■決着
竜之介は惨めに倒れ、広場はしんと静まり返って決着はあっさりとついてしまった。
それは、誰が見ても前田の完全勝利と思わざる得ない状況であった。
前田は勝利を確信し、姫野へ呼びかけるのだった。
「さぁ!! 姫野隊長!! この試合、俺の完全勝利です!!」
「本当はこいつを殺したかったのですが、規則に従い、殺してはいません」
歓喜に酔った前田は宙を舞うかの如く、剣を振り回した。その様子を見ていた姫野は顔色一つ変えなかった。
「俺が飛組と成で依存ないですね?」
剣をピタリと止め、前田が姫野に念を押した。姫野は硬く閉ざしていた口を静かに開く。
「…………起きろ」
「竜之介……そんな所で休んでないで、さっさと起きろ」
「ええええええっ??」
周りは騒然とした。
当然である。今まさに救護班が担架を担ぎ、竜之介を回収しようとする直前で、冷静にそんな言葉が出るとは誰も思っていなかったからだ。
前田は顔を引きつらせながら、地面に転がっている竜之介の方へ向き直った。
「ば、馬鹿な!! こいつはもう、立つ事さえできませんよ!!」
まさか!? という表情をして竜之介を見ている。
その頃竜之介は、途絶えた意識の中であの2つの人魂と再会していた。
「駄目です……悔しいけど、俺では前田との力に差がありすぎて全然相手になりません……」
黒「ったく、しょうがねぇなぁ。ここはどうやらまた俺様の出番のようだな!!」
「長信さん……」
黒「待ってな!!今すぐここから出て行って、あいつをギャフンと言わせて来てやるぜっ!!」
赤「いえ……少し待ってもらえませんか?」
赤い人魂が黒い人魂を制止する。
黒「なんだよ!! 竜之介は自分じゃもう動けねえぜ?」
赤「いえ、そうではなくこの女の人の声……」
姫野は続けて竜之介に呼びかけ、その声は次第に大きくなっていった。
「竜之介っ!! お前には宗政の魂が宿っている!! 負ける筈などないッ!! 立たぬかッ!!」
赤「――!!」
赤「私はこの人の為に行かねばならない……気がします」
「む、宗政さん……」
黒「ほぅ、面白い。そこまで言うのならお前の実力とやらを見せて見ろよ?」
赤「いいでしょう……竜之介殿、すみませんが、暫しこの体を拝借します」
「あ……はい、よろしくお願いします!!」
竜之介の前から赤い人魂がすっと消えた瞬間、竜之介の手がゆっくりと動き出し、体を起こし始めた。それを目の前で見た前田が驚いて叫んだ。
「馬鹿な!! あの技を喰らって起き上がれる者など……っ!!」
前田は狐に包まれた表情をしている。
竜之介はゆらりと立ち上がった後、地面に転がり落ちている鍔を拾った。
「これは……」
竜之介がその鍔を持って再度抜刀しようとした時、
「竜之介これを使ってみろ……!!」
姫野が懐から何かを取り出し、竜之介の方に投げ込んだ。竜之介はそれを受け取ると、その感触を確かめ、
「おお、これは、確か火虎の鍔……私は、これを見ていると、何処か懐かしい気がしてきます」
竜之介はその鍔を握り締め、前田の方を向いて静かに対峙した。
「そこのお前、ゆくぞ。抜刀……火虎」
その声は低く、自信に満ち溢れた声に変わる。
鍔からは灼熱色をした、赤剣が現れ始めた。
姫野はそれを見届けると静かに微笑んだ。
「お、お前、ふざけるなっ!! その剣は……!!」
その瞬間、前田の顔が豹変した。
竜之介の右腕は肩のダメージが大きく、思うように動かせない。この光景に隊長の面々も注目した。
「見てにゃ小梅!! あっ、あの剣、宗政殿の赤剣、火虎にゃああッ、それを竜之介にゃんが使いこなしてるッ、凄い、凄いにゃあああ!!」
竜之介は赤剣を地に刺すと、水晶を取り、ハルを召還した。
「ハル、すみませんが私に少々お付き合いください……」
*なんとまぁ、忙しい日じゃのう*
呼び出されたハルはすぐに自分の姿と竜之介を見て、表情を曇らせた。
*お主も……竜之介本人ではないな?*
「はは……すみませんね、今の竜之介殿では私の精霊が召還できませんので……」
竜之介は笑いながら武装し、再度火虎を手に取った。
*それでは、お主の力も見せてもらおうかのう*
そう言って、ハルがそっと赤剣に触れ、すうっと融合した瞬間、5つの刻印が勢い良く現われた。
黒「うははは!! あいつも中々やるじゃねーの!!」
黒い人魂が笑った。
「む、宗政さん……す、凄いッ!!」
「蛍!! せっ、赤剣の刻印の数を見るさね!青剣では1つだったのに、赤剣では5つに変わっているさね!! こんな面白い人材が隠れてたなんて、びっくりさね!!」
「長信様と、宗政様が合わさった完璧な男なりよ!! 私、1番に唾つけたなり!!」
「LV5……だと!? ぐぐぐぐぐ!!」
竜之介が隊長連中に一目置かれたのを見て、前田は感情を露にして叫ぶ。
「貴様!! 性懲りも無く起き上がりやがって!! 今度こそ二度と起き上がれないようにしてやるっ!!」
前田は、剣の持ち方を変え、下にゆっくりと下ろし、刃先を上に向けた。
これに対し、竜之介は、左手をすーっと上げ、少し右側に赤剣を傾け上段に構えた。それを見ていたと成の面々が反応する。
「なんだあいつ!! 風に闇に炎までも扱えるのか? 異常すぎるぜ!!」
「ほぉ、あの赤剣といい……」
「ふむ。あの構えにあの間合い、私達が以前知っていた人物に似てますね。」
「ひゃははっ!! マジかよ!! あいつぜってえ、宗政だぜっ!!」
互いに間合いを保ちながら、後ろ足で弧を描く。やがてこのやり取りに痺れを切らした前田が叫ぶ。
「きっ、貴様、馬鹿か!! 上に構えている分、反応が遅い、俺の方が有利だっ!!」
前田はじりじりと間合いを半歩詰める。
「くたばれっ!! この偽者めがあっ!!」
前田の刃先が上下に激しく揺れた瞬間、目の前から消えた。
「さっきと同じだ!!」
「遅いですね。火虎……隼」
そう言い放った竜之介の体が信じれない速さで動いた。それは上空を舞う隼が、獲物を一気に襲うかの如く。
下から切り込んで来た切先を、竜之介はしっかりと視界に捕らえている。瞬時に竜之介はそれを片手で軽く払いのけ、巻き込むように地面へ叩きつけた。
「があああああああああっ!!」
剣が地面にめり込み、前田は悲鳴を上げた。
「な、なんで偽者のお前が隼の技を……!?」
「……お、お前は、宗政の亡霊なのかあっ!!」
姫野が竜之介の繰り出した技を見て涙を滲ませた。
慌ててめり込んだ剣を力任せに引き抜き、竜之介に襲い掛かかる。
だが、前田がどんなに早く切り込んできても、竜之介はいとも簡単に全部かわした。
「なんなんだよ、お前はよおおっ!! 畜生っ!! こうなったら……!!」
前田は後ろに下がり、距離を取って、殺気を放ちだす。再度水蛇が現れ始めた。
「あっ! 殺気の具現化……宗政さん、気をつけて!!」
「ふん・・この場面で殺気の具現化? 取るに足らない技……笑わせますね、あまりにも滑稽です」
竜之介は不敵に笑った。
「ほざくなッ!! これで終いだああああっ!! 蛇眼水檻っ!!」
前田が叫び、さっきと同じ水蛇が宗政に襲い掛かかる。
「ああ・・マズいっ!!また……!!」
その瞬間、腰を低くし、両足を広げ、宗政は赤剣でゆっくりと円を描き始めた。やがて、熱を帯びた剣が一気に燃え上がり、風を巻き込みながら炎陣を描きだした。
「燃え尽きるがいい……火虎炎陣」
竜之介が静かに技を口にした後、赤剣を一気に前田に向け振り斬る。炎陣は水蛇を一瞬にして巻き込み、蒸発させた後、威力を増して前田に襲い掛かった。
「う、うわあああああ!!」
巻き込まれるように前田は後方へ吹っ飛び、木造の壁板を付き破り更に2転、3転した後、手をぴくぴくさせ、そのままの姿勢で動かなくなった。
竜之介用に用意されてた担架は向きを変え、前田を回収し、医務室の方へと消えていった。
そして静かだった広場に物凄い歓声が一気に沸きあがった。
「あいつ……やりやがった!!」
「……みたか?あの隼の技!!」
「ああ……紛れも無く、宗政の技だぜ!!」
「あいつ、3つの属性使いなんて、こんなの信じられねえ!!」
その歓喜は当然、女性陣のへも飛び火している。
「あの子……凄い!!」
「かわかっこいいー!!」
その歓喜の中、人の間の隙間から大きなリボンを揺らし、頭をひょこひょこさせながら竜之介を見ているいちのがいた。
「竜之介さん、凄い、凄いっ!!」
そして、あっという間に竜之介の周りに取り巻きが完成し、また勧誘の嵐が始まった。
「竜之介君、気が変わったら、いつでも金組へ来てなり!! 姫野に負けないくらいサービスするなりよっ!!」
――なんだろう? そのサービスって?。
「うにゃ!! うちが竜之介ちゃんにサービスするんにゃ!!」
「待つさね!! 蛍みたいな色気のない貧弱な体より、うちの豊満な体の方がー」
「にゃんだとぅー!!」
――なんだか、サービスの方向性が見えてきたな。
黒「よっしゃ、そこからは俺様が変わってやるぜえええ!!」
黒い魂が興奮しながら叫ぶ。
「そう言ってくれるのは嬉しいが、私はあの人の傍にいたいのです」
竜之介は姫野を見て言った。それを聞いた姫野は竜之介の傍に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめしっ、しっと言わないばかりに、他の隊長に手をひらひらせた。
これには皆、地団太を踏みながら引き下がるしかなかった。
「くーーーーっ!!」
「諦めませんよ!! 姫野ッ!!」
その時、竜之介に体中激痛が駆け巡った。
「うっ…………ぐぅうううう!!」
竜之介は頭を押さえ呻きだした。
「竜之介! しっかりしろ! 傷は浅いぞ、救護班! 急いでタンカをここに!!」
――ああ、引っ張られる!! 駄目だ!! もう……限界だっ!!。
「待ってくださいッ!! 私はまだッ……!!」
竜之介は、そのまま意識を失ってしまうのであった。




