■織田長信
竜之介は深く沈み行く潜在意識の中、目の前に射した1つの光に手を伸ばす。
「この光……!!」
竜之介はその光にぐんぐん引っ張られながら瞼を静かに閉じた。
黒「竜之介!!」
赤「竜之介殿ッ!!」
「う……」
竜之介はゆっくりと瞼を開けた。そこに2つの人魂がゆらゆら揺れていた。
「あ……ここは!!」
竜之介は勢い良く起きて、辺りを見回した。
「間違いないッ!! 俺はここに来れたんだ!!」
黒「竜之介、そりゃあ一体どういう事だ?」
赤「竜之介殿、ご説明を!!」
竜之介は自分が薬品を使ってこの場所へ力づくで来た迄の説明をした。
黒「お前、何故そんな馬鹿な真似を!?」
赤「そうです、それは無謀というものです、とても感心できません」
「長信さん、実は桜子さんが貴方に会いたがってて、それで迎えに来たんですよ!!」
黒「桜子……?」
「長信さんも宗政さんも聞いてください。現世ではあなた方の事を皆口々に言ってます。間違いなくニ人は長信さんと宗政さんなんですよ!!」
それを聞いた人魂達は困惑した。
「長信さんは剣士の丘から転落死」
黒「……」
「宗政さんは、姫野さんを庇って戦死」
赤「……」
「自分の剣技は覚えてて、どうしてこんな大事な事を忘れてしまったんですか!!」
黒「そりゃあ、こっちが聞きたいぜ」
赤「悔しいですが、私もです」
黒「なんだよ、赤玉ッ!! お前は俺の真似をしてんじゃねえよ!! 姫野って女の事を思い出して、さっさとここから出ていきやがれっ!!」
赤「相変わらず口の聞き方を知らない野蛮人ですね? 自分こそ桜子との記憶を取り戻して、彼女の元に行ってあげたらどうですか?」
黒「なんだと!? もっぺん言って見ろ!!」
赤「分からないなら、何度でも言ってあげますよ?」
黒「上等じゃねえかああッ!!」
人魂は竜之介の頭上で激しく小競り合いをしだしたかと思うと、いきなりぶつかり合いを始めた。
「わわ!! ちょっと二人共落ち着いてください!!」
黒「お前は最初に会ったときから俺様はすっげええ気に入らなかったんだよっ!!」
赤「ほう?妙な所で気が合いましたね。私もですよ」
黒「そうかよおッ!!」
言って、人魂同士が、互いに激しくぶつかり合う。
「ちょ、本当に止めてくださいってば!!」
その時、黒い人魂が赤い人魂とぶつかった反動で、思いっきり竜之介に突っ込んできた。
「うわあああ、危ないいっ!!」
竜之介が黒い人魂に触れた瞬間、それは突然起こった。竜之介の目前に小さな男の赤子が産声を上げ、その赤子がどんどん成長し、初めて剣を手に取り、色んな人に出会い、様々な修行をしながらどんどん逞しく、強くなっていく姿が流れていった。やがてその男は黒剣を手に取った。
「な、なんだ!! これッ!!」
その男は更に強くなり、まるで猛獣のような動に溢れた男となった。一瞬、空間が弾けると、竜之介が知っている女、桜子の笑顔で一瞬にして空間が埋め尽くされ、そして次にあの男が現れた。
その男は明智秀光、棋将武隊の王将。秀光とのやりとりの画像がざっと流れるとノイズがいきなり割り込み、次に映し出された物・・それは長信が転落しながら伸ばした手の先で秀光が狂気に嘲笑っている映像だった。
「これはッ!!」
その映像を最後に、竜之介の目の前が真っ暗になったかと思うと、ひとつの景色が飛び込んできた。
竜之介はそれに向かって突っ込んで行く。
「うわああああああああ!!」
竜之介は2転、3転して大木で頭を打ち付けた。
「いってててて……」
竜之介が頭を摩りながら顔を上げると、目の前に白く長めの鉢巻を風に靡かせながら、逞しい背中を見せ立っている一人の男に気付いた。竜之介はその男に恐る恐る声を掛けた。
「あの……あなたは、もっ、もしかして……」
その男はゆっくりと竜之介の方に振り返り、にかっと笑った。
「俺様は……豪腕にして最強と謳われた闇の剣士、織田長信だ」
「なっ、長信さああんっ!!」
「竜之介、ありがとよ。俺様は今全てを思い出したぜ?」
「じゃ、じゃあ桜子さんの事も!?」
「おお、俺様はあいつに飼い殺されてたんだよ」
長信はそう言って照れながら人差し指で顎を掻いた。
「長信さんでも、桜子さんには勝てなかった……と?」
「ああ、流石の俺様もあいつだけはお手上げだな」
今度は両手を上げ微妙な顔をする。
「って、和んでる時間は無い!! 長信さん、今からすぐに俺と一緒に桜子さんの所へ行きましょう!!」
「そうだな。俺様もそうしたいのはやまやまだが……」
竜之介はここで大事な事を忘れてしまっていた。
「竜之介、俺様達はここからどうやって外に出るんだ?」
長信の問いに、竜之介ははっと我に返った。竜之介達がいる場所、そこには見た事もない器具と、川から流れて落ちる滝壺のある広場であった。
「と、いうかここは何処なんだ?」
竜之介が置いてある器具を珍しがって触っていると、
「それか? それは全て俺様が発明した究極の修行器具だ。そしてここは曽て俺様が自分を鍛えた場所でもある」
「え? 本当ですか!?」
「ああ、間違いねえ」
「でも、どうしてこんな事に。せっかく長信さんの記憶が蘇ったというのに!!」
長信は辺りを懐かしむように見つめていた。
「さてね……これが何を意味するのか俺様にも全くわかんねえなあ」
「長信さん……」
「仕方ねえから、竜之介にここを案内してやるぜ!! 俺様に着いてきなッ!!」
それから暫く二人は滝壺に入ったり、発明器具を試したりして楽しい時間を過ごしていた。
その時だった。
二人がいる場所が急に激しく揺れ、地響きが鳴り始めたのだ。
「うわっ!! まさか、もう半日が過ぎたのかっ!?」
「何だその半日って!!」
「この薬の有効時間ですッ!!」
「なんだあそれッ!! どうなるんだッ!!」
「俺にも全然分かりませんッ!!」
竜之介が自信を持って答えた。
「こんな時に自信満々で答えてるんじゃねええ!!」
刹那、竜之介達は、その世界から引っ張られる様に離れていった。
「うわあああああ!!」
「はっ!!」
竜之介が慌てて飛び起きるとすぐにあちこちを見回した。そしてそこが医務室だと分かると、深い溜息を付いた。
「はーっ……結局どうする事も出来ずにここへ戻ってきちゃったか……」
「せっかく、せっかく長信さんに会えたのにッ!!」
「くそっ!! すみません!! 長信さんッ!!」
「まぁ、仕方ねえって、気にすんな!!わはははは!!」
「はい・・本当に……って、ええええ?!」
「おお?竜之介、もしかして俺様の声が聞こえるのか!?」
「はっ、はい!! ちゃんと聞こえてますよッ!!」
「本当かっ!! 凄いじゃねえか!!やったな!!」
「どうやら、この薬と長信さんが記憶を取り戻した影響か何かで繋がったみたいですね!!」
「おお、しかもお前が見ている物が俺にも見えてるぜ!!」
「それは凄いッ、それで宗政さんにも聞こえてますか?」
暫く沈黙の時間が経過した。
「ぶわっはははは!! 赤玉のヤツ、何も見えないし、何も聞こえないとよ!! ざまぁ!!」
「な、なんだよ!! やる気かお前……ッ!!」
「ちょ、ちょっと二人共喧嘩は止めてください!!」
「そんな事より、今から桜子さんの部屋にいくのでちゃんと話をしてください」
「分かった。やってやるぜ!!」
「では、早速向かいましょう!!」
こうして竜之介は記憶の戻った長信と共に医務室を飛び出したのであった。




