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■波乱の入隊式

 入隊式が間もなく始まるため、本館広場では続々と人が集まっていた。


 竜之介は現役のと成メンバーの中で凍りつきそうな思いで、自分に与えられたポジションに立っていた。


 他のと成達は飛組のと成として立っている異例の竜之介に注目していた。


 更に周りのヒソヒソ声を背に受け、竜之介は穴に入って蓋をしたい感情に駆られた。


「あーあー、本日は晴天なり」


「よしよし、マイクは問題ないなり、準備OKなりね」


 竜之介はマイクテストをしている音々と目が合い、その瞬間音々は竜之介に投げキッスを投げかけてきた。


 その光景を周りの男達が見て、更に場の空気が重くなった。


 ところがその重い空気がどよめきを伴いながら、一瞬にして軽くなる。それは数人の女中に囲まれ、大きな日傘の下で静かに歩いている女が注目されていたからだった。


――あ、桜子さんだ……!!。


「おおお……なんと美しい!!」


「姫野様に続き、今度は桜子様まで……姉妹揃ってこんな不思議な事が起きるとは……!!」


 そこにいる桜子は以前ぼさぼさだった髪を綺麗に整え、本来の可愛らしさが溢れ出ていた。


 竜之介と目が合うと、照れながら会釈し、顔を下に向けた。


 そんな穏やさに包まれ、無事入隊式が始まったかと思われたが、それはすぐに覆される事になる。


 二人の側近を従えて王将、明智秀光がそこに現れたからであった。


 竜之介の目の前に仁王立ちした明智は物凄い殺気を纏っていた。その鋭い眼光が一瞬竜之介を捕らえたかと思うと、嘲笑う表情をし、その後、ゆっくりと正面を見つめた。


 その時竜之介は秀光から何かとてつもないものを感じ、思わず後ずさりをしてしまっていた。その後に怯えと怒りの感情が自然と湧き上がってきていた。


 その明智の第一声が周りに響く。


「弱者は去れええいいっ!!」


 それは、この棋将武隊に憧れ、志半ばの人達を暗闇へ突き落とすような、王将らしくない発言だった。


 この発言に頷く者、納得のいかない表情をする者、その反応は様々だった。


 明智の発言は更に続く。


「貴様らは我の盾となって、死に行く事を光栄に思うが良いッ!!」


 そう言い放った後マントを翻し、側近を引き連れ広場から立ち去った。


 場は最悪の雰囲気に包まれ、広場がざわつき始める。


「なんだよ……あの言い方!!」


「ここに来る前、色々聞いてたけど、本当に棋将武隊荒れてるな」


「前はこんなんじゃなかったらしいぜ?」


「ふざけやがって!!」


 その罵声が渦巻く中で


――殺す!!。


 竜之介の脳内に何処からか物凄い殺気が飛んできた。


「な、なんだっ?」


 竜之介がその方向に眼を向けると、薙刀武隊の中に石段で出会った女、いちのが居る事に気付いた。


――あれは……織田さんだ!! 試験に合格したんだな。良かったぁ!!。


 竜之介がいちのを見て安心したのも束の間、そのいちのの様子は以前見た時とは全く違い、下に顔を向け、何かを呟きながら、握っている薙刀の柄をガツガツ小刻みに地面へ叩きつけていた。


「織田さん……?」


 よく見るといちのの表情は怒りに満ち溢れていた。


 やがて竜之介の視線の気付いたのか、ぱっと表情が戻ると、竜之介に向けて満面の笑顔で手を振ってきた。


 竜之介はいちのの豹変振り翻弄されながらも軽く会釈を返した。


 その後、なんとかこの場を取り繕う感じで各隊長の紹介が始まり、そして「と成」のメンバー紹介となった。


 さっさと紹介を済まして欲しい。そう願う竜之介の心臓は爆発寸前だった。


 異例の新人、竜之介がと成の新メンバーとして紹介され始めた。


「さぁ!! 皆のもの良く聞くなり!! 今回新人の中からめでたくと成となった者がいるなりよ!!」


「その者は、なんとあの妖刀黒剣、今は亡き長信様と同じ剣を操る者なりっ!!」


 マイクを握り締め、ばんばん!! と壇上に手を叩きつける始末。


――どこかに穴がないかな。


 竜之介は必死で穴を探すがある筈もなかった。更に竜之介の紹介を音々が続けようとしたが、そのマイクを蛍が突然奪った。


「そのお方こそ、風間竜之介ちゃん!! もうすぐ飛組から私の桂組に移動する予定にゃ!!」


「このバカ猫ッ!! 何言ってるなりかッ!!」


 慌てて音々が蛍からマイクを奪い返したが、それを瑠理がひょいっと奪った。


「あっ、あの、竜之介は、私の銀組に移動する予定があったり、無かったり」


――うおおおおお、穴ああっ!!。


 縋るような思いで辺りを見回す。が、無い物は無い。


 その様子を見た姫野が眉をぴくぴく動かしながら、静かに懐から鍔を取り出し始めた。


――姫野さん!! ここで抜刀はマズい!!。


「うわわわっ!! 姫野さん、落ち着いてッ!!」


 竜之介は慌てて、姫野を静めに走る。


 ドタバタな状態の中、周りがドン引き、めでたく入隊式も終了しかけようとした時、鋭く低い声が割って入ってきた。


「待て……俺は納得していないっ!!」


 その声の持ち主は香組と成の前田和利であった。


 その声の矛先は竜之介へ向け突き刺さる。


「貴様、調子にのるなよ?」


 その鋭い視線が竜之介の足のつま先から頭の上まで蛇のように睨んだかと思うと、


「姫野隊長!なんでこんな奴が貴方の横に居るのですか?!」


「こんなカス野朗より、俺の方が絶対姫野隊長に相応しい!!」


 不服な表情を露わにし、姫野に訴えた。


 竜之介は前田の意見に納得しざる得なかった。


――その通りだと思う。あの力は……俺じゃない。


「……それは、お前が決めることではない」


 姫野は前田の言葉をばっさりと突き放した。


「あっちゃー前田、お前は自分の腕を過信しすぎる癖があるさね。まだまだまだ未熟者さね」


 小梅はそう言って、頭を押さえ、深い溜息をついた。


「くっ……!!」


 前田は足先を地面にめり込むくらいにじり踏み込ませ、


「なっ、ならば下克上だ!!」


 その言葉に広場が一瞬にして騒然となった。


「今、この場で決めてもらおうじゃないか!! 俺は下克上として、貴様、風間竜之介に挑戦し、飛組の座を貰い受けるッ!!」


「見届け人はこの場にいる者全て!! 依存はないですよね? 姫野隊長!!」


 不敵な笑みを浮かべながら竜之介を睨んだ。


 姫野がさぞかし、心配な面持ちで自分を見てるだろうと竜之介が姫野の方へ目をやると、姫野は前田を見て失笑した後、


「好きにするがいい、だが、お前は竜之介に到底及ぶまい」


 静かに返答し、じっと竜之介の方を見つめるのであった。


――ひっ、姫野さんッ!! ……なんて事を言うのですかあっ!!。


 竜之介は困惑した表情をして姫野を見つめ返したが、姫野は何故か顔をうっすらと赤く染めていた。


 そのやりとりを見ていた前田は顔を強張らせ、体全体を震わせた後、


「風間竜之介ぇえ、貴様ぁあっ、覚悟しろおっ!! 今すぐお前を姫野隊長から引き離してやるっ!!」


――何だ? 今ここで何が起こっている?。


 竜之介は、ただの入隊式が何が何だか分からない内に、この広場で前田と

戦うハメになってしまった事に呆然としていた。


 そして竜之介は理解出来ぬまま、周りの者に導かれ、広場の真ん中へと立たされるのであった。


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