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■斎藤姫野編(弐)

 ――あれから竜之介は長信と宗政達を発見し、その後直ぐに桜子と姫野が合流して、その四人が楽しそうに宴を繰り広げる様を複雑な心境で眺めていた。

 

 楽しい時が過ごし、それぞれが部屋に戻った後、竜之介は長信の運命の時が来るのを部屋の灯りが消えるまでずっと見守っていた。


 睡眠――そんなものが人魂にも存在するのか、部屋の灯りが消え、竜之介の思考が一瞬停止して、再び意識が戻った時、既に周りは朝になっていた。

 

――しまった! 長信さんは!?。


 部屋の中に慌てて入って、確認したが、その時はもう長信の姿は無かった。


――長信さん、まさか……剣士の丘に!?。


 方向転換した竜之介は急いで剣士の丘へと向かう。だが、其処に着いた竜之介が見た物、それは、激しい音と共に崖が崩れていく様を、伊弉弥を翳した秀光が冷ややかな顔をして見つめ、その残骸と共に暗い崖下へと落ちていく長信の姿であった。


――な、長信さんっ! くそっ! 遅かった! もっと俺が早く気付いて――。


 其処で竜之介は、例え先回りをしていたとしても、この世界では、長信を救う事が出来ない事を思い出す。


――秀光っ!!。


 竜之介の怒りの叫びは、秀光には届かない。伊弉弥を解除した秀光は、愉快そうに呟き始めた。


「クカカカカカ! 愚かなり長信! 我の言葉に騙され、たった一人の女の為に、簡単に命を落しよったわ!」


「……次は宗政、お前だ、クククク」


 悍ましい笑みを見せながら崖下を見つめる秀光の背後に、この事に気付いた隊の者が慌てて集まって来た。


「が、崖がっ! ああっ、秀光様! ご無事ですか!」


 背中に向かって声を掛けた時、踵を返した秀光の両目には、止めども無い涙が頬を伝っていた。


「あの秀光様がお涙を! 此処で一体何があったというのですか!」


 その場で崩れ落ちた秀光は両手で頭を押さえて体を震えさせ始めた。


「おお……な、何という事だ! 今の今まで長信と、今日の試合を良き物にしようと互いを奮い立たせていた所に、いきなり地響きが起こり、この様な事になってしまった!」


「何と! な、長信様が崖下に!?」


「しかも……奴は我を助ける為に、自らの命を投げ出す様な事までして……長信、お前と言う男は!」


 髪を掻き乱しながら秀光は、狂った様に泣き叫び始めた。


――皆、騙されるな! 長信さんをやったのは其処にいる秀光なんだ!。 頼むから気付けよっ!。


「きゅ、救護班を呼べっ! まっ、まだ生きていらっしゃるかも知れない! 急いで長信様の所へ行かせるのだあっ!」


「馬鹿者が! もたもたするな! 行け! 行けええっ!」


 激しい怒声が飛び交う中、隊の者に両肩を支えらた秀光がこの場から立ち去って行く。


――違う! 違うんだ! 長信さんを崖下に落したのは、そいつなんだよおおっ!。


 ――竜之介の声は誰にも届かない。


 それから後日、長信の葬儀がしめやかに執り行われた。秀光は悲しい顔をしながら、「棋将武隊は我に任せるが良い」などと、長信の棺に縋りながら泣き叫んでいた。

その様を見た誰もが「美談」として受け止め、涙する。竜之介はその真相を伝える事も出来ぬまま、その茶番を見ている事しか出来なかった。


 長信の伴侶となる予定であった桜子は、長信の死後、すっかり生気を失い、「どうでも良い……長信はもう此処には居ないのだから……」と、その言葉を最後に、姿を見せなくなってしまった。


 だが、その美談に異議を唱える者が現れた。


「……宗政。我に何か用か?」


 秀光の部屋を訪れた宗政は鋭い視線を保ったまま、秀光を威圧し始めた。竜之介はそのやりとりを一部始終見ている。


「秀光……他の者が認めたとしても、私は納得がいかないのです。あの長信が、地震によって崖の地盤が崩れ、そのまま転落死したなどと」


「……ほう」


「少なくとも長信は、地震如きに遅れを取るなどと言う事は決して無い。それは剣を交えたこの私が一番良く分かるのです」 


「ふむ……お前が長信の良き理解者であるという事は良く分かった――が、今や、王将を継いだ我は、その様な戯言に付き合う程の余裕はないのだ……」


「成程……戯言ですか。ならば私は今、その戯言を押し通したいと考えています」


「――お前は我に何が言いたい?」


「まだ分からないのですか? 私が王将に相応しいと考えた男は貴方では無い、長信なのです」


「そして、私は貴方を王将とは認めては居ない。そこに収まるべき者は長信だった……」


――宗政さん……やはり、別格だ、本能で秀光を疑ってるんだ。


「私が……貴方を王将から引きずり降ろします。それをお伝えする為に此処まで来ました」


「……ほう、我に挑もうといのか? 良い度胸だな」


「私は貴方に挑むつもりなど有りません。『長信の無念を晴らしたい』だけですよ……では」


 そう秀光に告げると、扉の方へ歩いて行く。


「――そうか、だが我との試合が正式な物となるには少し時間を要する……それまでは誰が何を言おうとも、この我が王将だ。この意味、お前ならは分かるであろう?」


 扉を少し開けた所で、宗政は足を止めた。


「ではその日まで、せいぜい王将を気取るが良いでしょう」


――うおお、宗政さん、言い方が違うだけで、長信さん同様に熱い人だ。平気で秀光を煽ってる!。


 宗政は振り返る事もせず、そのまま部屋を出ていった。





 



 

 秀光と宗政の王将戦の話は直ぐに隊の者達に知れ渡った。秀光を嫌う長信派の者は全て宗政に付き、一斉に「長信の弔い試合」だと声を上げ始める。

 

 そんな中、これから先起こるべき未来を知っていた竜之介は、その時が来るのをじっと静かに待っていた。


 いよいよ宗政と秀光の王将戦が行われようとした前日、事態が大きく動いた。拠点の警報が周辺に鳴り響き、チェスが襲撃して来た事を知らせたのだ。 


 これを殲滅する為、宗政が所属する飛組は現王将、秀光に呼び出された。


「飛組……来たか。お前等も知っての通り、たった今奇門の反応を確認した。今回は小規模の襲来で、我々が大軍を率いてまで行く必要は無い……」


「――そこでだ、お前達飛組だけで、これを殲滅して貰いたいのだ」


「……分かりました……秀光様、この飛組隊長、斎藤姫野……その命令、しかと承りました」


 飛組隊長、姫野は秀光に向かって、静かに一礼する。


「あら、あらあ? 隊長が頭を下げていますのに御供の『と成』は、何だか納得がいってないようですわねえ?」


 秀光の右腕でもある一人の女が、宗政を一瞥しながら言い放った。


「良い、玉美。宗政も自分が何を成すべきかは、心得ておるだろう。宗政よ、我は明日を心待ちにしている。無事に此処へ戻ってくるがいい……」


 秀光の言葉の後、今まで黙って聞いていた宗政が反応した。


「良いでしょう。その気持ちは私も同じ。私が此処に戻って来るまでせいぜい精進してください」


「なっ! お待ちなさい宗政! お前王将の秀光様に向かって何という恐れ多い物言いを――」


 そのまま部屋を出て行く宗政を引き留めようとした玉美を秀光は静かに制した。


「良い……これで良いのだ……クククク」


 秀光の漏らした笑みから、明らかな陰謀を企てている事を、その一部始終を見ていた竜之介は遂にその時が来た事を知った。


――飛組が単隊でチェスの討伐に行く。間違い無くこれは『罠』だ。そして宗政さんもその事に気付いていた筈なんだ……!。


――それなのに……命を落すなんて、よっぽど姫野さんを守りたかったんだ。


 竜之介は今正に転送ゲートから奇門に地点へ移動しようとしている二人の所へ飛び込んで行く。


――全ては、此処から始まるんだ! 見てろ、秀光、お前の思い通りには絶対させないっ!


 これから起こる運命を前にして、竜之介は二人と共に決戦の舞台へと向かうのであった。

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