■そいつの名は-
長信と思われる男の力によって、棋将武隊の試験に合格した竜之介は、入隊手続きや、自分の持ち物を部屋に運ぶなどの準備を終え、本日開かれる入隊式の日を迎えたのであった。
竜之介はその大勢居る合格者の中で見覚えのある人物に気付いた。
――あそこに居るのは……元治だ!!。
「おーぃ、元治ッ!!」
竜之介が呼びかけると、何回かきょろきょろ辺りを見回した後、やっと竜之介に気付いた。
「おお!! 竜やん!!」
「元治、やはり合格してたんだね!! 流石!!」
「……まぁのぅ、そんな事より竜やんが試験を受けている様、しかと見せてもろうたでぇ? なかなかやるじゃん!!」
「あ……それは……」
竜之介は自分でない人物が、それをやっていた事に罪悪感を覚え、思わず頭を下に向けてしまった。
「能ある鷹は……っていう奴か? くーっ! かっこええのう!!」
「しかも、長い間、誰とも組まなかった飛組のと成に大抜擢されたそうじゃん!!」
元治が言ったその件はもの凄く周囲の人間に波紋を呼んでしまっていた。
「竜やん、そのいでたち似合ってるでぇ~」
竜之介的には静かに道の端っこを歩いていたい気持ちであったが、竜之介が身に纏っていると成専用の衣装は、新人として誰よりも目立っていた。
更にその襟元から静かに威厳を放つと成のバッジが他の新人からいろんな感情を沸き出せていた。
「……おい、あいつだろ? 一度試験に落ちたのに、また戻ってきて強引に合格したヤツって」
「ああ、なんでも建物事吹っとばしたとか」
「いやいや、その後ろの山まで消し飛んだらしいぜ?」
その噂が噂を呼んで、膨大なものに変わっていた。
「ねぇ、見てみて!! あれが竜之介様よっ!!」
「草食系のいい男、あのあどけなさが可愛いわ」
「でも、実戦に立つときりっと男らしくなるっていうギャップがたまらなーいッ!!」
あちこちから黄色い声が聞こえ始める。
「おお……竜やん、野郎に女ともども人気者じゃのー。このこのぅー」
元治は肘で軽く竜之介の脇を突付いてきたが、その軽い仕草には吊り合わない物凄く重い力が脇腹に突き刺さった。
――ぐええっ、力入れすぎだろ?中身が出てしまうッ!!。
「おっとと、わしみたいな、平凡の一兵がと成様と馴れ馴れしくしとったらマズイか。んじゃあな!!」
そう言って、元治は足早に何処かに行ってしまった。それと入れ替わるタイミングで竜之介の方に近寄ってくる女がいた。
人ごみが真っ二つに割れ、周りの空気ががらりと変わる。
「あ、隊長……」
それは姫野だった。その姿は気品を全体に纏い凛としていて美しいものであった。
そして、右肩には黒丸が横で、よっ!! という仕草をしていた。姫野は竜之介の格好をじーっと見つめると、
「……竜之介、飛組の衣装良く似合ってるぞ。あと、隊長という言い方はよせ、姫野だけでいい」
竜之介にそれを告げた姫野の顔は何かを懐かしんでいるようにも思えた。
「うわわ……、それはいくらなんでも。今まで通り、姫野さんでお願いします!!」
姫野はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。
他の武隊の者は宗政の死後、何年も人前で見せなかったその笑顔を目の前で見せられ、驚きを隠せなかった。
「……もうすぐ入隊式が始まるから、気を引き締めろ」
姫野はすぐにいつもの表情に戻ると、その気品を纏ったまま外側に向かっていった。
その頃、別館の隊長控え室では今回の合格者の一人に注目し、その話題で盛り上がっていた。
「……なぁ小梅、今回の試験にゃんだけどさぁ」
蛍は合格者リストを真剣な眼差しで見ている。
「どうしたさね? 蛍」
小梅はほうじ茶の入った湯のみを上品に手を添え、ゆっくりと口を近づけていく。
「合格者の中でちょっと、変な子がいるのにゃ」
「あ……あの子さね! 唯一、一人だけ試念柱をへし折った子さね?」
「そうにゃ、私それ見た時、最初に目を付けて、その子を香組に誘ったんにゃけど……」
「ふーーん、最初ねぇ……わたしゃ、最初から竜之介君さね」
小梅は、ばかめ! という表情を見せながらにやりと笑った。
「にゃ!! いあいあ、最初つーのはアレで。とーぜん、私も竜之介ちゃんにゃ!!」
蛍はしまった!! という顔を見せ、しどろもどろに弁解をし始めた。
「そーいう事じゃにゃくて!! その子なんて言ったと思うにゃ?」
「んー? そうさねぇ、ランクも上がって待遇も良くなるからもちろん喜んで快諾したさね?」
「それがにゃー……」
急に蛍の顔が渋茶を飲んだような感じになった。
「あ、わしそういうの面倒臭いんでパス。」
「だってにゃ、本当、今回変わり者が多いにゃあ」
「へぇー……珍しいさね。その子の名前なんていうさね?」
小梅は飲み終えた湯のみを静かに机の上へと置いた。
「ちょい待ち、んーとにゃ……あったにゃ!!」
「毛利元治……っていうちょっと変わった喋り方をする子にゃ」
「へぇ……」
蛍は、面白そうなおもちゃが手に入らなかったような残念そうな表情を見せながら合格者リストをぱたんと閉じたのであった。




