■それぞれの本性
「……大狐の動きは?」
男の持つ通信機から相手の声が聞こえる。
「まぁ、とりあえず……現状維持かのぅ」
「奴から目を離すな?いずれ尻尾を出す」
「あいよ。で、竜やんのことだけど、何かわかったか?」
「ああ・・お前が珍しく目を付けた風間竜之介か?……調べたところ、この一族、少し奇妙な点があってな」
「ほぉ……で?」
「簡単に言ってくれるねぇ?こちらの個人情報を検索するのに、恐ろしいくらいのプロテクターがかけられてたんだぜ?」
「……律儀な事じゃのう、無論、お前さんなら解除できたんじゃろぉ?」
「ははは・・まぁな。これは第一級極秘事項に該当してて、下手打ったらこっちの命に関わったとこだぜ?」
「前書きはええから、はよ言わんかい」
「風間一族……レベルは一般以下、戦闘の足しにも成らない、ごく普通の一族。以上!!」
「なんじゃ?えらい言われようじゃのう。」
「一般データはコレで終わり。これしか表示されない仕組みになっていてな」
「但し、初代を除いては……だけどな」
通信相手の男の声が急に低くなった。
「初代風間天竜、頑丈な蓋を開けてみたら、過去に棋将武隊最強と謳われた人物」
「当時、この本拠地に攻め入ってきた最強のルークを倒した唯一の兵だ」
「…………ほう」
「この秀でたDNAを受け継いでる筈の後継者が、その後一人も棋将武隊での試験に受かっていない」
「ふむ」
「それに天竜は、何故か棋将武隊の名簿データから意図的に隠蔽されていた。それ以上は不明」
「ほほぅ、そりゃあ興味深いのぅ」
「おぃおぃ!! 自分の任務を履き違えるなよ? あくまでもお前は大狐の監視と報告だ。余計な事に首を突っ込まないでくれよ?」
「うははは、んなこたぁ、言わんでも分かっとるわい。」
「お前の大雑把な性格は余計に目立つ。いいか、くれぐれも大人しくしておく事!!」
「へいへい。んじゃ、定時連絡終わり」
「了解。次の報告も忘れんなよ?元治」
「あいよー」
「さぁて……、わしのお友達は今頃どこをどうしている事やら?」
元治が何やら不穏な動きをしていた時、竜之介は食堂のテラスに居た。
「竜之介にゃん、さっきからぼーっとしてるにゃー……。」
蛍がつまらなそうに、パフェにスプーンを突っ込んでぐりぐりしていた。それは主人が構ってくれない猫の様であった。
「まぁまぁ、竜之介さんはお疲れなんです。私は間近で竜之介さんを見れるだけでも」
うっすらと瞳を輝かせて、瑠理が竜之介を見ている。
「きっと、次の試合の事を考えているなりね!!」
「……あ」
音々の言葉で、竜之介は後日、正式に行なわれる酒井との試合を思い出した。
「そうそう、あの子の土獣と月光の連続攻撃には気をつけるにゃ!!」
「月光。確か武器名だったな……そうだ!!」
「蛍さん、そう言えば皆さんが使っている武器名を俺に教えてください。」
竜之介は思い切って質問した。
「はいにゃー」
蛍さ嬉しそうに竜之介にすり寄った。すかさず蛍はがっちり拘束された。
「ぐぬぬぬ、何するにゃ!! はにゃせー!!」
その隙を突いて瑠理が武器名について説明を始めた。
「え、えーとですね、前田さんは蛇眼、酒井さんは月光、小早川さんが双獣、北条さんは回天、藤堂さんは鬼雷、そ、そして王将明智様は伊弉弥と呼ばれています」
「なるほど……」
「はいはいはいー。ここからは、私達隊長が持っている武器名について私が説明するさね!!」
今度は小梅が割って入った。
「まずうちのは、旋光、蛍が魂狩、瑠理が雀羽、音々が飛燕、玉美が雅突、姫野が三紗と呼んでいるさね」
そして、当然のように今度は竜之介が問われた。
「で、竜之介が持っている青剣の武器名は何なのにゃ? きっとかっこいい名前にゃあ!!」
「あ、あのっ、僕の剣の武器名なんですが……」
竜之介が口を開いた直後、一瞬静寂が訪れたかと思うと部屋中に隊長の驚きの声が響き渡った。
「ええええッ!? 何ですってええっ!? 武器名を知らないいっ!?」
竜之介のこの発言が波紋を巻き起こした。
「と、いう事は……自分の家系の技を知らない?」
「こりゃあ、凄い例外さねっ!!」
小梅は驚きの表情が隠せなかった。
「竜之介、今更だけど、入隊試験の時、本当に何も知らないでここに来たのさね?」
「はい。戦具だけ持って行って試験を受けろと、当日に親に言われたもので……」
「な!!」
小梅の顔が引き吊り、他の隊長の表情も微妙になっていた。
「いっ、いいか、竜之介、試験を受けた者は皆当然の様に武器名を知ってるなりよ?」
「ええええッ!?」
竜之介は衝撃の事実を知って驚いたが、それ以上に隊長側がもっと驚いていた。
「試念柱は、武器から繰り出される技を吸収して反応する柱さね!! 武器名を知らない竜之介が只の青剣で斬ったとしても、当然試念柱はピクリともしない筈さね!!」
「あ、だからあの時、測定不能だったなりね……納得なり」
「でも武器名を誰も知らないって、本当の本当かにゃ……?」
「残念ながら……本当です」
また全員が驚いた。
「でっ、でも、宗政殿と長信様の鍔で技が使えるにゃ!! これは凄い事にゃっ!!」
ここで隊長達で竜之介に関する審議が始まった。暫くして、
「と、いう事で竜之介は将来有望って事で特に問題なし!! という事になったさねっ!!」
「将来有望って……」
その時、テーブルにイチゴの乗ったショートケーキが置かれた。顔を上げるとメイド姿の美柑さんがにしししと笑っていた。
「なんだか、面白い話してんなぁ?疲れた時は甘いものが一番だぜ? ほれ、食いな!!」
「え? なんだって?疲れすぎて一人で食えないだと? しょうがない奴だなぁ?」
にやにやしながら、フォークでイチゴを刺し、竜之介の口に向けてあーんとやってきた。
それを見た皆が自分が食べていたものを慌てて取ると一斉に
「竜之介!! あーん!!」
と、それぞれ口を開けて目の前に食べ物を差し出してきた。
この時竜之介は自分の母親が”この国では強い男ほどモテるわよ!!”と、言っていたの思い出していた。
竜之介がどれを食っても面倒くさい事になりそうだ。と悩んでいた時、
「竜之介っ!!」
ふいに名前を呼ばれる。そちらの方向に顔を向けると、桜子が腕を組み、口元をひくひくしながら立っていた。
「りゅ、竜之介は今宵は私の護衛につく日ですよね? お忘れになりましたか?」
「うわ!! 見事に忘れてた……っ!!」
「桜子、お前なぁ、この状況見て声かけろよな? 今私が竜之介と愛を育んでんだぜぇ?」
美柑が挑戦的な物言いで桜子に話し掛けた瞬間、
「何いってるんじゃあああ!!」
他の皆が、一斉にハモる。
この時竜之介は母親がここの女を怒らせると態度と口調がおかしくなるから気をつけたほうがいいわよ!! おほほほほ。と自分に警告してくれていたのを思い出していた。
――十洞女子、恐るべしッ!!。
竜之介はガタガタ震え始めた。
「あら、み、美柑、あ、あなた随分男の趣味がお変わりになったのですね?年下がお好みでしたの?」
桜子は両手拳を握ってぶるぶるさせている。
「ん? いやぁ、ちぃと状況が変わってしまってなぁ……まぁ、こいつの事は諦めてくれ」
頭をぼりぼり掻きながら、美柑が強引な事を平気で言い放つ。
その瞬間、桜子が微笑みながら美柑の首襟を掴み、力任せに壁の方へ消えていった。
「ひいいっ!!」
竜之介はその様子を見て恐怖した。
「薙刀隊長、そろそろ刃が鈍ってきたのではないですか? この私がじきじきにひとつ稽古をつけてあげましょうか? フフフフ」
「桜子の方こそ、あんなにやせ細っていたくせに、竜之介が出てきた途端急に元気をとり戻しやがって。竜之介は竜之介だぜ? 長信じゃねえからなッ!!」
「そんな事は美柑には関係ないだろっ!! と、じゃない、事でしょっ!!」
「あ、今俺は聞いてはいけないものを聞いた気がする……」
竜之介は美柑の首襟を掴んでいる桜子の手を退けようと必死に力を入れている美柑の表情を見て、桜子の本気のパワーに唖然とした。
「あ、今俺は見てはいけないものを見た気がする……」
「くっ、桜子、お前の本性を早く竜之介に見せといたほうがいいぜ? でないと後々後悔すんぜ?」
桜子はその一言で顔が真っ赤になり、思わず掴んでいた襟をぱっと放した。
「と、とにかく、やっ、約束ですからね!! 竜之介、さぁ、行きますよ!!」
桜子は竜之介の襟足をむんずと掴むとそのままずるずると力任せに引っ張り始めた。
遠くで、職権乱用!! だとか横暴だ!! とか色々なブーイングが飛び交っていたが、そんな事はお構いなし!! という感じで、竜之介は桜子に拉致され、テラスから姿を消したのであった。




