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■須惠千葵編(参)

「やはり、まだ出て来れないみたいだな……」


 竜之介は辺りを見回しながら討伐隊の中に居る筈も無い葵の姿を探していた。


「……竜之介、何をしている? 今日は私の飛組のと成だろう? もっとしっかりしろ、気を抜いていると戦場で命を落す事になるぞ?」


「すみません、姫野隊長」


 他人行儀で謝り、初めての人間に接する様な態度を取る竜之介を姫野は少し寂しそうに見つめた。


「……よし。では行くぞ、竜之介」


「はい」


 二人は転送ゲートによって戦地へと転送される。戦闘体勢に入った姫野は何時でも攻撃が出来る様に、身構えた。


 その頃、拠点にある監視室では、各隊の戦闘状況を確認をしていた。


「奇門出現数五、各組が全てチェスとの接触完了、現在戦闘中です」


「了解。いつも通りだな、特に問題もないだろう」


 何時も通りの展開に互いが淡々と状況の報告をしていた時、突然監視員の言葉に変化が起こった。


「い、いや! 待ってください、先程飛組が転送された地点に……う、嘘だろ!?」


「どうした? 早く報告しろ!?」


「す、すみません! 飛組の地点にだけ、敵兵が集まって来ています!」


「な、何だと!? 狙い撃ちされているという事か!?」


 監視員が驚きの表情を見せていると同時にその場所に立っている姫野は異常な程の兵の多さに口元を歪めていてた。


「……ふん、どうやら敵は私達を殺す考えらしい」


「姫野隊長、敵の数が多過ぎます! ここは援護を待ちながら敵を削りつつ後退しましょう!」


 竜之介の丁寧な言葉遣いと正論を耳にした姫野が残念そうに呟いた。


――竜之介、お前はすっかり牙が抜け落ちてしまったらしいな。昔のお前なら……。


 じっと見て目線を反らす。今の竜之介にその意図が分かる筈も無い。二人は瞬く間に敵兵に囲まれてしまった。


[間違いなイ! こいつらダ、今回我々の獲物ハ!]


 ナイト達が剣を掲げながら、竜之介を見て叫ぶ。その言葉を聞いた姫野は間違いなく自分達が狙われている事を確信した。


――やはり奴らの狙いは私達か。これほど多くの敵兵、昔の竜之介となら何とか切り抜ける事が出来るかもしれない。だが今は……。


 姫野が心を痛めながら竜之介を見た時、竜之介は今までのフォーメーションを忘れ、孤立してしまっていた。


「……竜之介! それでは駄目だ!」


[今ダ! 一斉ニ遅い掛かレエエエエ!!]


「くおおおっ!」


 束になって次々と襲い掛かってくるナイトの剣を凌ぎながら、竜之介は後退される。全ての剣を凌いだと思われたその刹那、その間を擦り抜けてきたルークの大剣が竜之介を襲った。


[馬鹿め! 我々の連携を思い知るがいい!]


「があああああっ!!」


 激しい一撃に竜之介の胸の甲冑には亀裂が走り、二転、三転しながら後方へ吹き飛ばされる。直ぐに立ち上がり反撃をしようとして体を動かそうとしたが、体中が痺れて動く事が出来ない。


「く、くそ体の自由が効かないっ!」


 その様を見たルークが剣先から雷を放ちながら言い放った。


[どうだ? 俺の「雷毒」の威力は? これを受けた者は動けなくなるのだ……フフフ]


 竜之介にルークが近づいて行き、ゆっくりと頭上高々と剣を振り上げた。


[死ねエエエエ!!]


「……ちいいっ、竜之介っ!」


 電光石火で姫野が竜之介の前に立ちふさがり、ルークの一撃を薙ぎ払った。


[ヌウウ?]


「……これより先、竜之介に貴様らの手は一切触れさせん!」


 武器の大型槍、三紗を構えながら姫野はルークを睨み付ける。


[飛組の隊長……丁度いい。同胞のシヴァを殺してくれた罪をここで二人には償って貰おうか……]


「……ふん。受けて立つ、私は棋将武隊飛組、隊長の斎藤姫野」


[仕方ない、俺も名乗ってやろう。俺はトーラス隊ルーク、雷剣のラリス]


[そして俺はカプリコーン隊ルーク、氷の双剣を持つザジル様だ!]


 ラリスが名乗ったその横でもう一人、両手に二本の剣を握ったザジルがゆらりと現れ、甲高い声で叫んだ。突如現れたザジルに姫野は驚き、目を見開いた。


[どうした? まさか律儀に一対一で俺がお前と戦うとでも思っていたのか? 勘違いするなよ? ここは戦場だぜ? 力のある奴は更にその倍の力で潰す! それが俺達のやり方だ!]


 互いに向き合って怪しい笑い声を漏らした。


[さぁて……その男にお前が嬲り殺しになる様を見て貰うとするか――]


 ザジルが双剣から冷気を放ちながら姫野の頭上へ振り翳す。咄嗟に姫野は三紗を旋回させながら技の体勢に入った。


「三紗――炎羅!」


 三又の剣先から一斉に激しい炎が噴き上がり、美しい炎の円を描く。その激しい炎はザジルの冷気と激突し、相殺させた。


[まぁ、お前クラスなら俺の攻撃は交わす事は出来るだろう。だがな――!]


 不敵に言い放ったザジルと入れ違いにラリスの剣が姫野を襲う。


[その厄介な炎を潰してまえば、隙だらけだ!]


 剣先から激しい雷撃が放たれ、それは三紗を通して姫野の体内に嫌というほど駆け巡った。


「ああああああああああっ!!」


 姫野の体から有り余った雷が放電しながら、突き抜けて行く。竜之介の前に崩れ落ちながら片膝を付く姫野の頭上にすかさずザジルの双剣が襲った。姫野は意識を駆られそうになりながらも背後の竜之介を守るために必死に三紗で受け止めた。


[まずは一本貰おうかあああ!]


 奇声を上げたザジルは三紗の三つ剣先の一つを凍らせ、粉々に砕き折った。


「……舐めるな!」


 返す槍で姫野はザジルを突いたが、弱くなった攻撃をひらりと交わすと一定の距離を取り直した。

 

「姫野隊長!」


 苦しそうに息を吐く姫野に竜之介が声を掛け、動こうとするが体が痺れて思う様に動けない。姫野は竜之介の方に振り向くと静かに微笑んだ。


「……いいか、竜之介。動けるようになったら、此処は私に任せてお前は直ぐに此処から離脱しろ」


「姫野隊長一人置き去りなんて、そんな事出来る訳ないじゃないですか!」


「……ふん、私に構うな。私はこんな攻撃如きで、動けなくなる程弱くは無い」


 何処となく自分の気持ちを竜之介に向かってぶつける様に言いながら、重々しく立ち上がり槍を構え直す。


[ほぉ……俺達の攻撃を食らっても立ち上がるか。流石隊長クラスだな、面白い――]


 ラリスは感心した様な仕草で再び攻撃体勢に入った。


[どんなに強い奴だろうが、この連携攻撃には誰も勝てない――]


 その結末はザジルの言葉通り、姫野を苦しめる。三本の剣先は同様の攻撃を受け、また一本折られてしまい、ダメージを相当受けてしまう。それでも姫野はふらふらになりながら二人の攻撃を受け続ける。


「も、もう止めてください! 姫野隊長! 動ける貴方なら俺を置いて退く事も出来る! お願いです、今直ぐ逃げてください!」


 見るに堪えなくなった竜之介が姫野の背中に向かって叫ぶ。最後の一本になった剣先を震える身体で構えながら姫野は言い放つ。


「……情けない事をいうんじゃない。竜之介、私はお前の隊長だぞ? お前は忘れてしまったかもしれんが私はお前に大きな借りもある。」


――借り? いや、そうじゃない……竜之介、私は……。


「……いいから、お前は少しでも遠くへ行くがいい!」


[馬鹿な隊長だ! そいつは逃がしはしない!]


 姫野の捨て身の攻撃は二人の攻撃によって脆くも打ち砕かれた。最後の一本が砕き折られた瞬間、三紗の刻印が全て消え、姫野の武装は解除されてしまった。意識朦朧となった姫野はその場から一歩も動けない竜之介目の前に崩れ落ちる。


[はははは! 良く見て見ろ! お前を必死に守ろうとした結果がこの様だ!]


 ザジルが愉快そうに笑った。


[人間とはつくづく愚かな者だな。だが、武装が無くなったこの餌、良く見れば中々綺麗ではないか……]


 しゃがみこんだラリスは姫野の身体を触りながら、全体を嘗め回す様にして頭を動かした。 


[おいおいラリス、またお前の悪い癖が出たようだな……]


[フフフ、この餌は俺が持って帰り、弄んで狂喜の声を上げさせた後、食らうか……]


 うっすらと目を開けた姫野は光の失った瞳で竜之介の方を見ながら呻いた。


「逃げ……ろ、竜之介……にげて、おねがい……」


 その言葉を最後に姫野の意識が途絶えた。ラリスは姫野の両足を紐で縛ると地面から引きずる様にしてその場から離れようとする。力を失いだらりと両手を上げたまま引きずられていく姫野を見て竜之介は発狂した。


「うわああああ! やめろおおおおお! 姫野隊長に手を出すな! お前らああああ、許さねえええ!」


[煩い、俺達の一撃で動けなくなった情けない奴が何を偉そうに。心配するな、今直ぐお前を殺してやるから]


 ザジルが双剣をゆっくりと構えながら近づいて来る。竜之介は誰かに救いを求める様に叫び始めた。


「違う! 違う! 違う! 違う! こんな筈はない! こんな事になる筈はないんだ! なぁ、教えてくれ俺! 俺はもっと凄い奴だったんだろう? 頼む! 応えてくれえええっ!」


[ばーか。この場面で何を言ってやがる? お前は此処で終わりだ]


 ザジルは竜之介の言葉を嘲笑うようにして否定した。


「応えろよおおお! 俺ええええっ!!」


 竜之介が天を仰ぎながら絶叫した刹那、その声は突然聞こえ始めた。


『そうだ……お前はそんな格下の奴ら相手に頭を垂れる者では無い。お前はの力は絶大な物――』


 その声と同時に竜之介の視界は一変し、気付けば黒い草原の中に立たされていた。その地中からは無数の骸の手や頭がその不気味な姿を覗かせている。やがてその中心で揺らめく人の型を模った闇が竜之介に近づいて来た。


『俺は元々お前の物、そしてお前は俺の物。さぁ受け取るがいい、絶大な力を』


 竜之介は目の前に差し出された闇の手が正義ではない、とても悍ましく、恐ろしい物である事を直感した。


『どうした竜之介? 欲しいのだろう? 圧倒的な力が。躊躇う事は無い、力を手にして目の前の敵を心の赴くまま全て殺すがいい』


 囁くように問い掛けて来る言葉を聞いた瞬間、竜之介は闇の手と繋がった。


「ああ、そうだとも! 俺は今のこの最悪の状況を覆す事が出来る事なら悪魔にでもこの魂を売ってやるっ!」


『――よく言った、竜之介。さぁ始めようか』


 ゆっくりと竜之介の瞼が開く。だがその眼の中心に澄んだ輝きなど存在しない。赤く染まった眼球が既に獲物として捉え始めていた。突然竜之介の体中から溢れだした闇に気付いたザジルは思わず足を止めた。


[何だ? お前? 何だか急に雰囲気が――]


 ザジルが驚きの言葉を漏らした瞬間、自分の右腕がぼとりと不自然に地面へと転がった。右腕は闇の炎が覆い、揺らめきながらその身を徐々に燃やし始め、やがて全てを消し去ってしまった。


[あ、ああああああああ??]


 右部分から体液が一斉に噴き始める様を見て、状況の把握出来ないザジルは悲鳴にも似た声を上げた。その事に気付いたラリスが踵を返す。


[どうしたザジル? そんな餌に何時まで時間を掛けて――]


 今、ラリスの目の前ある者。それはもはや餌――人間では無い、自分達と同じ何か。それが無表情な顔で剣を翳している姿であった。


[――!!]


 咄嗟に身を翻したラリスであったが、竜之介の鋭い一撃はその左肩を鎧毎切り裂いた。


[ウオオオオオオオオ!?]


 紐から手を放し、悲鳴を上げ、肩を押さえながらラリスは狼狽し、自信の左肩に纏わり付いた黒い炎を必死に振り払う。


[何だ? 何が起こりやがった!?]


 ラリスの目の前に様変わりした竜之介が視線を地に落として立っている。


[馬鹿な、今の攻撃をお前がやったというのか? お、お前は一体何なのだ!?]


 ゆっくりと頭を上げた竜之介がラリスを虫けらを見るように一瞥し、口を開いた。


「俺はお前等の世界に君臨する筈だったキングの血を継ぐ者、名は――天司てんしと名付けられている。といってもその人間の肉体はとうに滅んでしまっているがな」


[そ、そのお前が何で突然こいつから出てきた?]

 

「今から死ぬ行くお前に言う義理もないが、転生の門出に教えてやろう。俺は生まれた後、チェスの部分でもある俺の潜在意識を親父は自らの命で封じ込め、長きもの間、こいつら一族の体内を渡り歩かされて来た」


「本来ならこの俺は目覚める事などありえる事はなかったが、突然俺の縛りが解け、俺の周りを覆っていた目障りな親父の気配も消え失せた」


「早速俺はこいつの中で自分が復活出来る様、周りの環境を整理し始めた。こいつの中の数ある『良心』を次々と食い殺し、その骸を肥しにして闇の草原を築いてやった。お陰で心地いい場所が出来た」


「あとは簡単な事。窮地に陥ったこいつが力を求め、俺の闇に触れた事によって、この俺が目覚めたという訳さ」


[な、ならば同胞だろ? 何故俺達に刃を向ける? 仲間じゃないか!] 


 竜之介の悍ましい力に怯え、態度を急変させたラリスが取り繕う様に語り掛けるが、竜之介は握っている風神の剣先を向け口元を歪めた。


「仲間……? お前は誰に向かって物を言ってる? 俺に仲間など要らない。必要なのは俺に忠実で強い者達だ。俺はこれからそいつらを従え、新しい国を築き上げる」


[な、ならば俺達は間違いなく役に立てる! つ、連れていってくれ!]


[お、俺も同じ! その国造りに協力してやる! だからその剣を下してくれ]


 二人は必死で竜之介に願い出るが、向けられた剣が下を向く事は無かった。


「駄目だ。理由はお前らが一番良く知っているだろう?」


 握っている風神をゆっくりと上に翳し始める竜之介。突如その動きを止めた。


「ああ……忘れていた。こいつの封印も外してやらないとな」


「風神の剣……違う、この剣は――」


 赤黒く変色した腕から悍ましい程の闇を風神に流し込み始める。途端にリンクをしているハルが苦しそうに風神から飛び出した。


*な、何をしている! 竜之介、この化け物から早く自分を取り戻さぬか!* 


 その言葉を聞いた竜之介がハルを見ながら突然笑い始めた。


*何が可笑しい?*


「あははは。ハル、忘れてしまったのかい? 君は昔、親父と共に自身の力で無差別に命を刈り取っていた事を」


*な、なんじゃと!*


「ハル、直ぐに思い出させてあげるよ」


 更に闇を流し込む竜之介。


*り、竜之介、や、やめるのじゃああ!*


「あははははは。今こそ魔剣の復活だ!」


 青剣は瞬く間に悍ましい紫色の剣へと変色し始め、その刀身の周りに闇が渦巻き始めた。


「残酷な親父の方が使っていたこの剣のもう一つの姿――それがこの風魔の剣」


*風魔の剣じゃと? そんな剣、わしは知らぬ――!!*


 反論していたハルの額に手を添え、竜之介が何かを呟くと、ハルの両腕と首筋に奇妙な痣が現れ始める。


*な、何をする、愚か者めが! 今すぐやめろ――*


 痣がくっきりと姿を現した刹那、ハルの巫女装束が黒装束へと変わりそのまま何も言わなくなってしまった。


「さぁ、ハル、風魔にリンクするんだ」


 ハルは朦朧とした目で竜之介の言われるがまま、すーっと風魔にリンクをした。それを確認した後、竜之介は恍惚の目で風魔をじっと見つめ始める。


「凄いだろう? 俺も最強の剣を握るのは初めてなんだ。親父はチェスに変貌していく自分と必死で戦っていたっけ。まぁ、結局全てが無駄になってしまったけどね」


「おっと、少しお喋りが過ぎた。さぁ、始めようか……」


[お、俺達を殺す気か……?]


 ラリスが怯える様にして竜之介から離れようとする。


「そうだ。さっきも言ったけど、俺に必要なのは忠実で強い者達。端から徒党を組み勝利を得ようとするお前等弱者など俺には要らない」


 怪訝そうに言い放つと竜之介は技の体勢に入った。風魔に膨大な闇が送り込まれるのを目の当たりにした二人は狼狽き、背を向け慌てて走り出した。


[ウワアアアアアア!!]


「馬鹿だな。風魔から逃げれる訳がないじゃないか……」


「風魔――走闇」


 手首を返し風魔の柄を押さえ地中深く突き刺すと、竜之介を中心に高々と競り上がった円形の闇が波紋の様に一気に広がっていく。その波紋は異様な速さで逃げ惑う二人を簡単に捉え、瞬く間に闇の中へと飲み込んで行った。


[ぎゃあああああアア!!]


[お、俺の身体が闇に、闇に食われていくうウウ!!]


 飲み込まれた二人の体中に黒い炎が一斉に燃え盛り、その部分が徐々に消滅し始める。両手を上げ必死に悶え逃れようとするが、抵抗空しく断末魔の声を最後に消滅してしまった。

 

 その光景を竜之介は満足そうな表情を浮かべて眺めている。


「さーて……復活もした事だし、此れからどうしようかな? 役に立ちそうな兵でも探してみるか?」


 その場を離れようとしたその時、竜之介の視界には、傷つき地に横たわっている姫野の姿が映った。


「あれ? 何でこの女は消えてないんだ? 俺の闇はあらゆる命を刈り取る筈なんだけどな?」


 闇の波紋が姫野だけを避けていた事に竜之介は首を傾げ、意識を失っている姫野の前髪に手を触れ、軽く流した後、顔を覗き込んだ。


「成程。お前この俺に身体を乗っ取られても、こいつを守ったのか。中々しつこい奴だね」


 無表情に風魔の刃を姫野に向ける。


「馬鹿馬鹿しい、何でこんな女を守りたいのか、俺には理解できな――」


 その時、竜之介の黒い目から涙が溢れ、地面に零れ落ちた。


「な、何だ、これは……! 何で俺の目から? このおおおお!」


 顔を歪め、頭を両手で押さえ始める。


「確かに俺はこいつを乗っ取った筈! それなのにお前はまだ足掻こうとしている!?」


――そう簡単に俺の身体を乗っ取られてたまるか!!。


「うう、煩い! 黙れ!!」


――黙るのはお前の方だ!!。


「やめろおおおおおおおおおお!!」


――止めるもんか! 俺は仲間を助け、もう一度葵に会うんだあああああ!!。


「ばっ、馬鹿か! お前そんなくだらない事で――ぐうううっ!!」


――くだらない事などあるものか! 俺にとってはとても大事な事なんだ!!。


 竜之介の体中から闇が噴き出し始める。


「なんて奴だ、い、忌々しいが一旦この身体を返してやる、だ、だが直ぐに取り戻すからな! 直ぐにな!」


「おおおおおおおおっ!!」


 叫びと声と共に竜之介が我を取り戻した刹那、風魔は風神へと変わって鍔へと戻り、ハルは気を失ったまま、水晶の中へと消えていく。竜之介は直ぐ様姫野を抱き起すと力強く抱き抱えた。


「姫野隊長、しっかりしてください! 今すぐ俺が貴方を拠点に連れて帰りますから!」


 竜之介は葵の顔を思い浮かべ、今直ぐ会いたいという気持ちと自身の中に眠っていたチェスの覚醒に不安を抱えながら、その足を拠点へと向けるのであった。


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