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■竜之介、長信になる

 「長信さん……俺はどうすればいちのちゃんを救えるんでしょうか?」


 竜之介は一人で呟いた。動物惨殺事件、襲撃事件の両方が裏のいちのが全てやっていた事が判明し、自分には長信の闇属性がある事をいちのに伝えた後、何らかの影響を与えたのだろうか、それ以降は両事件は起こらなくなった。


 だが、このままではいちのは秀光の毒牙に自分から飛び込み最悪命を落とし掛けない。日々の修行で自身を鍛えてきた竜之介の目は、凄腕のいちのでも秀光を倒す事は到底出来ないだろうと考えていた。


 「秀光に匹敵する力は長信さんの持つ闇属性しかない。でも俺がそれをもし使ってしまったら……」


 殺気の具現化は殺気を放つと共に自身の持つ属性を具現化させ、相手に重圧を掛けるという技である。竜之介の場合、風や炎では無く、闇を使用する。その為限界を超えると暴走に至り、最悪の場合はチェス化してしまうのだった。


 「うーん、長信さんの闇属性を俺が獄龍を抜刀した時にいちのさんは気付いたよな……もし俺が長信さんになりきってそれを引き出したとしたらどうなのかな……?」


 丁度その時、竜之介の横を隊の女が通り掛かった。女は竜之介に目が合うと軽く会釈をする。竜之介も頭を下げようとするが先程考えていた思惑が頭を過ぎる。


――丁度いい、試してみるか。


 竜之介は女に目を合わせたまま、自身を長信と重ねて獄龍を抜刀する時と同じ感覚で自身の持つ闇を引き出した。刹那、その女の肩がびくっと反応したかと思うと急に目を潤ませ始めた。


「あ……長信さ、いっ、いえ、竜之介様、いきなりそんな目で見られてしまうと……私」


――な、何だ? どういう事だ?。


 更に竜之介が闇の力を上げてみるとその女は苦しそうな息遣をしながら竜之介に近付くなり、真っ赤な顔をしながら言葉を漏らす。


「あっ、あの、竜之介様には各組の隊長達が皆、御執心なのは十分理解しております。ですが、私もその中の一人として、何十番目の女となっても構いませんから私と付き合って頂けないでしょうか? お、お願いします!」


――はぁああっ!?。


 これはまずいと感じた竜之介が直ぐ様闇の力を止めると、女は普段の顔に戻り、その状況に狼狽え始める。


「え? ええっ!? 私なんでこんなに竜之介様のち、近くに!? すっ、すみません! し、失礼しますうっ!」


 女は真っ赤になった顔を両手で隠すと踵を返すや否や、一目散に走り出して姿を消してしまった。それを呆然と竜之介は見送る。


「な、何だっ? この恐ろしい力はっ!」


 今度は隊の男が竜之介の前を通り掛かった。男は竜之介を見ると何かが気に入らないのか、目も合わさず通り過ぎようとした。再び竜之介は闇の力を引き出して見ると、男は直ぐにその変化を感じ、怯える目をして言葉を漏らした。


「ひいいっ、すみません! すみません!」


 男は何もしていない竜之介に何度も頭を下げると足早に逃げて行ってしまった。竜之介はそれをまた呆然と見送った。


「段々理解して来たぞ。長信さんに成りきって闇属性を逆の方向に引き出した場合、女の娘は寄って来て、男は逃げる……と、流石長信さんらしいや」


 苦笑した時、練習場の方で普段のいちのが何時もの様に不慣れた手付きで薙刀を振っている姿が目に止まった。


――そういえばあの時、いちのさん泣いていたんだよな……。


 十洞山での夜、竜之介は立ち去るいちのの涙を見逃してはいなかった。二人のいちの、その状態になったのはやはり長信の死が大きく影響しているのだろう、そんな考えを巡らせながら竜之介はいちのをじっと見ていた。


「よおっ! ストーカー!」


 聞きなれた声が竜之介の背後から突き刺した。


「うわわっ!」


 振り返るとそこに美柑が煙草の煙をくゆらせがながら、意味深な笑みを浮かべて立っている。


「うーん、なんだろうねぇ……いちのは此処の試験を受ける時はあんな感じじゃなかったんだよなぁ……」


「なんつーか、別人っていうか、もっとこう、技が研ぎ澄まされていたつーか、ああ見えても、いちのはトップ合格だったんだぜ?」


――成る程。試験は裏いちのさんが受けたんだな。


 心の中で竜之介は納得した。暫くすると、秀光の使いの者と思われる人物がいちのに近づいてきて、何かを話し掛けている。それを聞いたいちのは静かに頷いでいる。


「ちっ……来たか」


 美柑が舌打ちをした後怪訝そうな表情を浮かべた。


「え? 来たって?」


「ついに、いちのが秀光の毒牙にかかる日がきたってことさ」


 煙草の火を付け、思い切り吸い込んだ後、煙をぷはーっと吐く。その時竜之介はいちのの「後日夜の供をせよ、と声が掛かっている」という言葉を思い出した。


「ちょ、美柑さん! 何を冷静に言ってるんですかっ! こんなのおかしい! 止めさせなきゃ!」


 動揺した表情をしながら竜之介が訴え掛けると、美柑は竜之介の胸倉をいきなり掴む。


「竜之介、お前本当に大甘ちゃんだな!」


「――なっ!」


「いいかっ、竜之介、ここでは王将は絶対の権限を持つ。それが『どんな命令』だろうが、絶対なんだよ」


「み、美柑さん……」


 胸倉を掴んだ手が少し震えている。


「お、教えてください! 歴代の王将も皆、そうなんですか?」


「違う。あいつが王将に成り上がった時からだよ――歴代はいい奴ばっかりだ」


「今はその誇り高き棋将武隊も腐りきった林檎に成り下がっちまったのさ。あいつはそれなりの力持ってる癖に、自身の使命を全て弦真に任せ、命を掛ける事もせず、弱い人間(女)を慰み者にしかしない。本当にクソみてえな奴だよ」


 今までそれを誰かに伝えたかったのだろうか、吐き出す様に言い終えた美柑はゆっくりと手を離した。


「なぁ……竜之介」


 少し寂しそうな瞳をしながら竜之介を見つめる。


「私はなぁ、お前にちょっと期待してるんだぜ?」


「え?」


「お前が、この此処を変えてみせろって言ってんだよ」


「俺がですか? そうですね……分かりました!」


 竜之介が真顔で返事をした瞬間、美柑が煙草を吹き出し、腹を抱えながら笑い出した。


「あはははっ!『分かりました!』だってよ! お前どっからそんな自信が出てくるんだ? あーっ、もう、笑っちまうぜ!」


 散々笑い、涙を人差し指で拭うと、竜之介の両肩をぽんぽん叩いてにっこりと微笑んだ。


「風間竜之介! うん! お前という男はやはり良いっ!」


「へっ?」


 今度は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした竜之介の表情を見てまた吹き出し始めた。


「流石、私が見込んだ奴だけの事はあるな! もっともっと強くなれ! そして最後に私を迎えに来てくれるのを楽しみにしてるからなっ!」


「いやいやっ、迎えになんて来ませんよっ!」


「まぁ、まぁ、そんなに照れるなって!」


 再度胸倉を掴まれ、今度は竜之介の頬に軽くキスをしてきた。煙草の匂いの中で微かに匂う美柑の甘い匂いに竜之介が戸惑いの表情を見せるその耳元で美柑は低く囁く。


「竜之介……いちのは――秀光に殺されるぞ」


――なっ!?。


 頭が真っ白になり、呆然とした顔で美柑を見返した時、美柑は手を上げながら指導に戻って行く途中であった。


「いちのちゃんが……秀光に殺される?」


「ふざけるな……! そんな事、絶対にさせるものかっ!」


 竜之介は日が暮れるのを見計らって外に飛び出し、いちのが建物から出てくるのをじっと待っていた。夜も更けた頃、建物から秀光の使いの者に付き添われながらいちのが姿を現した。


――来たっ!。


 気付かれない様にその後ろを尾行する。やがていちの達は秀光の居る建物に入って行った。その入り口には秀光の護衛の女が二人、薙刀を握り入り口の前を警護している。双方とも顔立ちは端麗であるが、秀光の護衛クラスなのでその腕を侮る事は出来ない。


「さて、どうやって中に入ろうかな?」


 竜之介が二人の前に突然姿を現して「やあ!」などと言いながら手を上げて易々と建物に入る事は叶わないであろう。そんな想像をしていた時、自身が試した「長信化」を思い出した。

 

「もしかすると……いけるかも?」


 覚悟を決め、堂々と入り口の方に向かっていくと、当然の様に警護に気付かれる。


「待て! 何者だ!?」


 光を顔に当てた一人がその人物が竜之介だと気付く。


「……竜之介様?」


 竜之介の地位は今や、龍虎(長信、宗政)の鍔を受け継ぐ者として棋将武隊ではちょっとした有名人になっていた。


「や、やぁ、こんばんわ、お二人さん、いい夜だねっ!」


 竜之介だと気付いた二人は困惑したような顔つきで言葉を掛ける。


「すみません竜之介様、如何にと成の竜之介様と言えど、ここは関係者以外立ち入り禁止です。誠に申し訳ありませんが、速やかにお戻りくださいませ」


「そうです。騒ぎにならない内にお早くここから立ち去ってください」


――だよね。


「いやー、俺もそうしたいんだけど、そういう訳にはいかないんだよな……」


「――え?」


 竜之介は長信の姿を想像し、闇の力を強めに引き出した。


「ううっ……!」


 警護達が薙刀を手放すと、竜之介にゆっくりと近づきだし、潤んだ瞳で見つめだした。


「ああ……長、いえ、竜之介様……なんと凛々しい!」


 荒い息遣いで竜之介に抱き付く。竜之介の考え通り、女に対して長信の闇属性は魅惑チャームの力が発揮されるのであった。


「ごめんね、二人に悪気はないんだけど……」


 囁く様に竜之介が誤り、鳩尾に向けて拳を入れた。二人は吐息を漏らしながらその場に倒れてしまった。刹那、警護の女の一人の胸元から金属の重なり合う音が聞こえる。嫌な予感がした竜之介が恐る恐る目を向けると、それは扉を開ける鍵であった。


――げっ!? 建物の鍵ってそこですかっ!?。


「あ、あれを……俺は取らないといけないのか……」


 竜之介は自身が女の胸元に手を突っ込むところを想像してみた。一瞬にして顔が真っ赤になった。


「くそ……しょうがない! ここは覚悟を決めてやるしかない! 長信さん、俺に勇気をおお!」


 竜之介が顔を背けながらゆっくりと女の胸元に手を入れた時、突如女の体勢が崩れる。その反動で手が胸元の奥に滑り込み、竜之介は胸を思いっきり掴んでしまった。


「――う」


 女の口から一瞬甘い吐息が漏れる。金属の感触を想像していた竜之介の指先はその弾力のある感触を感じ取ると、「これは鍵じゃないっす! 女の胸っす!」という情報を即座に脳へ伝達した。


――こっ、これは、なんて柔らかい鍵なんだあっ!。


 都合の良い内容に変換されて脳に伝わるも、我に戻った竜之介は慌てて自身を制した。


――こっ、こんな事をしている場合じゃないぞっ! しっかりしろ、風間竜之介ええっ! よしっ! これが『最後』だあっ!。


 余計な手の動きの動作をひとつ加えた後、竜之介は本物の鍵を手に入れた。


「ふう、良し! 鍵は手に入れた、け、計画通りっ! さ、流石長信さんの力、ははははっ!」


 自身の恥ずべき行動をうやむやにした竜之介は、その力を尽く駆使しながら、秀光の寝室まで辿りつく事に成功したのであった。


 扉を静かに開け、幾つかの広い部屋を通り過ぎた時、大きなベッドに無表情ないちのと不適に笑う秀光の姿を視界に捉えた。気配と息を殺した竜之介が見た物、それはいちのが薄い着物一枚、下着が透けて見える格好でベットに腰掛けている姿であった。


――いちのちゃん!。


「クククク。何も怖がることは無い。全てを我に委ねよ。お前等弱者はそうする事によって報われるのだ……」


 秀光の忌々しい声に、竜之介は湧き上がる怒りを必死に堪えた。


「しかし、よもや長信の妹がここに来るとはな。お前の兄、長信は大層腕の立つ男であったのは我も認めている。勝負をすればさぞかし良い試合となったであろう」


 長信に労う言葉を口にしながら、いちのの顔を手で摩り、その視線は身につけている着物を窮屈そうにしているいちのの豊満な体をじろじろと舐め回していた。


「お前もさぞかし落ち込んでいる事であろう。何、案ずるな。長信の意志は我が継いでやる。兄の変わりとなって我が存分にお前を可愛がってやるわ」


 言い放つと無造作にいちのが纏っている衣服を剥ぎ取る。強引な力によって衣服は非情な音を立てながら引き裂かれてしまった。


「きゃああっ!」


――くっ! くそう! まだっ、まだだっ! いちのさんが現れるまでは今は我慢しろっ! 俺っ!。


 秀光はそのままいちのの両腕を掴み取り、力で捻じ伏せるとベットの弾力でいちの豊満な胸が小刻みに躍動した。


「馬鹿な女だ……長信はもうこの世にいないというのに、その後を健気に追ってくるとはな」


 そのまま顔を胸の間に埋める。


「秀光さま……一つお尋ねしてもよろしいですか……?」


――声が変わった! いちのさんだ!。


「何だ? 申してみよ」


「我が兄様……長信は……『事故死』と聞いております……」


「それは……誠……なのでしょうか?」


 瞬間、秀光の耳がぴくりと動いたかと思うと、そのままゆっくりと顔を上げながら口元を歪めた。


「そうか……そんなに真実を知りたいか……ならば教えてやろう」


――ば、馬鹿野郎! 言うあなっ!。


「お前の大好きな大好きな……兄様はな……」


――止めろ! そっ、それ以上、いっ、言うな……っ!。


 次の瞬間、秀光の顔が悍ましい顔つきに変わると、その真実を口に吐き出す。


「あれ程の猛者が我にいとも簡単に騙され、めん玉を見開きながらそれはそれはとても滑稽に崖から奈落の底へと堕ちていったわあああああッ! クカカカカーッツ!」


「――やはり、そうであったかっ!」


 刹那、いちのの体に異変が起きた。いちのは秀光の手を振り切ると、体を反転させ忍者のように宙を舞い、そしてそのまま部屋に飾ってある双剣を引き抜き、秀光と対峙した。


「……ほぅ、そっちが『本物』であったか? 流石長信の妹、何とも忌々しい殺気よのぅ……」


「黙れえっ!」


 低い体勢で秀光に駆け寄り、剣を翳す。


「兄様の……敵ぃいいいっ!」


 いちのが剣を秀光の胸を目掛け、突き立てようとした時、部屋全体が黒い闇に覆われ激しい重圧が加わった。


――ぐううっ! これは、秀光の殺気の具現化っ!。


「ううっ!」


 竜之介といちのはその重圧に押され、床に跪かされる。


「ふん、虫けらが……」


 そのままいちのに近づき、身動きのとれないいちのの下着に手を回す。


「くぅうう……止めろ! この外道があっ!」


 いちのの抵抗も空しく、そのまま下着ははするりと外され、重圧を失った胸がそのまま外にさらけ出された。


「ぐぅうう! 私を、私を今すぐ殺せええっ!」


「クククク……お前は今から我が存分に慰みものにした後、反逆者としてその首を刎ねてやるわ」


 秀光は舌を出し、それをいちのの胸先とゆっくりと近付けていく。


「うぅうう……」


「いちの……すまぬ。私では……お前を守れな……かった」


 屈辱と悔しさでいちのの目から泪が床に零れ落ちた時、秀光に激しい殺気の重圧が加わった。


「ぐおおおおおっ!?」


 何が起きたか分からぬまま、秀光は頭を押さえつけられる。


「いい加減にしろよ……そこの腐れ野郎」


「――き、貴様! りゅ、竜之介!?」


 竜之介は危険を覚悟し、秀光の殺気を遥かに凌いだ殺気の具現化を使って秀光を押さえ付けた。その代償に竜之介の腕は赤黒く変色してしまっていた。


「いちのさん……」


 いちのに掛けられていた殺気の重圧を消し去った竜之介は、静かに自分のマントを外し、いちのを覆う。


「竜之介……お前、ここまで私を助けに来たのか?」


「いちのさん……ダメですよ、こんな事をしては……」


 いちのに優しく微笑むと、冷ややかな表情をしながらゆっくりと秀光を見下ろす。


――さて……ここからどうするかだ。秀光の性格だ。おそらく俺達を『反逆者』として殺そうとするだろう。だが、秀光はプライドを傷つけられるのを最も嫌う人格だ。ここはあれをやるしかないっ!。


 竜之介は小さく深呼吸をした後、大胆不適で自信に満ちた男の口調で秀光を威圧し始めた。


「……よぉ、秀光。久しぶりにお前に会いに来てみたら、てめえ、欠伸がでるほど弱えなぁ」


「何いっ!?」


 秀光の顔がその声を耳にして憎悪に歪んだ。


「よくもこの俺様を殺ってくれたな、秀光……死んでも死に切れねえからこいつの魂を食らい、蘇って来てやったぜ?」


「貴様……長信かっ!?」


 その言動と立ち振る舞いは正に長信そのものであった。近くで見ていたいちのも目を見開き長信となった竜之介を唖然として見ていた。


「え……? あっ、兄様!?」


「よぉ、いちの! 元気にやってるか!」


 竜之介は歯を見せながらにかっと笑う。


「あああっ! 兄様あぁあ……!」


「もう、心配いらねえ。いちの、お前はそこで黙って見ていろ」


「は、はいっ、兄様!」


 いちのの素直な返事を聞いて頷いた竜之介は眉を上げながら鋭い目付きで秀光を睨んだ。


「秀光よぉ……俺様は今、くそ腸が煮えくり返ってるから、今すぐにでもお前を消し炭にしてやってもいいが……」


「どうだ? 俺様達兄弟の命を掛けて……勝負しようじゃねえか? それとも俺様のお出ましに怖気づいたか、秀光?」


 挑戦的な態度に秀光は釣られ、怒りを露にして言葉を吐き捨てる。


「ふざけるな! 誰がお前ごときに我が怖気づくなどと!」


 秀光が竜之介に匹敵する闇の力で立ち上がってきた。建物の外は二人の闇が覆い、上空で黒龍と巨大な妖狐が睨み合っていた。


――くそ! 流石秀光、俺の闇がどんどん溢れ出してきた、早く何とかしないと!。


「そうか……なら勝負しようじゃねえか。この男はお前の居る所に直ぐ辿りつくぜ? それまでせいぜいその汚ねえ首を洗って待っときな」


「長信――以前桜子と我の前に現れた哀れな亡霊が二度も我の前に現われるとは、なんとも忌々しい奴めっ……」


「クククク。良かろう……その挑戦受けてやる。そしてそこでお前と、最愛の妹を我に歯向かった代償として、皆の前で血祭りにしてやるわ」


「よっしゃ、んじゃ決まりだ。てめえその間、俺様の可愛い妹に手を一切出すな! いいな?」


 竜之介は限界ぎりぎりまで渾身の力を振り絞り、鬼の形相で秀光を威圧する。


「――良かろう……その間、お前らの命は我が預かっておいてやる。感謝するが良い」


「はん、そりゃあこっちの台詞だぜ?」


 いちのを抱きかかえた竜之介は踵を返すと、そのまま部屋を出て外に向かって走り出す。


――まずい! 早く闇を押さえないとっ!。


「だああっ!」


 入り口から飛び出した竜之介は何とか闇を押さえ、大きく深呼吸をした。


「兄様……苦しそう。大丈夫?」


「はぁ、はぁ、はぁ……、いちのさん、大丈夫、俺は全然平気です!」


「え? りゅ、竜之介、お前まさかっ!?」


「すみません、いちのさんを救う為にはああするしか……」


 先程の出来事が全て竜之介による演技だと知ったいちのは驚きの表情を見せた。


「そうか……あれはお前だったのか。それにしても、あれが全て演技だったとは……」


 思わず苦笑する。


「騙していて、すみません」


「……竜之介、誤るな。私はあの時、本当にお前を兄様と思ったのだ。やはりお前は兄様の意志を受け継ぐ者なのだな」


「竜之介……お前なら、本当にあの秀光を倒してくれそうだ」


 ゆっくりといちのの唇が竜之介に近付いてくる。


「あそこで言った事は本当です。秀光は俺が必ず倒します!」


「……ああ、そうだな、一度捨てようとした命、お前に託してみよう」


「え? ちょ、いちのさん?」


 竜之介が驚きを口に出そうとした刹那、その口はいちのの唇で塞がれてしまった。暫く沈黙が続いた後、いちのが静かに目を開けた。顔を紅色に染めながら静かに唇を離した後、全て納得した言葉を呟き始める。


「そっか……私、竜之介さんに助けられたんだ」


「私……どうして、時々意識が無くなるのか、分からないけど、でもねもう一人の私が『いちのを想ってくれる人がきっと救ってくれる』そう、ずっと語りかけられてた気がするの」


「うん……」


「そして……それが……竜之介さん、貴方だと確信したの。本当にお兄ちゃんみたいで。あ、でも、お兄ちゃんの代わりとかじゃなくて、ええっとぉ……その……」


「あの、竜之介さん……こんな変な女で不思議いっぱいの私ですが、どうか、私を好きになってくれませんか?」


 澄んだ瞳で竜之介を見ながら、いちのは胸の内を言葉に出す。それに応えるかの様に竜之介は優しく微笑むと、静かにいちのを下ろした。


「俺も……いちのさんが大好きです。あ! あわわわっ! ほ、他の隊長とか隊の皆も含めてですけどね! そっ、それに今俺はやらなきゃいけない事がたくさん出来ました。俺自身、そしていちのちゃんや棋将武隊の為に秀光を倒して、この棋将武隊を変えたいと思ってます。だから――」


「いいんです。竜之介さん、それ以上何も言わなくても。私は貴方が私の方を向いてくれるのをずっと待ってますから。いいですよね? 竜之介さん」


「え? はっ、はい」


「――嬉しいな」


 再びいちのが竜之介の唇を求め、月夜に照らされた二人の影が重なり合う。その影が分かれた時、いちの雰囲気ががらりと変わった。


「竜之介、今の約束……絶対に忘れるなよ?」


 鋭い目付きで悪戯ぽく笑ったいちのはすうっと消えた。


――あれ? 今のは確か!?。


「竜之介さん……今、私また意識が飛んでしまいました」


 竜之介を見ながらいちのは不思議そうな顔をするのであった。


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