魔族って、今は狩られる側なのか。
今までの事から考えると、脳筋魔族は魔法は使えない、基本頭が悪い連中が多い、同族意識が弱い。こんな感じか。これって勇者一人で殲滅できるレベルじゃないか?
「それで、エイミの村は襲われたのか」
「お爺ちゃんと、お父さんは少し力のある魔族なので大丈夫だと思います。私は落ちこぼれだったので逸れてしまって……その後はご存知の通りです」
エイミは自虐的な笑みを浮かべている。
「そうしたら、まずはエイミの村に行ってみるか?」
ここで、こうしていても仕方がない。家族が無事なら会いに行くべきだろう。
「クロ様にそんな迷惑をかけるわけには……」
「迷惑だなんてとんでもない。それにこれはお返しだよ」
「お返しですか?私は何もしていませんよ?」
「ほら、ナイフで俺を卵の中から救ってくれたお返しだ」
それを聞いたエイミの顔を真っ赤になって頬をふくらませる。
「もう知りません」
と言ってそっぽを向いてしまった。やっぱり可愛い。