鏡3
何とか図書館で必死に課題をやりぬいた――というよりは資料をかき集めただけだが――私は大荷物で家路についていた。お弁当と本とそしていつもの通学カバン。明日には筋肉通になりそうな勢いだがそうも言っていられない。落とすと成績に響くことは分かり切っていた。
電車では見て見ぬふりをされ、よく見知った近所のおばさんには『何かあった?』と心配されて。それでも何とか家の近く、路地までたどり着いた。
「ううっ。おもい」
泣き言一つ。だが当然誰も励ましてくれるものはいない。もうすこし。頑張れと自分を励まして私はふらふらとした足取りで歩いていた。
だから事故だったのだ。前を向いていなかった分けではない。思わず曲がり角で軽く誰かと接触してしまった。
「あっ!」
そんなに勢いがあったわけでもないのに、もともと危うい持ち方をしていた為かばらばらと私の手から零れ落ちていく本。何とかお弁当は死守しようとしたがその代りに私の身体が倒れた。
結局お弁当が反転しているが中身は出ていない。それを確認すると安心したように息を付いた。
「すいません」
聞き覚えのあるどこか透明感を含んだ声に私は顔を上げていた。
「あ、晃子」
そこには黒い髪をサラサラと流した少女が立っていた。切れ長の両眼。白い肌。小さな唇。整った顔立ちはどこかそう日本人形とよく似ている。
学校の帰りなのだろう。黒いセーラー服に白いタイがよく映えていた。
「へ? ――千里?」
何を驚いているのだろうか。と私は思ったがすぐに私は理解する。横には少年が立っていたのだ。こちらも見覚えのある……と考えて『ああ』声に思わず出していた。少し大人っぽくはなっているが『一之宮 翔』だ。確か晃子と同じ高校にいたと聞いたけれど。
中学の時ひそかに憧れていた。本当のところは自分でもよく分からないが、私の――初恋だったように思う。淡い思い出た。ついにそれを伝えること事など一度もできなかったけれど。確かそれは晃子もよく知っているはずだ。
「一之宮くん?」
「中藤?」
彼は私がどうしてここに居るのか。と言いたそうな表情で困惑気味に晃子へ眼を向けた。相変わらず猫のような釣り目だ。私と晃子が幼馴染であると言う事を知らないわけではないだろうがここで私に会うとは思ってもいなかったらしい。中学の同級生に知られたくなかったのだろう。彼の顔は微かに赤らんでいるのが見て取れた。