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■策略

「おぃ、あれ見ろよ、風間だぜ?」


「また、あいつか、いくらチェスが出現していないからといって最近外出ばかりしてるな」


「と成だからって、図に乗ってるんじゃないか? 他のものはマジメに鍛錬してるってのにさ……」


竜 之介は背中に罵声を浴びながら、修行場所に向かっていた。


「気にしない、気にしない、能ある鷹はなんとやらってね」


長信「言いたい奴には言わせておけばいい、あいつらはお前の試合を見た時、きっと腰を抜かすだろうからなぁ!! うははははっ!!」


宗政「そうですね……日々努力を積み重ねればそれはいつかきっと実を結ぶ筈ですよ」


「はい、俺もそう思ってます!!」


 竜之介が元気良く答えたその時、大きなリボンを左右に揺らしながら、いちのが山の上から駆け降りて来た。


長信「いちの……!!」


 竜之介はあの裏山事件の事が鮮明に蘇ってきた。もしいちのがあの冷酷ないちのだった場合、このまま野放しにする訳にはいかない。


 竜之介が緊張の面持ちでいちのを見た時、


「あ、竜之介さん!! こんにちわぁ、いい天気ですねっ!!」


「あれ?」


長信「こりゃあ……普段のいちのじゃねえか」


 長信は安堵の溜息を付いた。


「やぁ、竜之介、今から山に登るさね?」


 その後から小梅が一緒に降りてきた。いちのはいつもの陽気で笑顔が似合ういちのであった。二人は袋に何かたくさん入れていた。


「あ、これって!!」


「山菜さね、こっちはキノコさね」


 竜之介は小梅に十洞山は自然に恵まれているため、いろんな山菜が取れるという話を聞かされた。


「しかし、わざわざ一人でこんな所に何の用さね?竜之介が山菜摘みとは考えられないさね」


 小梅は冗談ぽく無邪気に笑った。竜之介はその笑顔を見て、とても気持ちが和むのを感じていた。


「あ……もしかして一人山で修行とかですか?!」


 いちのが鋭いところを突いてきた。竜之介は動揺した。


「いっ、いやぁーなんでも、この十洞山に大きなツチノコが出るって聞いたんで探しに……」


宗政「大きなツチノコですか……」


 思わず苦笑する。


 竜之介は追い込まれ、苦し紛れにとんでも無い事を口走ってしまった。


「駄目だッ!! とても誤魔化せないッ!!」


 そう思った時、小梅といちのが互いに顔を見合わせて、


「へーーーっ、そりゃ初耳さね!! そんなツチノコが!! ほへーさね」


「わぁ、私も見てみたいです!!」


 竜之介の話をしっかりと信じていた。


「なら、竜之介、私達が一緒にそのツチノコ探しに付き合うさね!!」


 興味を持ったのか、小梅が嬉しそうに言う。


「あ、なら私も一緒に行ってもいいですか!!」


 いちのまで着いて行くと言いだした。”これはまずい”と思った竜之介は必死で理由付ける。


「あーいや、そのツチノコは人見知りだから、複数でいると見つからないから」


「……そうか、残念さね」


「そうなんですか……」


 二人は本当に残念そうな顔をした。竜之介はそれを見て心が痛んだ。


「あ、竜之介、竜之介はこの山にある温泉には入ったさね?」


 小梅が思い出したように言った。


「温泉? ここにはそんなものがあるの?俺は全く知らなかったよ」


そう言うと、


「ありゃー。それはいかんさね。この道をずーっと登っていくと立て札があるさね。一度入る……」


 と、小梅が言いかけた途端、何故か喋るのを止め、腕を組んで何やら考え事をした後、フフフフフ……と小悪魔的に笑った。


 そして、竜之介がその様子を不思議そうに見ていると、


「りゅ、竜之介、その温泉は温度の変化が激しくて今は熱くて入れないさね!! 今日の夜8時頃が丁度いい湯加減になってるさね!!」


「時間で温度が変化する温泉か……なんだか、凄い温泉だな」


 竜之介はその温泉に興味を持った。


「あっ、ああ……ありがとう。後で早速入ってみるよ」


「そうかさね!! 夜の8時が適温だから忘れては駄目さねっ!!」


「ああ、分かった」


 小梅は念を押すように言った後、いちのと山を降り始める。途中、いちのがその足をふと止め、


「ああ、そうそう、竜之介。夜の山道は大変危険だから、せいぜい足元に気を付ける事だ……」


――いっ、今のは?!。


長信「ぬっ?」


 最後に、いきなりいちのの口調が変化したのを竜之介と長信は聞き逃してはいなかった。


「織田さん!!」


 竜之介はいちのを引き止めたが、いちのは小梅の腕を掴むと楽しそうに山を降りて行った。


「何かがおかしい」


 竜之介と長信は先程のいちのに一抹の不安を覚えた。


「さてと……」


 竜之介は修行場所に付くと、その場で正座をする。ここでは現世での精神修行が目的だったのだ。


宗政「そうです竜之介殿、自然の声に耳を傾けなさい」


宗政「風の流れを掴み、山の息吹を感じるのです」


 竜之介は集中を開始する。


「ふーっ……」


 呼吸を整える。心を落ち着かせ、竜之介は日が沈むまで瞑想した。そしてその後は、軽く運動と素振りをして、そろそろ帰ろうとした時、


「――今日の夜8時さね!!」


 小梅が言った言葉を思い出した。


「そうだな、今日はゆっくり温泉にでも入るかな?」


長信「いいな、温泉。俺様も入りてぇなあ……」


宗政「私もです」


「二人共、体感は無理ですが、景色は堪能できる筈ですよ?」


長信「おお!! そうだなッ!!」


宗政「そうですね!!」


 竜之介が言った言葉に二人は納得して、笑った。こうして竜之介は温泉のある立て札を目指して足を向けるのであった。



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