■宗政の決意
竜之介は潜在意識の中で二人と会っていた。
長信「よっしゃ!! 竜之介、有言実行だぜ!! 俺様の空間で修行開始だあっ!!」
長信は息巻いて言った。
「あははは、俺を殺さないでくださいよ?」
竜之介は苦笑いをして言った。
「さぁ!! 俺様に触れるがいいッ!!!」
その時だった。
赤「少し待ってくれませんか?」
赤い人魂が二人が行こうとするのを引き止めた。
長信「なっ、なんだよ!! 赤玉、俺らの邪魔をしてんじゃねえッ!!」
赤「竜之介殿、お願いがあります」
「何ですか?」
赤「私の記憶を戻して頂きたいのです」
――宗政さんの記憶を……戻す!?。
「宗政さん、分かっているとは思うけど、それを実行すると貴方は俺を動かせなくなるんですよ?」
赤「無論、分かってます」
「そうなると、姫野さんと直接話をする事が出来なくなるんです。今なら俺を使って……」
赤「竜之介殿……私は中途半端なままで、大事な人に会ったとしても、きっとそれでは後悔してしまうと思うのです」
赤「長信殿……貴方がもし、まだ私と同じ立場だったとしたら、貴方は桜子さんに会えて嬉しいですか? その想いが伝えられたのですか?」
長信「うううっ!!」
赤「そういう事です」
「宗政さん……本当にいいのですね?」
赤「はい、私の決意は変わりません」
「分かりました」
竜之介はそう言うと、赤い人魂に向けて、手をすっと差し出した。赤い人魂がゆっくりと降りてくる。
そして、竜之介の手が赤い人魂に触れた瞬間、それは起こった。
長信と同様、竜之介の目前に小さな男の赤子が産声を上げ、その赤子がどんどん成長し、初めて剣を手に取り、色んな人に出会い、様々な修行をしながらどんどん逞しく、強くなっていく姿が流れていった。やがてその男は赤剣を手に取った。
「これが……宗政さんッ!!」
その男は更に強くなり、まるで静かに流れる川の様な静に溢れた男となった。一瞬、空間が弾けると、竜之介が知っている女、姫野との幾戦も重ねた戦場の画像が映し出された。
そして次に映し出された画像、それは戦場の中、宗政が地を駆けている姿、右手には既にその役目を終えた赤剣を握りしめ、電光石火のように敵の間を駆け抜ける。
目前には一人だけ孤立させられた姫野、背後から大剣を振りかざしたチェスが姫野を斬ろうとした。
宗政はその間に入り込み大剣の一撃を受けた。
それに気付き、振り返った姫野、宗政は優しく微笑んだ後近くの同士に姫野を力づくで遠ざける様、叫んだ。
姫野は必死に抵抗しながら手を伸ばし、宗政の元に行こうとするが何人もの同士に押さえられながら、後退させられた。
宗政が残る全ての力を自分の赤剣に注ぎ込んだ瞬間、最後の命を散らすかの様に刻印がその光を放った。
そのまま宗政は咆哮を上げながら、チェスの顔面に一太刀浴びせた。
刹那、口から大量の血が噴出した。
宗政がゆっくりと視線を下ろすと、自身の脇腹がその大剣に残酷にも胴体の半分以上斬られていた。
薄れ行く意識の中、今正に命の灯火が消え去るその瞬間、宗政が最後に見た物は自身が一矢報いた顔面の傷と鎧に刻まれた城のエンブレムであった。
そして、最後に竜之介の目の前に歴史を感じさせられる古びた道場が見え、その空間に勢い良く転がり込んだ。
「だああああっ!!」
竜之介が頭を押さえ、顔を上げると、その道場内で上座の方に向き、姿勢を正して正座をしている男に気付いた。
その男はゆっくりと竜之介の方に向きを変え、そして深々と礼をした。
男は顔を上げると、鼻から下を頬当で隠し、静寂な瞳で竜之介を見ていた。
「あ、あなたが……宗政さん?」
竜之介はその物静けさに動揺し、恐る恐る尋ねた。その男は優しい瞳をすると、
「竜之介殿、この様にお会いするのは始めてですね」
「私が……伊達宗政です」
と、言った。
「宗政さん!! 分かってはいましたが、やはり宗政さんだったんですね!!」
「はい、お陰さまで全ての記憶が繋がりました」
「でも、これで本当に良かったのですか?」
「これは私が望んだ事、悔いはありませんよ」
そう言って宗政は笑った。
「さて、では早速始めましょうか?」
「え? 何をです?」
「あははは、何を今更、修行に決まっているではないですか?」
「えええ??」
宗政は笑ってはいたがその目は真剣そのものであった。
「いいですか竜之介殿、時間が許される限り、私は自身の精神概念と剣技を竜之介殿に叩き込むつもりです」
「そして……見事私の敵、ルークのシヴァを倒してください」
――シヴァを倒す……!?。
竜之介はここで初めて宗政に敵討ちを依頼される。
「まぁ、あの時、私が全開の状態だったならば……負けはしない相手だったのですがね。やられちゃいました」
そう言って呑気に笑った。
「そして、今思い出しましたが、長信殿はきっとあなたを体力重視で鍛えあげる事でしょう。ですが、剣士の本分は鍛え抜かれた精神と技ですからね、勘違いしないように気をつけてください」
「長信殿は只の筋肉馬鹿ですからね」
「筋肉馬鹿って……」
この時、竜之介はお互いが嫌厭し合っている意味がようやく分かった。二人は考え方が全く逆なのだと。
「あの、ところで宗政さんは王将になろうとは思わなかったんですか? あ、それとも試合で長信さんに負けちゃったとか……?」
「断じて、そんな事はありませんよッ!!」
宗政は少し不機嫌そうな顔をして言った。
「じゃあ……どうしてですか?」
「そうですね……あるお方の傍にずっと居たかった……からでしょうか」
そう言って寂しく笑った。
「あ、その人って姫野さんの事言っているのですね!!」
「ぶうっ!!」
竜之介が確信を付くと宗政は明らかに動揺を見せた。
「まっ、まぁ、そんな事はどうでもいいじゃないですか!!」
それから、宗政はまた真剣な表情に変わり、立ち上がって板に添えつけの木刀二本を手に取って、一本を竜之介に手渡した。
「さっ、竜之介殿!! 始めましょうか!!」
こうして、薬の効果が切れるまで竜之介と宗政の修行が始まったのであった。




