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■戦場

 ぼんやりしていた視界が徐々に開けてくる。竜之介は転送され、戦場に到着した。


 武装を終えた姫野が竜之介に話し掛けた。


「……竜之介に絶対無理をするな」


「はい……分かりました」


 竜之介は素直に返事をした。


「……二人で固まっているのは危険だ。私は離れ、向こうを殲滅してくる。竜之介、気を付けて」


「あ……」


 姫野は高くジャンプし、竜之介から離れていった。その姫野の背中を見ていた竜之介は何故かとても切なくなった。


 すぐ様、我に戻り首を横に振って、大きく深呼吸をした。


「竜之介殿、覚悟はいいですか?良く戦場を見ておく事です」


「……はい。」


 覚悟。それがどういう意味なのか内なる竜之介にはまだ分かってない。ただ、空返事するしか出来なかった。


 内なる竜之介の目前に飛び込んきたもの。形を留めていない民家、そして先の歩兵が使用したかと思われる無残に割れた水晶、そしてそのすぐ近くには無数の骸。


 内なる竜之介が生涯で未だ見てなかったもの。それは今まで動いていたであろう、棋将武隊の兵が、電池が切れた玩具のようにピクリとも動いていない姿。


 それを、引きずりながら持ち去ろうとするポーン達。


「うっ……」


「竜之介殿、目を反らしてはいけません。これが、戦場なのです」


 低い声で一喝する。敵兵が竜之介に気付き、振り返った。その兵は西洋鎧を纏い、手に槍付きの斧、胸にエンブレムが刻まれている。


「ポーンですか……」


 竜之介はそう言うとゆっくりと紅い鍔を取り出した。


「竜之介殿、すみません。私も貴方の武器名を知らぬ故」


「抜刀……火虎」


 その掛け声に呼応するように火虎が出現する。その時、1体のポーンが斧を振りかざし襲い掛かってきた。


 1体目が上段から斧を振るう。それを剣で受け、2体目が隙となった胸部へ槍で突いてきた。


「危ないっ!!」


 瞬時に竜之介は後方に身を引きながら、受けた斧をそのまま下へ受け流す。

流された斧は突いてきた槍を下方向に受け流す感じとなった。


「凄いッ……!!」


 更に素早く身を左に交わし、槍で突いてきたポーンの背後に回りこむ。


「ぬん!!」


 火虎が鋭い音を立てて、ポーンの鎧に突き刺さった。


「せいああっっ!!」


 掛け声と共に火虎を力のままに真横へ振り抜いた。


[ギャアアアアアアッツ!!]


 断末魔の声と共に1体が2つに分断され、地面にごろりと転がり落ちる。もう1体が体勢を立て直そうとしてこちらを振り返るが、その動作は竜之介の前では無駄な動きだった。


 振り抜いた剣は、もうポーンの頭上に来ている。剣の影がポーンの顔面上に軌跡を描き、その形どおり切り刈られた。


「竜之介殿、これが戦場の戦いです」


「はい……」


「ですが、私の動きで貴方の体に大きな負担を掛けてしまっているようです」


「え?」


「まず、剣を受けるときに、腕に相当な負荷」


「そして、後方へ飛びのく時、左足の負荷」


「最後に剣を振りぬくときに両腕の負荷」


 内なる竜之介はただ黙ったまま、事実を聞く事しか出来なかった。


「要は、貴方の肉体が私の動作についてこれていない。入れ替わった時はそれなりの痛みが襲う筈ですから覚悟しておいてください」


「……はい」


 現実を痛感する。竜之介はふうっと一息付くと、


「武装……」


 竜之介の掛け声で、体に甲冑が装着された。


「さて、お次は……」


 水晶からハルを呼び出だす。ハルはそれが別人だとすぐに気付いた。


*……む? お主は火の方か……*


「はい、またリンクをお願いします」


 そういって苦笑いをした。


*うむ、良かろう*


ハルが赤剣にそっと触れると、5つの刻印が赤剣に現れた。


「姫野隊長……今行きますッ……!!」


 竜之介が、姫野の方へ援護へ向かう。その場所から少し離れた所に桂組の蛍、そして……酒井が居た。


「薙ぎ払うにゃあああ!!」


 蛍の武器は大鎌で、その様は大鎌が単体で旋回しているようにも見える。

ポーンがその鎌の範囲に収まり、切るというよりも”引っ掛けられている”

ような感じで豪快に吹き飛ばされていた。


――見た目は小柄で可愛いのに、なんでここの女の子は力持ち揃いなんだろう?。


「あ、竜之介!! 来たんにゃ!! にゃっほー」


 蛍は竜之介に気付き、余裕で手を振っている。


――あんな馬鹿力でぎゅっとされたりしたら。


 内なる竜之介は身震いを起こした。


 一方、酒井の武器は槍型で剣の刃が2枚、V字型となっている。その酒井にポーンが襲い掛かった。


「いやはや……愚か者ですな……月光砕獣げっこうさいじゅうッ!!」


 冷ややかな言葉を口にした途端、ポーンの動きがぴたりと止まる。ポーンの足元が急激に盛り上がったかと思うと、土獣が出現しポーンの足に噛み付いた。


「南無うッ!!」


 その声と同時にV字型の剣がポーンの首を捕らえた後、刃と刃が重なり合い、鎧が紙のように異様な歪みを見せた後、ポーンの首が無残に切断された。


「……竜之介!!」


 姫野が竜之介の姿を見て叫ぶ。後方から敵の援軍が2体現れ、その2体は明らかに格下と違うオーラを漂わせていた。2体とも盾と剣を持つ騎士それは美柑が竜之介に説明していたナイトであった。


[クリシュナ、お前ハあの3枚刃槍の女を殺レ、俺ハあっちの美味そうな大鎌女を殺ル……]


[分かっタ、ヴァーユ]


「いやはや……させませんぞ!!」


 すぐさま酒井が土獣でヴァーユを捕らえる。


[笑わせル、貴様、その程度カッ!!]


 その手を土蛇が現れ、酒井の土獣をばらばらに噛み砕いた。


「ちいっ!! 拙者と同じ土属性ですか、これまた厄介ですなあッ!!」


 その土蛇が酒井へ襲い掛かかろうとするが、酒井が同じように土獣を出現させ、互いに絡み合わせた。


[バカめ……お前より俺の土蛇が格上ダ……]


「むぅ……!!」


 酒井が、土蛇に手を取られている隙にヴァーユが標的を蛍に変更する。


「……竜之介、こっちは良い。蛍を援護しろ!!」


 姫野は、クリシュナと対峙している。


「むっ、気持ち悪いにゃ!! こっちにくるにゃあ!!」


 蛍が大鎌をヴァーユに、力任せにぶんぶん振り回す。それだけでも砂煙が立ち上った。


 竜之介は、素早い動きで地を駆けて、蛍の間に滑り込む。


「くうっ!!」


 刹那、竜之介表情が少し苦痛に歪んだ。


「竜之介殿……鍛え方が全然足りませんよ?」


「うう……すみません」


長信「竜之介、お前かなり鍛えないと全然使い物にならんぜ?」


 長信が言った通り、竜之介の急激な動きに肉体が付いていけない。その為あちこちの部位が悲鳴を上げていた。


「竜之介、私のにゃいと様、登場にゃん」


 そんな事をよそ目に、蛍は嬉しそうに喜んだ。


「これは計算外でした。早く勝負をつけないと、マズイですね」


 竜之介が不安を口に出した。


[お前なんダ……? 邪魔だ、そこを退けロ!!]


 ヴァーユが鎧の奥から竜之介を睨む。


「そういう訳にはいきません……貴方にはここで消えてもらいます」


 竜之介は赤剣を中段より少し上に上げ、左側に刃先を傾ける。その時、ヴァーユの動きが一瞬止まった。


[ん?……その赤剣、どこかで見覚えがあるゾ……?]


[お前……確かシヴァ様に傷を付けたヤツカ?]


「シヴァ……?」


 その名を耳にした時、竜之介に衝撃が走った。


「シヴァ……その名前どこがで聞き覚えが。私はそいつと何処かで……会っている気がします。」


 ヴァーユは近くのポーンを呼び、何かを伝える。ポーンは頷くと足早に何処かに向かって走っていった。


[でハ、お前の武士道と我の騎士道、どちらが上カ見極めさせてもらうゾ?]


 ヴァーユは剣を垂直に立て胸にかざした後、盾を前に出し、剣先をゆっくりと竜之介に向けるのであった。



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