■剣士への道
あれから竜之介は潜在意識の中で、長信には体力面、宗政には精神面を重点的に鍛えられていた。
そして潜在意識だけではない、己の武器を使用できなくなった二人は竜之介と自身の武器が扱える様、現世で実地訓練を開始していた。
宗政「では長信殿、どっちが先に教えますか?」
長信「ああ? 俺は説明が下手だから、めんどくせえ基本を兼ねて、宗政から先に教えてやれ」
宗政「分かりました、では」
宗政「いいですか? 竜之介殿、私の火虎は精神が野蛮な人、そうですね、長信殿とか、長信殿とか、は絶対扱えません」
長信「こらこらこらああ!! さっきから何を言いたい放題言ってやがるッ!?」
宗政「おや? 私は何か言ってたでしょうか? さ、竜之介、続けますよ」
長信「きっさまぁああああ!!」
――仲いいな、この二人。
宗政「では、火虎を早速抜刀してみてください」
「わ、分かりました!!」
「ば、抜刀!!」
竜之介が鍔を握り締め、抜刀の掛け声を掛けるが、宗政の鍔は何の反応もしなかった。
「あれ?」
宗政「竜之介殿、言った筈です、私の赤剣は精神面が特に関係するのです」
宗政「向こうの世界で共に正座を何時間もした事を思い出してください。あの時の静を感じて、雑念を捨て私の武器名を呼んでください」
「そうか……」
竜之介はその時の修行を思い返す。道場で姿勢を正し、無を感じながら呼吸を落ち着かせひたすら静に身を投じていた事を。
「すーっ……」
竜之介は静かに深呼吸をした後、
「……抜刀……火虎」
と声を掛けた。すると紅き鍔から宗政の赤剣がその姿を現した。
「やった!! 出たぞッ!!」
宗政「そうです。中々筋がいいですね。貴方の持つ鍔の武器名が分かった時は心を込めて呼んであげてください。では次の段階に進みましょうか」
「はっ、はい!! お願いします!!」
宗政「では、私の精霊、火目子を呼び出してください」
宗政「以前の竜之介殿では火属性が不足していましたから、ハルしか召還できませんでしたが、今の貴方なら大丈夫な筈です」
竜之介は水晶を手に取って、火目子を召還した。火目子は宗政に二度と呼ばれる筈もないと思っていたが、召還の声に導かれその姿を現した。
*……マスター?*
火目子は周りをきょろきょろ見回している。やがて火虎を持っている竜之介を見て驚いた。
*なっ、何故貴方がこの火虎を持っているのですかッ!? それは、私のマスター、宗政の剣ですよっ!!*
「ええっと……どうしましょう?宗政さん?」
宗政「そうですね……私を真似て頂ければいいかもしれませんね」
火目子は、竜之介が火虎を持っているのを見て不機嫌になっていた。竜之介はすかさず宗政の指示通りにした。
「火目子、久しぶりですね」
そう言って竜之介は優しく微笑んだ。
*え……?*
「私は、もうこの世にはいませんが、私の火虎をこの者、風間竜之介に託したのです」
*ああ、その静かな語り方は……間違いなく私のマスター!!*
「良く聞きなさい火目子、これからは竜之介殿をマスターとして、力を尽くしなさい、いいですね?」
*はいっ!! マスターッ!!*
火目子はそう言うと、泪を浮かべながら思いっきり竜之介に抱きついた。
「ぐえっ、これからよろしく!! 火目子!!」
*こちらこそ、よろしくお願いしますっ!!*
火目子は元気良く返事をした。
宗政「さて、火目子も竜之介殿を正式なマスターと認めた事だし早速リンクをしてみてください」
「火目子、リンクを頼むよ!!」
*はい、マスター!!*
火目子がすっと火虎に触れ、融合を開始した。一体となった火虎の刀身部分に3つの刻印が表れた。
宗政「今の竜之介殿のレベルなら上出来です。刻印の数は竜之介殿が強くなればなるほど、その数も増えていきます。まぁ、最大で5個みたいですね・・それ以上は見た事がないですから」
宗政「と、いっても生まれながらに持っている物も大きく影響してくるのと思いますけどね……」
宗政は苦笑した。
「宗政さん、これからどうすればいいのですか?」
竜之介は初めて自分で握った赤剣に興奮していた。
宗政「心を乱しては駄目です。その赤剣は常に静を念頭に置いてください」
「ふーーっ……すみませんでした」
宗政「では、竜之介殿、何か1つ技を使ってみましょう」
「技ですか……」
宗政「技、即ち特殊効果は知っての通り武器名と技名ですよね、その技は己の想像なのです」
「イメージですか……」
宗政「技名は自分である程度決めておかないと、戦場では中々出できませんよ?」
「なるほど……」
宗政「それに、あまりにも膨大な技のイメージをして技を繰り出したとしても、不発に終わる事もありますから注意してください」
宗政「そして、ここで大事な事は刻印の数です。刻印の数は自分の強さを表しているといっても過言ではありません」
宗政「例えば最初は刻印が3個あったのが、体力を消耗すると技を繰り出さずとも刻印が点滅を始め、やがて消えてしまいます」
宗政「ちなみに刻印が全て無くなった場合、精霊は消えて剣技のみの体力勝負となるので、自信が無いのなら、退いた方が無難でしょう」
宗政「無論、私はそうなっても十分戦える様、貴方に剣技を叩き込みますけどね」
「うう……はい」
宗政「さ、じゃあ要領が分かった所でやってみてください。そうですね・・あの大きな岩に向けて、渦巻くような火をぶつけてみてください。技名はセンスが問われますが、私が良く使った炎陣(えんじん
)でいきましょうか?」
「はい、分かりましたッ!!」
竜之介は岩から距離を取り、赤剣を中断に構えた。
そして竜之介は岩に向けて炎が円を描きながら、岩にぶつかるイメージをする。
「おおおっ……火虎……炎陣」
竜之介が赤剣を振り抜いた時、刃が赤く滾ったかと思うと、螺旋状に炎が噴出し、それが見事な円形を描いた。
その円形の炎は勢いを増し、狙い通り大岩にぶつかって燃える筈の無い大岩が真っ赤な炎に覆われ、やがてその大岩はぼろぼろと崩れていった。
「……出来た……ッ」
竜之介は火虎を見て震えた。
宗政「驚きました……まさかここまでやるとは、これは先が楽しみですね」
宗政「鍛え甲斐がありそうです」
宗政は関心して言った。この一部始終を見ていた長信が、
長信「竜之介、中々おもしれじゃあねえかっ、今度は俺様の番だな!!」
楽しそうに笑った。
長信「宗政、ご苦労だったな!! 俺様は本能的にやってたからお前が言ってる事を全然分かってねえが、竜之介は理解したみたいだし問題なしだ!!」
宗政「まぁ・・どうせそんな事だと思ってましたけどね」
宗政が呆れたように行った。
長信「竜之介、体力が回復したらすぐにやるぜ?」
竜之介は腹ごしらえをして、暫らくの間仮眠を取った。そしてぱっと起き上がると、
「長信さん、いけます!!」
長信に呼び掛けた。
長信「よっしゃあああ!! 竜之介、鍔を出せッ!!」
「はいっ!!」
長信「抜刀して見せろ!!」
竜之介は宗政の時と同じように、抜刀獄龍……と、呼びかけたが長信の鍔は何の反応もしなかった。
「あれ?さっきは上手くいったのに?」
長信「馬鹿か? お前宗政みたいな戦う気があるか無いかみたいな小さい声なんかで俺様の鍔が反応するわけねえだろ!!」
宗政「むっ、聞き捨てなりませんね!!」
長信「いいか、俺様の鍔は自身の覇気で反応する、闘争心を体全体から噴出させろッ!! 向こうで俺が教えただろうがッ!!」
「は、はいっ!!」
竜之介は再度、鍔を手に取り、
「そうだった、気弱な考えを捨て本能に身を任せ、攻める。それが俺様の姿っ!!」
その時、竜之介の様子が一変した。
「いくぜええ!! おらああああ!!! 抜刀……獄龍っ!!」
竜之介の叫びに鍔が呼応し、鍔が黒い光を放ちだす。
やがて、黒剣が姿を現わした。
長信「そうだ!! その剥き出しの闘争心を忘れるな!!」
「おおっ!!」
竜之介は黒剣を握り、足を前にだんっ!! と出して豪快に構えた。
長信「今度は俺様の精霊、黒子を呼べッ!!」
「よっしゃあああ!! 黒子ッ、来いいっ!!」
竜之介が水晶から黒子を召還した。黒子は腕を組みながら怪訝そうに現れた。
*大きな声で召還するな。煩い馬鹿、一辺死ね、あ、もう死んでるんだった*
黒子もやはりきょろきょろしていたが、やがて竜之介が獄龍を握っている事に気付いた。
*あれ? お前は誰? 何者?*
「長信さあんっ!! 俺はどうすりゃええですか!!」
竜之介がテンションを上げたまま長信に話し掛けた。
長信「良し!! 俺に任せろおッ!!」
「黒子、久しぶりだなッ!! 俺様だあッ!!」
*あれ? 今一瞬馬鹿が見えた気がする*
長信「ふははははぁ!! 訳あって俺様は今こいつ、風間竜之介の中にいるのだ!!」
長信「いいかぁ、黒子ッ、今後はこいつにお前の力を貸してやれッ!!」
長信が黒子に命じると、竜之介をマジマジと見て、
*竜之介、お前も馬鹿なの?*
と、不機嫌そうに聞いてきた。その問い掛けで竜之介は本来の自分に戻った。
「いや、まぁ、なんというか……あははは」
竜之介が困惑して戸惑った仕草を見せた途端、黒子の顔がぱあっと明るくなった。
*竜之介……その憂いな顔、いいっ!!*
黒子が頬を赤らめて竜之介に抱きついた。
長信「まぁ、お前も不服とは思うだろうが、ここは俺様の顔に免じて――」
*何? お前まだ居たの? 私のダーリンは竜之介、お前にはもう用は無い、消え去れ、馬鹿。*
長信「ひでええ……」
宗政「ぷっ……」
「と、とにかくリンクお願いするよ、黒子」
*分かった。まいダーリン愛してる*
黒子が獄龍に触れ、融合すると4つの刻印が獄龍の刀身部分に現れた。
「嘘ッ!! LV4!?」
*ダーリン、これが愛の力、喜べ。*
長信「なんだか、腑に落ちないぜええ……竜之介、なんでもいいから技を使ってみろ!!」
「技、そういえば、入隊試験の時に長信さんが使った奴、陣破だったな。あの時は精霊がハルだったけど、まぁあんまり変わらないだろう」
竜之介は黒剣を脇構えにして、腰を落とす。
「極龍……陣破ああああッ!!」
一気に獄龍を斜めに振り抜いた。
黒剣からもの凄い範囲で闇が噴き出し、それが目標の大岩を覆った瞬間、その後方の大岩を何個も巻き込み、一瞬にして消し飛ばした。
「…………あ」
長信「…………い?」
宗政「…………う?」
「こ、これって……凄いんでしょうか?」
竜之介が獄龍を見ながら唖然として言った瞬間、長信と宗政が慌てて答えた。
長信「お、お、お前にしては上出来じゃないか、ま、まあ、そ、そんなもんだと俺様は思っていたけどな、うは、うはははッ!!」
宗政「い、いや……さ、最初はそんな感じで、い、いいんじゃないでしょうか」
二人は明らかに動揺していた。すぐに黒子が飛び出して来て、
*流石ダーリン、痺れた、そりゃもう、びんびんに*
そう言って竜之介の頬にキスをした。
「あ、あっ、ありがとう黒子」
*まいダーリン愛してるぞ*
愛の言葉を残し、黒子は水晶に戻っていった。
宗政「さて……今日はこんなもんでしょうか?」
長信「そうだな……あとはまたこっちで鍛えてやるか」
宗政「そうですね、剣の腕はまだまだですからね」
長信「お、そうだった!! 竜之介に殺気の具現化を教えておかねえと!!」
宗政「あの力は体力を一気に消耗するのであまりお勧めできませんけど、やはり知っておくべきでしょうね」
長信「まぁ、こいつは一回やってるからな、竜之介、今日の締めだ、やって見せろ!!」
「殺気の具現化……必殺技のあれですか?」
「分かりました!!」
竜之介は足を踏ん張り、拳を握って殺気を高めていく。
「おおお……喰らうっ!!」
その瞬間、地面の小石が震動で浮き上がり、竜之介の殺気が徐々に龍の形に変化していく。
長信「こいつ、本当に不思議な奴だぜ? こういうのを平気でやってのけやがる!!」
宗政「本当ですね……」
その時、二人は竜之介から嫌な気配を感じた。
長信「だけど、この竜之介の殺気、なんか気になるぜ!!」
宗政「確かに……何でしょうか、この感じは?」
長信「む!!……おい!! 竜之介、もういいぞっ、止めろ!!」
「わ、分かりました!!」
竜之介は殺気の具現化を解除する。そして、二人が懸念した嫌な気配の正体が後々、嫌でも分かる事になろうとは知る由も無かった。




