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■秀光の罠

「秀光様、報告します!! たった今、奇門出現の報告がありました!!」


「ふん、……で、規模は?」


「現在、2箇所の奇門を確認しておりますが、1つはナイトとビショップ、もうひとつは……その……、クイーンが出現しました!!」


「クイーン……だと? あの闇の悪女か……なるほどな……クククク」


「今すぐ警報を発令します!!」


「……・待て!! 発令はするな。……。玉美にだけ、この事を知らせて我の元に呼べ」


 秀光は前回行なわれた竜之介と酒井の試合で竜之介の惨敗を期待していたが、 敗北どころかその驚くべき成長に脅威さえ覚え始めていた。秀光の予想だにしない言葉に部下達は動揺した。


「え……? 十洞の民が今も襲われているのですよ? すぐにでも殲滅しないと!!」


 そう部下が言った瞬間、秀光の目に苛立ちが現れた。


「ふん、十洞の民だと??そのような虫けらの事など、知った事か」

 

「――!?」


「よいか、己の力無きものは虫けら同然と同じ。その虫けらが何匹死のうが我には預かり知らぬ事。黙って玉美をここに呼べ。いいな?」


 秀光の頭には、十洞の民を救う事よりも、忌々しい竜之介を闇に葬る事しか考えていなかった。本音が思わず口から溢れ出てしまい、この発言には部下達も互いに顔を見合わせ、訝しげな顔をした。


「わ、……分かりました」


 暫くして、秀光の前に加藤玉美がしずしずと現れ、スカートの両端を摘むような仕草をしながら、ゆっくりとお辞儀をした。


「お呼びでしょうか?秀光様」


 顔を上げにっこりと微笑む。


 加藤玉美。棋将武隊角組隊長、また、秀光の息が掛かった忠実な部下でもある。


「秀光様に呼ばれて、私光栄ですわ……なんなりとご命令なさって」


「ククク、来たか玉美。たった今チェスが出現した所だ。その中に面白い者が混じっていてな」


「秀光様、と申しますと?」


 秀光の用件に、カメラのピントがあわない玉美は不思議そうな顔をして言った。


「お前も、知っているであろう、クイーンだ」


 秀光からクイーンの出現を知らされた途端、玉美の顔がぱあっと明るくなった。


「まぁ!! 久々にあの闇の悪女と戦えるのですのね!!」


「いや、今回はクイーンの事は諦めろ」


「え? 何でですの? 理由をちゃんと仰ってくださいな」


 玉美は、秀光から予想だにしていない言葉を聞いて唖然とした。


「玉美、今日のお前のパートナーは竜之介だ」


 更に秀光から自分が知らない人物の名を知らされ、玉美は表情を曇らせる。


「え? 竜之介って誰ですの? 私その人物を良く知りませんの。その様な初対面な者とは、ちょっと……」


「ククク……まぁ、そう言うな」


「お前の役目は竜之介と共にそこに行き、奴を孤立させた後、隊を引け。後はクイーンに始末させろ……いいな?」


「はぁ……急に声を落とされるから、何を言われるかと期待しましたのに……ま、私には秀光様以外眼中にありませんので、どうでも良い事ですけど」


「クク……玉美、頼んだぞ」


「仰せのままにですわ。でも、竜之介という者は秀光様ともあろうお方がそこまで気にしなければいけない男ですの?」


 玉美の質問に秀光は怪訝そうな顔をして答えた。


「あいつの後ろには忌々しい長信の亡霊が未練がましくも付きまとっておるのだ。我がそれごと闇に葬ってくれる」


「まぁ!! あの長信にですって? それはちょっと興味が湧きますわね。でも秀光様の御命令とあらば仕方ありません、今からすぐにその者を地獄の門まで道案内して参りますわ」


 玉美は、そう秀光に言うと先程と同じ仕草でお辞儀をした。


「これは……元治に伝えなくては!!」


 この一部始終を見ていた元治の仲間の一人が、部屋をそっと抜け出た。


「では、秀光様行って参ります」


 玉美は、最後にそう告げて部屋を出る。そして角組と成、藤堂影虎を引き連れその足をそのまま飛組の部屋に向けた。


「と、言う訳でこの作戦は極秘事項で実施しますので、姫野、よろしくて?」


「……そういう事なら、了解した」


 玉美に適当な理由を言われ、姫野はまんまと口車に乗せられてしまった。


「で、その竜之介って方はどこですの?」


 玉美は秀光の命令で長い期間、棋将武隊を離れていた為、竜之介の事を良く知っていなかった。秀光に”長信に似ている”と言われ、そのキーワードを元に野蛮な人物を想像していたのだった。


 暫くして、勢い良く廊下を走ってくる足音が聞こえてきた。その足音は飛組の扉の前でスリップし、躓く音が小刻みに聞こえたかと思うと、直ぐに扉の前まで戻ってきて、最後に元気良く扉が開かれた。


「はぁ!! はぁ!! はぁ!! お待たせしてすみませんっ!! 風間竜之介、只今参上しましたあッ!!」


 部屋に入って来た竜之介は太陽の様に眩しい笑顔で玉美を見た。


「あ、貴方が、竜之介……?」


 玉美は、先に竜之介を知っていた影虎の方を見て確かめた。


「そいつ、そんな感じだけど酒井と戦った時は別人だぜ?」


 言って、意味ありげに含み笑いをした。玉美は長信の人物像と余りにも掛け離れ過ぎている竜之介を目の前にして、こんなのほほんとした男が長信? という疑念の気持ちで一杯だった。


「竜之介、お初にお目に掛かりますわ。私は角組隊長の加藤玉美と申します。以後お見知りおきを。私の事は玉美さんと呼んでよろしくてよ?」


 玉美はにこりと微笑んで深々とお辞儀をする。それを見た竜之介は慌てて、自分の自己紹介始めた。


「たっ、玉美さん、おっ、俺が風間竜之介です。そして俺の肩にいるのは相棒の天竜です。ふつつかものですが、よろしくお願いします」


 竜之介の意味不明な自己紹介に玉美は思わず吹きだしてしまった。


「では竜之介、先程姫野と話をして、許可を頂きましたから貴方は今日私に付き添いなさい。分かりましたね?」


 竜之介は玉美の言葉を聞いて思わず姫野の顔を見た。


「……竜之介、玉美の言う通りにして。他の隊長に付いて勉強する事は、とてもいい事だと思うから」


 竜之介は姫野の言葉を聞いて力強く頷く。その光景を見た玉美は、馬鹿な姫野、お前のお気に入りの竜之介は、私に裏切られ、もうすぐ死にゆくものを。と、口元を歪めた。


 話も纏まったところで、竜之介達は地下の転送ゲートに急いだ。


「聞いたぜ? 極秘任務だろ? さっさとゲートに入りなッ!!」


 美柑は、既に操作パネルで転送の準備を済ましていた。先行で姫野、影虎がゲートに入る。


「……竜之介、気を付けて。決して死ぬな。泣くぞ?」


「……あと、玉美。竜之介に何かあったら……お前を殺すから」


 影虎がその言葉を聞いて、


「おぅおぅ、こちらの隊長さんも見掛けによらず、怖いねえ」


 と、言って身悶えた。


「……では竜之介、先に行って待ってるぞ」


 姫野はそう言って静かに微笑み、空間の狭間へと消えた。


「竜之介、私達も行きますわよ?」


――この男、今から犬死にするだけですのに……。ああ、秀光様っ!! 見事この男を闇に葬り去ってご覧にいれますわっ!!。


――私は秀光様の誰も持ち得ない冷酷な殺気が好きですの……。あの殺気に包まれただけでも……ああっ!! ぞくぞくしてきますわ……。


 玉美が妄想しながら恍惚の表情を浮かべていた時、美柑が煙草の煙を顔に吹き付け、横槍を入れた。 


「……おい、玉美さんよ。何をこんな時に涎をだらだら垂らしてんだよ? 汚ねえなあ。さっさと馬型出して準備しろよ?」


 美柑が呆れ顔で言った。


「けほっけほっ、い、言われなくてもっ!!」


 玉美は慌てた手つきで懐から馬型を取り出し、愛馬を出現させる。馬に乗り込み、鍔を取り出して、抜刀すると、そこからとてつもなく大きなランスが現れた。


 そして玉美は西洋鎧を武装すると、


「出てらっしゃいな、姫羅理きらり


 玉美の召喚の声と同時に水晶が金色に光り出し、その中から美しい銀髪の長い髪を持ち、黒い衣装を身に纏い胸には十字架を付けたハルの巫女装束とは全く異なった精霊が現れた。


 竜之介は、その佇むような清楚さに思わず見とれてしまった。姫羅理が玉美の方を見てゆっくりと口を開く。


*玉美よお、お前さんまたそのランスに血肉の餌を与えに行くのか? お前も本当に容赦ねえな。まあ、それがお前が何時もほざいてる正義の為ってんなら、主は寛大だ。さぞかしお許しになる事だろうけどなぁっ!!*


「……あれ? 俺の清楚どこ行った?」


 竜之介はこの豹変振りを目の当たりにした時、何かが大きい音を立てて崩れ去っていくのを感じた。


「姫羅理、私は貴方にいつも上品に振舞いなさいと言っているでしょ? それよりもすぐに戦いますから、早くリンクをしなさい」


 玉美が顔をヒクつかせて命令する。


*ったくうるせーなあ、この腹黒りん女。あたしゃ、いつもあんたが何を考えてんだか分かったもんぢゃねえよ!!*


 姫羅理がそう吐き捨てた時、口をだらしなく開け呆然と自分を見ている竜之介に気付くと、


*貴方に、神の御加護があらぬ事を*


 と、にっこりと微笑んでランスにリンクした。


 玉美はランスに4個の刻印が現れたのを見て、


「全く姫羅理ったら本当にしょうがない娘」


 言って、深い溜息を付いた。


 玉美の準備が整ったのを見届けた他の兵隊が次々と馬型を出し、騎乗し始める。


「さぁっ!! 皆さん準備はよろしくて? 戦場に乗り込みますわよ?」


 玉美が周りを確認した時、まだ何も準備していない竜之介に気付いた。


「竜之介、他の者は既に準備を終えたと言うのに何故貴方は準備をしませんの?」


 竜之介が準備をしてないのには訳がある。戦具ポケットに身を隠している天竜に、今のお前は三つの鍔を扱う力と研ぎ澄まされた剣技がある。焦る必要は無い、戦場で状況を見極めその場で臨機応変に対応しろ。と言われているのであった。


「玉美さん、俺は向こうに着いてから準備します」


 竜之介は苦笑して言った。


「そう……。分かりましたわ」


 玉美はあっさり承諾したが、心中では、この者よほど腕に自信あるのか、或いは只の馬鹿か、まあ、後者だろうが何れにしても変な男。と思っていた。


「んぢゃ、行ってらっしゃい!!」


 美柑が転送スイッチのボタンを押す。そして、転送が始まった瞬間、


「そうそう、竜之介、玉美には気を付けろよ?」


 呟く声で竜之介に囁いた。竜之介は美柑が一体何の事を言っているのか分からず、キョトンとした顔のまま、転送空間の中に消えて行った。


 姫野と影虎は既にナイトとビショップが現れた地点に到着していた。


「隊長さんよぉ、そんなにしかめっ面ばっかりしてると、可愛い顔がもったいないぜよ? ほら、スマイルスマイルっ!!」


 不機嫌そうな顔をしたまま、一向に口を開かないの姫野を見て、影虎はなんとか場を和ませようとした。


「……影虎、私はお前を助けないからな」


 姫野は鋭い目付きで影虎に言い放ち、黒丸からは羽を広げて威嚇されてしまった。


「うけー!! きっついなぁ、もうっ!!」


 影虎は鬼雷を背中に担いで、天を仰いだ。


 一方、竜之介達はクイーンが出現した地点に到着していたが、すぐに敵に見つかりポーンの軍勢に囲まれていた。


「ふん、雑魚ばっかりですわね」


 玉美がつまらなそうに、馬上からランスを振り回していると、数体のポーンが襲い掛かってきた。


「串刺しにしてあげますわ……雅突雷光がとつらいこう!!」


 玉美の叫びと共にランスの先がドリル状に変化し、雷を放ちながら高速に回転し始めた。


 そしてポーンの胸元に向け強引に突き刺す。ランスはポーンの体内で電撃の光を激しく放ちながら回転し、血肉を巻き込み、瞬く間に消し炭に変えてしまった。


「全く、肩慣らしにもなりませんわね」


 玉美は退屈そうに溜息を付くと、竜之介がこれからどう動くのか馬上から様子を伺っていた。


「どうだ? 竜之介、戦場で使う鍔は決めたか?」


 戦具ポケットに身を隠していた天竜が、顔をちょこんと覗かせて言った。


「そうですね、これだけ障害物が多いと、風や火は少々扱い難いので……」


 竜之介がそう言って獄龍の鍔を取り出し抜刀しようとした時、慌てて天竜がそれを止めた。


「竜之介、ちょっと待て。お前、武装はどうした?」


「え?だって、師匠が現地で状況を見てって……」


「馬鹿者ッ!! それは扱う鍔の話だ!! どこの馬鹿が丸腰状態で戦場に行く奴がいるというのだッ!!」


そう天竜が言った時、竜之介は真顔で自分を指差す。


「はあーっ、もう良いからさっさと武装しろ」


 天竜は大きな溜息を付いた後、頭をがっくりと垂れた。


「はいッ!!」


 竜之介は、一瞬目を閉じて勢い良く見開くと、懐から長信の鉢巻を取り出しキュッと頭に巻き、宗政の頬当を装着した後、武装を開始した。


 この時、玉美は竜之介の周りの空気が一変したのを見逃してはいなかった。


「何ですの? 今一瞬竜之介の雰囲気が変わった気がしましたわ……?」


 竜之介は、獄龍の鍔を握り締めると大地が呼応する位、大きな声で叫ぶ。


「うおおおっ!! 抜刀おお!!」


 その声に鍔が反応し、徐々に獄龍が姿を表し始めた」


「な、何ですって!? あ、あの獄龍は正しく長信の物ですわ。それを何故、竜之介が持っていますの!?」


 玉美は、信じられないと言った表情で竜之介を見た。


「さてと、気合いで獄龍を出した事だし、あとは黒子を召喚しないとな」


 竜之介は、水晶を手に握り締め黒子を召喚した。


「黒子ッ!! 出て来いッ!!」


 水晶から黒い闇が渦巻き、くるくると回りながら黒子が現れる。


*会いたかったぞ、我が主。毎日私を召喚しろ、このいけず。*


 黒子は頬を赤らめながらいきなり竜之介に抱きついた。


「わわ、黒子ッ!! 今はそんな事してる場合じゃないッ!!」


*なるほど。我が主、後ならいいのだな?*


「ちっ、違うッ!! そうじゃなくて……!!」


 竜之介が慌てふためく様子を見て黒子は目を潤ませた。


*たまらんこの初々しさ。私はこういう主を長い時を経て待っていた。*


 黒子は竜之介に抱きついたまま、一向に離れようとしない。


「ほらッ、黒子、すぐそこに敵がッ!! お願いだから早くリンクしてくれえッ!!」


 玉美はこの場にそぐわない茶番を見せられ、呆気に捕らわれていた。


「たっ、確かにあの精霊は長信の黒子ですけど、前とは性格が極端に変わっている気がしますわ」


「長信の時は、矢の様に暴言を吐き、長信を足蹴にしていた筈ですのに……」


 竜之介はなんとか黒子を説得し、リンクを開始した。


*周り邪魔。私、主と二人きりがいい。敵全部殺す。*


 黒子が獄龍とリンクすると、5個の刻印が現れた。玉美はそれを見て声を上げた。


「れ、LV5ですってッ!? あの竜之介という男は一体何者何ですのッ!?」


 同時に姫羅理が感心した様に言う。


*ヒュー、やるねぇ!! あの竜之介って奴は見かけは頼りなさそうだか、芯は相当強いぜ?*


「秀光様が、殺れと言う者だからどんな野蛮人かと思っておりましたが、まさかこんな謎だらけな男だとは思っても見ませんでしたわ」


*へえ、玉美はあいつを殺す気なのかい?*


「しょうがないですわ。秀光様のご命令なんですもの。少々心が痛みますけど、致し方ありませんわ」


 玉美が少し残念そうな表情を見せた時、雅突からひょっこり姫羅理が抜け出てきた。


「ちょっと姫羅理、誰がリンクを外せと……」


*玉美、これはあたしの直感だけど、竜之介はこんな所でくたばりはしないぜ?何故ならあいつは大きな加護を受けてるからな、それも二つな、いや……三つか?。*


「なかなか人を認めないあなたが、竜之介をそんなに買うなんて、珍しいですわね……」


*情けないねえ、玉美はまだ気付いていないのかい? 竜之介は秀光と同等か、それを上回る力を秘めてるぜえ?*


「――なっ!!」


 姫羅理は手をひらひらさせながら雅突へと戻っていった。


 玉美は、本来ならまず助からないであろう結末を覆す事が出来る男が目の前にいる事に心が浮き足立つのを感じ始めていた。


「ならば竜之介、あなたの力を私に見せてご覧なさいッ!! 秀光様を上回るというその力を!!」


 竜之介にポーン3体が斧を振り翳し襲い掛かってきた。


「竜之介、分かっているな!?」


 天竜が叫んだ。


「はいっ、師匠ッ!!」


[死ねえッ、餌アアアア!!]


 ポーン3体が同時に突き出した斧は、竜之介を仕留める事も無く空しく空を切り、斧同士が情け無い音を響かせた。


[餌がッ!! ドこに行っタあア!!]


ポーンが慌てて周りを見回す。


「馬鹿めえッ!! 俺はここだあッ!!」


 ポーンが竜之介の声がした上空の方向に顔を上げた瞬間、鎧の面を切り裂く音と共に獄龍が鈍い光を放ちながら、ポーンを地面へ叩き付けた。


それを見た2体目のポーンが慌てて斧を振り翳そうとする。


「遅いッ!!」


 ポーンと交差した瞬間、竜之介は獄龍を思いっきり水平に振り切った。ポーンは断末魔の声を上げながら片膝を付き無様に崩れ落ちた。


 すぐ様3体目のポーンが斧で竜之介の胸元を突いて来たが竜之介はひゅっと低く息を吐いて身体を捻りながら柄をやり過ごし、そのまま後に回り込み獄龍で背中を突き刺した。


 ――電光石火。竜之介はその文字の通りそれを一瞬でやってのけたのだった。


 獄龍を構える竜之介から白い鉢巻が雄雄しく風に靡く。


「い、今の何ですの? 竜之介の動きが早過ぎて良く見えなかったですわ……。信じられません、本当に同一人物なんですの?」


 玉美は心を大きく揺さぶられ、竜之介の立ち姿を夢中になって見ていた時、部下の叫ぶ声が耳に飛び込んできて、慌てて自分を取り繕った。


「たっ、玉美さまッ!! きっ、来ましたクイーンですっ!! もう兵が何人も殺されて目の前にまで迫ってきていますッ!!」


 玉美が部下の指差す方向に目を向けると、真っ黒いランスで兵の身体を貫き、軽々とそれを持ち上げると、我楽多の様に投げ捨てながら此方に向かって来るクイーンの姿を確認した。


「やっと来ましたわね!! 闇の悪女!!」


 そう言った後、竜之介の方へ向いて叫ぶ。


「竜之介ッ!! よく聞きなさいッ、貴方は今此方に向かって来ているあの黒いランスを持つ者を倒しなさいッ!! 私達は後方から貴方を援護いたしますわっ!!」


 竜之介は玉美の言葉に大きく頷くと、黒いランスの元に向かって走った。


 それを見届けた玉美は、部下と兵に一斉退却を命じた。


「あれかッ!!」


 竜之介は馬上からランスで兵を突き刺し、薙ぎ倒しているクイーンの前に立ちはだかった。


 そこで、竜之介は背後に静寂さを感じ思わず振り返った。


「あれ? おかしいな? 玉美さんも、周りに居た兵も居ないぞ?」


 今この場所には無数の骸と馬に乗り黒いランスを構えるクイーン、そして竜之介しかいなかった。


 玉美は、遠方から双眼鏡で竜之介の様子を伺っていた。


「さてと、ちゃんと竜之介が殺されるのを此処で見届けてあげますわ。骨は拾って差し上げますから、存分に戦いなさいな」


*さてさて、どうする? 竜之介?*


「あっ!! 姫羅理、返しなさいッ!!」


 姫羅理は雅突から飛び出し、玉美から双眼鏡を奪うと興奮しながら竜之介を見始めた。


 竜之介は首を傾げながら、前に向き直りチェスを見つめた。


「ん? あれってもしかして女? それにあの鎧に刻まれたエンブレムは、確か……クイーンじゃないか?」


 竜之介はその瞬間、息を呑んだ。ここで美柑の授業を思い出したからだ。


――我々が最も恐れている闇の悪女、クイーン。こいつと出会ったら覚悟した方がいい。


「ああああッ!!」


 竜之介は思わず叫んでしまった。


「竜之介、どうやらお前は罠に嵌められたかも知れないぞ?」


 天竜が訝しげな表情をして言った。


「罠? 俺がですか?」


「恐らくはな。大体考えても見ろ、場数も踏んでいない新人をいきなりクイーンクラスにぶつけるものか」


 竜之介は天竜の言葉を聞いた後、苦笑した。


「師匠、考え過ぎですよ。あの優しそうな玉美さんがいくら何でもそんな事はしませんって、こんな場面で冗談はよしてください」


 と、竜之介は呑気に言った。


「やれやれ、お前はこの先女で苦労するだろう。まあ良い、ここで犬死にするのは、ずぶの素人が想定されてるのだろう? だが竜之介、お前は違う。そうだな?」


「無論ですッ、師匠!!」


 竜之介は獄龍を構え、クイーンと対峙した。


[人間(餌)みつけたゾ!!]


 クイーンは、財宝を見つけたかの様に竜之介を見て喜んだ。


[お前モすぐ死ヌ運命ダ!!]


 クイーンはそう言いながらランスを構える。


 竜之介が気が付いた時は、既に数十体のポーンに取り囲まれていた。


「多勢に無勢……まともにやり合うのは流石にまずいか」


 そう言った瞬間、怒涛の波の様にポーンが一斉に攻め込んで来た。


 竜之介が獄龍で、技を繰り出そうと構えた時、後方のポーンがどんどん蹴散らされていくのが見えた。


 竜之介が不思議に思った時、その当人が元気良く話掛けてきた。


「よおっ!! 竜やん、なにやら楽しい事やっとるのぅ!!」


 元治がポーンを斬り倒しながら、にかっと笑った。


「元治??」


 すぐに何体ものポーンが元治に襲い掛かり、元治の姿が見えなくなってしまった。


「お前ら、ほんま鬱陶しいのう……空蝉波紋ッ(うつせみはもん)」


 元治が叫ぶと、群がっていたポーンの中心部分から横一線に冷気が走ると、ポーン達は次次と凍りつき、ぼろぼろと地面に崩れ落ちた。


「も、元治、お、お前なんでここに?」


 竜之介は驚きを隠せない。


「野暮な奴じゃのぅ、まぁ、訳ありじゃ、気にするなッ!!」


 言って、次から次へとポーンを斬り倒していく。竜之介は元治の戦う姿を見てこの男はやはり強いと、強く感じた。


[餌!! 余所見をするとハ、大層剣の腕ニ自信があるみたいだナ!?]


 クイーンが馬上でランスを構えながら叫ぶ。


「竜やん、ここいらの雑魚はワシに任せて、竜やんはクイーン様と遊んじゃれ!!」


 元治が竜之介に檄を飛ばす。


「ありがとう!! 元治ッ!!」


 元治に感謝の言葉を述べた竜之介は獄龍の剣先をゆっくりとクイーンに向けるのであった。



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