■竜之介の秘密
竜之介は自室で天竜と向き合っていた。
天竜は腕を組んで目を瞑り、竜之介は目を大きく見開き呆然としている。やっと我に却った竜之介が、重たい口を開いた。
「……ははは、師匠、冗談はよしてくださいよ。嫌だなあ」
天竜は何も言わない。
「師匠……本当に、俺の体の中には、チェスの闇が存在していると、そう仰るのですね?」
今度は天竜は黙って頷く。
「いや、ちょっと待ってください!! 俺には何がなんだかさっぱり分かりません。ちゃんと説明してくださいッ!!」
竜之介が力任せにテーブルを叩くと同時に湯のみと天竜が浮き上がった。
天竜は茶を啜りながらゆっくりと昔話をし始めた。
「俺は昔、戦の最中クイーンを助けたことがあってな」
「なっ? クイーンを、助けた?」
竜之介の驚いた表情を見て天竜は苦笑した。
「俺自身にも理解出来なかった。何度も自分に問い掛けた、お前が今行おうとしている事は、反逆罪だとな」
「仲間がクイーンを追い込み、俺が止めを任され、クイーンを袋小路に追い詰めた時、俺は見てしまったのだ。面を上げ、澄んだ瞳を潤ませたクイーンの素顔を」
「俺は振り上げた風神をどうしてもクイーンの頭上に振り下ろす事が出来なかったのだ」
「気が付くとクイーンの手を取り、無我夢中で走り出していた。今の自分の立場も何もかも捨てて」
「そして……俺とクイーンの赤子が誕生したのだ」
竜之介は愕然としていて、天竜が言っている事が耳に入っているかどうかも分からない状態だった。
「それから俺は直ぐに腐れ縁のイカれた研究者に赤子を見せた」
「そいつに言われたのだ、この赤子は間違い無くチェス化するとな」
天竜の衝撃的な言葉を聞いて、竜之介は言われた事を繰り返して言う。
「間違いなく、チェス化する……そんなッ!!」
「な、なんとか出来ないんですかッ!!」
竜之介が詰め寄ると、天竜は茶を啜って一息付いた。
「だからそれを俺が……」
天竜が昔話の続きをしようとした時、突然部屋の中に呼び出しのチャイムが鳴り響いた。
「ま、待ってください、誰かが俺の所に訪ねて来たみたいです!!」
竜之介は直ぐに部屋のモニターで確認する。
「も、元治!? 俺に一体何の用なんだ?」
竜之介は急いで、部屋のドアを開けた。
「いよおッ、竜やん!!」
元治は屈託無い笑顔で挨拶をした。
「俺の所にわざわざ来るなんて、何か大事な用か?」
竜之介が警戒する表情をしながら言うと、元治は声のトーンを一段低くして返事をする。
「ああ……大事も大事、一大事じゃ。竜やん、済まんが今からわしに付き合ってくれんかのう?」
元治の返事が冗談では無い事を理解すると、竜之介は黙って頷いた。
「……こっちじゃ」
竜之介は肩に天竜を乗せ、元治の背中に続いていると、やがてチェス関連の施設領域へと足を踏み入れた。
「ちょっと、ここで待ってくれ」
元治は、壁にあるカードリーダーにカードを通す。
竜之介が元治の行動を不思議そうに見ていると、カードリーダーのランプが赤から緑へと変わった瞬間、壁から入り口が出現した。
「んじゃ、行こうや」
内部に入ると、入り口はすぐに消えて無くなった。
すぐ目の前にエレベーターがあり、元治がそれに乗ると、タッチパネルの表示が「B1」の表示だけだったのが新たに「B2」の表示が現れた。
元治と共にそのままB2へと降りていく。竜之介の頭が不安で一杯になった時、その扉は開かれた。
竜之介が辺りを見渡すと、様々な機械や装置が所狭しと犇めき合っているのが見えた。
その中に紛れ、じいっとモニタを眺めている白衣を着た女が居る事に気付く。
女は竜之介達の気配に気付くとこちらの方に向き直り、にっこりと微笑む。
「やぁ、我が愛しの弟よ、よく来たね!! それから、そちらがかの有名な竜之介君かな? 初めまして」
「私は毛利唯、しがない研究員だよっ!!」
唯のハイテンションな挨拶に元治の顔が思いっきり歪んだかと思うと、竜之介は慌てて視線を逸らした。
「姉貴……、なんで白衣の中が下着なんだよっ!!」
元治が姉貴と女を呼んだ瞬間、竜之介は思わず顔の一部分に注目していた。
「太い眉は、兄妹そっくりだな」
竜之介はポソリと呟いた。
「いやぁー、この中はご覧の通り、機械と装置だらけだろう?流石に暑くてねぇ。まっ、気にするな愛しい弟よっ!!」
元治は、目に手を当てて怒りを露わにする。
「馬鹿姉貴ッ!! わしが何ともなくても、竜之介が困ろうがあっ!!」
その時竜之介は目のやり場に困って床一点を見つめていた。
「なんだ、なんだ、竜之介君、この私に女を感じてしまってるのかい?いや、照れるねぇ、まいっちゃうねぇ」
唯は竜之介近づいてくるや否や、いきなり抱きついてきた。
「どうだい? どうだい? 竜之介君、ほれ、柔らかいだろう? いい臭いだろう?」
竜之介はどう反応していいかも分からずにされがるままだった。
次に唯は竜之介の体をあちこち触り始め興味津々の表情をして言う。
「いいね、いいねこの体!! 弟が言った様に不思議がいっぱい詰まってる感じがするねぇ、うんうん」
唯が竜之介の腕を取って、頬ずりをしているのを見た元治は竜之介から強引に引き離す。
「いいから、竜之介から離れろ!! この変態女っ!!」
「妬くな妬くな!! 私の可愛い弟よ!!」
「馬鹿じゃねーの!! 誰が妬くかっ!!」
唯は元治から動揺した反応を伺うと悪戯っぽく笑い、デスクに手を置いて真剣な一面を見せる。
「で……最愛なる弟よ、竜之介にはちゃんと言ってやったのかい?」
「いや、姉貴、今から言うところじゃい」
竜之介は元治が次に何を言わんとしているのか、粗方予想が出来ていた。
「竜やん……聞いて驚くなよ?おそらくお前には……チェスの血が流れとるんじゃあッ!!」
竜之介は、天竜からその事実を既に告げられていた為、一応驚いた表情を作った。
「お前クイーンと戦った時、殺気を制御出来んかったじゃろ?……
あれはなぁ、何を隠そうチェスの殺気で、お前の持つ闇属性の暴走だっんじゃあッ!!」
元治が何かの刑事ドラマ風に真相を言った時、今度は唯が口を挟み説明を重ねた。
「竜之介君、我が溺愛する弟は今、とある隠密調査をしているんだが、その任務を真面目にやればいいものの、この私の熱い研究心を受け継いだのか、大層君の風間一族について興味を持っていてな」
「元治が、隠密調査??」
竜之介が疑問を口にすると、直ぐ様元治が口を挟む。
「わしの事はええんじゃ、竜やん、お前の一族、初代風間天竜について、調べさせてもらったわ」
元治が言った瞬間、竜之介は肩の天竜に目を向けた。
「まあ、名前にピンとこんじゃろう? そりゃそうじゃろ、この男は国絡みで隠蔽されとるけんのう」
「――隠蔽?」
「天竜はこの拠点が総攻撃にあった時、その当時のルークを倒した強者で、王将に匹敵する位の剣豪じゃったらしい。ところがじゃ、天竜はある戦の最中、忽然と姿を消したんじゃ」
「その謎の答えは……全てここにあるんじゃ」
元治は懐から小さなスティック状の媒体を取り出した。
「これは……門外不出のモノなんじゃけど……」
それを唯に手渡す。
「最愛の弟が言っていたモノか、さて何が出ることやら……」
その媒体を装置に挿入すると、上部の大型モニターに男が二人映っている映像が流れ始めた
。
一人は白衣を着た研究者でもう一人は赤子を手に抱いた剣士であった。暫くして装置に接続されたスピーカーから音声が聞こえ始めた。
「ひっ、ひっ、ひっ、天竜よ、とうとう覚悟したらしいな……」
「ああ……もう決めた事だ。俺に迷いは無い」
「ひっ、ひっ、馬鹿なヤツだ……。よりによって、クイーンを助けるなどと……」
「しっ、仕方なかろう!! あの場合はああするしか……」
「それで、立つ鳥後を濁さずか、ひっ、ひっ」
「ひっ、ただ……、今から行なう術式は決して成功率は高くないぞ……?」
「それは、まともなヤツが言う事だろ? お前野のようなイカれた研究者から出る言葉ではない」
「ひーっ、ひっひっひっ!! 言ってくれるねえ、お前の子孫はお前の身勝手な行動によって、これから恐ろしい時限爆弾を背負う事になろうと言うのになあッ!!」
研究者は一枚の図面を両手に持って机に広げた。そこには人体図が記され、中央部分には闇を中心に火と風で覆われている絵が描かれていた。
そして、赤子が天竜から研究者に引き渡される。その赤子は研究者に渡されても泣きじゃくる事無く、すやすやと眠っていた。
「ひっ、ひっ、天竜よ、本当にやるのじゃな……?」
「ああ……頼む。この子には普通の人生を送らせてやりたいのだ……」
「俺はこれから人柱となり、未来永劫一族を見守っていくのだ」
「ひっ、ひっ、ひっ、そうか、良かろう、では、早速始めようじゃないか」
そこでノイズが走り、映像が終わった。
「ふむ……・なるほど」
元治の顔をみて唯が頷く。そして次に竜之介を見て説明を続ける。
「まぁ、天竜はその時のクイーンとこともあろうか、禁断の恋に落ち、赤子をイカレた研究者のイカれた術式を受けさけ、今日までその爆弾を抑えてさせていたという訳だ」
竜之介は、更に天竜を覗き込む様に見たが、天竜は気まずそうに視線を横へ逸らした。
唯は白衣と下着をチラつかせ、説明を続ける。
「さっき見た風と炎で闇をオブラート状に包んで無効化していた訳だが……どういう訳かその闇と炎が大きく影響し、その均衡が崩れてしまった……と。普通ならまずあり得ない筈なんだがね……」
腕を組んでずっとその説明を聞いていた元治が口を開く。
「そこじゃ。わしは最初竜やんをみた時、こう言っちゃあ申し訳ないが、なんの力も感じてなかった。正直入隊試験も落ちると思っていたんじゃ」
元治は竜之介の方を向いて、手を合わせて謝る仕草を見せた。
「……ところが、再び現れた竜やんは別人じゃった。その時はおっそろしい力を感じたわ」
言い終えると、竜之介の目をじっと見て真剣な表情をする。
「竜やん、これまで一体何があったのか、わしに全部話してくれんか?」
そう元治が言った時、
「では、ここからは俺が話してやろう」
天竜が兄妹の前でいきなり口を開いた。これには、元治も唯も驚きの声を上げる。
「なっ!! なんぢゃあああ? 小動物がいきなり喋りだしたあああッ!!」
「すっ、素晴らしいッ!! 君はなんて素晴らしい不思議体験をしているんだいッ、竜之介君ッ!!」
二人の動揺振りを見た天竜は不敵に笑う。
「どうも、見事クイーンと禁断の恋に堕ちた天竜様だ。よろしくな二人共」
元治は天竜を指差したまま、池の鯉が水面上で餌を食べている時の様に口をパクパクさせていた。
そこから天竜は、これまであった事を全て話した。
「やっぱりか……!! 長信は秀光に殺されたんじゃな?」
落ち付きを取り戻し、全ての事実をなんとか飲み込んだ元治が確信した様に言った。
「いやぁー、それはとても信じられない出来事だねー。二人の亡霊が竜之介君を指導して……へぇ……それはかなり、現実離れしてる話だねー」
当然の返事を唯から聞いた竜之介は苦笑した。
「いや、流石に無理があるし、信じてくれと俺は言わないが……」
「いやっ、いやっ!! 竜之介君、私は君を信じるよ、ああ、信じるともさッ!!なんならこの私の体を賭けてもいい!! どうだね?」
――白衣を広げて、どうだね? とか言われてもなぁ……。
「姉貴……ふざけてないで、これからどうする? この事はわしらだけの秘密にして、何らかの対策を考えるか?」
「ああ……それなんだが、解決策はあるぞ、といっても竜之介次第なんだがな……」
突然天竜が口を挟んで、先程の映像について補足をし始めた。
「お前達も見た通り、一族に宿ったのチェスの闇は俺と先刻の研究者、間戸が作り出したクローンの闇と火の属性を用いて抑えていたのだが、それが竜之介に宿った時、長信と宗政の介入によって真の闇属性と火属性に変化してしまったのだ」
「その影響で間戸が施した術式が崩壊し俺の魂は外へと押し出され、闇自体が長信の正、チェスの悪の真っ二つに分断された」
「つまり、普段の状態であれば竜之介がチェス化する事はまず有り得ない。何故ならその2つの闇は秤に乗った分銅の役目を果たしているからな」
「ところがだ、竜之介が殺気の具現化を使用し限界を超えた時、長信の闇を使いきり、今度はチェスの闇の領域に入ってしまう。すると、分銅の均衡が悪に偏ってチェス化の引き金になってしまうという訳だ」
「竜之介は分かっていないだろうが、長信と宗政が消えたのは天に召されたとかでは無く、実際にお前の中でそれぞれの属性として宿り、お前を守ってくれているからだ」
竜之介は天竜の言葉を聞いて胸の奥が熱くなった。
「長信さんも、宗政さんも……まだ俺の中に居る……今も守ってくれている」
「成る程、大筋は理解したが結局、竜之介を完全にチェス化させない手段ってのはあるのかい?」
唯が天竜の説明を聞いた後、核心を突いて来た。
「ある」
天竜の言葉は竜之介にとって目の前に眩い光が照らされたかの様に感じられた。
「ほう、それで? その方法とやらは?」
元治が身を乗り出して天竜に問い質した。
「うーむ……それなんだがなぁ」
突然、天竜が言い渋り出す。
「師匠!! それはあんまりですッ!! その方法があるのなら教えてくださいッ!! 俺が出来る事なら何でもしますからッ!!」
竜之介の言葉を聞いて天竜は横目で見た。
「確かに出来るがなぁ……」
「師匠おおッ!! 俺が出来る事なのに何を躊躇しているのですかッ!! 有言実行!! 今すぐ行動しましょうッ!!」
竜之介は興奮気味に言った。
「……れ」
「え? 師匠、今何と?」
「契れと言ったのだ」
「契りですか!! なるほどッ!!」
竜之介が叫んだ瞬間、部屋の中に暫く静寂が訪れた。
「……は?」
「お前、今すぐ実行するのだろ? さっさと行って契って来い」
「えええええええ??」
竜之介は一気に顔が真っ赤になり、頭の先から機関車の様に煙を上げると、その場に倒れ込んでしまった。
「天竜殿、それは本当なのかい?」
唯が苦笑しながら言った。
「うむ……あの映像の後、間戸がこう言ったのだ」
「もし、私が作ったクローンの属性が本物に成り得るのなら、その者の中で一つの秤が完成し、その秤は異性の属性によって、永遠に固定される事じゃろう……とな」
「で、当然俺は聞いたのだ、それはどうやって実現するのかと」
「すると、間戸は高笑いをして言ったのだ」
「無粋な奴め、男と女がやる事は一つだろう? とな、あの時、俺は思わず赤面してしまったぞ」
天竜から全ての話しを聞き終えた唯は愉快そうに笑った。
「いいねえッ!! なんて面白い運命を背負ってるんだ、竜之介君はッ!! 君、最高だよッ!!」
それを聞いた元治が竜之介に同情して言う。
「やめんかい、竜之介本人にとっては一大事な事なんじゃぞ?」
唯は暫く何かを考えていたが、突然何か閃いた表情を見せた。
「そうそう、竜之介君、幸にもこの私の中に氷の属性があってだね……天竜殿の言っている事が真実かどうかを試して見る気はないかい?損はさせないよ?」
そう言って、竜之介にゆっくりと近づき両腕を背中に回した。
「年上の女性もなかなか良いものだぞ……」
竜之介の背中をさわさわと触り始めたが、唯がその動きを突然止め、口元を歪めた。
「くっ!! これはっ??」
直ぐに竜之介の背中に手を突っ込み何かを引きずり出して投げ捨てた。
その物体は薄型の機械で時折青く点滅していた。
「間違いないッ!! 高性能の盗聴器、しまっ……」
その瞬間、その機械は白い閃光と共に小さなと爆発音を上げて消滅した。
「この私とあろう者が油断した。せっかくの私と竜之介君だけの秘密が……」
この時、「えっ? 俺は?」みたいな顔を元治がした。
「竜之介君、君はこれから私を含め誰か一人決めるしかないのだよ? いや、今ここで私を選択すればなんの問題も無いと思うのだがねぇ?」
唯が竜之介に迫った時、勢い良くエレベータの扉が開いた。
そこから小梅、蛍、音々、瑠理、姫野、美柑、玉美がダムが決壊したかの様に飛び出してきた。
「お、お前達、どうやってここに……??」
唯は信じられないといった表情を見せた。
「唯さん、先程の話しかとこの耳で聞かせてもらったさね。竜之介、水なら私の水が甘くておいしいさね」
――蛍かっ、俺はっ!!。
「ええいっ!! 黙れ小娘!! 竜之介、同じ年上でもこっちの方が唯より数倍お徳だぜえ?」
美柑さんが、小梅の言葉に割って入る。
「ふっ、美柑、何を戯言を。貴様の熟し過ぎた果実など、私の計算し尽された美しい果実に足元にも及ばないわ」
唯が言い返す。
「うーにゃ!! 竜之介には私の土属性がふさわしいのにゃ!! 絶対絶対絶対にゃっ!!」
「いえ、竜之介様には私と同じ風属性がお似合いかと……」
「瑠理、あんた何を言っているなりか、竜之介には私の氷属性こそ相応しいなりよ?」
音々が瑠理を威嚇する。
「ほーっほっほっほっ、貴方方見苦しいですわね、私は竜之介にあまり興味とかありませんけど、竜之介がどーしてもというのでしたら、そっ、そうですわね、わっ、私の雷属性をほんの少し、ほんの少しだけ、分けてあげても、よっ、よろしくってよ!!」
「玉美、顔を真っ赤にして何ふざけた事いってるにゃ!! 竜之介に興味がにゃいなら、ここまで付いてくんにゃあ!!」
「おっ、おだまり!! この猫娘があッ!!」
「ふにいいっ!!」
玉美と蛍が睨みあう。
「……竜之介……契るって、私はどうしていいか分からない」
姫野が困惑した表情を見せる。
「もっ、元治っ、俺はどうすりゃいいんだよッ!!」
竜之介は涙目で元治を見た。
「はぁ……。わしゃなんか馬鹿馬鹿しくなってきた。もう、お前ら勝手にしてくれ」
「そっ、そんな、殺生なぁああッ!!」
その日、研究所の地下の方から――大勢の女性が揉める声がした。という噂が上がったのは言うまでもない。




