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■チェス退治?

 蛍は、最近何かを思い出しては締まらない顏をしている小梅を不思議そうに見ていた。


「ふふふふふ……」


 遂には口からもだらしない声が漏れ始め出す。蛍が小梅の顔の前で手をちらちらさせて見ても全く気付く気配がない。


「むー」


 蛍が訝しそうな顏をしながら、小梅の耳元にそっと口を近づけた。


「にゃあああッ!!」


「ひいいッ!!」


 小梅は夢から覚めた様に、目をパチクリとした後、ゆっくりと蛍を見る。


「蛍!? いっ、いきなり、何をするさね?」


 直ぐに小梅は驚いた表情をして、蛍を睨み付けた。


「小梅、最近様子が何か変にゃ。ずっと締まらない顏をしてるにゃ」


 蛍の言葉で小梅は明らかに動揺を見せる。


「は?なっ、何を馬鹿な事を言っているさね、何も有りはしませんなり」


 その瞬間、蛍の両目が星印の様に光ったかと思うとそのまま小梅に襲い掛かった。


「ぐええっ、蛍ッ、苦しいさねッ!!」


 蛍は小梅を羽交い締めしたまま息を荒げる。


「さあッ小梅!! ネタは上がってるにゃ!! 何があったか、洗いざらい全部吐くにゃッ!!」


 首を締める腕に更に力が加わった。


「わっ、分かったさねッ、蛍ッ、お願いだからこの手を緩めるさねええッ!!」


 蛍は意識が飛びそうになりそうな小梅の顏を確認すると、一気に力を緩めた。


「ぜっ、ぜっ、ぜっ!! うっ、うちを殺す気かさねッ、あんたわッ!!」


 小梅は強引に現実に引き戻され、目の前の酸素をありったけ肺に取り込んだ。


「で、何があったにゃ? ん?」


 小梅は人差し指と人差し指を突き合わせて、恥ずかしそうな顏をしてボソリと話した。


それを聞いた蛍は全身をわなわなと震わせた。


「にゃんだってええ!? りゅ、竜之介を小梅の家に連れ込んだだとにゃああ!!」


「蛍、かなり話が捻じ曲がってるさね!!」


「でも、槍を構えた竜之介の姿は本当に格好良かったさね……」


 小梅はまた回想モードに入ってしまった。


「うぬぬぬぬー。小梅に先を越されてしまったにゃ、これはなんとか挽回しにゃいと、マズイのにゃ!!」


 蛍は腕を組んで何やら考えている様子だったが、突然頭の電球が点灯した。


「じゃあ小梅、私は用事を思い出したからまたにゃあ!!」


 蛍は目的の場所を目指して一目散に走りだした。


 やがてその背中を捉える。


「あ!いたにゃッ!! おーい、竜之介、ちょっと待つにゃあ!!」


蛍の呼び掛けに何事かと竜之介は振り向く。


「あ、蛍さんどうしたんですか?そんなに慌てて」


 蛍は竜之介に真面目な顏をして話始める。


「竜之介、確か明日は休みだったにゃ? 丁度いいにゃ、実は大事な任務を竜之介に手伝って欲しいのにゃ!!」


「だ、大事な任務ですか? それは、一体どんな任務……んぐっ!!」


 竜之介が内容を確かようとした時、蛍にいきなり口を押さえられた。


「しーにゃ!! これは非常に重要な極秘任務なのにゃ!! 他の者に聞かれると非常にまずいのにゃ!!」


「はっ、はい!! すみません、蛍さん!!」


「うむ、分かればよろしいにゃ」


 蛍はうんうんと頷いた。


「実はだにゃ竜之介、明日とある場所にチェスの残党が出現するとの情報を得たのにゃ!!」


「な、なんだって?それは何処なんですかッ!!」


 竜之介は驚いた表情をして蛍を見た。


「待つにゃ竜之介、焦りは禁物にゃ。これは極秘に遂行せねばならんにゃ。当然、仲間にも気付かれてはまずいにゃ」


「そ、そうなんですか!! では、俺はどうすればいいのですか?言って下さい!!」


 二人の会話を戦具ポケットの中から顏をだして、胡散臭そうな顏をして天竜は聞いている。


「取り敢えず明日の朝、この場所で落ち合うにゃ。任務とは気付かれないように私服で来る事!! 以上健闘を祈るにゃッ!!」


「分かりましたッ、明日はよろしくお願いしますッ、蛍さん!!」


「うむうむ、任しておくにゃ!!」


 蛍は満足そうな顏をして立ち去って行った。竜之介は自室で明日の準備をしながら天竜に話し掛ける。


「師匠、極秘任務ってなんだか緊張しますね……」


 竜之介は真面目な顏をして言ったが、天竜は大欠伸をして気だるそうな態度で返事をする。


「まあ……これも修行だと思って行って来い。ちなみに俺は留守番でもして一人、茶でも啜っているからな」


「ええッ? 師匠、大事な任務だというのに俺に付き添ってくれないんですかッ?」


 竜之介が不満そうな顏をして言うと、天竜は既に部屋の隅に移動して丸まってしまっていた。


「し、師匠……」


 竜之介は極秘任務が気になり、なかなか寝付けないまま、当日を迎える事になる。


 そして、言われた通り指定された場所へ先に来て蛍を待っていた。


「ここって、バス停だよな……ここにチェスが?」


 竜之介が警戒しながら辺りを見回していると、聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。


「おーい、竜之介、待たせたにゃあ!!」


「あ、蛍さん、おはよ……うッ!!」


 竜之介は蛍の格好を見て思わず固まってしまった。


 蛍は自慢のツインテールに何時もの黒リボンでは無く、薄ピンクのリボンを付けていた。


 洋服に至っては、白で統一された半袖のワンピースにミニスカート、袖と裾には黒のボーダー二本線が印象的あった。


 蛍は小柄な体にも関わらず、しなやかに伸びた綺麗な足を黒白の縞模様のタイツを履き、そのラインを見事に描き出していた。


 竜之介が最も注目したのは、ミニスカートとタイツの狭間で、存在感を強烈にアピールしている絶対領域だった。


「竜之介、いつまで私に見惚れているにゃ?」


 悪戯ぽく笑った後、その場でくるりと回って見せる。肩に掛けた猫型のポーチが心地良さそうにふわっと浮いた。


「どう……かにゃ? 似合うかにゃ?」


 蛍の問い掛けに竜之介は大きく頷いた。


「ありがとにゃー。竜之介」


 蛍は、顏を赤らめながら微笑んだ。暫くすると、遠くの方からバスのエンジン音が聞こえて来た。


「よし、では極秘任務開始にゃッ!!」


「は、はいッ!!」


 竜之介達はバス停にやって来たバスに乗り込む。


 刹那、とてつも無い殺気に見舞われた。


「くっ!! まさか、チェスか!!」


 殺気のする方へ向いて身構えると、そこに女が二人、竜之介達を物凄い目で睨んでいた。


「あれ? 違うのか……?」


 竜之介が安堵の溜息を付いた瞬間、左腕に何か柔らかいものが当たる感覚を覚えた。


「何だ?」


 竜之介が自分の腕を見ると、そこに蛍が腕を組んで丁度肘の辺りに胸の柔らかい感触が伝わっていたのだった。


――蛍さん、身体が小さい割に出てるとこはしっかり出てるではないか!!。


 竜之介は動揺したが、直ぐに顏を横にぶんぶん振って、自分が極秘任務を遂行中だと戒めた。


「ほ、蛍さん、これでは動き難く無いですか?」


 困惑した表情をして言う。


「いや、身構えていると逆に勘付かれる危険があるにゃ、ここは自然体でいくにゃあ」


 更に竜之介に身体を密着させて来た。


「爆発すればいいのに!!」


 殺気立っている女二人の内の一人がぼそっと呟いた。


「な、何なんだ?」


 竜之介が不思議に思っていた時、車窓から観覧車が目に飛び込んで来た。


「あれは、確か十洞遊園地では!?」


 バスは迷う事無く、その遊園地を目指し走っていた。


 暫くするとバスは遊園地手前のターミナルで停車する。


「さっ、着いた!! 竜之介、とっとと降りるにゃッ!!」


 蛍は竜之介を引っ張る様に外に連れ出した。


「ちっ」


「ちっ」


 二人の女は次いで一緒に降りた時、竜之介達に舌打ちをして遊園地の中に消えて行った。


「……?」


 竜之介は何が何やら全く理解できぬまま、呆然としていた。


「竜之介、油断しては駄目なのにゃ!! 間違い無くこの中にチェスの残党がいる筈にゃッ!!」


「こっ、この中にですか!! 早く行かないと中の人達が危ないッ!!」


「竜之介!! 急いでチケットを買ってくるにゃ!!」


「分かりましたッ!! 直ぐに買ってきます!! ちょっと待っててくださいッ!!」


 竜之介はチケット売り場へ全速力で走った。


「すみませんっ!!」


 竜之介が言い掛けた時、二人の様子を見ていたチケット売り場の中年女性が微笑ましく言う。


「今日は妹を連れてきてあげたのかい?良いお兄ちゃんだねえ。はい、大人と子供のフリーパス、一枚ずつね」


「――うーむ」


 竜之介は言い直そうとしたが、中年女性のニコニコ顔を見ていると、何も言え無くなってしまった。


 黙って蛍にチケットを渡す。暫くして蛍の顔が曇り始めた。


「待て……竜之介、これはにゃんだ?」


 目が据わったまま、竜之介を見つめた。


「ええっと、フリーパスのチケット……かな?」


「それは、分かってるにゃ!! 何故に子供用になってるのにゃっ!!」


 蛍は急に売場の方へ走り出したかと思うとそこに着くなり、売場の中年女性に向かって、手振り身振りで何かを訴え始めた。


 そして、諭すようにあーだ、こーだと何かを言った後、満足気に竜之介の元に戻って来た。


「蛍さん、物凄く熱弁してたけど、大人用のチケットに変えて貰ったんですか?」


「うんにゃ、おばちゃんに兄妹で遊びに来たのではなくて、カッブルで、でー、でっ、じゃない、仕事をしに来た迄を説明してきたにゃッ!!」


「いちいちそんな事で、売場のおばさんを巻き込まなくても……」


「うんにゃ!!これはとても大事な言葉なのにゃ、では行くぞ竜之介!!早速任務開始にゃ!!」


 竜之介の手を引く蛍の顔はとても楽しそうだ。


 園内に入ると蛍は彼方此方を見回しだし、突如何かを見つけると、竜之介の袖をぐいぐいと引っ張った。


「竜之介、向こうに私ら人間に扮したチェスが居たような気がするにゃッ、行ってみるにゃッ!!」


「はいッ!!」


 竜之介が蛍に連れられて来た場所、そこはジェットコースター乗り場だった。


「え?ここ?」


 竜之介が唖然とした表情をして言う。


「竜之介、油断しては駄目にゃ!! きっと奴らが居るからしっかり周りを見てみるにゃ!!」


「確かにそうですね!!」


 竜之介達は行列に並んで人間に扮したチェスらしき者がいないか辺りを見回す。そうこうしている内に竜之介達の番が回って来てしまった。


「ううむ、居ないなあ」


「竜之介、ぼけらーとしてにゃいで、さっさと乗るにゃ!!」


「はい……って、え? 蛍さん!?」


 蛍が竜之介を引き摺り込む様に横へ着席させると、二人一組専用の安全バーが降りてきてロックが掛かった。


「ご乗車誠にありがとうございます。このコースターは、カップル専用のラブコースターでございます。どちら様も片時も離れませんよう、しっかりと抱き合って下さいませ」


 アナウンスを聞いた蛍が竜之介にぴったりとくっ付いた。


「うわわっ!!」


 竜之介は動揺が隠せない。


「竜之介なにしてるにゃ、早く竜之介も私を抱き締めるにゃッ!!」


「ええええッ!?」


 ラブコースターは問答無用で徐々に上へ登り始めた。


「ほらほら、早くするにゃ」


 少し頬が赤みがかった蛍が竜之介に催促をする。


「うううっ、蛍さん、失礼しますッ!!」


 竜之介は蛍に断りを入れて、思い切って抱き締めた。


「にゃあ」


 蛍から香ってくるとてもいい匂いが竜之介の鼻をくすぐった。


――蛍さん、いい匂いだなって、それよりも胸がめちゃくちゃ俺に当たってるんですけどおッ!!。


 竜之介が邪な思考をしていた時、ラブコースターが頂上まで達し、何かの金属が外れる音がしたかと思うと全体が垂直に傾いて、一気に滑り落ち始めた。


「どわあああああああッ!!」


「ふにゃああああああッ!!」


 ラブコースターは加速しながら右へ左へ旋回し、二人が離れる事など許されない程、トリッキーに動いた。


「ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」


 竜之介はふらふらになりながら、階段を降りていく。


 蛍はスナップショットで映されている自分達の画像を写真化して、にんまりとしていた。


「いかん、遂勢いで乗ってしまった……しっかりチェスを探さなければッ!!」


 竜之介が自分を戒めた時、突然蛍が指を指して叫ぶ。


「竜之介、彼処にチェスがいるにゃッ!!」


「え!?何処にですかッ!!」


 竜之介がその方向に目を向けると確かに蛍が言った通りチェスがいた。


「人形?」


 棚段の上にはチェスのナイトとか、ビショップの人形が置かれており、それを客が玩具のライフルで狙い撃っていた。


「さあさあ!! あそこで踏ん反り返っているルーク人形を倒せば、十洞山にいるという、幻の大つちのこの縫いぐるみ付きリュックを差し上げるよッ!!」


「あの……蛍さん?」


 竜之介が蛍の方を見ると、目を爛々に輝かせてリュックを見ていた。やがて竜之介の視線に気付くと、平静を装って咳払いをする。


「あー。竜之介君、来る戦いに備えて私達も予行演習をしとくにゃ」


――いや、俺も蛍さんも銃器使わないし。


 竜之介が心の中で独り突っ込みを入れた時、蛍はさっさとお代を払って、お立ち台からつま先を立てて、一生懸命ルーク人形を狙っていた。


「うぬぬぬぬ、安定しにゃい。こんな時に音々がいればにゃあ……」


 ありったけ腕を伸ばしている蛍を見て竜之介は何だか穏やかな気持ちに包まれた。


 蛍が撃った弾の何発かが偶然にもルークの人形に当たるも少し揺らいだだけで倒れる迄には至らなかった。


「いやあ、惜しいねえ!! 嬢ちゃん!!」


 店主がわざとらしい態度を取って残念がる。


 やがて、全弾撃ち尽くした蛍が大きな溜息を吐きながら竜之介の元に戻って来た。


「ぐぬぬぬ、残念ながらリュックを手に……もとい、ルークを倒す事が出来なかったにゃあ」


 残念そうな表情をしながら、景品の大つちのこリュックを見つめていた。


――蛍さん、もしかしてあのリュックが欲しいのか?。


 竜之介が何かを思い付いて店主に言う。


「あの、このライフル、二丁同時に使っても良いですか?」


 竜之介の不思議な質問に店主は笑って答える。


「ははは!! 面白い事を言い出す兄ちゃんだな!! いいよ、やってみな!!」


店主の笑みの裏側は、どうせ何をしても倒れる筈は無い、そう思っていた。


「ありがとうございます。じゃあ、挑戦させて貰います」


 竜之介は2回分のお代を払ってライフルを両手に持つ。その様子を蛍が不思議そうな顔をして見ていた。


「銃とか俺は扱った事は無いけど、銃口って剣尖と何ら大差ない気がする」


 竜之介は大きく息を吸ってから呼吸を整える。


 その瞬間、竜之介の周りが静寂に包まれた。


 そして、双剣を扱う感じで上下にライフルを構え、ルークの人形にゆっくりと照準を合わせた。


 刹那、二発の弾がタイミングをずらしながら銃口から発射される音が木霊した。


 最初の弾がルーク人形に当たってぐらいついたかと思うとすぐに二発目の弾が人形を倒しに掛かり、竜之介の狙い通りルーク人形が棚から溢れ落ちた。


「嘘だッ!! 普通の者なら絶対倒せない筈なのにッ!!」


 店主が思わず叫んだ。


「ふふふ……店主よ、油断したにゃ、竜之介はちょっとそこらの男は違うのにゃ、何せ持ってるのだからにゃあ」


 蛍は戦利品の大つちのこリュックを手に取りながら自慢気に言った。


「持ってる……男……」


 店主はその場で崩れ落ちた。


 蛍は嬉しそうにリュックを背負いくるくると回る。


 竜之介はその後ろ姿を見て思わず吹き出しそうになった。


――大つちのこが蛍さんを後ろから食べている!!。


 蛍が背負った大つちのこはかなり大きめで、すっぽりと蛍の姿を隠してしまっていたのだ。


 それ以降もずっと蛍のペースに引き回され、竜之介は彼方此方の建物に入ったり、乗り物に乗せらる羽目になってしまった。


 日もすっかり暮れ始め出した頃、大つちのこを抱いた蛍が少し寂しそうに言う。


「じゃあ竜之介、最後に観覧車を調べて終わりにしようかにゃ?」


「はっ、はい、分かりました」


 竜之介はもうヘトヘト状態だった。


 二人が、乗り込んだ観覧車が徐々に高度を上げ、十洞の街並みをパノラマの様に映しだす。


 竜之介はそのパノラマの街並みに街灯がぽつりぽつりと灯る様子を眼下に置きながら溜息混じりに言う。


「結局、チェスは見つからなかったなあ……まあ、良い事なんだけど……」


 竜之介がぼーっとして、窓越しから外の景色を眺めていた時、自分の頬に柔らかい感触を感じ取った。


 慌てて振り向くと、蛍が目の前で恥ずかしそうにしてにっこりと微笑んでいた。


「竜之介、今日一日私との極秘任務にずっと付き合ってくれてありがとにゃ。お陰様で任務は大成功にゃッ!!」


 言って、大つちのこを嬉しそうに抱き締めた。


「任務が――大成功?」


 蛍の言った事が理解できぬまま、竜之介は帰路に着いた。


 自室に戻ると竜之介は、公言した通り部屋でのんびりと茶を啜っている天童に聞いてみる。


「師匠、今日のチェスの残党を探す極秘任務なんですけど、結局見つからなかったんですが蛍さんは任務成功って言ったんです。これは一体どういう事なんですか?」


 竜之介の質問に天竜は湯のみをゆっくりと置いて大きな溜息を吐いた。


「竜之介……お前を見た時は馬鹿が付くほど正直な奴だと思っていたが、まさかこれ程とはな……」


 竜之介は未だ天竜の言っている事が理解出来ずにいた。


「師匠、それってどういう意味なんですか?」


 竜之介の返事を聞いて、天竜は苛立った口調で机を叩く。


「あのなお前、今日の極秘任務とは蛍とのデートの事だったのが未だ気付かないのか?」


「え? デートぉ!?」


 竜之介は暫く沈黙した後、突然頭を抱えながら大きな声で叫ぶ。


「うそおおおッ!! あれって、でっ、で、デートだったんですかああ!!」


 その様子を見た天竜が呆れた顔をして言う。


「やれやれ、竜之介を好きになる女も大変だな、こんな馬鹿正直超鈍感男に何時気持ちを気付いて貰えることやら……」


 竜之介が真実を知り、そのショックでうちひしがれている頃、蛍はベッドで大つちのこに抱き付きながら今日の出来事を思い出していた。


「風間……竜之介。本当、真っ直ぐないい男だにゃ……」


 蛍は嬉しそうに微笑みながら、夢の中の竜之介に会いにいくのであった。


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