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■悪夢の再来

「師匠! 師匠! 何処ですかっ!?」


 竜之介が自室で天竜に声を掛けてみるが、返事は無かった。最近天竜は不在が多く、一度その旨を尋ねたが、「少し調べ物をしている」と言うだけで、何も答えてはくれなかった。


 天竜だけではない、元治も同様であった。更に黒丸を含めたこのメンバーで何かを調べている位しか竜之介は把握出来ていなかった。


「ったくもう、俺はこれからもっと強くならないといけないのに!」


 不服そうな顔を表に出した時、突然部屋のチャイムが鳴った。


「誰だ?」


 竜之介が扉を開けるとそこに姫野が困惑そうな顔をして立っていた。 


「姫野さん、そんな顔をして一体何かあったのですか?」


「……竜之介、黒丸を見かけなかったか?」


 話を聞くと、やはり黒丸も直ぐに何処かにいってしまうとの事であった。


「師匠達、一体何をしているのでしょうね……」


 腕を組みながら竜之介が考え込んでいると姫野が徐に馬型を差し出した。


「あ、これって――」


「……竜之介、少し私に付き合え」


 姫野は表情を変えずに外の門の方向を指さす。


「わかりました。すぐ準備して行きます!」


 姫野は黙って頷いて、外へ出て行く。竜之介は何時もの衣装を身に纏い、姫野の待つ門へと急いだ。


「姫野さん!」


 竜之介が声を掛けると、ゆっくりこちらを向き、優しく笑うが、何処となく悲しさを感じる。姫野は馬型から馬を出現させると、それに乗り竜之介に手を差し出した。


「……乗れ」


 竜之介が騎乗すると、馬は風を切って走り出した。暫く馬は走り続けたが、姫野は相変わらず無言のままだった。何時しか馬は広い野原を駆け抜け、そのある地点で姫野が手綱を引き、馬を止めた。


「ここは――?」


 竜之介はこの場所に何かを感じ、姫野に問い掛けた。暫くの沈黙が過ぎた後、姫野が重たい口を開いた。


「……ここは宗政が殺された場所だ」


 風に靡く艶のある黒髪を手で押さえながら姫野は空を見上げる。呆然と空を見詰めていた瞳はやがて苦しそうに狭まったかと思うと大粒の泪が地面に零れ落ちた。


「……った」


 姫野が何かを呟くが、よく聞き取れない。


「……私がここで宗政を殺してしまった」


「――え?」


 今度ははっきりと竜之介の耳に届く。途端に姫野はその場に崩れ落ち、大きな声で泣き始めた。


「ひ、姫野さん!」


 竜之介はどうしていいか分からず、ただ傍に近寄っておろおろするしか出来なかったがひとつ明確になっている事を思い出し、姫野に伝える。


「姫野さん、泣かないでください! 宗政さんはそんな事は微塵も思っていなかったですよ!」


――そう。宗政さんはただ、自分の力の無さを悔やんでいた。それは実際に会った俺だけしか分からない事だ。


「……宗政がそう言ったのか?」


「はい、姫野さんなら分る筈です!」


 真剣な目をして竜之介が姫野に訴え掛けると、姫野は黙って頷いた。


「……そうか、宗政らしいな」


「はい! だから気を落とさないでください!」


 竜之介の言葉に一瞬安堵の顔を見せた姫野だが、直ぐ小刻みに震えだした。


「……私が、無くしたくない者は尽く消え去って行く、そして今度は竜之介、私はお前を死なせてしまうかも知れない。私はそれが怖い!」


 やがてその震えが止まったかと思うと、姫野は静かに立ち上がって言い放つ。


「……竜之介、命令だ。お前は棋将武隊から去れ!」


――な、どうして!?。


 予想もしていなかった姫野の言葉に竜之介は驚きを隠せなかった。


「ひ、姫野さん! いきなりなんでそんな事を言うんですか!」


 竜之介が姫野の顔を見た途端、その思い詰めた悲しい表情を見て呆然としてしまった。


「……竜之介、私はあの悪夢がいつまでも付き纏っている。一日足りとも忘れる事など出来ない、忘れては駄目なんだ!」


「……そして宗政と竜之介が重なり、それが現実の恐怖となって毎夜襲い掛かって来て、私は気が狂いそうなんだ!」


 気持ちを爆発させた姫野は、また震えだした。


「落ち着いてください! ほ、ほら、俺はちゃんと生きてます! この通りぴんぴんしてますよ!」


 竜之介は体で大袈裟な動作をして見せた。


「……駄目だ。お前はここに居てはいけない。私は、また護れないっ!」


――姫野さん、いつもは平静を装っているけど、こんなに思い詰めていたのか。


 竜之介は黙って姫野を抱きしめる。見た目は頼りがいのあるな大きな女を、自身の腕の中に納めながら、竜之介は姫野を小さな女の子の様に感じていた。


 二人しかいない草原に静かにな風が吹き抜けた刹那、二人が持つ小型端末から警報が鳴り響く。それは奇門が開かれた事を意味していた。


 その同時刻、拠点では状況確認が始まっていた。鳴り響く警報の中、怒号が飛び交う。


「もたもたするな! 各組の現在位置と状況を確認、早くしろっ!」


 奇門監視員の一人、中島が大きい声で叫ぶ。


「はい! 今現在奇門の数、三を確認しまし――」


 もう一人の監視員でもある渡辺が慌てて報告をしている最中、突然言葉を切った。


「どうした! 早く言わないか!」


 中島が苛立ちを露にしながら、次の言葉を待つ中、画面を見ていた渡辺は呆然とした顔付きをしながら、立ち上がった。


「どうした!? 何があったんだ?」


「た、大変です! 飛組が今いる場所――奇門が出現した、す、直ぐ近くです!」


「な、何だとおっ!?」


 画面を確認しようとした刹那、緊急通信が入って来た。


「こちら、中島、こっちは忙しいんだよ! 用件はなんだ!? 早く言えっ!」


 通信機から返ってきた内容は「転送ゲートが緊急メンテナンスを実施中、暫く使えない」という信じられない報告であった。


「何てこった! こんな時に援軍が送れないなんて!」


 監視員達が驚きの声を上げた丁度その頃、竜之介達のすぐ目の前に悍ましい光に包まれながら奇門が開かれていた。


「う、嘘だろ!? まさか俺達の目の前に奇門が現れるなんて!」


 竜之介達は急いで後方へ下がり、距離を取った。その奇門を潜りながら、百体近くものポーン、一体のナイトとビショップが姿を現し、その背後から別格を感じさせる大きな大剣を肩に担いだチェスが姿を現した。


 そのチェスの鎧の胸にはルークの紋章、そして面には刀傷が刻まれている。それを見た瞬間、姫野の目の色が変わった。


「……あいつは、忘れもしないっ! シヴァああっ!」


 普段冷静な姫野が怒りに任せ武装し、馬に跨るとチェスの軍勢を目にして叫ぶ。


「抜刀――三紗っ!」


「待ってくれ! 姫野さんっ!」

 

 必死に制止する竜之介の声は届かなかった。


「来いっ! 氷華ひょうか!」


 姫野の水晶から、冷気を纏った氷華が出現した。氷華は両目を白い布で覆い隠し、腰まで伸びた髪を後ろで無造作に巻いた布で一本にまとめている。また、右腕と左足に白い布が巻かれ、布の端が不気味に風に靡いていた。


*姫野、今こそ復習の時……*


 三叉に分かれた大きな槍に氷華がリンクすると、柄の部分に五つの刻印が表れた。


「……殺す! シヴァあああ! お前が私の目の前に現れるこの時をどれだけ待ち望んだ事かあああっ!」


 三紗を大きく旋回させながら、チェスの軍勢にそのまま突進していく。竜之介もその後を追おうとしたが、姫野が中心に入り込んだ瞬間、直ぐにポーンの軍勢によって行く手を阻まれてしまった。


――駄目だ! 姫野さん! これじゃあ、あの時と同じになってしまうっ!。


「くそおっ! 雑魚共、そこを退けろおっ!」 


 竜之介は武装を終えると、火虎の鍔を握った。瞬時に冷静さを取り戻し、心を切り替えて一呼吸吐くと、静かに抜刀を始める。


「抜刀――火虎」


 火虎もこの事態を理解していたのだろうか、何時に無く激しい炎を吹き上がらせながらその姿を現した。


「来い、火目子」


*マスター!*


 火目子は直ぐに状況を把握し、リンクする。敵を牽制する様に振り翳した火虎の刀身には五つの刻印が表れた。


「今こそ宗政さんとの修行の成果を見せる時! 宗政さん、どうか俺達を見守っていてくれ!」


「姫野さん! 俺が行くまで決して死ぬなっ!」


 目前に斧付きの剣を振り翳したポーンの群れが一斉に襲い掛かって来る。竜之介はこの時、宗政が姫野の元へ行く為に己を忘れ、剣を振るった光景を思い出した。


「お前等なんか、俺の敵じゃないっ!」


 電光石火でポーンの中心に入り込んだ竜之介は目にも止まらない足裁きで円を描く様にポーン達を切り刻み、襲い掛かったポーンは次々と焼け朽ちていった。


「その目で刻むがいい、これが宗政さんの火虎の力だっ!」


 竜之介がポーンの壁を崩している時、姫野はナイトとビショップ、そしてその後方で様子を伺っているシヴァ達と対峙していた。ナイトが先陣を切って姫野へ斬りかかろうとした時、シヴァがそれを制止した。


[女、お前、確か見覚えがあるゾ? そうダ、以前誰カ一人ヲ、この手ニ掛けた筈ダ……]


 シヴァは何やら考え込んでいたが、何かを思い出すとそれを嬉しそうに言葉に出した。 


[アア……そうカ、お前ヲ助けテ惨めニ死んで行っタ『炎の剣士』ダ……思い出しタ、思いだしたゾ! ククククッ!]


「……シヴァああっ! 宗政を笑うなっ! 今こそ積年の恨み、ここで晴らすっ!」


[ムネマサと言うのカ、あの間抜けナ男の名ハ――]


「……だっ、黙れえええっ!」


 姫野が馬上からシヴァに向け打ち込んだ一撃は金属同士の激しい火花を散らしながらナイトに阻まれた。


「……ちいいっ!」


[女、シヴァ様ニ容易く辿りつけるト思うなヨ? お前の命ハ俺達が刈り取ってやル!]


 ナイトの後方でビショップが杖を翳し、呪文を唱えた刹那、姫野の上空が瞬く間にどす黒い雲に覆われると激しい雷鳴と共に雷が姫野の刃先を狙いすまして襲い掛かってきた。


 瞬時に氷の防御壁を張り、姫野は直撃を交したが、雷に驚いた馬が前足を高々と上げてしまい、姫野はバランスを崩して落馬してしまう。


「……おのれええっ!」


 姫野が怒りを口に出した瞬間、雷の軌道が変化し馬に直撃した。馬は悲鳴の様な泣き声とひび割れる音を伴いながら、粉々に砕け散った。


 上空から容赦無い雷が姫野を襲う。槍を思うように振れない姫野に更に追い討ちが掛かった。地面が競り上がった刹那、土の手が現れ、姫野の足を掴んだのだ。完全に姫野の動きを封じたナイトは勝ち誇る様に叫ぶ。


[馬鹿な奴メ! 俺達ニ単体で乗り込んでくるとハ! 俺達の攻撃ハそういう馬鹿な奴ニ威力を発揮するのだア!]


「……くそっ、み、身動きが、とれないっ!」


*姫野、まずい、力が……*


 上空から襲い掛かる雷を何度も受ける度、次第に三紗の刻印が削り取られていき、遂に防御壁を張れなくなった姫野の頭上に容赦ない雷が直撃した。


「あああああっ!」


 激しい光と共に姫野の悔しさを込めた叫びが周辺に響き渡った。その叫び声は遠方で壁を切り崩している竜之介の元まで飛んだ。


「ひ、姫野さんっ!」


 最初は冷静を保ち、ポーンの群れを蹴散らしていた竜之介であったが、姫野の悲痛の叫びを聞いた竜之介は我を失ってしまう。


「くそおっ! お前ら次から次へと湧いて来やがって! 道を空けろっ! 俺は姫野さんの元にいくんだあっ!」


 その言葉を叫んだ瞬間、竜之介は息を飲んだ。


――これは、宗政さんの時と同じだ!。


 焦りの色を顔に出しながら、竜之介は必死に壁を切り開き、道を開けようとする。


――そうか……宗政さん、貴方はこんな感情で戦っていたのか! それが今、痛い程分るなんて!


「無理だ! 大事な人が危険に晒されている時に誰も冷静なんていられるものかああっ!」


 ポーンの波は止まらない。振り翳す火虎の太刀筋が乱れ始めた時、無常にも刻印が一つ消滅したのであった。


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