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■繰り返される運命

それはドゥルガーの一時の幸せが脆くも崩れ去る瞬間であった。


――馬鹿な!? 何故この場所にあんな物が!!。


 ドゥルガーの視界に飛び込んできた物、それは一つ目の蝶であった。その後直ぐに鎧の軋む音が辺り一面に響いて来た。


 その鎧の音がゼノンだと直感したドゥルガーの表情が急に強張り始め、それを見た瞬間竜之介は、ドゥルガーの前へ庇う様に立ち塞がった。


 ゼノンは竜之介の近くまで来るとゆらりと足を止めた。


[何だア? ドゥルガーヲ追って来てみれバ、こんな所で餌が屯ってやがっタ、んん? お前ハもしかしテ……]


 ゼノンは剣先を竜之介に向けながら問い掛ける。


[おイ、お前ハ、リュウノケって奴カ……?]


――言うな!! リュウノスケ!!。


 今何の力も無い人間の女と化しているドゥルガーは自分が竜之介の重荷である事を自覚していた。願わくばゼノンが竜之介の返答によって自分達に興味を無くし、別の場所に消えてくれないかと、そう期待した。


「俺は……棋将武隊金組兼、飛組と成、風間竜之介だ! こんな場所にいきなり現れやてきやがって、覚悟はいいかっ!!」


――リュウノスケの馬鹿あああっ!!。


 思わずドゥルガーは額に手を当てた。


[カザマリュウノスケ……?]


 ゼノンは何かを考えている様だったが、やがて結論に達すると歓喜の声を上げた。


[見つけたゾ!! お前だナ?! ドゥルガーの言っていタ、リュウノケ、いヤ、リュウノスケって野郎ハアアアア!!] 


[俺ハお前ヲ探していたんだア!! 今すぐお前ヲぶっ殺してやルッ!!]


 体全体から覇気をだしながら、ゼノンが呪文を唱え始めた瞬間、地面が競り上がり始め両側に土で模られた大車輪が姿を現した。


[餌に名乗る気ハ更々無かったが、ドゥルガーが認めたお前ダ。冥土の土産に聞かせてやろウ。俺の名はゼノン、アリエス隊所属、最強のルーク様だアッ!!]


 咆哮を上げたゼノン声に呼応するかの様に大車輪がゆっくりと動き出して回転し始めた。


「ふざけるな! やれるものならやって見ろ!! 抜刀……獄龍っ!!」


 武装を終えた竜之介は身構えたまま、獄龍を抜刀する。鍔から黒い光を放ちながら獄龍が姿を現した。


「来いっ!! 黒子!!」


 大きな声で竜之介は黒子を召還する。水晶から黒い渦を伴い、黒子が姿を現したが、竜之介の横に居るドゥルガーを見るや否や不満そうな声を発した。


*ああっ!! ダーリンの浮気ものっ!!*


「く、黒子、今はそんな事を言っている場合じゃ……」

 

[なんだア? お前等仲間割れかア? お前にそんな時間は無いぜエエ!!]


 大車輪が勢いを付け竜之介目掛け襲い掛かって来た。


[ははハ!! 下敷きになっテ挽肉になるガいいッ!!]


「舐めるなあっ!!」


 竜之介は紙一重で大車輪を交わしたが、もう片方の大車輪がドゥルガーを狙っていた。


[馬鹿メ!! 俺の狙いハ最初っからこっちだア!!]


 轟音を立てながら迫り来る大車輪を見てドゥルガーの目が見開いた。


――駄目だ、今の私では防げない!!。

 

 死を覚悟したドゥルガーはゆっくりと目を閉じる。女の肉と血が飛び散る様を想像し、ほく笑んだゼノンだったがそれは脆くも裏切られた。


[な、なんだとおッ!?]


 大車輪を交わした竜之介は電光石火で移動し、体全身と獄龍でドゥルガーの前に立ち、大車輪を受け止めていた。獄龍からは土煙を上げながら激しい火花が飛び散り、後方に押されながらも竜之介はそれ以上の進行を許さなかった。


[俺ノ大車輪ガ人間如き餌ニ止められただとおッ!?]


「葵ちゃん、早く俺から離れて安全な場所に行くんだ!!」


 ドゥルガーが目を開けた時、目の前に竜之介の大きな背中が飛び込んできた。


「リュウノスケっ!!」


――竜之介が私を護ってくれた!!


 瞳を潤ませながらドゥルガーは叫ぶ。竜之介はドゥルガーを見て優しく微笑んだ。


「葵ちゃん、俺は君を絶対に護るから、安心しろ!!」


 その言葉はとても力強く、大きく包み込んでくれる、そうドゥルガーには感じられた。


*くーっ、やはりダーリンは最強、格好良すぎ。だから変な虫がわんさか湧く、ほんとにもうヤキモキ!*


 黒子が獄龍にリンクする。大車輪を受けた影響で獄龍の刻印は4つであった。


*ダーリンごめん、黒子が悪い、迷惑掛けた*


「黒子気にするな、獄龍の力、あいつに見せてやろうぜ!!」


*了解。名誉挽回、二人の愛を証明してみせる!*


[くそがッ!! 今度ハ俺ガ相手だあッ!!]


 勢いを失った大車輪が後方に下がった擦れ違い様にゼノンが剣を振り翳し竜之介に斬り掛かってきた。


 上段でゼノンの剣を受けると、竜之介は刃先を左下に滑らし返す刀で左脇を思いっきり振り抜く。


[グウ……ッ!!]


 獄龍に斬られた鎧の部分が闇の力によって消滅させられた。ゼノンは斬られた部分を押さえながら後退する。


[お、俺の自慢の鎧が!! おのれえッ!!]


 勢いを取り戻した2つの大車輪が同時に竜之介に向かって襲い掛かってきた。


[どうだあッ!! これなラ、受け止めれまいいッ!! 今度こそ死ねええッ!!]


 砂煙を上げながら突き進んで来る大車輪に対して、竜之介は静かに腰を落とすと左方向に体を捻り脇構えた。


「獄龍……陣破あっ!!」


 そのまま大車輪に向かって一気に獄龍を振り抜くと、闇は渦巻きながら大車輪に激突した。


 闇に貫かれた大車輪の中心部分が一瞬にして消え去り、支えを失った大車輪は無様に空中分解を起こした。その様を目の前で見せられたゼノンの動きが止まった。


[う、嘘だロ? 一体何なんだこいつハ!!] 


 慌てて呪文を唱え始めたゼノンだったが、大車輪が再び現れる事は無かった。


「ゼノン!! お前の大車輪は相当属性を消費するみたいだな!!」


 確信を突かれたゼノンは鎧を震わせながら竜之介に向かって叫ぶ。


[だったラ、何だというんダ!!こうなったラこれで片ヲ付けてやるッ!!]


 刹那、周りの空気が殺気で囲まれ竜之介の体に重圧が圧し掛かった。


「ぐ……っ!!」


 足が重圧に負け、徐々に地面に沈んでいく。竜之介は獄龍を地面に突き刺し踏み止まるのが精一杯だった。


[ハハハ!! 手間ヲかけさせやがってこの野郎!! だが、これで終わりだあッ!!]


 動きを封じられた竜之介にゼノンはゆっくりと近付いてきた。


「く、くそっ!!」


 そのままゼノンは竜之介へ……では無い、標的はドゥルガーだった。右手でドゥルガーの首を掴むと高々と吊り上げた。


「かはっ……!!」


 足をバタつかせドゥルガーは苦しみの表情を浮かべ、それを見た竜之介が必死でもがく。


「葵ちゃん!! くそ!! 動け俺の体!! 動け!! 動け!! 動けええっ!!」


[無駄ダ!! お前はそのまま目の前デこの女ガ苦しみ悶え、死んでいく様ヲ見て発狂しロ!! 安心しナ、その後ヲ直ぐに追わせてやるかラ、ハハハハッ!!]


 更にドゥルガーの首を絞めるゼノンの手に力が加わった。絶望の淵に引きずり込まれた竜之介の意識に、突然不気味な声が聞こえてきた。


――俺の力を解放しろ。


「……力?」


 竜之介の体の奥底から響いてくるその声は更に言葉を重ねた。


――目の前の奴を倒したいのだろう?


「た、倒したい!! 葵ちゃんを助けたい!!」


――なら簡単だ。一歩踏み出すだけでいい、俺はそこに居る。


「え?何を……」


 竜之介がそう言った瞬間、目の前に以前見た光景が広がった。真っ暗な草原に何体もの骸が転がるその境界線で竜之介が立っている姿を竜之介は別の視点から見ていた。


――さぁ、力を欲するならこっちに来い。


 竜之介が見ている風景の中にぽっかりと空間が開き、今にも行き途絶えそうなドゥルガーの姿が映し出された。


――さぁ!!


「あ、葵ちゃん……っ!!」 


 藁にも縋る気持ちで竜之介は草原に片足を踏み入れた。その瞬間竜之介は竜之介で無くなった。


 ゼノンが覆っていた殺気の上に竜之介の殺気が重く圧し掛かり、あっという間にゼノンは片膝を付かされる。


[グオオオッ、な、何ダ!? 何が起きタ!?]


 自身の身に起こった事が全く理解出来ないまま竜之介の方を見た時とてつもない恐怖感が襲い、思わずドゥルガーを束縛から解いてしまった。


 ゼノンが見たもの、それは獄龍を握る手が赤黒く変色し、顔半分の目が真っ黒に染まり、悍ましい赤い目玉が不規則に蠢いている竜之介の姿であった。


 竜之介の殺気の重圧はゼノンの鎧を嫌な音を立てながら徐々に変形させ始めた。


*ダーリン、駄目!! その力は……苦し……い*


 何とか竜之介を踏み止どませようと黒子が呼び掛けたがその声は竜之介に届かない。殺気が更に力を増した時、竜之介の背後に黒龍が出現した。


 黒龍は口から闇の涎を滴らせながらゆっくりとゼノンの方へ向かって行く、零れた涎が宙を飛んでいた一つ目の蝶に当たると、蝶は一瞬にして掻き消えた。


[やめロ!! こっちへ来るなッ!!]


 後ずさりながらゼノンは恐怖の言葉を漏らす。黒龍は体をうねらせながら高々と上昇をし始めた。


――殺してしまえ。


 不気味な声が竜之介に話しかけると、ピクリと獄龍を持つ竜之介の手が反応し、徐々に上段へと獄龍を振り翳し始めた。剣先が天に向いた瞬間、黒龍の口が大きく開いた。


[ま、待テ!!お、俺の負けだあッ!!]


 ゼノンが狼狽しながら叫ぶ。竜之介が獄龍を振り下ろそうとした時、まだ半分人間である竜之介がそれを躊躇った。


――どうした?早く殺せっ!!。


 不気味な声が更に強くなり、チェスと人間の狭間で葛藤していた竜之介はもがき苦しみ始めた。やがてそれは人間側の竜之介の瞳から一粒の泪を零れ落とさせる。


 刹那、


――ったく、しょうがねえ奴だな、お前は……。


 もう二度と聞こえる筈の無い声が朦朧としている竜之介の心に響いた気がした。大きな手が獄龍を持つ竜之介の手を包む様に重なったかと思うと、徐々に剣先を地面に下げ始める。


 上空で口を開けていた黒龍はそれを見ると、恨めしそうにしながら姿を消した。


――お前はまた俺の邪魔をするというのか?。


――悪いねぇ……こいつは俺との約束があるんでね。


――ふん……小賢しい闇めが。


 その言葉を最後に竜之介は自分を取り戻した。はっきりした意識で見た目の前には首を押さえて座り込んでいるドゥルガーと地面に座り込んで無残な形となった鎧をカタカタ震わせているゼノンの姿であった。


「あ……俺は一体?」


「リュウノスケっ!!」


 頭を振っていた所へドゥルガーが竜之介の胸に向かって思いっきり飛び込んで来た。その勢いで二人はそのまま縺れながら倒れる。


「あ、葵ちゃん!?」


「リュウノスケ、やはりお前は……!!」


 その隙にゼノンは背中を向け無様に逃げ出していた。ドゥルガーは自身のタイムリミットを感じると、顔を上げて竜之介を見つめた。


「リュウノスケ……」


ドゥルガーの口が竜之介の顔に近付いた時、慌てて黒子が飛び出して来た。


*このっ!! 私のダーリンに何しやがる、この芋虫めが!! って、くそ、もう力が……*


 現世に踏み止まる力を使い果たした黒子は強制的に水晶へ引きずり込まれた。


「リュウノスケ、私を護ってくれてありがとう……」


 ドゥルガーは感謝の気持ちを伝えて顔を赤らめた後、ポケットから小さな機械を取り出してパネルを操作し、丁度目の高さに合う岩場に置いた。


「リュウノスケ……あそこを見て」


「え?」


 ドゥルガーが指差した機械の方を竜之介が見た時、ドゥルガーは竜之介の頬にそっと口付けをした。


「うおっ!?」


 竜之介が驚いた瞬間、機械から一瞬シャッターを切る音がした、ドゥルガーはそれを取ってポケットに仕舞うと悪戯っぽく笑って、ゆっくりと立ち上がった。


「リュウノスケ、私は直ぐお前に会いに来る……迷惑か?」


 真剣な眼差しでドゥルガーが問い掛ける。


「迷惑だなんて……俺は葵ちゃんみたいな娘なら何時でも大歓迎だよ!!」


 頬を押さえ、竜之介は照れながら苦笑した。


「そう。今の言葉、しかとこの耳で聞いた。リュウノスケ、忘れたら駄目だぞ?」


 ドゥルガーは竜之介に手を大きく振りながら、その場を立ち去った。竜之介の視界からドゥルガーが見えなくなった時、ドゥルガーの髪と瞳が徐々に紺色の髪と瞳に戻り始めた。


 力を取り戻したドゥルガーは尋常で無い速さでゼノンの背中を追う。牙を折られた獣を狩る事は今のドゥルガーにとって容易い事であった。


 やがてその背中を捉えたドゥルガーはゼノンの背を軽々と超え、前に立ち塞がり退路を塞いだ。


「ドゥルガー!! お前一体何処にいたんだ? 俺は探し……」


 ゼノンは話し掛けた言葉を呑んだ。何故ならドゥルガーの服装を見た瞬間、精神が凍りついたからだ。


「ドゥルガー……まさか、まさか先程の女が!!」


 ドゥルガーは鍔にも似た小さなスティック状の物を手に握り締めた。


「sword……」


 低い声でドゥルガーが呟いた瞬間、黒い光を放ちながら大型のランスが姿を現した。


「ドゥルガー、まっ、待ってくれ!! 俺は、俺は知らなかったんだああっ!!」


 夕日の光が地面に座り込み手を前に差し出す男の影とランスを高々と振り上げられた女の影を鮮明に映し出す。


 やがてそのランスと男の影が一つに重なった時、男の影はその場から跡形も無く消滅した。


 竜之介は自室に戻ると、その日起こった事を天竜に話す。


「全く、先に帰るなんて酷いですよ、師匠!!」


「ふん、お前の前に女が現れるとろくな目に遭わないからな」


 迷惑そうな顔をして言う天竜に竜之介は次に言おうとしていた文句を慌てて呑み込んだ。


「それにしても、女の子を救うなんてやはり俺は師匠の血を継いでるんですかね?」


「どうだろうな? まぁ……お前が助けた女がクイーンであったとすれば、それは本当に運命だったのかもしれないが。まぁ、それはまず無いがな。」


 鼻を鳴らしながら天竜は笑った。


「や、止めてくださいよ!! そんなの洒落になりませんって、全く師匠は急に何て事言い出すんですか、嫌だなぁ、あははは。」


 竜之介が自室で苦笑いしている頃、竜之介とツーショットで映っている画像を見ながらドゥルガーはにやけていた。


「リュウノスケ……ドゥルガーとの約束、忘れるなよ?」


 竜之介の画像にドゥルガーが目を細めてそっと人差し指を当てた瞬間、竜之介の背中に悪寒が走った。


「ぶえーっくしょい!!」


「ばっ、馬鹿もん!! 竜之介っ、お前、唾を撒き散らすなと何度も行って言るだろうがっ!!」


「あう……すびばせん、師匠」


 これから起こる前途多難な出来事を前にして、竜之介は呑気に鼻をずるずると啜るのであった。  


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