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■ルーク・シヴァ

 この一帯が恐怖と戦慄で埋め尽くされている。今も周りで絶望に満ちた同士の悲鳴が聞こえてくる。一人、また……一人と。


 その殺伐とした空間は今正に目の前に存在していた。


 内なる竜之介は、その一部始終を見ていた。最初は無残な亡骸を見ただけで、逃げ出したい気持ちで一杯だった。だが、一喝された時、内なる竜之介の中で何かが弾けた。


 それは、目の前で剣を構えている敵に対して、不思議な事に恐怖を感じない程、冷静になっている程に。


 それを感じ取った竜之介は、


「……少しは収穫があったみたいで、何よりですね」


 嬉しそうに笑った。


 そんな余裕を見せながらも、ヴァーユは竜之介に追い詰められていた。間合いを取り、迂闊には動かない、否、動けないと言った方が正しい。


[こいツ……見た目はチンケな野郎なのに、この威圧感はなんだ……? この俺様ガ動けなイだとッ!!]


[ふざけろっ!! 餌の分際でぇエエ!!]


 ヴァーユは、強引に一歩踏み出すと、盾を顔面目掛けて突き出してきた。これに対し竜之介は赤剣で盾を斬り付ける。鎧同様、赤剣の熱で脆くも焼き切れる筈。


 鈍い音をたて、剣と盾がぶつかり合った。だか、ヴァーユの盾は溶けてはいなかった。


 それは盾全体が、土で覆われている事にあった。その土は赤剣の一撃を受けた後、只の砂と化し、さらさらと消え失せた。


[もらっタァ!!]


 剣と盾が衝動で右に流されたと同時に、ヴァーユの剣が上段から切り込んで来た。


「ひゅっ!!」


 竜之介は、一呼吸すると体勢を低くし、切り込む剣より早く踏み込み、ヴァーユの懐に入り込んだ。


 流された剣は刃先が反対方向を向いていたが、竜之介はすかさず柄側で腹部を突き上げた。一点を集中的に突かれたヴァーユは堪らず、体を捻り奇声を上げた。


[ぐはあああああッ!!!]


「行きます……火虎業破ひどらごうは


 間髪入れず竜之介は渦巻く風を赤剣の柄から吹き出させ、そのまま弓の字となったヴァーユを後方へ吹き飛ばした。ヴァーユは嫌という程、地面に叩きつけられ、鎧から鈍い音を出しながら無様にごろごろと転がった。


[うぉおおオ、な、なんで、我ガ……ッこんな奴にッ!!]


 ヴァーユはその衝撃で鎧の面が半分めくれ、怒りに歪んだヴァーユの顔がハッキリと見えた。


 ヴァーユは剣を地中に突き刺し、ふらふらしながら立ち上がり、


[お前ぶっ殺ス、殺してやルッ!!]


 そう吐き捨てると姫野と対戦しているクリシュナに向け叫んだ。


[クリシュナぁ!! あれをやるぞぉオオ!!]


 それを聞いたクリシュナが剣を一端引き、ヴァーユの場所へ移動し始める。2体が揃った時、それをぐるりと取り囲む陣形をとった。


「さぁ、もう袋の鼠にゃ!!」


「さてさて……どう料理してくれよう……?」


「…………覚悟」


 状況はこちら側に分がありそうだが、竜之介の状態が思わしくない。体力が今のスピードについて行けず、苦しそうにしていた。


 竜之介から汗がぽたぽた地面に垂れ落ちる。赤剣の刻印は体力の消耗が災いとなり既に2つ消え、LV3にまで落ちていた。


「はぁ……はぁ……これはマズイですね」


 それを皆に気付かれまいと、必死で踏ん張る。


「宗政さん……」


 内なる竜之介も残り時間がもうすぐ無くなる事を薄々感じ取っていた。


「1体でも多く片付けないと……」


 攻撃を一斉に仕掛けようとした瞬間、ヴァーユがニタリと笑った。


[くらえエ!! 餌共おおおおおッ!!]


 竜之介達を囲んだ範囲の土が一気にぐらつき始めた。刹那、クリシュナが叫ぶ!!


[渦巻ケ、水共ぉおオオオオ!!]


 崩壊した地面から水が湧き出し、一気に渦を巻き始めた。


 あっという間に地面が泥水と化し、足場を一気に失う。やがて、皆が泥水に足を取られ、沈み出した。


[ふははははァ!! お前等全員、皆殺しダァア!!]


 雄叫びをあげるヴァーユ。蛍も酒井も必死に土を駆使し、対抗しようとするが力負けし、歯が立たなかった。


「くぅっ、だ、駄目にゃああああ!!」


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 為す術べも無く、足を取られ沈んでいく……。下半身が完全に濁流へ飲み込まれた時、


「このままでは……!! これ以上は本体が危険に晒されますが……止む得ませんッ!!」


 竜之介が押し殺すように叫ぶ。


「はぁっ、……はぁっ、……もう一撃、もう一撃なら撃てます……ッ!!」


*お主、竜之介の肉体も限界じゃぞ? 無茶じゃっ!!*


 ハルが叫んだ。


「竜之介殿っ!!」


 内なる竜之介に大きく呼びかけた。


「宗政さんッ!! この先何が起ころうと、俺の覚悟は出来ていますッ!!」


「良くぞ言ってくれました。それでこそ誠の剣士です。」


 竜之介はぶれ始めた両手で赤剣を握りしめ、それを足元に突き刺した。


「……火虎……炎爆ひどらえんばく


 竜之介が静かに呟いた瞬間、火虎の刻印が全て消滅した。


 その瞬間、濁流から風を巻き込む炎が一気に吹き上がった。


 その予測できない爆炎にクリシュナが言葉を失った。


[そんな……馬鹿なッ、お、お前、本当にあの炎の剣士だというのかあッ?!]


 濁流は一気に渇き果て只の土へと戻り、足場を取り戻した竜之介達は、そこから一気に脱出した。


 だが、その代償はとても大きく、最後の力を振り絞り技を繰り出した竜之介はもう立てないほど衰弱していた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ……っ、はぁ……っ!!」


「宗政さん!! 駄目だ……もう薬の効果が切れるっ……!!」


[ヴァーユ、我々の魔法石も、もう限界ダ……マズいゾ]


[くそッ、もう一息というところでッ!!]


 ヴァーユも同じ様に疲労していた。そこを一気に、姫野、蛍のコンビで倒しにかかる。


 獲った!!そう思った瞬間、戦場が一気に殺気で包まれた。それは、誰もが皆感じ取れる程、残虐で重圧的な殺気だった。


[あああ……シヴァ様あッ!!]


 ヴァーユがその方向を向いて叫んだ。


 シヴァは、その殺気を放ちながら、片手で大剣を担ぎゆらりと立っていた。


 その敵は竜之介逹が今この場で絶対出会ってはいけない敵、ルークのシヴァだった。


[ヴァーユ……なんダ?その無様な格好ハ……?]


 ギロリとヴァーユを睨む。一瞥をくれたあと、今度は竜之介の方へに視線を向けた。


[お前ガ、炎の剣士だト?……ふん、違うナ]


 竜之介は、虫の息でシヴァを朦朧と見た。鎧の顔面に斜めの傷、胸に刻まれた城のエンブレム……。


「お前を……私はどこ……かで……」


 シヴァは暫くこちらを伺っていたが、踵を返し、


[部下からノ報告を受ケ、もしやと思いここに来て見たガ……とんだ見当違いだったようダ]


 そして、つまらなそうにため息をつくと、


[ヴァーユ、クリシュナ、周りに散乱している餌を回収し、撤収するぞ]


[ハ、ハイ……ッ!!]


 シヴァはそのまま2体を引き連れ林の奥へと消え去り、暫くして奇門がすーっと消滅した。


 それを見届けた瞬間、竜之介の武装は全て解除され、そのまま地面に崩れ落ちた。


「竜之介!! 竜之介!! しっかりしろ!!」


「は、早く竜之介にゃんを運ぶんにゃ!!」


「はは……宗政さん……俺、もっともっと自分を鍛えます……から」


 竜之介はこの戦いで刻まれた体中の激痛を受け止めながら、そのまま意識を失うのであった。


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