■食堂と裏山
と成となった竜之介には個室が与えられており、竜之介の部屋はその4階であった。
部屋の鍵は自分が所持している鍔。ドアに付いている穴に登録済みの鍔を重ねるとドアロックが解除され、部屋に入れるようになっている。
洗面台にトイレと風呂が別々で中も結構広く、ベットも大きめでしっかりしてる。
竜之介はまだ慣れていない部屋の中でぼんやりしていると、ぐ~っと腹の虫が鳴った。
「お腹すいたな」
竜之介が漏らした言葉にすかさず、長信が部屋を出る事を提案してきた。
「とりあえず、出かける前に風呂に入らせてください……」
ここで竜之介の入浴中に可愛い女の子が入ってくるとかそういう流れにはならないので一応伝えておく。
「あ、そういえば、俺の右肩をだれが治療してくれたんだろう?」
竜之介はまだ少し痛みがある右肩を見る。傷口は綺麗に塞がっていて、シャワーのお湯がかかっても全然大丈夫だった。
竜之介は風呂から出て、クローゼットの中か何着も揃えられた衣装を手にとり、最後にマントを手にした。
「これ羽織らないと駄目なんだよな……」
竜之介がボヤいていると、長信がこのマントを羽織るのは棋将武隊から選ばれた強者でとても名誉な事であるという事を耳にタコが出来る程、聞かされる羽目になった。
「だから、俺は全然強くないですってば……」
竜之介は肩衣の上に「飛組」とざっくりと書かれたマントを羽織り、襟にと成のバッジを付けた。
竜之介はテーブルの上に置いている長信と宗政を繋ぐ糸、「バクミン」をじっと見る。
「さてと、行きますか!!」
竜之介はこの建物の西側にある食堂に向かった。ちなみに、食堂にもと成専用があり、他のメンバーが食事をしている可能性がある。
竜之介は食堂の入り口の前に立つと、お腹は空いてるがあんまり他の人と会いたくないなぁと思い、腕を組みうんうん悩んでいた。
その様子を見た長信が苛立って竜之介を中に入る様に促している時だった、
「やや、そちらにいらっしゃるのは、飛組の竜之介殿ではござらぬか?」
その声に驚いて、慌てて後ろを振り向く。その声の持ち主は……桂組と成、酒井忠高だった。
「あ……ども」
竜之介はぎこちない挨拶をした。
「竜之介殿、固い挨拶は抜きにして、一緒に飯でも食わぬか?」
酒井は意外と社交的で竜之介に優しく話しかけてきた。二人がテーブルに着くと、普段は薙刀武隊の兵として活動している女達がメイド服に着替え、給仕としてやってきた。
「酒井様、本日は何にしますの?」
竜之介は酒井を見て、頭にターバンを巻き、仏ぼくろのイメージとくれば、注文の品は「カレー」と言いそうになったが、それに耐えた。無論、長信も竜之介と同じ事を言っていたのは言うまでもない。
酒井は竜之介達の期待を見事に裏切り、「天ぷらうどん」という普通っぽいチョイスをしたのだった。
暫くしてお互いの品が来たので食事を開始した。幸い今ここには酒井と竜之介しかおらず、竜之介は安堵の溜息を付いた。
竜之介が旨そうにカツ丼をほおばっていると、何やらひそひそ声が聞こえる。
竜之介がなんとなく酒井を見ると、うどんを口に入れたまま、目であっちあっちとやっている。竜之介がその方向に目を向けると――。
「きゃーっ!! 竜之介様がこっちをお向きになったわ!!」
次にカツをかじると――。
「きゃーっ!! 竜之介様がカツをかじられたわ~!!」
「うう、食い辛い」
立ち上がって周りを見てみると、薙刀武隊のメイド達が珍種をみるかの様に竜之介を遠巻きで見ていた。
「いやはや……竜之介殿、噂にたがわぬモテっぶりで、うらやましい限り!!」
と、肩膝を立てつゆをごくごく飲んだ。そして、汁を全部飲み干すと、ふうっと息を吐き、
「ま、皆の前であんな芸当と強さを知らしめしたのですからなぁ」
と、少し天井を仰いだ後、
「……相手が前田みたいな力量を測らぬ愚か者でしたのが幸いでしたなぁ」
声のトーンが急に低くなった。
「竜之介殿は確かに強い……だが脆い」
竜之介は何かを見透かされたような気がした。
「試合では、通じても……戦場では、さてさて、どうでしょうかな?」
更に酒井の目に鋭さが増した。
「竜之介殿、戦で命尽き果てて拙者と合間見えないというのは勘弁願いますぞ」
「生き延びれておれば……次はこの酒井忠高がお相手になりましょう」
そう言い終えると、表情がぱっと穏やかになった。
「では、戦場で!!」
酒井は席を立ち、食堂を出て行った。竜之介も次いで食堂を出た。
周りは相変わらず、きゃあきゃあ言っている。最初は少し嬉しかったりもしたが、今の竜之介にはそれは宗政や長信へ向けられているものとしか考えられなかった。
竜之介の桁外れの強さはこの肉体が滅べば何の意味も持たない。それは竜之介が長信、宗政と入れ変わる前に命を絶たれた場足、それは完全な死を意味する。
「あいつはもしかするとお前の背後の俺達に気付いてるのかも知れねえなあ。竜之介、結局おまえ自身が強くならねえと駄目って事だな。」
「はい、このままでは駄目ですね……俺」
竜之介はもやもやした気持ちを落ち着かせる為、建物の裏山を少し散策する事にした。
「裏山か、久々に見るがいいもんだ!!」
長信が満足そうに言った。
地面を踏みしめる音に心地良さを堪能する竜之介。だが竜之介は、その心地良さを掻き消す現状に遭遇した。
「なんだ……? これは?」
月夜の頼りない明るさではあったが、それが何であるか、竜之介は理解していた。
「動物の死骸だよな……しかも、こんなにたくさん……」
「おいおい、ひでえ事をしやがるな、何処のどいつがやりやがった?人間の風上にもおけねえな……」
長信もこの光景には驚いた。
ゆっくり死骸に近づいていく竜之介。良く見ると、全部鋭利な刃物で頭部を突き抜かれていた。
「酷い……!!」
竜之介は、愕然とした時だった、茂みで人の気配がした。
「そっ、そこに、だっ、誰かいるのか!?」
目を凝らす竜之介。そこに月明かりに照らされ不気味に高く取り付けられた刃先がぎらりと反射した。
「え?……あれはもしかして薙刀か?」
顔は良く見えないが、頭に大きめのリボンを付けているのははっきりと見えた。
それに該当する女の子を竜之介は一人だけ知っていた。いや、竜之介だけではない。
「そこにいるのは、織田さんなのかッ!!」
竜之介の声に反応して、ゆらりと女が茂みから姿を現した。掲げている薙刀の刃先は、血で染まり、それがぽたぽたと下に落ちて、衣装を汚していた。
竜之介は顔を確かめようとして足を前に進める。徐々に目が暗闇に馴染み、視界が徐々に広がり始めた。
視界の先にはいちのが手に持っている薙刀をだらりと下げ、目をうつろにして、生気を感じない冷たい表情で竜之介をじっと見つめていたのだった。
「いちのっ!! う、嘘だろッ!!」
長信が震える声で叫んだ。
竜之介は普段明るく振舞ういちののイメージが脳裏に焼き付いていて、その判断を簡単に受け入れる事が出来なかった。
「ふふっ……」
いちのはやがて、冷たく微笑んだ後、踵を返し亡霊のようにふっと姿を消した。
「な、なんで、いちのが……信じられんッ!!」
「長信さん、でも……あれは確かに……」
竜之介は今起きた現実を受け入れる事が出来ず、暫くその場に立ち尽くしていた。




