春の日差し4
私は微笑んで見せた。何事も無かったように。
「ええ。皆好きだから私はそう言うよ? とにかく勘違いさせて悪かったと思うよ。瑠璃も凪も、みんな好きだもの。同じような行動をとる。子供じゃないんだからそんなぐらい分かるよね」
そうだろうか。違う事は明らかに分かっている。けれどごまかすためにそう言わざるを得なかった。
芹は顔を微かに眉を動かした。
「認めないと?」
というか認める気など無い。心のどこかでは認めているのは分かっているけれど。私は些か苛立たしげに芹を見た。
「元々ないもの――てか、こだわるよね。結構。それに縦しんばそうでも芹には迷惑じゃない?」
「どうして?」
「え?――だって」
覗き込まれる両眼にまずいと思った。これ以上このことについて話せばきっと止まらなくなる。何もかも。
慌てて目を反らした。笑顔が自分でも引き攣っているのが分かる。話題を変えなければ。そう、思った。
「いや、もういいよね。――そう言う事だから。幸せにね」
滑るようにして視線を抜けると私は一歩踏み出していた。少しだけ歩いたところで立ち止まると私は振り返る。
そういえばいつかした約束があった。
「ああ、でも。ブレスレット。返すよ。それが約束だったから――」
冷たい金属音をさせて手首から取ると弧を描く様にして投げた。それはすとんと芹の大きな手に収まる。
「――ええ」
静かに呟いた。
「よかった。返せて――じゃあね。また」
もう。会わない。そう思う。もう会えないではなく会わない。そう。思った。そうすればこんな思いも無くなるだろうから。
「いいんじゃないですか?」
「何を?」
ゆっくりと私は芹に目を向ける。とんと、音も無く雪の上を歩くと彼は私の冷たい手を取って覗き込む。
見透かしたような双眸で。
「――たまには望んでもいいじゃないですか? 人の事ばかり考えなくても。願わなければ何も得られませんよ? 泣くのなら、今泣いても後で泣いても同じでしょう?」
「……何を?」
「――それはきっと。私にも言えるのでしょうが」
自嘲気味に笑うと私の頬に手を当てた。――動けない。まるで金縛りにあったかの様に私の身体は反応しなかった。その代わりドクンドクンとうるさいくらいに鼓動が鳴っている。
「芹?」
口許に指が撫でるように触れる。労わる様に優しく。
「行かないで、くれますか?」
呟きは溶けるようにして空間に消えて行った。
本当は。望みがある――それはけっして願ってはいけないことなのも知れない。それはきっとあなたを縛ってしまうから。
けれど――。ぽつりと涙が落ちる。
貴方にここに居て欲しい。それが私の望みだった。




