■風間竜之介VS酒井忠高
それから幾日もの日を重ね、竜之介は天竜の厳しい指導の元、剣の修行を続けていた。
そんなある日、竜之介の元に棋将武隊の本部から正式に桂組と成り、酒井忠高との試合日程について、報せがあった。
この試合は、酒井から竜之介への下剋上を賭けた試合であり、竜之介が敗北した場合は、酒井が竜之介と入れ替わり、飛組のと成となる。
竜之介は、今まで自分を鍛えてくれた長信と宗政、そして今現在、自分を指導してくれている師匠の為にも、絶対に負ける訳にはいかないと自分を奮い立たせた。
そして、穏やかな太陽の温もりを絹を通して肌で感じられる晴天の日、遂に対決の日を迎えたのであった。
竜之介は、自室を出る前に長信が残した白く雄雄しい鉢巻を手に取ると、きゅっと頭に巻いた。
天竜を肩に乗せ、試合会場へと続く通路を歩いていた時、通路の壁に体を預け、腕を組んでいる蛍と出会った。
蛍は竜之介を見た瞬間、猫が驚いた時の様な仕草をして、組んでいた腕を離し、頼りない胸に右手を当てた。
「り、竜之介にゃん、その白い鉢巻……そうか、竜之介にゃんはやはり……」
蛍は、今の竜之介が間違いなく長信の息がかかっていると確信した。
「竜之介にゃんは酒井に負けて、さっさと私のところに来るにゃあ!!」
蛍は、ウインクをしながら舌をペロリと出して、微笑んだ。
「蛍さん、そうしてあげたいのは、山々なんだけどね」
竜之介は手を頭の後ろに置いて苦笑した後、ゆっくりとその手を降ろし真剣な眼差しで蛍を見た。
「俺にはやらなければならない事があるので、酒井には、絶対負けないよ」
やらなければならない事、それは無論長信と宗政の敵討ちの事であった。その何かを成し遂げ様とする想いは、竜之介の目から眩しさを思わせる位、溢れ出ていた。
竜之介にハッキリと言われた蛍は、欲しい物が目の前にあるのに、それはとても高価な物で、ガラス越しで指を咥えて見ている事しか出来ない、そんな残念そうな顔しながら、竜之介から離れた。
「竜之介にゃん、酒井は土獣を巧みに操ってくるから、足元を取られない様、気をつける事にゃ」
蛍が竜之介の背中ごしでポツリと呟いた。
「じゃあ、頑張ってにゃ。本当に私は、お前に負けて欲しいんだけどにゃあ」
つまらなそうに言って、蛍は通路を反対方向に歩いて何処かに行ってしまった。
「やはりお前が長信と宗政に運命的な接触をし、自分に影響したのが、女達にかなりの好印象を与えてるみたいだな」
天竜が呆れた顔をして言った。
竜之介達が通路を抜け、試合会場に姿を現した途端、一斉に歓声が湧き上がった。
その試合会場は吹き抜けで、周りがスタンドになっており、それが二回席まである。
二回席の中央には大型のモニターが添え付けられており、対戦同士がどの位置で戦おうと良く見える様になっていた。
また、繰り出す技がスタンド側に影響しない様、特殊な防御壁が施されているという、ある意味見世物的な設備を思わせる。
一回席は既に二人の試合を見ようとする者達で溢れ返っており、二回席では各組の隊長と、と成の面々が長信と宗政の鍔を持つ竜之介に注目していた。
「ちょっと蛍、あんたどこへ行ってたさね?」
「にゃはは、ちょいと花を摘みに行ってだにゃあ」
小梅は蛍の言った言葉をまるっきり信じてはいなかった。どうせ、抜けがけでもして、竜之介にちょっかいを出してたに違いない、そんな目で蛍を見ていた。
「あ!! その目はにゃんだっ!! さては小梅、私を疑ってるにゃあ!?」
蛍も直ぐにその視線に気付き、不機嫌そうな態度を取る。
そんな最中、竜之介を心配そうに見つめている姫野の姿が有った。
竜之介は、そんな姫野の方を見て気合を入れた。対戦相手の酒井は、自分のエリアで、軽い準備運動をしていた。
やがて、竜之介に気づくと、細い目でにこりと笑って此方の方に近づいて来た。
「やあ、これはこれは竜之介殿、遂にこの日がきましたなあ。拙者は今日まで生き延びて貴殿と剣を交えるのを、今か今かと、待ち望んでおりましたぞ」
酒井の友好的な言葉に、竜之介も微笑みながら挨拶をした瞬間、その和みのある空気は一変し、酒井は冷ややかな視線で竜之介を見ると、蛍が自分達を見ている二階席の方にゆっくりと顔を向けた。
「いやはや、貴殿の化けの皮を剥いでやっと隊長の目を覚まさす事ができますからなあ」
そうボソリと呟くと竜之介へ一瞥をくれた。
「それに、その白い鉢巻、長信殿にでもなったつもりか? 見せ掛けにも程があるッ!!」
酒井は戦に出る度に蛍から竜之介の話を聞かされて、心中は穏やかでなかったのだった。
「酒井、それは……どうかな?」
竜之介は酒井の挑発に動じる事無く、静かに応えた。
以前の竜之介であれば、酒井の言葉に心は乱され、試合どころではなかったであろう。
だが今、酒井と対峙している竜之介は別人であった。何故なら竜之介は今もしっかりと目に焼き付けていたのだ、あの長信と宗政の真剣勝負を。
「俺の力が見せ掛けかどうかは、自分の体を以って知ればいい。それに俺はお前に下の名で呼ばれる程、そんなに親しい仲だと思ったことは一度も無いけどな」
竜之介は本能的に鋭い目で睨み返していた。酒井はその背後に長信の目を重ね思わず後ずさりをする。
二人が暫く沈黙を守りながら、対峙していた時、会場内にアナウンスが流れてきた。
「これより、桂組と成、酒井忠高と飛組と成、風間竜之介との下克上による試合を行なう。両者中央へ!!」
試合開始直前になった時、天竜は竜之介の肩からぴょんと飛び降りた。
「修行の成果を今ここにいる全ての者達に存分と見せてやるがいい」
「分かりました、師匠!!」
竜之介の返事を聞いた天竜は満足気な表情を浮かべて、チョロチョロと、二階席の方に走って行った。
竜之介は師匠を暫く目で追っていたが、天竜はすぐに隊長達に気づかれ、身体をがっちりと摑まれた後、可愛い可愛いと、揉みくちゃにされていた。
「し、師匠が、大変な事に……」
竜之介は気を取り直して、深呼吸をした。
「それでは、両者共、試合の準備をしてください」
アナウンスを聞いて、酒井が月光の鍔を手に取った。
「竜之介殿、先程の自信とやら、見せて貰おうッ!!」
「抜刀……月光!!」
酒井は月光の鍔から自分の武器を出現させた後、武装を終え、甲冑を身に纏った。
月光。その姿は鋼鉄で作られた柄の先に大きな三日月状の鋭い刃が天を向いて付いており、竜之介も以前戦場で目にしたが、三日月の中に体が挟まれると、刃が閉じて重なり、無惨にも両断される恐ろしい武器であった。
「日向ここに」
先に酒井が精霊を召還する。酒井の横には褐色で短い髪の根元が少しウェーブが掛かっている元気一杯の日向が現れた。日向が着ている巫女服は短めのスカートで、その魅力的な絶対領域に思わず、男達の視線が釘付けになる。
竜之介もその姿(特に太もも辺り)に思わず見とれてしまいそうになったが両手で顔を叩いて、なんとか理性を保った。
「ふぅ、いかん、いかん、ここでつい長信さんの女好きまで出てしまった。今度はこちらの番だな」
竜之介は先ほどの行為を長信のせいにした後、兜を頭に装着し、首に掛けていた頬当を自分の口元重ねると、ボタンを押した。
途端に頬当はその姿を再現し、竜之介の顔を包み込む。頭にはかつてこの場所で絶対的な強さを誇示した白い鉢巻が適度な風を受け靡いていた。
その2つの特徴を見て、新人以外の誰もが竜之介へ向けて一斉に罵声を浴びせ掛けた。
「何だ? あいつ、長信と宗政、二人の真似をして剣豪を気取っているつもりかぁ?」
「竜之介、身の程を弁えろッ!! 少しばかり隊長に目を掛けられているからと言っていい気になるなよッ!!」
男共は一斉に罵声を浴びせたが、女達の方は違った。竜之介は長信と宗政に徹底的に鍛え上げられている為、その二人の意志は引き継がれ、その風格が竜之介を見ている女達に伝わっていたのだった。
「ステキ!! 竜之介様っ!!」
「乙女心を擽られるわぁあああ」
「新しい剣豪誕生の予感……ふふ」
それは、と成の面々と隊長達にも伝わっていた。
「凄い……まるであの二人があの場所に立っているかの様さね……」
小梅が唖然として言った。だが、小梅よりもその姿を見てもっと驚いている女が居た。
「竜之介……その白い鉢巻の姿はッ!!」
桜子が思わず前に詰め寄る。
桜子は何故竜之介はそんなにも長信の面影があるのだろう?何故こんなにも私の心を揺るがすのか?その気持ちで一杯になり、思わず体が動いてしまったのだ。
「竜之介……その頬当はッ!!」
姫野も思わず前に詰め寄った時、そこで互いが顔を見合わせた。姉妹二人は気まずい表情をして、すぐに慌てて顔を反らした。
竜之介が風神の鍔を取り出した時、今迄修行した日々が駒送りの様に頭の中に流れ始めた。そして、その鍔を力強く握り締めた瞬間、竜之介の時間が停止した。
「……よし」
静寂の先にあるもの、無。この域に竜之介は身を委ねる。そして今まで自身が知らなかったその武器名の名をここで大きく叫んだ。
「抜刀……風神っ!!」
竜之介の大きな声がその場に響き渡り、鍔から導かれるように青剣がその姿を現した。
観衆が竜之介の口から出た武器名に騒然とし始める。
「風神? それが竜之介の武器名なのか?」
「おい、あいつあの青剣の武器名知らなかったのでは?」
「ああ……確かに知らなかった筈。なのに何で知ってるんだ!?」
そんな中、音々は二階席から熱い視線で竜之介を見ていた。
「ふうん……風神ねぇ。中々格好良い武器名なりね」
「さあ竜之介、貴方の成長を私に見せてみるなり、どこまで強くなったか、凄く楽しみにしてるなりよ!!」
見た目大人の女性を思わせる音々が、この時は貰ったプレゼントの中身が一体何だろうと心躍らせている少女の様な表情をして、その青く澄んだ瞳を輝かさせていた。
そして、その時は訪れた。
「ハルッ、出て来いッ!!」
竜之介は力強い声でハルを水晶から召還した。
*竜之介、いい面構えじゃ。*
ハルは竜之介が更に成長しているのを見て、満足そうに微笑んだ。
*ん?*
ハルは酒井の日向を見ると、先程の機嫌が一変した。
*なんじゃ?お前のその男共に媚を売っているかのような短すぎる巫女服は?不謹慎なっ!!*
怪訝そうな顔をして言うハルに日向は意地悪そうな顔をして言い返してきた。
*え? 今時貴方みたいな何の特徴も無い巫女服の方が、よほどダサいんですけどおっ*
その言葉を聞いたハルは顔をぴくぴくさせながら竜之介に言った。
*竜之介……リンクじゃ、いますぐコイツをぎゃふんと言わせてやる!!*
竜之介の試合よりも先に精霊達の試合が始まったようだ。互いが睨み合い、舌を出すとそれぞれの武器にリンクを始めた。
日向が月光にリンクすると3つの刻印が現れ、ハルがリンクした時、青剣の刀身に4つの刻印が現れた。
流石に竜之介の持つ力に観衆も騒ぎ始める。
「はは……あいつLV4だってよ……」
「こっ、この間までLV1だった癖に……嘘だろッ?」
騒然とした試合会場で、竜之介と酒井が全ての準備を終え、対峙する。
「それではお互い、定位置につけい」
アナウンスに従い、互いにその位置に立つと、遂にその言葉は発せられた。
「では、勝負……始めっ!!」
開始の合図と酒井は大きく距離を取り、本性を曝け出して叫んだ。
「竜之介ええッ!! 拙者に平伏すがいいッ!!! 出でよ、土獣うッ!!」
その瞬間、地面の土が競りあがり、それらはみるみる内に2体の土獣へと変化していく。その姿を完成しながら青剣で身構える竜之介へと駆け出した。
2体の土獣は怒りに満ちた唸り声を上げ、その1体が大きく跳ねたかと思うと、口を開け鋭い牙を剥き出しにして上空から竜之介に襲い掛かった。
同時にもう1体の土獣が正面から竜之介の足元へと襲いかかる。
「はははははっ!! 竜之介、武器名が分かったからと言って、その特質も見抜けない状態のその駄剣で、一体何ができますかなぁ?」
刹那、竜之介は風神を上段で大きく構えた。
「風神……旋渦あ(せんか)……!!」
竜之介が言葉を発して、力強く振り下ろした瞬間、螺旋状の強風が巻き起こり、2対の土獣は勢いに負け、2、3歩後方へ押し戻された後、その渦に飲みまれて軽々と吹き飛んだ。
その光景を瑠理に胸で抱かれながら見ていた天竜はニヤリとほくそ笑んだ。
「なっ!! 何だとおっ?!」
その信じられない光景に酒井が叫ぶ。それよりも一方的な試合になるであろうと思われた予想を見事に裏切られた観衆の方はもっと騒然としていた。
「なんという凄まじい力ッ!! 竜之介、私は貴方のこの力を見たかったなりよおッ!!」
音々が、自分が思い描いていた結果に歓喜の声を上げた。
「竜之介にゃん、やっぱり、凄い男にゃあ……!!」
蛍も興奮気味に叫ぶ。この時蛍は、目の前を駆け足で成長していく一人の剣士に大きく心を揺らされていた。
土獣達は成す術も無く宙を舞い、風車の様に回転しながら、そのまま酒井の目の前で激しく叩き落され、土塊に戻って消えた。
「おっ、お前……風神のその技ッ……つ、使えたのでござるかあっ!?」
竜之介は、唖然としている酒井に不敵な笑みを浮かべた。
「今度はこちらから……行くぞ?」
竜之介は、剣を左下に下げ刃を上に向けると、静かに腰を落として後ろ足を一歩引いた。
「風神……鎌鼬ッ!!」
そして勢い良く一気に右方向へ振り抜いた。
風神から砂煙を伴う一陣の風が吹き、その風はやがて薄く洗練され、一枚の大きな鎌へと変化した。
風の鎌は水平となりその刃は空気を真っ二つに切り刻みながら獲物を狙って加速してゆく。
酒井はもはや移動さえ許されない。広範囲に広がった刃が鋭い音と共に襲いかかった。
「ぬうううっ!!」
酒井はダメージを覚悟し、月光を旋回させながら受け止めた。その瞬間、甲冑に無数もの傷が切り刻まれ、後方へ大きく引きずられた足跡を刻む事になった。
竜之介の打撃は酒井に大きなダメージを与え、月光の刻印が1つ点滅し、消滅した。
風神の威力を体で知った酒井は鬼の形相で竜之介を睨んだ。
「おのれいッ竜之介ええッ!! いつの間に修行していたのでござるかっ!? まさか拙者を謀るとは!! お前は最初からこれを狙っていたと言うのかぁっ!!」
酒井の狼狽えぶりを目に、竜之介はゆっくりと青剣を中段に構え直した。
「確かにこの青剣はお前の言う通り駄剣だったかもしれない、だが今は違うッ!!」
竜之介はその距離を徐々に詰め、剣先を震わせながら、高々と声を上げた。
「俺は飛組と成、風間竜之介ッ!! この青剣、風神を引き継ぎし剣士だああっ!!」
竜之介は酒井を間合いに捕らえ、左足に力を込め一気に攻める。
「ほざくなあッ!! 竜之介ッ!! 新人風情が剣技で拙者に太刀打ち出来ると思うておるのかあっ!?」
正面から打ち込んで来た竜之介の一撃を月光の柄の部分で受ける。互いに激しい火花を散らしながら、刃と鋼鉄が激突し合った。
「せやあああっ!!」
酒井は受けた風神を月光を回転させながら下へ受け流し、竜之介に向いた三日月の刃を体勢の崩れた脇腹を狙って突き刺してきた、思わず竜之介の焦りが口に出る。
「くっ!!」
刹那、その恐ろしい刃が不気味な音を立てて重なり合う。竜之介は咄嗟に身を引いたが、甲冑にダメージを受けた。
「ちいっ、浅かったかッ!!」
酒井は空気を幾度も震えさせる程、目にも止まらない速さで竜之介を攻める。距離を詰めれない竜之介はそれを青剣で受けながら、隙を待った。
一対一の攻防をくり返し続け、次第にお互いの体力は消耗し両方の刻印が1つ点滅した後、ふっと消滅した。
それを見た酒井は眉をぴくりと動かし、再度大きく後方に引き下がりった。
「はぁはぁはぁ、まさか貴殿が剣技でここまでやるとは思ってもみませんでしたぞッ!!」
言って、月光を掲げる。
「ならば、見せねばなるまい!!拙者の必殺技ををっ!!」
「月光……影縛っ!!」
酒井が叫び月光の柄を地面に叩きつけ瞬間、竜之介は急に身動きが取れなくなった。
「こ、これはっ!!」
竜之介は自由が効かなくなった自分の足元を見た。すると自分の影と酒井の月光が繋がっている事に気付いた。
「油断しましたなああッ!! 私の月光は相手の影を掴む事が出来るのですぞおっ!!」
酒井はここぞとばかりに殺気を放ち出す。手に持った月光を震動させ、歯をぎりぎりと食い縛った。
「うぅ、うおおおおおおッ!!」
刹那、その殺気はらゆらゆらと鮫に模られてゆき、酒井の背後に現れた。
「竜之介ええッ、これで御終いだあッ!! 殺気の具現化は相手の魂を喰らうッ、そのダメージは絶大ッ!! 勝負ありましたなぁッ!!」
「ははははッ!! 貴殿に殺気の具現化は出来まいッ!! この勝負、拙者の勝ちだああッ!!」
酒井は勝ち誇った表情で叫び、観衆も決着が付いたかと思われたその時、竜之介がゆっくりと口を開いた。
「相手を……喰らう……」
「うう……うおおおおおおおおっ!!」
竜之介が咆哮すると同時に酒井の足が殺気の重圧に押され、土にめり込んだ。
「なっ、こっ、これはまさかあッ!!」
酒井が愕然として、竜之介の方に目をやった。竜之介の背後には青龍が出現し、おぞましい眼で睨みを効かせる。龍はその口をゆっくりと開けると、嫌でも死を予感させられる様な恐ろしい牙から殺気の雫を垂れ流した。
「な、何だ!? この計り知れない殺気はあああッ!!」
青龍がゆらりゆらりとその体をうねらせながら目の前の魂を喰らおうと動き出した。
その時、竜之介は自分の殺気のリミッターが外れ、何かに引きずり込まれそうな感覚を覚えた。
――な、なんだ? この嫌な感覚は……?。
その気配をすぐに感じた元治は険しい表情を見せた。
「竜やん、その殺気は……まさかッ!!」
急いで席を立ち元治は何処かに向かって走って行った。その異変に気付いたのは元治だけでなく、と成の面々、隊長達も気付き、訝しげな表情をした。
「竜之介が自分の運命を選択する時が来たようだな……」
それを横目に天竜がぽつりと呟いた。
鮫が標的を変え、青龍に向かって勢い良く飛び跳ねその咽元に喰らい付いたが、抵抗も空しく青龍にそのまま地面へ叩きつけられ、その腹を見せながら土中へ沈んで行った。
そして、青龍は殺気を纏った牙を剥き出しにして、酒井の魂を摘み取ろうとした。竜之介は止め処なく溢れ出る殺気をなんとか抑えようと必死で抵抗した。
――このお……っ!! 止まれええっ!!。
青龍が大きな口を開け酒井を真上からごくりと飲み込んだ。
――てめぇえ、止まれって言ってんだよおおおおおおッ!!。
青龍は竜之介の抵抗に反応し、頭を上に上げ、その口からつまらなそうに酒井を吐き出してすうっと消えた。
宙に舞った月光の刻印は全て消滅し鍔へと返った後、空しく地面に転がり落ちた。
酒井は武装が強制解除され、魂を抜かれた表情で地面に倒れていた。
「勝負ありいっ!! 勝者、飛組と成、風間竜之介ええッ!!」
この光景が中央モニターに流された時、竜之介の勝利を告げるアナウンスが鳴り響いた。
この瞬間、風神からハルが飛び出してきて竜之介が吐きそうになる位、力一杯抱きついてきた。
*お主ッ!! 冷や冷やさせおってからにッ!! にしても、よくぞ戦った!! 見事な勝利じゃ!!*
「はは……心配掛けてごめん。でも俺、酒井に勝ったよ!!」
一斉に試合会場から歓声が沸き起こる。それもその筈、何の力も無かった竜之介が自身を磨き、使いこなせていなかった風神で見事技を発動し、最後には強大な殺気の具現化をやってのけたのだ。誰もが真に強くなった竜之介を絶賛するのは当然の事であった。
「竜之介、まずは思惑通りにいったと言っておこうか」
二階席から戻って来た天竜が竜之介に声を掛けた。
「師匠ッ!! 俺、やりましたよッ!!」
竜之介は満面の笑みで答えた。
「ちぃっ……、まさか竜之介が勝つとはな……それにあの姿に殺気といい、本当に長信を思わせる鬱陶しい奴だ」
この一部始終を見ていた秀光が舌打ちをしながら、太陽の様に微笑んでいる竜之介を見て、憎らしげに言った。
「ふん……ならば……玉美をここに呼べッ!!」
「竜之介……このまま貴様を野放しにはしないぞ……クククク」
竜之介の回りに隊長達が群がり、あたふたとしている竜之介を見ながら秀光は怪しい笑みを浮かべるのであった。




