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■二人との別れ

 竜之介が就寝している時、長信と宗政は竜之介について話をしていた。


長信「竜之介もだいぶ逞しくなったんじゃねえか、なぁ、宗政?」


 珍しく長信が竜之介を褒めた。


宗政「そうですね、竜之介殿は元々武の才があったのでしょう、素晴らしい上達ぶりです」


長信「俺様達は竜之介に突貫工事で随分色々と叩き込んだのに、良く修行に耐えたもんだぜ!!」


 長信は苦笑した。


宗政「はい。今の竜之介殿はお世辞で抜きでかなり強くなられました」


 その時だった。突然大きな揺れが二人を襲った。


長信「な、なんだ、この揺れは!!」


宗政「これはっ!!」


 その揺れは暫く続いてからぴたりと止んだ。


長信「ったく、脅かしやがって……」


宗政「何だったのしょうか……」


宗政「なっ?! な、長信殿ッ!! そのお姿はっ!!」


 宗政がいきなり叫んだ。


長信「なんだ、なんだ? いきなり大きな声を出しやがってよお、びっくりするじゃねえか!!」


宗政「な、長信殿が薄くなっています!!」


長信「な、なんだとおおっ??」


 長信は自身を見て驚いた。黒かった人魂が薄白く変化していたからだった。


長信「これは……!! う? ううっ!!」


 それからすぐに長信は苦しみ始めた。


宗政「長信殿ッ!! しっかりしてください!!」


長信「俺様の……力がどんどん弱くなってやがる!! こりゃあ、かなりやばいぜっ!!」


長信「む、宗政、いいか、良く聞けっ……!!」


 長信は宗政に頼み事をした。


宗政「分かりました、やってみましょう、長信殿」


長信「悪ぃな……宗政、初めて恩に着るぜ?」


 次の日の朝、竜之介がいつもの修行をしようと薬を飲もうとした時だった。


長信「よぉ、竜之介、俺様と修行する前によ、悪いがちょっと大至急で桜子んとこに行ってくれねえか?」


「え? 桜子さんの所にですか? 分かりました。探してみます」


 竜之介は、警備していた女に桜子の居場所を聞きだすと、急いでその場所に向かう。


 桜子は長信の墓の前で手を合わせている最中であった。


「へっ、俺様がここに居るって言うのに、毎日毎日律儀なもんだぜ?」


「長信さん、どうするんですか?」


「そうだな……を、してくれるか?」


 竜之介は静かに頷く。


 それからすぐに桜子は竜之介が自分を見ている事に気付いた。


「おはよう、竜之介。何か私にご用ですか?」


 そう言ってゆっくりと立ち上がった。


「桜子よ、お前、まだ俺様が長信って事信じてねえんだよな?」


「なっ!!」


 竜之介の様子が一変したのを見た桜子は、唖然とした。そして、


「竜之介……またそれですか、いい加減にしなさい、貴方も本当に懲りない人ですね」


 呆れた顔をして視線を反らした。


「貴方は私をどれだけ馬鹿に……」


 桜子が怪訝そうな態度をとって竜之介に背中を向けた刹那、いきなり竜之介が後ろから手を回して桜子を抱きしめた。桜子は竜之介の胸の中で激しく動揺した。


「なっ!! 何を!! 離しなさいッ!! 竜之介ッ!!」


 桜子がそう叫んだ時だった、竜之介は桜子の耳元で静かに詩を紡ぐ。


「光と影は共にあり、互いを際立たせ支え合う、光と影が交わりし時、指し示されたその道を共に歩まん」


「そっ、その詩は……っ!!」


 桜子がその言葉を聞いた時、竜之介は桜子をゆっくりと引き離し、


「俺様は……お前とずっとその道を歩きたかった」


「そっ、そんな?! 貴方に、貴方にその詩が分かる筈が……っ!!」


「桜子……俺様は、ずっとお前を見守っているぜ?じゃあな」


 竜之介はゆっくりと踵を返した。


「まっ、待ちなさいッ!! 竜之介ッ!! あなたさっきの詩をどうやって!!」


 桜子は叫んで竜之介を呼び止める。竜之介は前を向いたまま足を止め、


「桜子、お前は知ってる筈だぜ? 俺様が同じ事を二度言うのがでえっ嫌いな男だったって事をよ?」


「ううっ!!」


 桜子は小刻みに震えながら、その場で崩れ落ちた。


 長信の言葉に疑問を持った竜之介は、


「長信さん、さっきの言葉、まるでお別れみたいな感じだった気がするのですが?」


 と聞くと、


「竜之介、その通りだ……俺様はもうすぐこの世から消えちまう」


「なっ!!」


 竜之介は長信の言葉に驚いた。急いで部屋で薬を飲み、二人が居る場所に向かった。


 すると、そこに辿り着く際、竜之介は異変を感じた。


「な、なんだ?いつもの光が弱くなってる!!」


 竜之介はその光になんとか触れ、二人の所に着いた。そこで竜之介は長信を見て驚いた。


「長信さんッ!! その姿はっ!!」


 長信の黒い人魂は、もう殆ど薄白くなっていた。


長信「見ての通りだ……俺様はどうやらここまでのようだな」


 そう言って苦笑した。

 

長信「さぁ、行こうぜ?これが最後だ……」


 竜之介は長信の人魂に触れた瞬間、


長信「来いよ!! 宗政っ!!」


 宗政が竜之介に飛び込み、三人は長信の修行場所に転がり込んだ。


「どうやら、成功したみたいですね、全くあなたという人は……」


 宗政が体をさすりながら、言った。


「こうなるって事は俺様は分ってたぜ?」


 長信が苦しそうに言った。


「長信さん、その様子じゃあ、もう修行なんて……。」


「あ? 誰が修行するって言った?」


「え?じゃあ……」


「竜之介、最後に良おく目ん玉ひんむいて見とけよ……?」


 長信はそう言って、木刀を宗政に向けて投げた。宗政はそれを黙って受け取った。


「宗政、その姿を久々に見たが、ほんとムカつくぜ?」


「長信殿、その自己主張の強い鉢巻、相変わらず勘に触りますね……」


 宗政も不敵に笑いながら言った。


 そして、双方が木刀を持ち、静かに中段で構えると、


「我こそは、棋将武隊が特殊武駒にして竜馬、織田長信なり!!」


 それに呼応するかのように宗政が、


「我こそは、棋将武隊が飛組と成、伊達宗政なり!!」


 そして互いが


「いざッ!! 尋常に勝負ッ!!」


 と大きく叫んだ。


 竜之介は、この二人の構えを見て鳥肌が立った。鍔ではなく、只の木刀でも地を揺るがすほどの迫力に圧倒されていた。


 互いがじりじりと間合いを詰める。


「いやあああああ!!」


「おおおおおおッ!!」


 気合を声に出しながら、互いに前へ出た。


 竜之介は長信は力重視の剣士であると思い込んでいたのを恥じた。今目の前で戦っている長信の姿は宗政と同等かそれ以上であると痛感したのだ。


 そして、これが最後の一本勝負である事を竜之介は理解していた。


 互いの木刀の先と先が触れ合った一瞬、


「りゃああああああああ!!」


「せいいいいいいいいいッ!!」


 同時に力強く地を蹴って、一撃を打ち込んだ。宗政が両手を真っ直ぐ伸ばした木刀の前には長信の姿は無かった。


「ぐうううっ!!」


 刹那、宗政が肩膝を付いた。長信は宗政の胴を打ち抜き、木刀を振り切っていたのだった。


「な、長信殿、お、お見事ですっ!!」


 長信は静かに立ち上がると、自分の鉢巻をすっと外し、よろよろと歩き出した。


 そして、手で木の感触を確かめると、その枝に掛ける。


「長信さんっ、まさか目がっ!?」


 竜之介が叫ぶと、長信はその声のする方へ振り返りそして、にかっと笑った。


「長信さん……見、見ました、貴方の電光石化の一撃をっ!!」


 竜之介は震えた声で言った。


「竜之介……俺様は、お前に会えて……楽しかったぜ?」


 焦点が定まらない目で長信は言う。


「お、俺も、長信さんと過ごした時間、すっげえ楽しかったです!!」


 目から泪をぽたぽた零しながら、竜之介が言う。


「へっ……大の男が簡単に泣いてんじゃあねえぞ?」


「宗政……悪いが、俺様は先に行くぜ? 勝負の続きは……そこでしようぜ?」


 その時、長信の姿が徐々に消え始めた。


「はい……私もすぐに追いつきます……。」


 宗政は顔を伏せて震えながら言った。


「竜之介、この場所はなぁ、実際にあるぜ?行ってみろ」


 長信は秘密の特訓場所の行き方を竜之介に告げ、


「あばよ、竜之介、必ず秀光を……ぶっとばせよ?」


そして、


「竜之介……いちのを、悪夢から救ってやって……くれ……」


「そして、桜子を……ず……と、み、見守ってやって……くれ」


 その言葉を最後に長信の姿は完全に消滅した。


 その瞬間、竜之介と宗政はその場所から飛ばされ、長信の画像がどんどん逆に流れ始めた。そして赤子の画像にまで遡った後、全てが真っ白になった。


「長信さあんっ!!」


 竜之介は飛び起きた。


「宗政さんッ、長信さんは!! 長信さんはッ!?」


「竜之介殿……長信殿は、もうここには居ませんよ」


「そんなっ!!」


「そして竜之介殿……すみませんが、私ももう貴方との修行は望めそうにありません、その日が来るまで瞑想をします……」


 そう宗政が寂しく言った。


 そしてその日はすぐにやって来た。


「竜之介殿……すみませんが、姫野隊長の所に行って貰っていいですか?」


 宗政がそう言った瞬間に竜之介は直感した。


「む、宗政さんッ、まさか!!」


「ははは……どうやら、その時が来たようですね……」


「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!! すぐに姫野さんの所に向かいますッ!!」


 竜之介は身支度をすると部屋に飛び出した。


「姫野さんッ!! 何処だあッ!?」


 竜之介は、飛組の部屋に行ってみたが、そこに姫野の姿がなかった為、急いであちこちを探し回った。


 そして、稽古場から姫野が武器を出して、型の練習をしている様が見えた。


「姫野さんッ、見つけたあッ!!」


 竜之介は叫びながら、稽古場に勢い良く転がり込んだ。姫野はその様子を見て、


「……竜之介、何事?」


 驚いた顔をして言った。


「宗政さんッ、居ました!! 姫野さんですよ!!」


 竜之介は宗政に急いで話掛けた。


「そ、そうですね……では……」


 竜之介は姫野を正面にして、紅き鍔を取り出した。姫野は型を止め、それを不思議そうに見ていた。


 竜之介は一呼吸付くと、静かな声で火虎を抜刀した。


 紅き鍔は竜之介の静の声に反応し、火虎がその姿を現した。


 姫野は思わず、武器を手放してしまい、稽古場にその音が木霊した。


 竜之介はそれに動じず、一礼をし、脇に付けた火虎を中段に構えると大きく振りかぶりながら、床の音を力強く響かせ、足を前に出して振り下ろした。


 そして今度は振り切って寸止めした火虎を体を捻りながら、力強く足を前に出して反対方向に振り切った。


 それから火虎をすうっと上段に構えて、手首を返し瞬時に水平に構えた。


「りゅ、竜之介ッ!!お、お前その型は……ッ!!」


 姫野はその光景を見て声を上げた。それでも竜之介は型を続けた。


 水平に寝かせた火虎を剣先を斜めに下に向けながら、その刃を背中に付け、すうっと腰を落とす。


 そして、片手で火虎を握り、再度力強く足を前に出しながら火虎を突き出す。


 姫野は宗政本人でしか出来ない火虎の型を見て、竜之介は今、宗政であると直感した。


 そして、二度と見られないと思っていた、その美しい型を目に涙を滲ませ、真剣に見入っていた。


 竜之介は火虎を引き寄せると、再度両手で剣を握り、そのまま中段に構え直す。


 今度は後ろ足を大きく引きながら腰を落とし、火虎を水平にした。


 そして、その姿勢のままゆっくりと立ち上がり、体を捻って向きを変え、自身の内なる強さを床を踏みしめる足の響きで表しながら、火虎を振り切った。


 次にすうっと二歩下がり、最初に居た場所で一度中段に構えた後、すすっと火虎を下げ、残心をする。


 最後に火虎を静かに脇に付け直しながら、ゆっくりと一礼をした。


 姫野は涙を流しながら、


「……見事だ宗政ッ!!」


 と震えた声で言った。


「姫野隊長、私は、あなたの傍に居れた事を誇らしく思います……」


「私は戦場で凛とした貴方を見て、心から……心から……」


 姫野は次の言葉をじっと待った。


「宗政さん!! ここでその思いを言わないとっ!!」


 竜之介が宗政に声を殺して呼び掛ける。


「竜之介殿……退いてください……今言えば、苦しむのは姫野隊長です」


――何故だ!?。


「姫野隊長……いつまでも……ご健勝であらんことを……さらば!!」


 そう言って、竜之介は稽古場を飛び出す。


「ま、待てッ、宗政ッ!!」


 姫野が竜之介の背中越しに叫んだ。


「あああっ!! どうして、どうして、この二人の関係はこんなにも悲しいんだあああッ!!」


 竜之介はそのまま一気に走り去り、部屋に戻ると急いで薬を飲んだ。


「まっ、間に合ええっ!!」


 竜之介は、光が弱々しく消えかかっているのを見て、その手を必死に伸ばした。


 宗政「竜之介……殿」


 そこに着いた時には、宗政の人魂は既に真っ白であった。


「急ぎましょう!! 宗政さんっ!!」


 竜之介は宗政の人魂に飛び込んだ。そして宗政の空間に着いた時はあちこちからノイズが走っており、道場は崩壊寸前だった。


「くそっ!! なんでこんな事にっ!!」


 竜之介は悔しがった。


「竜之介殿……仕方ありません、あの型で時間を随分と、取ってしまいましたから。あははは」


 宗政は何時もの様に道場で正座をして、呑気に笑った。だが、その様子は何かが違っていた。


「あ、宗政さんっ、頬当が!!」


 宗政は自分の頬当を外し、それを横に置いていた。その宗政の顔は誰が見ても立派な剣士の顔であった。


「宗政さん、どうして貴方は何時もそんなに冷静でいられるのですか!?」


 竜之介は道場の入り口で叫んだ。


「竜之介殿……それは、違います、私は姫野隊長がシヴァに襲われた時、全く冷静ではなかったのですよ?」


「宗政さんっ、そんなに姫野さんの事が好きなら……どうしてあの時に言わなかったんですかっ!!」


 竜之介は泣き叫んで言った。


「はは、竜之介殿……姫野隊長は……昔から武道一本で生きて来られたお方。それを私が……等と邪道ですよ」


 宗政の姿が徐々に消え始めた。


「竜之介殿、大変世話になりました……私のこの場所は現世にもありますから……」


 宗政はこの道場の場所を竜之介に教えた。


「そんなの、俺の方が宗政さんに何千倍もお世話になってますよおおっ!!」


 宗政の姿はもう殆ど見えなくなっていた。


「ああ、竜之介殿、さっさと……シヴァ倒しちゃって……くださいね」


 そして、


「竜之介殿……姫野隊長を、お願いしま……す」


 その言葉を最後に宗政の姿は完全に消滅した。


 その瞬間、竜之介はその場所から飛ばされ、宗政の画像がどんどん逆に流れ始めた。そして、赤子の画像にまで遡った後、全てが真っ白になった。


「あああああっ!! 宗政さあんっ!!」


 竜之介は部屋の中で何度も宗政に呼び掛けたが、もう返事をする事は無かった。


「なんで? あんなに凄い人が居なくなっちゃうんだ!? おかしいだろ!!」


「悪い奴が生きてて……真面目に生きてた人が、思いも告げれずにっ!!」


「おおおおおおおッ!!」


 竜之介は憤りを感じ、大きく吠えた。


 そして疲れ果て、死んだ様に眠り始めた。


「まさか、術式が崩壊して、俺がこんな事になるとはな……」


 竜之介の体の中から青い人魂がすーっと現れた。


「しかし、驚いた。まさかこいつの中に本物の火属性が宿り、あの闇を抑える力が宿るとはな。理由は全く分からないが」


「まぁ、こうなったのも、何かの運命さだめ、これから忙しくなるな……」


「さて……とりあえず、憑代がいるな」


 青い人魂はそう言って、あたりをふよふよと周り始めた。


「むぅ、不本意だが、あれに乗り移るとするか……」


 そう言って、青い人魂は、竜之介の部屋に置いてあったハリネズミのぬいぐるみにすうっと乗り移った。


 その瞬間、真っ暗な竜之介の部屋でハリネズミの目が怪しい光を放ち始めるのであった。

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