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■明かされた秀光の謎

「りゅ、竜之介はショックで一時的に私達を忘れているだけにゃ! それぞれの名前を言えばきっと直ぐに思い出すにゃ! まず、私が上杉蛍にゃ。んで、次が――」 


 蛍は記憶を失っている竜之介に改めて、誰が誰だかを教えた。その名を確認する様にして、竜之介は該当する隊長達を見つめる――その時だった。

 

――何だ……? この人達を見ていると、俺は今までとても深く関わっていた気がするぞ……。


――香組隊長、真田小梅……俺は、この人が眩しい日差しの中で槍を美しく旋回させている姿を見た気がする。


――桂組隊長、上杉蛍……俺は、この人と一緒に極秘任務をした気がする。


――銀組隊長、武田瑠璃……俺は、この人が自分の名誉を取り戻した瞬間を見た気がする。


――今の金組隊長、須惠知葵……俺はこの人の本当の姿を知っている気がする――それに今、青い瞳で優しく微笑む女性が重なって見えたぞ。


――先程から俺の忠実の部下だと、俺に必死に訴えて掛けてる娘、葉月。ん? 俺は依然、風呂場でこの娘の頭を洗わなかったか?。


――そして、角組隊長、加藤玉美。俺は最近この人と一緒に縁日でたこ焼を焼いた気がしてならない。って、何なんだこれは? どうしてこんな物が俺の頭に流れ込んでくるんだ?。


「どうした? 竜之介、目覚めたばかりだから、まだ意識がはっきっりしないか? しっかりしやがれ!」


「いや……なんでもない、大丈夫です」


 美柑の大声ではっと我に戻った竜之介は、不思議に思いながらもそ、の考えを否定した。


「それにしても、秀光の野郎、全くひでえ事をしやがる。本当に汚ねえ奴だ! お前もそう思うだろ、なぁ、唯?」


「……ああ、そうだねえ。私もそう思う――おや?」


 自分の机の上を見た唯は、見覚えのある日記帳が置かれている事に気付いた。確か日記はまだ付けていない筈だが? と、訝しそうな顔をしながら唯が日記帳を開いた瞬間、その顔が一層訝しくなった。


「――どうした、唯。何かあったか?」


「……これはどうした事だ、私が何時も付けている日記が、誰かの手によって既に書き加えられている」


「はぁ? 唯、お前寝惚けてるんじゃねえの? まだ寝るにはちと早い時間だぜえ? って、おい、唯」


「少し黙っててくれないか、美柑……成程、そういう事だったのか……美柑、これを書いた人物が判明したぞ」


「なんだよ、唯! さっきから、何を訳の分からない事を口走ってるんだ?」


 美柑も唯の近くまで行って、その日記帳を覗き込んだ。


「ゆ、唯、これって、マジかよ?」


「ああ……この字体は正真正銘、『私』の字だ。そして、この内容は私に対して書かれた物だよ……美柑」


 その日記帳には確かに唯本人の字体で、自分に対してまるで手紙を書く様な感じで書かれていた。


『この世界に存在する私へ――』


『いいか私、これを読見終えたら、事態を即理解し給え』


『「別の次元から来た私」はそう長くは此処には居られない。よって手短に記す』


『お前がこれを見ている時、おそらく竜之介が目覚めている事だろう』


『そして、明智秀光――この者は謀反を起こし、既にチェス界にその身を移している』


『お前達はその秀光を討つ為、チェス界に繋がる転送ゲートを発明し、乗り込む筈だ』


『だが、奴を倒し、肉体を滅ぼしたとしても、その魂は完全には滅ばない。――何故なら奴は秘術を用いて、己の魂を魔石に移し、それぞれの次元に存在する秀光へ委ねたからだ』


『ふふふ――だが、案ずる必要は無い。何故ならこの私は超天才だからだ。言っておくが、今のお前よりは相当、優れているという事を理解し給え』


「……こいつ、時間が無いとか言いながら、自慢だけはちゃっかりしてるぜ? 間違いなく、こいつを書いたのは唯本人だな。うん」


 呆れた顔をしながら美柑は日記帳を覗きこんでいる。


『すまない、少し脱線してしまったようだ。話を元に戻そう。秀光が各次元へ転移させた魂は全部で十ある。そして、今のお前がこれを見ている段階で、残りは三という事だ』


『その三つの中の何れかに必ず――「コア」ある。それを破壊すれば奴は完全に滅ぶ』


『私の居る世界では、秀光は新たなキングとなって、チェスの大軍を送り込み、棋将武隊も壊滅状態に追い込まれてしまい、その殆どの仲間の命が潰えた』


『そして――竜之介も勇敢にチェスに向かって戦ってくれが、最後にはチェスの四天王達に囲まれ、力尽きてしまった』


『今の私が存在する世界で、奴は今もその身を眠らせながら、それぞれの次元で己を自由自在に操っている』


『おそらく私も直ぐに皆と同じ運命を辿る事になるだろうが、それは構わない。だが、せめてこの国の未来を守りたいと、私は考えているのだ』


『その残り三つの次元への転移方法を記したメモリパネルを引き出しの中に入れておく。今度は君が行く番だ、私の意志を別の世界に存在する私へと繋いでくれ』


『但し、一度転移した次元へは二度と行く事は叶わない。滞在出来る時間はせいぜい十分其処らが限界だ。行動には十分注意してくれ給え。そして作業を終えた君が再び此処へ戻ってきた時、この世界でこの事は、全て無かった事になっているだろう――』


『襷は確かに渡した。今の君が住む世界がこの先、素晴らしい物である事を心から祈っている』


『さらばだ――私』


「ふむ。つまり、これまでの私がそれぞれ別の次元から七回程、転移を繰り返して来た訳だ」


「……これか」


 引き出しを開け、メモリパネルが入ったケースを取り出す。上蓋を開けるとメモリパネルは宙にゆっくりと浮いた。唯がそれに触れるとメモリパネルは少しずつその姿を消失させながら、蓄えている情報を唯の脳へと移した。


「そうか……成程。さすが私、本当に恐ろしい奴だ。改めて実感させられたぞ」


「そうかい、そりゃあ、ようござんしたねえ」


 美柑は全く興味が無いという素振りを見せながら、口に咥えた煙草を上下させる。


「いかん。こうしてのんびりしている場合ではない。一刻も早く転送機を構築し、これを記した私の世界とやらを救ってやらねば……」


「ちょいと待ちな唯、私も手伝うぜ」


「ああ……助かる美柑、すぐ作業を始めよう。それと美柑、この事は他言無用だ」


「おう。って、お前、此処に戻ってきたら、私等、今までの記憶が全て消えるんじゃねえの?」


「…………行くぞ」


「おい今、しれっとはぐらかしたろ? おい、待てよ、唯ってば!」


 慌てて唯の後を追って美柑も外に出て行く。美柑が唯の背中に追い付いた時、足を止めた唯が、何か納得のいかない、表情を見せていた。


「どうしたんだ、唯早く行かないと、時間が勿体無いぜ?」


「いや……どうにも腑に落ちなくてね。すまないが、私は研究所に戻るよ……」


「え? 戻るって……そりゃあ一体どういう事なんだよ! おいってば!」


 唯は美柑の制止の声に反応もせず、難しい顔を保ったまま、研究施設に戻って行ってしまった。









「竜之介、立てるかにゃ? しっかりするにゃ!」


 心配そうに竜之介を見つめる蛍をじっと見返す竜之介。すると竜之介の脳裏に、遊園地内で蛍と一緒に怪しい男を追う一枚の画像が零れ落ちてきた。


「蛍さんは――極秘任務」


「う、うにゃ? ごくひにんむぅ?」


「りゅ、竜之介、急に、ど、どうしたさね?」


 今度は同じ様にして小梅を見つめる。すると先程と同じ様に画像が零れ落ちてきた。


「小梅さんは――日差しの中での素振り」


「え? 素振りって何の事さね?」


「竜之介さん、頭を強く打たれてしまっていたのですか? しっかりしてください!」


 更にどんどん画像が零れ落ちて来る。


「瑠璃さんは――名誉奪還」


「えと……名誉奪還……って何の事でしょう?」


「た、大変! りゅ、竜之介様、すぐにお薬をお持ちしますね!」


「葉月――ちゃんとはお風呂」


 と、竜之介は葉月の頭を両手でごしごし摩った。


「ふ、ふみゅうううう」


「な、竜之介、お前本当にどうしたのだ……?」


「葵さんは――月夜に輝く紺色の髪」


「竜之介……お前、何故それを――!?」


 普段は冷静な葵も、竜之介が言い放った言葉でその顔が引き攣った。


「竜之介、お前、もしかして壊れてしまったのか?」


「玉美さんは――縁日」


「な、何? 縁日だって?」


「何故だ? どれもこれも俺の頭には貴方達と過ごした筈の無い、記憶の片鱗が一枚一枚、画像となって零れ落ちて来る……!」


「お、俺にはそれが……凄く儚くて、切なくて、大切な物だと感じてしまうんだ……」


「き、きっと竜之介は、まだ疲れが十分取れてにゃいんだよ。ささ、落ち着いて横になるにゃ」


 静かに首を横に振った竜之介はふらふらと起きて、外の方へと足を向ける。


「……待て、竜之介、お前一体何処に向かう気だ?」


 呼び止められた竜之介は放心状態で姫野を見た。


「貴方は……姫野さん」


――あれ? 何だ? 何でこの人との画像が流れて来ないんだ?。


 あれ程体験した事も無い記憶画像が先程から頻繁に零れ落ちていたのが、姫野を見た時はそれが無い。困惑している竜之介の近くに居たもう一人の女がその様を見ながら自分を戒める様に嘆き始める。


「お前が長信と深く関わってしまったが故にこんな事になってしまった……私は、これからどうすれば良いのか……」


「桜子さん……」


 斎藤桜子。竜之介は蛍に教えて貰った女の名前を心の中で復唱してみる。だが――。


――まただ……この人との画像も流れて来ない。何故だ!?。


 その場から逃げる様にして、竜之介は部屋を飛び出した。表に出た竜之介はがむしゃらに走った後、足を止め、落ち着きを取り戻そうとして大きく息を吸った。


 ふと目についた物に視線を合わせる。気が付けば竜之介は大きな石碑のある場所に来ていた。

 

「あ……確か、此処は剣士の丘か」


 その袂に鎮座し、仲良く並んだ墓に近付いた竜之介はそこで正座をして、墓石に刻まれた名前を口に出す。


「宗政さん、そして――長信さん……」


「俺の記憶が曖昧で申訳ありません。貴方達はこの火虎と獄龍を俺に委ねたんですよね? 何故かそれだけは分かるんです。でも――」


 立ち上がった竜之介は二枚の鍔をそれぞれ持ち替えながら抜刀を試みた。


「抜刀――獄龍!」


 ――獄龍は何も応えなかった。


「抜刀――火虎!」


 ――火虎も何も応えない。


「……見ての通り、両方の鍔を抜く事が出来ません。これは共に俺への期待を失ったという意味なのでしょうか? こんな中途半端な俺はもう必要ない、そういう事なのでしょうか……?」


 両膝を地面に付け、苦しそうに双方の墓を見つめた時、その背後で誰かが自分を静観している視線に気付き、竜之介はゆっくりと振り向いた。


「あ、貴方は……確か――」


 視界に映った一人の女が、別の次元に存在する竜之介の記憶の中に新たな画像として刻まれる事を、この時、竜之介は未だ知る由も無かった。


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