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■放たれた二羽の小鳥

 幼き頃の感情を竜之介によって想い出さされた弦真は目を見開いた後、竜之介を睨み叫ぶ。


「そうだあっ!! 俺はその後も父上の言う通りに従い、武道に励んで今の地位まで上り詰めたのだっ!!」


「それをお前達によって揺らぎ、省みる事は絶対許されない事なのだああっ!!」


「それは、余りにも悲しい生き方だな……」


「――な!!」


 竜之介の言葉が弦真の核心を貫く。その通りだ、俺の生き方は悲しい。そんな事は百も承知だ。それが俺と瑠璃に課せられた枷なのだから。その考えを、俺の鬼の面を、お前が消し去ってくれるのか? そんな止め処も無い思考が頭を駆け巡り、その答えを自身の力を持って竜之介に求めた。


「ならば見せてやろう、俺の真の力を!! 来い、伊吹いぶき!!」


*はい……弦真様……*


 現れた伊吹は艶のある見事な紺色の髪をで右目を前髪で隠しており、容姿は多可千穂と同一であった。その伊吹が夜刀とリンクした時、刻印が5つに蘇った。


「はははははっ!! どうだッ!! 竜之介!! これが『力』だああッ!!」


 高笑いを上げ、竜之介を見た弦真の顔が一瞬にして強張った。竜之介の顔には見覚えのある頬当が装備されていたからだ。


「遠目で見た時はまさかと思っていたが、その頬当は間違いなく宗政の物っ、何故お前が!?」

 

「それは、俺が宗政さんの意志を継いでいるからです」


「何だと……!?」


「出て来い、火目子」


*マスター、私を呼んでくれてありがとうっ!!*


 渦巻く炎と共に水晶から現れた火目子は直ぐ様、竜之介に抱きついた。その瞬間、風神が突然がたがたと揺れ始めた。


「うわっ、火目子、今こんな事している場合じゃない!! 炎対決だ。負けるなよ?」


*無論ですっ、マスター!!*


 右手で火虎の鍔を取り出した竜之介は静かに呼吸を整える。


「抜刀……火虎」


 弦真の目の前に赤い光を放ちながら火虎が姿を現す。火目子は察した様に火虎にリンクすると火虎の刀身に5つの刻印が表れ、それを見た弦真の顔付きが変わった。


「宗政、死してもまだこの俺を説き伏せようとするか!! だがっ!! 俺がお前に敗北するなどと万が一にもある筈がないっ!!」


 大きく足を広げ、夜刀を左斜め下段に構えた弦真はその刃を竜之介に向けた。


「俺の渾身の一撃を受けてみよ!! 秘技、夜刀双蛇ああっ!!」


 一気に剣を斜め上に振り抜いた時、炎を纏った大蛇と風を纏った大蛇がお互い絡み合い、唸りを上げて竜之介に襲い掛かかる。


「どうだっ!! この技、お前は到底破れまいいいっ!!」


 勝利を確信した弦真が謎掛けをする様に叫んだ。この一撃に全てを賭け、その答えを求めて。その先に何があるのか? いやある筈も無い。だが、その可能性の光が少しでも俺達二人を照らしてくれると言うのならば……それを見てみたい。そんな葛藤をしながら竜之介を見据えた。


 その答えを火虎と風神が指し示すかの様に美しい弧を描く。竜之介は体勢を低くして腰を落とし、両剣を掛け合わす。その流れるような動きの背後で弦真は宗政の幻影を見た。


――む、宗政っ……!?。


火虎戦龍せんりゅう……!」


 双方の剣を竜之介が一気に真横へ振り抜いた時、業火を覆った赤虎と旋風を纏った青龍が牙を剥き出しにしながら2匹の大蛇と激しく激突した。


 2匹の大蛇は赤虎と青龍の周りをぐるり巻きついて締め上げようとしたが、喉元に鋭い牙で喰らい付かれ、うねうねと胴体を激しく揺さぶり抵抗した後、ひび割れて消え去る。


「馬鹿……なっ!!」


 赤虎と青龍はその勢いを衰えさせる事無く、弦真へと襲い掛かった。


「うおおおおっ!!」


 歯を食い縛り全力で弦真は攻撃を受け止めたが、その力に押し負け、体ごと後方へ吹き飛ばされた。夜刀の刻印が3つ削り取られ、地面に倒された弦真が剣を地に刺して起き上がろうとした時、既に竜之介は下段に構えた風神の刃を弦真に向けていた。


「……っう!!」


「風神……爪殺そうさつ


 風神を突き出して手首を返し、竜之介が上に向けて高々と振り抜いた瞬間、大きく鋭い龍の爪が弦真に襲い掛かった。


「うおおおおおおおおっ!!」


 その爪は弦真の体全体を呑み込み、宙へと舞い上がらせた。致命的なダメージを受けつつも弦真は、密かに安堵の溜息を付き、今まで一時も耳を貸さなかった宗政の台詞を思い起こしていた。


――弦真、今一度己の信念に問い掛け道を正せ。そして貫き通すのだ。


「己の信念を貫け……か。ふ、フフフフ、わはははははっ!!」


 宙を舞う弦真の笑い声が辺り一面に響き渡る。その声は何かが吹っ切れた様なそんな豪快な笑い声であった。やがてその身は爪に押さえ付けられたまま地面に激しく叩きつけられた。


 爪が役目を終えて消え去った時、地面に埋まったまま弦真の武装は全て解除され、意識は既に途絶えていた。


*やっ、やりましたね!! マスターっ!!*


 火目子が火虎から飛び出し、武装を解除した竜之介に抱きついた。その後を追う様に風神から出てきたハルはその様を見ていきなり不機嫌になる。


*火目子とやら、お前むやみやたらに竜之介に抱きつくでない! みっともない!!*


 嫌味を思いっきり込めて言い放つ。火目子は横目でハルを見て見下げる様に鼻で笑った。


*別にいいでしょ? ではマスター、今度は「邪魔者」が居ない時に……ね?*


 そのまま竜之介の頬に軽く口付けをして消えていった。頬を押さえながら恐る恐るハルを見つめる竜之介。


*この、う……痴れ者め!! 馬鹿者!! 愚か者!! ふんっだ!!*


 罵声の雨を降らしながら、ハルも帰っていった。


「竜之介さんっ!!」


 今度は瑠理が竜之介に抱きつく。


「私……私……本当にこのまま竜之介さんが死んでしまうかと思いましたっ!!」


 抱き締める力が一層強くなり、竜之介は思わず中身が出そうな声を漏らす。


「ぐえ……る、瑠理さん、君のお兄さんは……!?」


 竜之介は瑠理の視線を追った。


「ううううう……」


 頭を押さえながら、ゆらりと弦真が起き上がった。


「竜之介、お前の技、見事だったぞ……ぐっ!!」


「兄上っ!!」


 瑠理が、弦真の傍に走り寄り、倒れ込みそうな所を必死で抱きかかえた。


「……瑠理」


「……兄上」


「約束だ、お前は今日から自由だ好きに生きろ……」


「あ、兄上っ!!」


 ずっと言えなかった言葉を吐きだした弦真はゆっくりと竜之介を見る。


「竜之介……お前は俺に『悲しい生き方』だと説教したな?」


「ああっ!! それは、その、すみません!!」


「気にせずとも良い……」


 慌てた竜之介を横目に弦真は苦笑し、空を見上げた。


「――昔」


「この俺に同じ事を言った奴がいたのだ……それこそこの俺と肩を並べる位強い男だった」


「そいつは、俺が認めていた男の一人だった」


「ある日、そいつと共に居た時に何故か瑠理の事を口に出した事があった」


「すると、そいつは俺に向かって平然と『悲しい生き方だな』と言いやがった」


「その日から俺の心は掻き乱され、ずっと葛藤していたのだ。その最中あいつはあっさり死んでしまった……」


「それは、宗政さんの事を言っているのですね……?」


 竜之介の問いに弦真は静かに微笑んで答え、言葉を続けた。


「それから俺の心は空っぽになってしまってな」


「そんな中、この場所でそいつと同じ臭いのするお前と出会い、戦って……敗れた」


 鬼の面を外し、昔の自分を取り戻した弦真は瑠理の背中を軽く押し、竜之介の胸の中へと飛び込ませた。瑠理はよろけながらも竜之介に黙ってしがみ付いた。


「俺は今から、自分の信念を貫きに行く」


「お前には、瑠理をそういう感情にさせた責任を取って貰う」


「えっ!?」


「瑠理、最後の命令だ。俺が認めたその男を生涯手放すな……絶対にな」


「はっ、はいっ!! 兄上ッ!!」


 見る見る内に顔が紅潮した瑠璃の手に一層力が加わった。


「ぐああっ!!」


 竜之介が悶絶する様を見てた弦真は優しく微笑む。


「瑠理、今までお前を苦しめて……本当にすまなかったな……」


「あっ、あにうえええっ……」


 弦真の本心を聞いた瑠理の顔は泪でぐしゃぐしゃになった。やがて弦真はいつもの厳しい表情に戻ると、踵を返してその場を立ち去った。


「あっ、あの、竜之介さん……私、ふつつか者ですが……ど、どうかよろしくお願いします」


 赤らんだ頬を両手で押さえ照れながら言った瑠璃に対し竜之介は汗を掻き掻き、その場で口をぱくぱくさせるのであった。


「……よし!!」


 弦真は見慣れた門の前に立った。その姿を見掛けた家臣が話しかけて来た。


「げ、弦真様、いきなりここに戻られるとは何か急ぎ御用でも!?」


 弦真の衣服がぼろぼろになっている事に気付いた家臣は驚きの声を上げる。


「ど、どうしたのです!! そのお姿は……ぼろぼろではないですかっ!! 一体何が!!」


「いいから……今すぐ父上に会わせろ……・」

 

 足早に弦真はひとつの部屋を目指して歩き始めた。


「弦真様っ!! お待ちくださいっ !! 弦真様っ!!」


 目的の扉に辿り着いた弦真は取っ手に手を掛け、力強く開いた。部屋の中に居る男はその大きな音と弦真の姿に反応し、怪訝そうに言う。


「……弦真、鬼の形相をして……何かわしに用があるのか?」


「父上……」


「……何だ申してみい?」


 父親に向かって二、三歩、歩み寄った所で弦真は静かに正座をし、頭を畳に激しく擦り付けた。

 

「父上っ!! これより取り計らって頂きたい事があります!! どうか、どうかお聞き届願いたくっ!!」


 顔を上げた弦真は、額から血を流しながら眦をつり上げ、己の信念を貫くのであった。



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