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■斎藤姫野編(参)

 奇門が開かれた場所、其処は辺り一面に広がる草原の中心であった。宗政は武装を終え、周りを警戒しながら敵の様子を伺っていたその時だった――。


[やっと来たか、棋将武隊。俺はスコーピオ隊、ルークの『シヴァ』、俺が此処に現れた目的は只一つ! 其処に居る隊長と一騎打ちの勝負をさせろ!]


「何だと……!?」


 宗政は 火虎を構えながら姫野の前に立ち塞がった。


[御覧の通り、俺は一体で此処に来ている。飛組隊長、お前の強さを、俺等の中で知らない者はいない! さぁ、今直ぐ俺と勝負しろ!]


「……面白い……宗政、そこを退けろ、シヴァと申す者、その勝負……この飛組隊長……斎藤姫野が受けてやる」


「姫野隊長、これは間違い無く敵の罠です。迂闊に動いてはなりませんっ!」


[どうした? 流石の隊長も怖気づいたか? 何だあ? 拍子抜けにも程があるぜ!?]


 その一言が姫野の戦闘魂に火を点けた。宗政を軽々と超える程、跳躍した姫野は三紗を旋回させながらシヴァへと向かって行った」


「だっ、駄目です! 姫野隊長! お願いですから戻って来て下さいっ!」


[飛組隊長……斎藤姫野、挑まれた勝負は断らない性格、それに加え相当の負けず嫌いか、秀光様の言う通りだったな、カカカカ!]


 宗政と姫野の距離が大きく離れた瞬間、その中心で一斉に奇門が開き、其処から大軍が降下してきた。


「……何っ!?」


[馬鹿が! お前みたいな奴とこの俺がまともにやり合う訳がねえだろうがよおっ!] 


「くっ! 姫野隊長!」


 宗政の目の前には、その先に居る姫野を覆い隠す程、剣を抜いたナイトが立ち塞がった。


「……卑怯な……シヴァ、これは互いの一騎打ちでは……無いのか!?」


[卑怯だと!? カカカカ、戦場は生きるか死ぬかの一つ! 綺麗ごとばかり抜かし、信じるお前等は甘すぎるんだよおっ!]


 姫野に襲い掛かっているナイト達を巻き込みながら、大剣が姫野の胸を捉えた。


「ぐうううっ!! 貴様……仲間を!?」


[仲間だと? カカカカ! 馬鹿かお前は! お前を倒せりゃ、こっちは何でもありなんだよ!]


「――な!」


 その様を見ていた宗政は普段の冷静さ欠き、怒りを露わにして叫ぶ。


「こ、こんなやり方、私は絶対に許さんっ!」


「おおおっ! 火虎一尖いっせんっ!」


 水平に振り切った火虎の刃から、横一線に炎が迸り、宗政に向かって一斉に襲い掛かったナイト達がその業火に瞬く間に飲み込まれて行った。


 その間を駆け抜けようとする宗政。だが、また別のナイト達がその行く手を阻む。


「ええいっ! 貴様ら! 邪魔だっ! そこを退けろっ!」


 群がるチェスを倒す度、火虎の刻印を削り取られて行く。それでも宗政は、姫野が居るであろう前をぐっと見据え、火虎を懸命に振り捌く。この絶体絶命的な場面を竜之介はただ、運命を変える瞬間が訪れるまで、固唾を飲む心境で見守っていた。


――宗政さん、貴方はこんな途方も無いチェスの大軍を相手に一人で突き進んで……やはり貴方は凄い剣士だったのですね。


[どうしたあ? 炎の剣士よ、もう御終いか? 早くしねえとお前の大事な隊長が死んでしまうぜえ!?]


 シヴァの言葉の通り、味方をも巻き込むシヴァの一撃は姫野を確実に捉え、窮地に追い詰めていた。


「己れ、シヴァ!」


 容赦なく宗政に何体ものナイトが襲い掛かって来る。連続で技の体勢に入ろうとする宗政に火虎の精霊――火目子が溜まらず声を掛ける。


*マスター! これ以上力を使うのは危険です!*


 宗政は目の前に群がる敵に対して、懸命に三紗を捌く姫野しか見えていない。


「今一度、私の声に応え、怒りの炎を滾らせ! 火虎――烈斬!」


*駄目っ! マスター!!*


「おおおおっ!」


 電光石火でナイト達を倒した宗政は、高く跳躍して今正に姫野に向かって最後の一撃を加えようとするシヴァの前に躍り出た。


「姫野隊長を貴様如きに、やらせはせん!」


[馬鹿が! お前の炎はもう尽きてるんだよおっ!]


 二つの剣が交差し、宗政の火虎はシヴァのバイザーを半分溶かし、その肉を貫く寸前で止まっていた。


[惜しかったなあ……あと一歩ってとこでよお]


 曝け出た目は笑いながら、宗政の脇腹を見つめていた。


「シヴァ……貴様……!」


 その宗政の脇腹には大剣が突き刺さり、その周辺の肉を抉っていた。


「かは――!」


 大剣を伝い、大量の血の雨が地面に零れ落ちていく。


「……ああっ! 宗政あっ! 早く逃げろ! 」


[ああ? 無理だな、ホラ見て見ろよ、中身が出てるじゃねえか、カカカカカ!]


 シヴァは戦意喪失した姫野の頭を掴むと、虫の息の宗政の姿を見せ付けた。


「ううっ! 宗政あああ!」


 竜之介は二人が本来辿らされるべき運命を目の前にし、魂を震わせていた。


――まだだ! 耐えろ、俺!。


[ふん、伊達宗政……普段は沈着冷静、隙を見せる事など皆無。但し、姫野が関与すればその限りでは無い……か、秀光様の言った通りの奴だったな!]


「やは……り、貴様は……秀光と繋がって……いた……のか」


[――驚いた。こいつ、まだ生きてやがる……我らの新なキングに成られるお方を呼び捨てにすんじゃねえよ、この五味が……!]


 高々と大剣を振り翳す。


――まだだあっ! くそがあああああっ!!。


[良くみておけ! お前の大事な男が真っ二つに分かれて事切れる様をなあ!]


「お願い、やめ――!!」


「姫野……た――」


 大剣が深々と地面に突き刺さった時、宗政の首が宙を舞い、姫野の近くまで転がる。その両目は無念を表すかの様に大きく見開いたままだった。


 宗政の首を目の当たりにした姫野は、ショックで気絶した。


[カカカカ! こいつ、虫けらの様に死にやがった!]


 愉快そうに高笑いを上げたシヴァは、踵を返した。


[任務は達成した、此処にはもう用は無い! 戻るぞ!]


 宗政の骸に一瞥をくれ、その場からシヴァが立ち去ろうとする時、遂に竜之介が待ち望んだ時が来た。


――宗政さん……罠と知りながら姫野さんを守る為に、最後まで戦って、こんな死に方を……どんなに悔しかった事か!。


――姫野さん……自分が愛する人が目の前で殺されて、どんなに辛くて悲しかった事か! 貴方方二人の運命はどの世界でも決して報われない物だった、だけど!。


――それを今、俺が変えるっ! 宗政さん、預かった命を此処で返します。再び蘇り、シヴァを倒してください!。


――いけええええっ!。


 竜之介が念じたと同時に袋が開くと、赤魂が飛び出して、主でもある宗政の体の中へと入り込んで行った。


 その瞬間、シヴァの背後で奇跡が起こり始める。


 別れた二つの肉体が赤い光を放ち始めると、やがて一つに合わさった。


[……何だ?]


 更にシヴァは、二度と聞く筈の無い男の声を再び聞かされる事になる。


「抜刀――火虎」


 男の声に驚き、振り返ったシヴァは思わずその場で固まってしまった。それもその筈、先程首を撥ねて殺した筈の宗政が、再び蘇り、火虎を構えて目の前で立ち上がっていたからだ。


 シヴァだけではない。意識を取り戻した姫野も何が起きたのか全く理解できず、ただ茫然として宗政を見つめたいた。


「……本当に宗政なのか?」


 その言葉に宗政は少し困惑する仕草を見せる。


「はは……足もちゃんとあるようだし、どうやら生きている見たいですねえ」


「宗政! 夢ならどうか……覚めるな!」


「夢かどうかはこれから分かりますよ……出来て来なさい、火目子」


 火虎の精霊――火目子は姿を現すとすぐに宗政に抱き付いた。


*ああっ! マスター! ご無事で何よりですっ!*


「はは、私も共に喜びたい所ですが、今の私は最高に憤りを感じているので、直ぐにリンクをお願いします」


 火目子は目の前のシヴァを睨むと、指を差しながら怒りを露わにした。


*この卑怯者め! お前みたいな奴は、けちょんけちょんにしてやりますっ!*


 舌を見せながら、リンクをする。火虎の刀身にはその怒りを表すかの様に刻印が五つ刻まれた。


[おいおい……嘘だろ! 俺はお前の力を全て削り取り、間違いなく殺した筈! それなのに何で何も無かった様に其処に立ってやがる!?]


[この大剣でお前の首を確かに撥ねたんだぜ!? それが何で今、繋がってやがる?]


「……どうやら気紛れな神様が再び私に命を授けてくれた様ですね」


「それに神様は私に言いました――お前を倒せと」


――宗政さん! 俺の声が届いたのか?!。


[ちいっ! この化け物があっ!]


「失敬な。化け物はお前の方でしょう?」


[ふざけるな! 俺にはまだ駒が沢山あるんだぜ? この数を相手に勝てると思ってるのか?]


 シヴァが手を翳すと、一斉に宗政の周りをチェスの大軍が取り囲んだ。


「そうですね……先程の様な姑息な手を使われては、勝利する事は困難だったでしょう――だが」


「姫野隊長とひとつになった我々飛組は無敵です……」


 戦意を再び取り戻した姫野が、宗政の背後に立って三紗を構える。


「……宗政、油断した私をどうか許して欲しい……今度はお前に……背中を預ける……頼んだ」


「はい。お任せください、神様から頂いたこの命、決して無駄にはしません」


[馬鹿がっ! お前等に同じ悪夢をもう一度見させるまでだ! 一斉に掛かれ!]


 剣を振り翳しながら自分に向かってくるナイト達に対し、宗政は静かに前足を半歩開くと、火虎を上段に構えた。

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