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■闇の悪女ドゥルガーとの出会い

[おまえラ餌ハ、みんなここで死ねッ!!]


 この戦いをまるでゲームか何かの様に楽しんでいるクイーンは、馬型と同じ様な馬に跨り、真っ黒なランスを馬上から振り翳した。


 そして、力強い蹄の音と共にランスで風を切り裂きながら、竜之介の胸を突いて来た。


 クイーンの攻撃は正確で、確実に竜之介の魂を貫かんとする一撃であった。


「くっ!!」


 竜之介は獄龍でそれを受け流そうとする。


「こっ、このッ!!」


 竜之介は全ての力を獄龍に注ぐが、脅威的なランスの力に押されて、身体毎後方へ吹き飛ばされてしまった。


[ハハハハハッ!!]


 その光景を見てクイーンが高笑いをした。


「わああぁっ!!」


 そのまま地面に叩きつけられ、砂煙を上げながら鞠の様に転々と転がった後、岩場で頭を強打した。


 竜之介はぐったりとしてそのまま動かなくなった。


*主、起きろ。こんな女に負けては駄目!!*


 黒子が獄龍から飛び出し、竜之介に呼び掛けた。


[人間――餌ハ簡単に死んでいク……]


 双眼鏡で様子を見ていた玉美が、竜之介の死を確信して気が抜けた様に口を開いた。


「ふん……これで竜之介もお終いですわね……拠点に戻って早速、秀光様に報告を致しますわ」


*ちょい待ち!! これを見てみろよッ、アイツ生きてやがるぜッ!!*


「姫羅理、何を言ってますの?流石にあの様子ではっ……て、嘘ですわっ、こんな事がッ!!」


 玉美が再度確認した時、竜之介が頭を横に振りながら、ゆっくりと身体を起こした。


「ぺっ、ぺっ、ぺっ、くっそー、なんだよ、あの馬鹿力はッ!!」


 竜之介は、口に付いた土を吐き捨てながらクイーンを見た。


*流石我が主、惚れ直した*


 黒子が目を覚ました竜之介に抱きついた。


「わわっ!! 黒子どうした? 何で出てきちゃったの?」


*主が中々目を覚まさないから。でも、もう安心*


 直ぐ様黒子は獄龍に戻っていった。


[なんだと!? まだ生きてルのカ?! こんなの初めて見たぞッ!!]


 竜之介が獄龍を構えながら、ふらふら立ち上がるのを見たクイーンは、驚いた口調で言った。


 竜之介は甲冑に絡みついた草木を払い除け、クイーンを睨みつけた。


「このっ、よくもやってくれたなっ!! 師匠!! ここは大技を繰り出して勝負します!!」


叫びなから天竜に声を掛けたが、返事は無かった。


「あれ?師匠、ちゃんと聞いてますか……って、あああッ!!居ないッ!!」


 戦具ポケットを見た時、確かに先程までいた天竜は蛻の殻だった。どうやら竜之介が吹き飛ばされた拍子に天竜は戦具ポケットから、投げ出されてしまった様だった。


刹那、


「竜之介!! 俺はここだあッ!!」


 天竜が近くの茂みから姿を現して叫んだ。


「師匠、良かった!! 無事だったのですね!?」


「俺の事は良い!! クイーンは、かなり強いぞッ、戦いに集中しろッ!!」


「はいッ!!」


 竜之介は気合を入れて返事をすると、足を踏ん張り獄龍を下段に構えた。


[面白イ餌、否、人間ダ……次いくぞッ!!]


 クイーンは久々に手応えのある敵――竜之介を見て嬉そうに叫ぶと、再び竜之介の方に向かって、ランスを構え真っ直ぐに突っ込んで来た。


[人間!! 今度は、ちゃんト、殺してやろうッ!!]


「やれるものらなら、やって見ろ!!」


 竜之介は手首を返し、刃先を斜め上に向けた。


[そラ串刺しダあッ!! さらばダ、人間ッ!! ]


「せいいいッ!! 獄龍……陣破あっ!!」


 ランスの先と獄龍の刃が互いの力を誇示するかの様に激しい音を立ててぶつかり合った。


 刹那、


 その反動で空気が震え、円形となって凄まじい風を巻き起こし、周囲へ駆け抜ける様に広がっていった。


[うおオ!?]


 クイーンは竜之介が自分のランスによって串刺しとなり、その肉片は腐った果物のようにぐしゃぐしゃに飛び散る様を想像していた。


 だが、その結末は誰もが予想出来ない物であった。


 竜之介は足から土煙を上げ、幾つもの小石を四方に飛ばして後方に押されながらもその攻撃を獄龍で受け止めていたのだった。


 「はああっ? なんです、いっ、今の? あのクイーンの攻撃を獄龍で受け止めましたわっ!!あっ、あり得ませんわッ!!」


*すげぇ!! すげえぜ竜之介ッ!! なんて男!! こりゃ神も腰を抜かすぜええッ!?*


 玉美達は、竜之介を罠に陥し入れた事も忘れ、身を乗り出しながらその光景を見ていた。


[な、なんダ??]


 クイーンは今自分が、馬上で静止している事実に驚きを隠せず、あちらこちら見回した。


「おりゃあああ!!」


 竜之介は獄龍でランスの上を取り、そのまま下へと、押さえ付ける。


 馬はその行為を嫌うように何度も抗ったが、獄龍の重圧に負け、遂に前足を地に付けさせられてしまった。そして、一度足が土を舐めさせられると、そのまま大人しくなり、その場から動かなくなった。


[馬を止めタだと……?]


 クイーンは成す術も無く、ランスに力を込めたまま、馬から降りた。


[人間、お前ハ強い!! 初めテ馬から降ろされたゾ!! 名ハ、なんテ言ウ?]


 クイーンは嬉しそうに言うと、ランスをくるりと回し、獄龍の束縛から離脱した。


 この時クイーンは、今だ曾て自らが、ましてや餌同然の人間に対して名を尋ねると言う行為に驚いていた。それだけ竜之介は強いとクイーンが認めたのだ。


「俺は……竜之介、風間竜之介……・お前は?」


[私ハ、ドゥルガー。リュウノケか!! ドゥルガー覚えタ!! さア、リュウノケ!! もっト私ヲ楽しませロ!!]


「俺、リュウノケじゃないんだけどな……」


 竜之介は、戸惑いながらも自己紹介をした。目の前ではしゃいでいる小柄なドゥルガーを見ると、とても闇の悪女と恐れられている敵には到底見えなかった。


 が、今立っているのは正真正銘の闇の悪女だ。この女はこれ迄兵を何百人と血祭りに上げているのだ。見かけに騙されては駄目だと竜之介は身構えた。


「りゃあああッ!!」


 竜之介は態勢を低くして一気に間合いを詰め、剣をランスの下に潜らせた。


 そこから左足に力を込め、地を蹴りドゥルガーの懐に入り込んだ。


「貰ったぁああ!!」


 竜之介は獄龍の刀身でランスの先を一気に斜めへと跳ね上げた。


 ドゥルガーの胸元はがら空きとなり、竜之介はすぐさま左手を引いて、獄龍を突き入れた。


 貫いた!! 竜之介がそう確信した瞬間、上に跳ね上げた筈のランスの矛先だけが突然竜之介の足元から現れた。


「うおおッ!?」


 竜之介は、体を思いっきり捻りながら仰け反ると、矛先は竜之介の顔面を掠めながら間一髪で通過していった。


 竜之介は、ドゥルガーから素早く離脱し、距離を取って状況を確認する。ランスは2つに分離し、それぞれ黒い鎖で繋がっていたのだった。


[おオ、ドゥルガー、初めてコレ技ヲ使わされタ!!]


 ドゥルガーの仕込みランスを目にした玉美が地団駄を踏みながら、怒りを露わにして叫んだ。


「なっ!! なんですの、あれ!! 私と戦った時には見せていなかったと言うのに!! あの悪女、私をまともに相手にしていなかったとでも言うんですのっ? むきーっ!! 悔しいですわっ!!」


竜之介はドゥルガーの意表を突いた攻撃を交わし、思わず息を呑んだ。


「危な……っ!! 今の身体能力じゃなかったら俺は確実に串刺しになっていたぞ!!」


 改めて自分を徹底的に鍛え上げてくれた二人に感謝した。


[リュウノケ、お前、ちょロちょロして、すばしっこイナ!!]


 ドゥルガーは、ランスを元に戻すと、何かの詠唱を唱え始めた。


[リュウノケハ、私ノ悪魔二勝てルカ?]


 刹那、ランスから闇が渦巻始め、それはやがて悍ましい悪魔の姿へと変貌していった。


「ぐうっ?! こっ、これは!!」


 竜之介の上空に悪魔が現れた途端、自分の身体の上から物凄い殺気の重圧がのし掛かってきた。


「さ、殺気の具現化ッ!!」


 竜之介が獄龍を地に付け、諤々と震えている様を見たドゥルガーは、悪戯っぽく笑う。


[リュウノケ、これハ流石二無理カ? 中々楽しかったゾ。お前ノ名は忘れなイ]


 少し寂しそうに言うと、ランスを構えた。


「こ、これは流石にマズいな……」


 竜之介は、何かを決心すると全身に力を込めた。


「うおおおおおお!!!」


 地が鳴り響く位、竜之介が咆哮した瞬間、獄龍から闇が溢れだし、やがてそれが黒龍へと模られていった。


[お! お? おオ?]


 ドゥルガーの背に殺気の重圧がのし掛かかり、握っていたランスが地に付いた。


 獄龍から溢れ出た悍ましい闇は、瞬く間に周囲を飲み込み、その変化に玉美達も気付いていた。


「……ああああっ!! なんて素晴らしい殺気の具現化なんでしょう!! ……これは、秀光様と同等、いいえっ、それ以上ですわッ!! 私の体が凄く敏感に感じ取ってますわあっ!!」


 黒龍が牙を剥き出しにして低い声で唸ると、更に重たい鉛のようにドゥルガーの全身を圧迫し始める。


[わ、わ、ワ、わッ!!]


 ドゥルガーはその重圧に押され、片膝を付かされた。


 竜之介は殺気の具現化をし始めてから直ぐに何かに引き込まれる感覚を覚えると、途端に苦しくなり一瞬自我を失いそうになった。


*主、この闇は凄く危険。すぐに止めるべき*


 黒子は何か嫌な物を感じて竜之介を制止する。同じくして、これを遠くで察知する者がいた。


「これは竜やんの殺気……じゃが、この殺気はっ!!」


 その瞬間、獄龍を握る竜之介の腕からどす黒い闇がじわじわと湧き上がり始め、その闇は獄龍を飲みこみ始めると、全体を大きく包み込んだ。


「うっ、これは一体ッ!!」


 竜之介の右手が黒く変色した瞬間、黒龍が悪魔の喉元に喰らいつき、そのまま食い千切った。


「いかんッ!! 現れおった!! 竜之介ッ、落ち着いて殺気を解けいッ!!」


天竜の叫んだ声が、竜之介の耳に届いた。


「し、師匠ッ、分かりましたあっ!! と、止まれ、このおおおっ!!


 なんとか自分を取り戻し、殺気を解放すると、黒龍は竜之介の方を恨めしそうに睨みながら消えていった。


「はぁッ!! はぁッ!! はぁッ!!な、なんとかなったあ!!」


 大きく息を吸い、安堵の溜息を付くと目の前に呆然と立ち尽くすドゥルガーの姿があった。


[リュウノケ、お前ハまさかッ?!]


 竜之介の元にドゥルガーが急にランスを下げ、ゆっくりと近づいて来た。


[リュウノケ、お前……今ノ……ドゥルガーと同ジ……]


 ドゥルガーはいきなり鎧のマスクを外して竜之介に素顔を見せた。ドゥルガーの顔は非情な殺戮を繰り返す悪女とは違い、とても可愛いらしい顔をしていた。


 マスクから開放された鮮やかな紺色の髪は風に晒され心地良さそうに靡き始めた


 素顔を晒したドゥルガーは、頬を赤らめながら、唖然としたまま身動き出来なくなった竜之介にどんどん近づくと、きゅうっと抱きついた。


*おい!! そこの害虫!!*


[竜のケ……ドゥルガーと一緒に来イ。今直ぐドゥルガーのモノにナレ……!!]


 竜之介の耳元に向けて、色っぽい声で囁いた。


「え? えええっ!!」


*……ふざけんな*


 直ぐ様、黒子が獄龍から飛び出して来て、竜之介をドゥルガーから引き離した。


「おっ、お前、何分けの分かんないこと言ってるんだよ!!」


 ドゥルガーはあたふたしている竜之介を見ると、悪戯っぽく笑いながら、気になる言葉を口にする。


[竜のケ……何れ……お前にモ分かル……まタ、会いましょウ]


 馬型に跨ったドゥルガーは踵を返しそのまま走り去って行った。


「……どういう事だ?」


 竜之介はその場に暫く呆然と立ち尽くす。


*主、先刻の闇は何か変。嫌な予感がびんびん。使わない事を推奨。*


「黒子? お前、急に何を??」


*詳細不明。理解不能。あと、浮気は駄目。まいダーリン。*


 意味深な言葉を残し黒子は水晶に戻っていった。


「竜やん!! 大丈夫かっ? 生きとるかっ?!」


 竜之介は、元治の声ではっと我に返った。


「ああ……なんとか、そっちも大丈夫みたいだな」


「当たり前じゃ!! こんなんで簡単にくたばりゃあせんわいっ!!」


 元治はにかっと笑った。


「それより、そこにこそこそ隠れてた女狐捕まえたんじゃけど……どうする?今すぐ吊るしあげちゃろか?」


「ちょ、ちょっとこの汚らしい手をお離しなさいっ!!」


 玉美が不機嫌そうに元治の手を払い、竜之介の方を見るとみるみる内に顔が真っ赤になった。


「りゅ、竜之介、この加藤玉美、もはや逃げも隠れもしませんわ。さぁ、私を煮るなり焼くなり好きになさいっ!!」


 吐き捨てる様に叫んだ玉美は、言葉を重ねる。


「何れにしても、竜之介を殺す計画は失敗しましたわ。戻ったとしても秀光様は証拠隠滅の為、私を斬り捨てるでしょう」


 少し震える声で言った玉美を見て、全てを察した竜之介は庇う様に言う。


「玉美さん……今日の事は俺にはバレず、只殺す目的が果たせなかったまでを秀光に報告してください……」


「え……?」


 竜之介から思いも寄らない言葉を掛けられた玉美は、心が大きく揺らいだ。


*くーっ!! 竜之介、お前、見掛けによらず、中々器のデカイ男ぢゃあないかッ!! 気にいったぜ、この色男ッ!!*


 姫羅理が竜之介の背中をばんばん叩きながら言った。


「ふ、ふんっ!! 私に情けを掛けても、お礼は言いません事よっ!!」


――風間竜之介、私を生かした責任は取って頂きますわ……。


「竜やんは女に甘過ぎじゃのう……」


――じゃが、竜やんの殺気……間違いないわい。こりゃあ、やるしかないかのう。


 元治は竜之介見て、一瞬真面目な顔をする。それを戦具ポケットに戻った天竜が、訝しげに見つめていた。


「……んじゃ、向こうも片付いたみたいだし、影虎さん達と合流しようかのう」


 竜之介達は、姫野達のいる地点へと足を向けた。


 竜之介は道中、ドゥルガーと黒子の言った言葉を思い出していた。


――竜のケ、お前……ドゥルガーと同ジ……。


――主、先刻の闇は何か変。嫌な予感がびんびん。使わない事を推奨。


 竜之介は、その言葉を頭の中で繰り返しながら、一抹の不安を覚えるのであった。


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