春の日差し2
そう言えば気を失う前に散々なんか言われた気がする。あの時は頭がいっぱいで流していたが。改めて言われると悔しい。
「悪かったって、思ってるのに」
「この状況で気づかない方がおかしいです」
呻く様に言う私を無視するようにして芹はぴしゃりと言うと私から目を反らした。まるでどこか馬鹿にしたように見えるのは気のせいだろうか。とにかくなんだか言葉使いは戻ったが、性格が前よりもひどくなっている気がする。それでも芹は芹だからもういいけれど。
呆れている理由を話してくれてもいいのに。
「ぐ。――分かった。もういいよ。どうぞお幸せに」
頑張ったのに。何か見返りが欲しかったわけではないけれど。それでもいろいろ頑張った気がするのに。虚しすぎる。
なんだか悲しくなった。先ほどまでとても嬉しかったはずなのに。今はどん底に落とされた気分だ。ぐっと唇を少しだけ噛んだ後で私はカバンを建物の中から乱暴に引っ掴むと踵を返した。
「誰とですか? ――私はどうやって幸せになれば?」
何だろう。その質問は。私は彼を一瞥する。幸せになって欲しいとは思うけれど、応援したいとは思わなかった。
知らない『誰か』と笑い合う芹。それを考えるのも、ましてや見るのもとても苦しい。
「は? 知らない。好きにすればいいと思うの――私には関係ないから」
泡立つ心。引き攣る口許をぐっと押さえ込む。
「そうですか。――なら、私は好きにします」
刹那――身体が浮いたような気がした。いや。後ろから抱きかかえるようにして引き寄せられているのだ。もっとも何が起こったのかよく分からなかったけれど。
「え? ――何?」
交差する双眸に私は硬直してしまう。そう見えるだけなのかも知れないがどこか艶っぽく見えるのはどうしてなのだろうか。
ドクンドクン。煩いほどに心臓が鳴る。聞こえてしまうかと心配になってしまうほどだ。聞こえないように願いながら私は彼に目を向けている。
「好きにすると言ったでしょう? 千里」
「芹?」
彼はくすりと悪戯っぽい口許に笑みを浮かべて見せた。私を覗き込んだまま。
「――もし、私があなたを好きだと言ったらどうします?」
言葉に反応するように全てが震える。心も体も。だけれどきっとそれは、芹が言ったことはーー本心ではないのだ。彼には『誰か』いるはずなのだから。
私はすべてを抑え込むようにして芹を見た。平然を装ったままで。もしかしたら本当はこの気持ちが彼にばれているのかもしれない。その上で遊ばれているのかもしれない。そう思った。
微かに声が震える。
「だ。だって、違うでしょ? 芹。そんな事は言わない方がいいと思うけど? 結果的に私も芹も――芹が想う人だって傷付くよ?」
沈黙。一拍置いた後、意外にあっけないと思えるほど芹は私を放した。案外言ったことは的を射ていたのだろうか。彼は私から目を反らすと、なにかが折れたように肩を落としている。何かブツブツ言っているようだがそれが私の耳に声として届くことなど無かった。
自身が何をどう傷つけたのか正確には分からないけれど、少しだけ可哀想に見えた。けれどからかう芹が悪い気がするのだ。




