願い12
「普通の――私の事が引っかかるなら気にしなくていいと思ったんだけど」
『聞けよ』と言う凪の声を無視するようにして私は考え込んだ。ならどうすればいいだろうか。どちらにしても駄目なのであれば。
考えていたのはいいのだが、突然顎を軽くもたれて無理矢理顔を上げられた。漆黒の双眸が冷たく私を覗き込んでいる。
当然予期などしていない。あまりにも突然の事に心臓が大きく跳ねた。私は動揺を出さないように笑いかける。
「あんた、死んでもいいと?」
「――それで、芹が幸せになれるなら。と、思ったんだけど。よく考えるとさ、私は何一つまだお礼もしていないし。前と性格違っても、私の事を覚えてなくてもやっぱり芹は芹だし。悔しいけど」
言うと彼はわずかに顔を顰めて見せた。
「残念だけど、その人。何もかも覚えているし、性格なんてそれが素よ? すべてがあなたを護るための演技でどうしてそれに気づかないか可笑しくなるわ」
私は瑠璃を見ると彼女は凪の肩を軽く叩いていた。まるで今にもこちらに跳びかかってこようとする凪を静止するように。
「どういう――」
私の問いに瑠璃は自嘲気味に口許を歪めると肩を竦めて見せた。気に入らない。そう言われているように思えた。
「さぁね。どうせ、貴方から離れたのは凪にそうしなければ殺すとか適当なことを言われて脅されていたし、自身の命がそう長くないって分かったから。でもって、鏡を渡してほしいと言ったのは警告――と言ったとこかしら。気を付けるように。でなければこんなまどろっこしい手なんてつかわないし、凪が慌てて追ってくるはずなんて無いから。それと、時間が空いたのは身体が動かなかったからといったところね?」
まっすぐに見る目線の先には芹だ。彼もまた外すことなど無くその言葉が本当かどうか分かる術など私には無かった。
張つめた緊張感が漂っている。
「認めればやめてくれるのか?」
くすりと悪戯っぽく微笑む瑠璃に舌打ち一つ。彼は吐き捨てるようにして言った。
「いいえ? ――生きていれば機会はある。千里がいたように。今度だってある」
「今度なんて、ねぇよ」
低い声と共に何かが剥がれるようにして鈍い音が響いた。そうまるで地の根が剥がれるような音。私の隣から延びるしなやかな腕、その先を指す滑らかな指が指し示すものは張り巡らされた『蜘蛛の巣』だ。
それが地面から剥がれるようにして浮き始めて、まるで押さえつけるように収縮を見せている。
「ぐ」
芹の微かに呻く声。彼がその行為全体を行っていることは間違いない。その顔は少し歪んでいたのだから。力を奪われるのを止めようとしているのだろうか。
「あら。力を奪い取られているのに力を行使するつもりなの? ――千里。止めた方がいいわよ?」
「瑠璃」
悔しそうにギリリと芹の奥歯が鳴った。だがそんな事お構いなしに瑠璃は微笑んだ。相変わらず凪を制しながら。
「だって確実に死ぬから――私は止める力なんて持ってないわ」




